ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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幕間 兄

「・・・・・・お久しぶりです、烏丸(からすまる)支部長。もう戻られないかと思っていました」

 

 とある公営ビルの一角。俺は目の前に立つ、ソフトハットの黒スーツの男の背にそう呼び掛ける。

 

「則之、止めてくれないか。私とお前は親子だろう?」

 

 黒スーツの男、烏丸敏浩(からすまるとしひろ)支部長は、枯れたそう言ってこちらに振り返る。その顔は包帯で覆われ、素顔が全くわからない。包帯の隙間からはわずかに、火傷でただれた様な肌が見えるだけだ。

 

「あなたに父親らしいことをして貰った覚えは一度もありません。物心ついたときから俺は施設に居ましたし、妹に至っては・・・・・・いえ、なんでもありません」

 

 目の前の男の表情は包帯のせいで読めないが、不快な顔をしていることは間違いないだろう。

 

「お前にも、そして『あれ』にも、悪いことをしたと思っている。許して貰えるとも思っていない。だが、この国を守るためには、致し方なかった」

「『あれ』・・・・・・ですか。ご自分の娘でしょう?」

「この国を守る者となったからには、例え娘と言えど贔屓(ひいき)は出来ん」

「あの子の命が残りわずかだとしても、ですか?」

「その職務についたからには、命の危機は誰にでも訪れる。覚悟はもとより出来ているはずだ」

 

 ・・・・・・駄目だ。話にならない。いくら話しても、無駄なようだ。

 

「・・・・・・話を変えましょう。秋にはもう、イギリスから彼女の『婚約者』が来日します。直接会われますか?」

「あぁ、もうそんな時期か。もちろん、会おう。彼にも、あれにも、そして『ジル・ド・レーの青年』もだ」

 

 ──!!

 

「彼にも会うのですか・・・・・・!?」

「父親なら、気になるのは当然だろう? 娘の、彼氏と言うのは」

 

 男は少し含み笑いをしながらそう話す。包帯の向こうから覗く黒い瞳は、ギラギラと輝いている。

 ・・・・・・この男、今さら父親面するのか。贔屓をしないと言う割には父親面しやがる。滅茶苦茶だ。

 

「あぁ、それともう一つ気になっていたことがある」

「なんでしょう?」

「『カトリーヌ計画』についてだ。あれにはタイムリミットもある。恵まれずに死にました、では許されんからな。・・・・・・もちろん、進んでいるな?」

 

 こいつは正気なのか? カトリーヌ計画、簡単に言えばヒーローのクローンを作る計画だ。雛形となった『ジャンヌ・ダルク』の姉妹を作るからカトリーヌ(ジャンヌの姉妹)の名が与えられた、最低最悪の計画だ。

 

「・・・・・・まだ成功には至っていません」

 

 成功なんてさせるものか。

 

「急がせろ。時間がないぞ」

 

 男はそう冷徹に言い放つと、煙草を一本ふかして、部屋を後にした。

 

 

 

 

 俺は彼の背を見送ったしばらく後、ポケットから携帯を取り出し、とある人物に電話を掛けた。あいつの好きになんて、させるものか。

 

「──もしもし。はい、公安第五課の湯村です。大舘(おおだて)課長、作業の進捗を・・・・・・」

 

 

 ──望愛、ナオ。お前達は兄ちゃんが絶対に守ってやるからな。

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