藤丸立香の聖杯鯖になるTSオリ主   作:生き恥マラミュート

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 その怒りは正しいものだ。
私という存在のために、少女は己を殺したのだから。


 
 何て
 可哀想な人



 意識が薄れる。
ふと私の頬に何かが滴る。 ではなく、とどめを刺さんと跨る彼女のもの。

 どうか
 どうか
 貴女に救いがありますように
世界に身を捧げた哀れな少女に祝福がありますように
 貴女の戦いが早く終わりますように


 どうか
彼女の物語がハッピーエンドでありますように

             『ある鳥の話』


EMIYA’S キッチン

 

 

 

 

 

 

「フォウ…?キュ、フウウ……?」

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア。その一室にて人類最後のマスター、藤丸立香は目を覚ます。……謎の小動物の肉球と共に。──2016年より先、人類の未来は燃え尽きた。その"人類史焼却”から一晩が明けた朝のこと。

 

「…おはよフォウくん」

 

 ベッドから上半身を起こし、ボーッと自分の居る部屋を眺める。病室のように無機質で白い壁、ガラス張りのシャワールーム。それらを確認し、今度はふと自身の右手を見る。その甲には赤い痣のような紋章が浮かんでいる。

 

(夢じゃないよねやっぱ)

 

「失礼します。

 ───おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングの時間です」

 

 ノックと共に入室した少々の名をマシュ・キリエライト。藤丸立香の後輩であり、ファーストサーヴァント。

 人類史の復元という重大任務、彼等に与えられた時間はあまりにも少ない。本日より彼等は特異点の調査、修正のため異なる時代へと赴く。

 

 立香が支度を終えマシュと共に廊下へと出ると、サーヴァントが壁へと凭れながら腕を組んでいた。そのサーヴァントは二人に気づき目を合わせると、交差している腕を解きながらニコリと口角を上げる。

 

「よっ、おはよ」

「おはよう」

「おはようございます、アテーノさん」

 

 名をアテーノ。立香の契約したサーヴァントである。

 

 実の所、立香は彼女がよく"分からない”。

分からないと言っても名を知らないというわけではない。寧ろ彼女という存在、そして彼女の武勇を知らない者は居ないだろう。

だからこそ、何故未熟である自身に力を貸してくれるのかが分からないのだ。

 

 カルデアでの初めての英霊召喚を終えた後、立香にマシュ。そしてロマンとアテーノの計四人による小さなお茶会が催された。その時のロマン曰く、「これまでアテーノは一度も召喚に応じたことが無い」らしい。

これに対して張本人である彼女はというと、「人理の危機だから」と曖昧な返事ではぐらかしていた。

 

 立香は他人の思考に聡い方ではないのだが、彼女が何かを"隠している”ことだけは漠然と感じることが出来た。

 

「先輩?」

「おーい、何ぼ~っとしてんだ。…もしかしてあんま寝れてなかったか?」

「…ううん、何でもないよ」

 

 昨日のことを思い浮かべながら呆けている立香を案じて、アテーノとマシュは声をかける。

 

「そ、まぁ無理はするなよ。……コホン、ところで君達!天パ気味の日本男児と桃色の可愛い子ちゃん!管制室の前にまだ行くべき場所に行ってないだろ?」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 充満した香りが鼻腔をくすぐり、食欲を沸き立たせる。

 

「これって…」

 

「来たか。早く席につきたまえ、ブリーフィングまでそう時間があるわけではないからね」

 

 私が二人を連れて向かった先はカルデアの大広間、そう、それ即ち食堂である。テーブルの上にポンと置かれている綺麗によそわれた白米。艶やかで少し透き通った白がホカホカと湯気を立てている。私も思わず喉を鳴らしてしまう。見れば分かる、美味いやつだ。

 

 まず立香が椅子へ座り、マシュがその反対へと座り向かい合う形になる。それを厨房からシェフ、アーチャーが温かい目で眺めている。…何というか随分とエプロン姿が様になっている。戦いの為に召喚された英霊が翌日にエプロンを着けて米を炊く、違和感しか無いはずだが不思議とその姿がしっくりくる。

 

「これは日本の朝食ですか?」

「うん、でも管制室に行くはずじゃ…」

「既に私からロマンに言ってあるよ、中々仕事早いだろ?」

「それに任務前の腹ごしらえは必要だろう。初陣で『エネルギー不足で倒れた』なんて洒落にならない。余程の緊急事態でもない限り朝食は取るべきだ」

 

 私もマシュの隣の席に腰を下ろす。

 

「アテーノさんは食べないのですか?」

「いやいやサーヴァントだし、カルデアからの魔力だけで十分元気バリバリだよ。私はいいから、冷めちゃうし早く食いなって」

 

 サーヴァントには食事も睡眠も不要だ。生身ではなくエーテルの肉体、故に魔力さえ補給が出来ればそれで全てが事足りる。まぁ食事でも微量な魔力源にはなるのだろうが、カルデアにいる間は常に供給されているためさして意味も無いだろう。

マシュは例外、デミサーヴァントでは私達とは勝手が違う。

 

「そっか…、じゃあ、うん。いただきます」

「日本の食前の挨拶ですね。い、いただきます!」

 

 

 

……

 

………

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 両手を合わせる立香、それを真似し同じ様に手を合わせるマシュ。どちらの茶碗も米粒ひとつ残っていない。食べ終えた両名の表情を見れば朗らかな笑みを浮かべている。ここに来るまでは初ミッションの緊張と重圧からかどこか硬い顔をしていたが、うん。実に良い顔だ。

 

 もしやこれがアーチャーの狙いだろうか。

昨夜顔を合わせた時にサインの他に「明日の朝に彼らを食堂に連れてきて欲しい」と頼まれていた。特に断る理由も無かったので快く引き受けたのだが成程。緊張を解す為だったのか。…いやはや特に何も考えてなかった自分が恥ずかしい、これがサーヴァントとしての経験の差というやつか。

 

「なぁアーチャーもしかしてこれを見越しt」

「フッ、良い食べっぷりだマスター。今回は時間も無く簡素になってしまったが特異点で物資を持ち帰ればより豪勢に振る舞えるだろう。帰還後を楽しみにしていてくれたまえ」

 

……シンプルに料理が好きなだけか?

 

 饒舌に語るアーチャーの顔を見てみると腕を組み自慢げにしている。食べた2人よりも嬉しそうなのはシェフとしての誇りと自信故だろうか。…本当に弓兵かこの人。

 

「と、そろそろ時間のようだ。さぁ、遅刻する前にマシュと共に行ってくるといいマスター」

「え、アテーノもエミヤも行かないの?」

「え?」

「え?」

 

 「ふむ、まだ聞いていなかったか。今回の特異点に我々は同行しない。現地で霊脈を確保した上で一時的にしか力を貸すことが出来ない。サーヴァントとしてマスターが死線に晒される状況でその場に居られないのはとても歯痒いのだがね」

 

 アーチャーが言うように今回召喚された私を含めた4騎はレイシフトへの同行が許可されていない。聞くところによるとサーヴァントによってその特異点に適合しているか否かがあるらしい。まぁその事を知ったのはついさっきなのだけど。

二人を部屋へ呼びに行くより前、私達は管制室にてロマニとそれから技術顧問であるダ・ヴィンチと話をした。

 

 曰く私は"すべての特異点に適性がある”とのことだった。

 

 『アテーノ』を題材とした物語が多くの時代、場所に残っているのならまぁ妥当だろうか。

 

 それなら何故同行してはならないのか、と聞いたところ。どうやら今回の特異点は他の時代と比べ揺らぎが少なく、そこで立香のマスターとしてのスキルアップを図りたいそうだ。……いかに他と比べ容易とはいえ、危険であることには変わりは無い。せめて一人ぐらいは連れて行くべきだと言ったのだが却下されてしまった。

プリテンダーというこれでもかと怪しいエクストラクラス、そして名に釣り合わない低ステータス。やはり疑われているのかもしれないな。

 

「そういうわけだよ。ま、つまり素人に私は高級過ぎるってことだな!ほらほら行った行った」

「お二人が来られないのは残念ですが仕方ありません…。それでは行きましょうか先輩」

「うん、そうだね。……じゃあアテーノ、エミヤ」

 

 

 

 「「行ってきます!!」」

 

 

 咄嗟に返事を返すことが出来ず頬杖を付いたまま、立ち上がり駆け出す少年少女の背中を見送る。

嗚呼、思えば誰かの背を見送るのは初めてかもしれない。

何時も私は見送られる側だったから。

不自然に言葉に詰まって硬直してしまったのもきっとそのせいだろう。

 

 彼から見た私もこんな風に映っていたのだろうか。

 

 戦う為に喚ばれながら、こうして俯瞰することしか出来ない自分のなんと無力なことか。思わず拳を握る力が強くなる。私にはただ無事を願うことしか出来ないのだ。

 

 "ええ、行ってらっしゃいアテーノ。自分なんかにはこれしか出来ませんので…、……必ず帰ってきて下さいね”

 

 (……今ならお前の気持ちも何となく理解出来るよ)

 

「心ここに在らずという感じだな、やはり君と言えども不安かね」

「まぁな、何のためのサーヴァントだよって感じだ」

 

 柄にもなく耽っているとアーチャーの声で我に返る。

 

「なに、仕事が無いわけではないさ。何時必要とされるか分からない、我々も管制室でモニタリングに勤しむことにしよう。……と、その前に」

 

 厨房から出てきたアーチャーが机の上に何かを置く。

 白米だ。

 またもや二杯の白米だ。しかも片方はこれでもかと盛りに盛られている。

 

「……サーヴァントに食事は不要だろ?」

 

 先程のマシュとのやり取りが聞こえていなかったのだろうか。それとも私はそれ程までにモノ欲しげに米を見つめていたのか?いや、確かに美味しそうとは思ったけれども。何にせよ食料も限られているだろうに不要であるサーヴァントが圧迫してしまうのは気が引ける。

それにしてもなぜ二つ…?

 

「ほう?アレを見ても同じことが言えるかね?」

「いやアレってなんだ…よ…。………なるほどなぁ」

「ついでに君も食べるといい。これから出撃するとなると少しでも魔力は多い方がいいからな」

 

 腕を組んだまま顎で食堂の入口を指すシェフ、私も椅子に座ったまま振り返り確認する。それを見ると納得せざるを得ない。

 

「…ジュルリ」

 

 入口から身体を覗かせ、涎を垂らす騎士王がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 澄み渡る空を見れば光の輪、燃え盛る町を見れば死体を貪るワイバーン。中々の初陣じゃないか。

何てことはない、今更嘆く必要も、怒りに震える必要も無い。ピンチに間に合わないのには慣れているのだから。

 

 

 立香、並びにマシュは無事に特異点であるオルレアンへと無事にレイシフトを完了、現地のフランス兵により魔女となり蘇ったジャンヌ・ダルクの存在を知った。その後もう一人のジャンヌ・ダルクと出会い情報収集を行っていたところ接敵、そして今に至る。

……もう一人のジャンヌ・ダルクって何だよ。

 

「アテーノ、お願い。力を貸して欲しい」

「ほいほいっと。てかお前、簡単に真名漏らすなよ」

「あっ。……プリテンダー任せた!」

「いや遅せぇよ!?」

 

 軽口を叩きながら右手に剣を現界させる。剣身は太陽の光を反射させ銀色に輝いている。聖剣のように特殊な力も無く、何の変哲もないただの剣だ。…それでもあっちよりも手に馴染んでいる。

相対するは二騎のサーヴァント。マシュはデミサーヴァントになったばかり、ジャンヌ・ダルクはステータスが低下しており真名看破も不完全な状態。自惚れているわけではないがここは私が片方を引き受けるべきだろう。

 

「じゃあ私はバーサーカーを……てかどっちもバーサーカーか、ええいややこしい!二人はアサシンを頼む、立香もそっちに付いてやってくれ」

「はい!」

「わ、わかりました!」

「一人じゃ無茶だよ!せめて俺も何か…!」

 

 腰に巻いた布が靡くよう、勢い良く半回転。立香の目を見て口角を上げ不敵に笑って見せる。青い瞳が不安げに揺れていた。ならば私はこう言おうか。

 

「勝てるさ、大英雄だもの」

 

 嘘、嘘、嘘、嘘。

 虚勢、虚偽、妄言、欺瞞。

 根拠なんて何も無い、それを覆すだけの自信も力も無い。誰の為の嘘だとか、そんな優しいものじゃない。

自分を安心させたいがために言った独りよがりで真っ赤な嘘でしかない。

 

 ただの常套句、ただの定型文。

生前散々言っていたソレが今の自分に都合が良くて、皮肉が効いていて、なんだか笑えるくらいに可笑しくて。

 

 羽織る者にはお似合いの台詞だろう。

 

「……!わかった」

 

 そんな私を見て彼は頷く。

そうだ、それでいいとも。

 

「さて、それでは死合うとするか」

 

バーサーク・ランサー。この場に居るのは元凶と思われる竜の魔女に加えアサシン、ライダー、セイバー。そして此奴を含めた計五騎。中でも竜の魔女とこのランサーはずば抜けている、先程から絶え間なく発せられる威圧感と殺気で押し潰されそうだ。

 

 だが負ける気は毛頭ない。

 

「お手柔らかに」

「いやはや、何とも厄介な者を任せられたものだ。貴様の名が真であるならば余の勝ち目は薄い。……城主としての余ならまだしもこの怪物の霊基では敗北は明白であろう」

「じゃあ退いてくれよ」

「抜かせ小娘よ。"真であるならば”と言った筈だ。中々の手練ではあるようだが英霊として突出しているというわけでも無い」

「へぇ……私が偽者だとでも?」

「もしくは余のように在り方が歪められているか……まぁ何でも良い、全ては貴様の血を啜り魂を喰らえば理解できよう」

 

 いつも通り腰の赤布を解き直剣の柄へと巻き付け、込められた魔力を注ぎ込む。強化の魔術すら使えない凡人向け簡易エンチャントだ。さて、これでDランクの宝具くらいにはなっただろうか。

 

 悪いが馬鹿正直に戦うつもりはハナから無い。自分は武人でも騎士でもないし、ましてや誇りなんて持ち合わせてないのだ。使える物があれば何だって使ってみせるとも、それが生前どれ程憎んだ相手でも。

 

「来いよ畜生共」

 

 私の声に応じ、周囲の空間に黒い滲みがじわじわと拡がっていく。そこから這い出るように現れた触手がランサーを刺し貫かんと迫る。3m…2m…1m、あちらから仕掛けては来ないようだが、このまま大人しく殺られてくれるほど甘い相手だとも思わない。次のアクションに出るとしよう。

 

「大英雄らしからぬ小賢しさだな……!」

 

 槍の一振で触手の軌道を大きく右へと逸らされる。次の仕込みを行いながら触手を操作し、再度攻撃を試みる。が、返しのもう一振で今度は完全に切り裂かれ霧散する。もう少し時間を稼ぎたかったところではあるが最低限の準備だけは整った。

 

「それでは此方から行こう」

 

 速い。

 追加の触手を喚び、何とか近ずかせまいと壁を作るがいとも容易く切り伏せられる。瞬く間に対象へと肉薄したランサーが、ソレの喉元へと槍を深く突き刺す。

刹那、刺された肉体の内側から夥しい数の杭が炸裂した。

 

「成程、幻術の類か」

 

(あっぶね~…!!何だよあの激ヤバ槍は……!)

 

 彼がアテーノと認識していたソレが粒子となって消える。

触手に幻術を掛けただけの即席案山子だったが存外に役割を果たしてくれた。そもそも私の魔力の殆どはコイツら由来のものだ。撹乱した上で仕掛ければ敏い英霊であっても中々分かりづらいだろう。

 

 私は滲みの中から再び現れ彼の背後に立つ。

 遮音の魔術の掛かった剣を渾身の力で振るう。

 

(獲ったッッ!)

 

 

 

 然し手応えは無く、甲高い金属音が大きく響いた。

 

 

「は、はぁ?」

「ほう、布石であったか」

 

 

 剣はランサーの首に届いていなかった。突如地面から彼を守るように現れた杭が攻撃を紙一重で阻んでいた。

 

私が動きを止めた瞬間、この杭は私を無惨に貫くだろう。

鍔迫り合い……ではないが、このまま力任せに切り込み破壊するのは得策とは思えない。直ぐに反撃が来るだろう。

一先ずは仕切り直すべきだ。壁となった杭を蹴り後方へ跳躍し再び剣を構える。

 

 

 

 

 

 

 あー、

 こりゃ長引きそうだ。

 

 

 

 

 

 




好きなもの
「そりゃ勿論。人々の笑顔に世界の安寧。………英雄ってそういうやつだろ?」


◇◇◇◇


あと数話挟んだらサーヴァントになる前のストーリー入れたいと思ってます。ようやくTS要素入ります、遅せぇよ。
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