藤丸立香の聖杯鯖になるTSオリ主   作:生き恥マラミュート

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喚ばれるまで後少し


彼方の君へ、保護者より。

 

 

 

 聞こえますか。

 

 聞こえますか、彼方の君。天文台より来る君。

 

 ええ、君で間違いありませんよ。

 

 あー……、すいません何から話したものか…。

 

 ……いえ、自分が話すことは一つ、とある少女の物語です。

 

 あー!ちょっと!?帰ろうとしないで下さい!大事な話なんです!確かに、唐突に連れて来られて「物語を聞かせてやる」など意味不明だとは自分でも思いますが!ますが!

 

 ……いや、自分で口にすると確かに理不尽ですねこれ。何様なんですか自分。

 

 うわー、うわーー、なんかそう思うと自分の傲慢さにしんどくなってきました。

 

 こんなんだから生前も駄目駄目だったんでしょうね。うーん……、自分に花の魔術師のようなトーク術でもあれば。困りました、これはどうしたものか。……ぐむむ。え、話を聞いてくれる?だから勝手に話して勝手に落ち込むな?……ああ、有難うございます。

 

 ……やっぱり似ているんですね君は。

 

 え?誰にですか?後々分かりますよ。いやはや回りくどくて申し訳ありません。ていうか口に出てましたか自分?ああ話が脱線していましたね、悪い癖です。ではでは気を取り直して……。

 

 ───先程も言った通り、自分が今から語るのはある少女の物語です。

 

 この物語は本来の歴史、君が天文台へ来る前に学び舎で得た知識のそれとは大きくかけ離れている。

 

 後に人々に華々しく語り継がれ、誰もが羨み賛美する喜劇となろうとも、この物語はそうではありません。そう語られてはならない。形はどうあれ、それは英雄譚ではあったのでしょう。ただ人々が望む偶像に当てはまらなかっただけなのです。

 

 ……すいません、また喋りすぎましたね。

 

 

 

 

 始まりの舞台は小さな島。主人公はその村に住む少女。

 

 神々の息吹が残ったギリシャ。多くの英雄達が語られる地に、平凡である彼女は産まれました。

 

 朝は弟とまきを割り家畜の世話をし、昼は父と狩りに出かけ、夜は一日の出来事を家族と食卓を囲み語り合う。

 

 そんなありきたりで暖かで幸せな家庭で少女は育ち、ただ繰り返すだけの生活を送っていました。

 

 少女はそんな平凡な生活が恵まれていることを理解し、享受していました。

 

 ……確かに理解していたのです。

 

 ですが、いつからか心の隅にある人物への憧れが産まれてしまった。

 

 只人の身でありながら、人理を守るため多くの仲間と出会い、別れ、数多の歴史と世界を駆け抜けていく青年。

 幼き頃に誰もが抱く英雄への憧れは、彼女とて例外ではなかった。

 ほんの小さなちっぽけな気持ち、日常と天秤にかけるほどのものでもない少女の僅かな憧れ。

 

 あぁ。偶然とは何とも憎いものです。偶然である以上、その罪科は誰が背負うこともない。そうであるが故、悲哀や怒りの感情を誰に向ける事も出来ず想いが清算されることはない。それを抱えた人物はいずれ……あ、また話が逸れていましたね。失礼。

 

 

 そして運命の夜は訪れます。

 

 その夜、少女はたった一人で森へと潜っていた。

 ……きっと呪いに倒れた家族や隣人の為だったのでしょう。本当にどうしようもないお人好しです。

 

 村へ帰ろうとした道中、少女は一人の英雄と邂逅します。この女こそ少女の運命。この出会いこそ分岐点、そして新たな英雄のプロローグでもある。

 

 名をアテーノ。

 

 オリュンポス十二神その一柱、戦女神アテナの生まれ変わりにして、聖杯を回収すべく天より遣われた抑止の具現。正真正銘無双の大英雄です。アテーノはそこで少女に告げたのです。

 

「お前の村は邪神により滅ぼされた。私の名を継ぎ邪神を討ってはくれまいか」と。

 

 困惑、それに尽きたでしょう。自分が居なくなった数刻の間に村も、家族も、友も、周りの全てが消えたと告げられたのですから。アテーノは手負いの状態でした。邪神との戦いにより両脚と左腕が無くなっており、装備である神体結界の加護によりなんとか命を繋いでいる風前の灯。

 

 そこで少女に自分の使命を託したのです。只人のその身には重すぎるあまりにも重すぎる使命を。人理を脅かす邪神、そして眷属達の打倒。アテーノには分かっていたはずです、自分の選択が少女の人生を奪うことになると。ですが人理と一人の少女の人生、それらを天秤にかけた時何方に傾くかは明白だったのです。

 

 ───その判断が出来るほど強かった。

 

 少女は誘いに頷きました。そこにどんな想いがあったのかは自分には分かりません。ただ事実として彼女はアテーノの名を継ぎ、剣を握った。この瞬間、少女は本来の名を失い二代目アテーノとなったのです。

 

 君、不思議な顔をしていますね。……この世界において名は重要なんですよ。ましてや生まれ変わりとはいえ女神の名、その代償です。

 

 アテーノとなった彼女は村へと戻り、自身の右腕を犠牲にし邪神へと剣を振るいました。いやあれは振るったというか投擲だったような……。ま、まぁ。と、ともかくアテーノによって邪神は屠られたのです。

 

 これで終わったのか?いえ、先代に託された使命は「邪神と眷属の打倒」なのです。本来であれば眷属を全て倒した後に親玉である邪神が現れる予定だったのですが先代が三体目を倒した時点で観測してしまい……。

 

 え?なんかゲームのボスみたい?すいません、恥ずかしながら現代の知識に疎く、ゲームとは一体なんでしょうか………。あー、ちょっと待って下さい聖杯の野郎から知識が……。……な…るほど、確かにイメージとしてはそんな感じですね。そう、3面のボスの後にク〇パが出てきた感じです。

 

 え?急に緊張感が抜けた?

あ、貴方がゲームみたいって言うから分かりやすく言ったんじゃないですか!!

 

 数ですか?先代が倒した三体に二代目が倒した七…いや六体でしたね。え?さっきから数字が多くて分かり辛い?……君文句多くないですか???

……もっとも拘束しているのは此方なので文句は言えませんが……。

 

 ともかく!アテーノは邪神を打ち倒した後、ある男と行動を共にします。

 

 男の名をイスト。

 アテーノと聖杯を回収すべく天から遣われしもう一つの機構、鍛冶神ヘファイストスの生まれ変わりです。

 

 それからアテーノはイストと共に残る六匹の眷属を倒していったのです。 ある時は黒い山羊を、ある時は人を演じた魚を、ある時は麗しき邪鳥を、ある時は狡猾なる蛇を。

 

 ─────いや、「共に」というのは語弊です。イストは肩を並べて戦ってはいなかった。情けない、剣を造る事しか出来ない無能なのです。

 

 戦ったのが先代であれば猛々しく皆が惹かれる物語になっていたのでしょう。でも彼女は違う、ただの村人に過ぎなかったのです。魔術の素養も無く、出来たのはほんの僅かな身体強化と“まやかし”の魔術。一匹、また一匹と戦うにつれ、彼女はあらゆるものを喪っていきました。腕を無くし、脚を無くし、目は光を失い、自慢であった艶やかな髪の毛は色素が抜け。

 

 ───それでも彼女が役割を投げ出すことはありませんでした。

 

 アテーノとなって十年ほどが経った頃、彼女は漸く最後の魔物を己の命と引き換えに倒し、聖杯を回収したのです。

 

 

 

 

 それだけ?

 

 えぇ、それだけです。誰が書いたかも分からない。ただ少女が己を犠牲に戦うだけの単純な物語です。本来、物語にあるべき華々しく惹かれる要素がどこにもない。そんな物語を誰が好むでしょうか、君のような感想を皆が持ったでしょう。だから……改変されてしまった。

 

 アテーノは邪神と眷属を一人で打ち倒した無敵の英雄である、と。

 

 こうして生まれたのが、君達が知る英雄アテーノの物語です。

 

 本来であれば自分の語ったアテーノは英霊として数えられることはありません。この物語の知名度が0に等しいからです。……言うなればFate/ZEROですね、冗談ですすいません帰らないで。……無敵の英雄という、民衆の憧れそのものである改変されたアテーノであれば座に登録されたとて不思議ではありません。そのはずです。

 

 ……そのはずなんですが、……いや、ちょっと色々あって…。

 

 座に登録されたのは二代目アテーノ。民衆が抱く理想とかけ離れた紛れもないオリジナル、自分が語ったただの村人であったアテーノです。

 

 え、理由ですか?……い、いやぁ、……全く分からないっていうか……はは…自分はぁ、……な、何も…?

 

 え?絶対に知ってるだろそれ?

 ここまで来て知らないは無理がある?

 

 そうですよね……、ここまで来て言わないなんて都合が良すぎますよね……。よ、よし……。

 

 

 

 ───イストです、彼女と出会った機構。あの男が聖杯に願ったのです。

 

 アテーノが死んだ際、イストは彼女の死を嘆きました。完全にアテーノに依存していたのです、大の男が気持ち悪い!そして充ちた聖杯に「彼女に二度目の生を」と願ったのです。聖杯は穢れている、浅ましい欲望が詰め込まれた聖とは名だけの泥のような産物だと分かっていたはずなのに、それでも願ってしまった。その結果、英霊の成立という歪んだ形で願いは叶えられたのです。

 

 本当にどうしようもない男、いや最早排泄物ですね、排泄物。

 

 

 

 ………と。ここで君に一つお願いがあるのです。自分はもう二度と願いなど抱いてはいけない、そんな権利なぞあるはずもないのですが、それでも。ましてや彼女と同じように平凡な貴方に頼むなんて恥の上塗り、あの時の二の舞でしかないのですが。……やはりそれでもどうか。

 

 自分がこれまで話したこと、もちろん語り手である自分を君はきっと忘れてしまう。それでもきっと、きっと……!───話した意味は必ずある筈です。この物語は、世界を救い人理を正す中で、世界を取り戻す中で、君達が追い求め続ける回答となります。

 

 彼女が君の事を話している時の顔、あの時、その時だけは!あの夜に捨てた少女の顔を見せてくれたのです。それはとても年相応のものであり、あの悲惨な旅路の中で見せるその顔が、あの表情こそが、自分が駆け抜けられた理由であって。嗚呼、おそらく自分はあの時彼女に───。

 

 すいません、また熱くなり…脱線を……。……だから彼女が憧れた君。彼女を苦しめ続けた自分の願いです。人類最後のマスターにではなく君にだから頼めるのです。

 

 

 

 どうか、彼女の友人になってはくれませんか。

 

 

 

 理由が復讐であれ贖罪であれ、きっと彼女は君の召喚に応じます。君という人間が、あの時彼女が走り出した理由そのものなのだから。あの日自分にしてくれたように、くだらない話で共に笑い、共に食事をし、共に戦って欲しい。

 

 そして……自分が呼べなかった、少女の名前で呼んであげて欲しい。

 

 どうかお願いします。

 

 ……。

 

 …………ああ。

 

 ………………ありがとう、ございます。

 

 

 やはり君に頼んで正解でした。

 不安ですか?いえ、いいえ、きっと大丈夫ですよ。彼女は君と同じお人好しですから。あぁ、もし自分のことを覚えていてもご内密に。彼女きっと自分を責めてしまいますから。怒った時はそうですね、肉でも焼いてあげれば良いでしょう。

 

 

 ………もう時間のようですね。

 では、君。───いや藤丸立香。

 

 有難う。アテーノを、彼女を頼みました。

 

 

 

 へ?自分の名前?嘘、まだ言ってませんでした?……はぁ…また…、こんなんだから自分は怒られっぱなしだったんだ……。……いやいや、悲観的になっても仕方ありません。で、では!

 

 

 

 ……コホン!

 我が名、我が真名はイスト!聖杯を回収すべく天より遣わされし鍛冶神ヘファイストスの生まれ変わり。アテーノと共に人理を守るために奔走した歴史に埋もれし、武器を作ることしか能がない排泄物であり、彼の地の大戦犯である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ───告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷しく者。

 

汝 三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!

 

 

 

 

 

 

 

「プリテンダー!召喚に応じ此処に参上!……っと…そうだな、……うん…まずは……お前の名前を教えてくれ」

 

 

 

 

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