少女としてのものではなく、英雄として在るための芝居だった。
分かっていたのだ。
分かっていた筈なのに。
自分は
その笑顔に
恋をしてしまったのだ。
『ある男の独白』
サーヴァント。
死して英霊となった私にはある一つの懸念がある。
きっと同じ立場の者であれば誰もが考えたことのある、ごくごく有り触れていて当然の疑問。
それが彼らの苦悩の元となるのか、或いは自信の源となるのか、はたまたどうでもいいと豪快に笑い飛ばすのか。まぁ英霊によって様々なのだろう。
"それ”は私の場合どうなのか?
…少し回りくどすぎただろうか、まぁつまるところその懸念というのは…
「私のステータスが気になる!!」
「どうしたの急に」
そう!これはごくごく当然の疑問であり、英霊となった以上どうしても付き合っていくことになる重大な問題なのだ。──英傑として生まれたからには誰でも一生のうち一度は夢見る「地上最強のサーヴァント」。
つまるところステータスオールAランク、固有スキルに宝具大量所持。…とまぁ、これは半分冗談だ。おそらく私は強くはない。が、興味が無いと言ったら嘘になるのさ。
「お前も気になるだろー?自分が初めて運で引き当てたサーヴァントの実力って奴がさぁ!」
「確かに気になるかも…!」
「そうだろそうだろ!えーっと…立香は確か直接確認出来ないんだっけ、それならどっかにそれ用の端末とか置いてあったり…」
「ああそれなら、はい」
「ん、あんがと」
机の上に書籍と共に置いてあった液晶の付いた端末を受け取る。
なーんかこの端末見覚えがある気がするのだけれどはて、前世のそのまた前世で見たこととかあるのだろうか。
てかこの書籍……ん?んん?んんん???
「なぁ立香これってさ」
「君の物語だよ、読んでみる?って言っても俺じゃなくてドクターの物だけどね」
「あーー通信で一瞬見えたあのゆるふわ系の人か。じゃ折角だし読ませてもらおっかな」
一旦端末をベットの上に置いておく。立香に勧められその本を手に取りパラパラと駆け足に捲っていく。自分の戦いがどう伝わっているかあまり興味は無いけれど一つだけ確認したいこともあるので読むことにする。
ま、正しく伝わってるのなら私はもう少し強い筈だしね!
(無敵の大英雄、全てを救う聖剣の女神。……誰の事言ってんだかねぇ……でも今私が演じてんのはコレなんだよな)
全く好き勝手書いてくれるものだ。自分とかけ離れすぎていて共感性羞恥すら働かない。本当に無敵ならどれほど良かったか、本当に救えたのならどれほど良かったのか。
……やっぱり見るべきでは無かったのかも。そんな事を考えながら最後の頁を閉じる、結局捜し物は見つからなかった。
「モチーフになった本人が見てるのって何か不思議だなぁ」
「……やっぱ居ないか」
「何か言った?」
「いや何でもないよ、そ・れ・よ・り!ステータスだよステータス」
「凄いスムーズに使うね、もしかして既に使ったこととかあるの?」
「馬鹿言えよ、でも確かに妙にしっくりくるわこれ」
本を元あった場所へと戻し再び端末を握り起動させる。
自分でも驚くほどにあっさりと操作が出来た。うーんやっぱり立香の言う通り使ったことがあるのかも知れない。画面の中には幾つか項目がありその中に"サーヴァントの霊基情報”とか言うそれっぽいものがあったので選択する。
「おっ、絶対これじゃんか!」
「あー本当だ」
「準備はいいか立香、行くぜー?」
「うん」
【真名】英雄アテーノ
【CLASS】プリテンダー
【マスター】藤丸立香
【ステータス】筋力:D++
耐久:D++
敏捷:C+
魔力:D++
幸運:E
宝具:EX
「「…」」
「いや!俺まだ他のサーヴァントのステータスとか分かってないから基準がどんなものかも知らないし!ほら、アーサー王も圧倒してたしカルデア側の表示ミスとか!」
「うるせーー!!!フォローすんじゃねぇ!!??余計に惨めなんですけどーー!?期待はしてなかったけど最高がCて!はーーー!?私一応世界救ってる大英雄なんですけどもーー!?!?」
こ れ は ひ ど い
いやいやいや流石にこれは弱すぎやしないだろうか。トップクラスのサーヴァントではないにしろ実績がある分、何やかんやそこそこの能力値はあるだろうと踏んでいたのにこれは!
下手すればキャスター以下!
「一旦落ち着いて!…ていうか、真名"英雄アテーノ”なんだ。"アテーノ”じゃなくて」
「そうみたいだな」
「……擦りすぎてくどいかも」
「───聖剣起動」
「すいませんでした」
額を地面へと当てる立香に剣を向ける。勿論冗談、構えていた剣を粒子へと還し立香の背中をげしげしと踏みつける。
それにしても見事な五体投地、これが立香の国で言うところのJapanese土下座というやつか。
ふー。ようやく気持ちが落ち着いてきた。冬木の時は召喚と同時に宝具でバフ掛けまくって大英雄っぽく戦ってたけどステータスとして可視化されたら誤魔化しようがないなこれ。
……適当に制約でも掛けられてるとでも言っておくか、うん、それがいい。騎士王の聖剣とかもそんな感じっぽいし、名案かも。
「…とりあえずコーヒーでも淹れよっか」
「…お願いしまーす」
息をつき2人は再びベッドに腰を下ろす。
そうしたところでマイルームの扉が勢いよく開かれた。
「大変だ藤丸くん!カルデア内部に正体不明の魔力反応が確認された!それについさっきまで君の部屋に認識阻害のようなものが掛けられていて今ようやく見つけたんだ!とりあえず落ち着いて僕と一緒に避難…を……?」
「ちーっす」
◇◇◇◇
「いやぁ~、あのアテーノが共に戦ってくれるとは心強い!藤丸くんの幸運はAランクだね」
「うん、頼もしいよ」
「私はEだけどな、はは」
「?それにしても何度も本で読んだ方と一緒に歩いているのはとても不思議な気分ですね。少し緊張してしまいます」
「いやぁ照れちゃうなぁ全く!」
カルデアの所長代理であるDr.ロマン、職員兼戦闘要員であるデミサーヴァントのマシュ、そしてマスターである藤丸立香。そこに私を加えた4人はカルデアの無機質な廊下を並び歩いている。何でもロマンが連れて行きたいところがあるとか何とか。
「ところで~マシュ、どうだいこの後お茶でも!」
「わ、私ですか?ええ、そういうことなら喜んでご一緒させていただきます」
「え!いいの!?」
「何でそこでアテーノが驚くのさ」
「……いやてっきり断られるかと思ってた。まずい急に緊張してきたわ。立香、お前も一緒に付き合ってくれ。いや付き合って下さい」
「えぇ…まぁいいけど」
「おーいボクは?ねぇボクは?…っと言ってる間に着いたね。よし、みんなここが目的地だよ」
食堂と思われる広い空間を抜けて少し歩いた突き当たり。目の前にあるのは一つの扉。ロマンに続いてマシュ、立香、私と順番に入っていく。中には暗闇が拡がっており広さは…先程まで居たマイルームと凡そ同じくらいだろうか。
「ここがカルデアの召喚室。システム・フェイトといって…まぁここら辺は後々でいっか。通常の英霊召喚と異なる方法でサーヴァントと契約を結ぶための場所だ。じゃあマシュ、盾をそこに」
「了解です」
なるほど、召喚にはマシュの盾が必要なのか。そういえばマシュはデミサーヴァントなのだとここまで歩いている時に教えて貰った。おそらく彼女と融合した英霊の宝具がそういう性質を持っているとかそんな感じだろう。
「はい、藤丸くんこれ」
「これは?」
ドクターが虹色の結晶のような物を立香へと手渡す。待った何だか頭が痛い。具体的に言うならばそう、前世の前世の傷のような何かが痛むというか。燃える大金の映像が頭に浮かんでくるというか!
「聖晶石と呼ばれる魔力の欠片だ、召喚の際にはこれを使用してもらうよ」
「「ガチャじゃん」」
「止めなさい2人とも身も蓋もない!」
「ガチャ…?」
いやほんとガチャって何だ、自然に口が開いたぞ今。
ほらマシュもポカンとしてるし。こういう時は頭を落ち着かせ耳を澄ませばほら、聖杯からの知識が流れ込んでくる……ふむ、なるほど。ふむふむ。
……ガチャ、なんて罪深い所業。
「本来はそういう風に召喚される筈なんだけどね。勝手にマイルームに召喚されて勝手に霊基登録されてるなんてイレギュラーもいいところだよ全く」
「あんまり褒めるなドクター、照れるだろ」
「褒めてないからね!?…まぁまずはやってみようか。ほら藤丸くん、聖晶石を盾の前に置いて」
「こう、かな。ええっと確かこの後は詠唱だっけ」
詠唱っていいよね。なんだろう、こう心の中の14歳が暴れる感覚がする。男のロマンって感じだ、かっこいい。
「任せて下さい先輩、メモを持ってきました」
「流石マシュ!」
「いやぁ締まらないねぇ」
「結果的に喚べればいいのさ」
はてさて、誰が喚ばれるのやら。私としては別に誰でも…いや、やっぱりギリシャの神様とかはご勘弁願いたい。明らかに怪しまれるだろうしそうなったら確実に面倒なことになる。
縁を結んだことがある人物、となると冬木で出会った誰かだろうか。
「よし。……告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者。
汝 三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
金色の光が輝きを放つのと同時に、魔力を帯びた風が盾を中心に吹き荒れる。
「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」
現われたのは赤い外套を纏った大柄な男。色褪せた髪と肌は何時かの自分を想起させる。成程、前回とは姿が違っているようだが間違いない。此方が本来の霊基、本来の彼だろう。
「褐色兄貴じゃん」
「待った、何だその珍妙なあだ名は」
あー……。そういえばサーヴァントの記憶は召喚の際に再構築されるのだったか。いやそれにしても顔が良いな、剣を交えた騎士王といいあの鋭いキャスターといい皆顔が良いな。座にはそういうルールでもあるのか。
「と、そちらが私のマスターか」
「は、はい!」
「そう硬くならずともいい。よろしく頼むよマスター」
「…うん、こちらこそ」
握手を交わす二人を見る。アーチャー(おそらく)の彼が浮かべる表情は、あの街で見せていた機械のようなものでなく、とても穏やかなものだった。
弓、弓兵か。私が前線、彼が後方射撃での支援をするとすればあと居てくれて助かるのはキャスターだろうか。
「おっと。今回は、キャスターでの現界ときたか…
ああ、アンタら…ゲ」
「む?」
「来たな顔が良い二号」
よっしゃ!大当たり!言ったそばから件のキャスター!何だかアーチャーを見て眉を顰めているような気がするがそんな事は些事。
真名は知らないが神性を持っていることから考えて神代、もしくは神代に近い時代を生きた英雄!弱い筈がない、頼もしい!
「……目キラキラさせてるけどよ、俺あんまりアンタに信頼置かれたくねぇわ」
「おい立香、何で嫌われてんの私」
「さぁ?」
「マスター、後ろへ下がっておいた方が良い。バーサーカーでは狂化でうっかり主人を噛み殺しかねん」
「誰がバーサーカーだてめぇ!」
「あ、あの!皆さんまだ召喚は続いていますので!」
マシュの言葉で、再び盾へと向き直り気を引き締める。アーチャーの言う通りバーサーカーが召喚されてそのままお陀仏、とかバッドエンドにも程がある。有り得なくはない話だからな。彼らのようにここまで気安く接してくれる存在すら珍しいのかも。
そんなことを考えていた矢先、吹く魔力がその濃度を増し中心から虹が光り始める。
「問おう。貴方が私のマスターか?
……やけに顔見知りが多いですね」
◇◇◇◇
夜を迎え、明かりの落ちた暗いカルデアの廊下を女は歩いていた。女の隣には透明な何かが主人に寄り添いながら歩いている。その何かを通常の生物が視界に入れることは適わない。
「おい、誰かいる。戻れ」
食堂から光が漏れている。それに気づいた女は、使い魔を自身の内側へと戻るように伝えると角から覗き込み、中に居る人物を確認する。
(アーチャー?こんな夜更けに何を…私が言えたことじゃないか)
食堂に居たのは赤い弓兵だった。使い魔が自分の身体へと融けたのを確認し話しかける。
「よっアーチャー、何やってんの?」
「あぁ君か。何、調理器具の確認だ」
「へー…料理出来るんだな」
「趣味でね、人並みには作れるよ」
兵器として使用される英霊だが、意思はある。一人一人が先の時代を生きた者達であり、当然彼らにも趣味というものは存在する。女は静まった食堂のカウンターへ近い席へと座り、弓兵と言葉を交わす。
「…君は藤丸をどう思う」
「と言うと?」
「無論マスターとしてだ。過去に人理を救った者として、君の目にどう映る?」
「うーん…」
女は数多の物語において世界を救った。人々に改変され歪んでいったアテーノというストーリー(彼女以外は知る由もないが)、その中唯一形を保ち受け継がれたのが世界を救ったという事実である。言わば彼女は人理修復という本ミッションの先達であり成功者なのだ。
「まるで向いてない」
「ふむ。同感だな」
「能力もそうだし、人柄は特に」
藤丸立香は凡庸だ。魔術師としての才も無く、戦闘経験もまるで無い正真正銘の一般人。
「そこをサポートするのが私達の役目なんだろうさ。でもな、人理修復においては特に心配してないぜ私」
「ほう、先の特異点にて君をそう思わせるだけの何かがあったのかね」
「特に根拠の無い直感的なものだよ」
「いやなに、英霊の直感とは馬鹿にならないものさ。それが君のような大英雄なら尚更ね」
「そ、そう?……寧ろ危惧してるのは過程なんだよ」
女は、藤丸立香が世界を救った結果の存在であり、その証明なのだ。もっとも、それを女自身が明かすことは無いし"何故”そうなったのかも彼女に取って曖昧になっているのだが。
「彼は消耗するよ、確実に。凡人が身の丈に合わない大役を背負ってどうなるのか私はよく知っているとも」
「身に覚えがあるような言い方だな」
「まぁね。お前もそうじゃないの?」
「…そうだな」
そこで二人の会話は止まり暫しの静寂が場を包む。
男は一通りの作業を終え満足気にキッチンを出る。それを見た女はこの場から立ち去ろうと椅子から立ち上がるが、男が制止しテーブルを挟み向かいの椅子へ座る。
「君に頼みがある」
自然と張り詰めていた空気の中、男は口を開いた。その様子に唯ならぬ何かを感じ取った女は、それに応えるよう真剣な眼差しで相手を見据え次の言葉を待つ。
男が机の上に何かを置いた。
それを見た女は目を丸くする。
「………は?」
「サインを貰ってもいいだろうか」
ペンと色紙だった。
更新頻度ゆっくりなんですが多くの人に見てもらえて嬉しい限りです。
一話の内容少し修正しました。