ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
ボクはナオのパーカーを羽織って、人混みを掻き分けながら声のした方へ進んでいく。すんすん。あ、ナオの匂いだぁ・・・・・・って言ってる場合じゃない!! 切り替えろ!
くそぅ、人の数が予想以上に多い。思ったように進めない。早くしないと、手遅れになる! そんなとき、後ろの方で声が聞こえた。
「──ナイフを持った奴がいるぞぉぉぉぉぉ!!!!」
ナオ! ナオの声だ!
ナオの叫び声が何度も何度も周囲に広がる。徐々に人の数が減って、視界が晴れていく。そして・・・・・・
──チュー! チュー!
中型犬ぐらいの大きさをした、灰色のネズミのような怪物が、そこにはいた。その尻尾は何人もの人間の腕を編み込んだみたいな見た目をしていて、周りには女の人の水着が落ちていた。きっと、あのネズミの正体だ。
どうする・・・・・・? 今ここで叩く? いや、まだ人目が多すぎる。ヒーローの鉄則は隠密行動。でも、このままじゃいつ人を襲うかわからない。ノリ兄が来るまで待つ? ダメだ。どれだけかかるかわからない。いつ来るかわからない増援に期待するわけにはいかない。どうしたら・・・・・・。
ダメだ考えがまとまらない。心臓の音がうるさい。気が散る。もしボクが判断を間違えたらここにいる人達は、ナオは・・・・・・!
──望愛、落ち着け。大丈夫だ
そのとき、優しい、大好きな声が後ろから聞こえた。
「──! ナオ・・・・・・」
「俺がついてる。心配すんな」
ナオはそう言って、ボクの手を優しく握ってくれた。心が一気に落ち着く。頭が冴える。そうだ、ボクにはナオがいる。ナオがいるんだ。
「ナオ、ノリ兄達は?」
まずは増援の確認だ。
「先に機動隊が派遣されてくる。兄貴もすぐこっちに来るらしい。武器とスーツも一緒に持ってきてくれる」
機動隊。組織の実動部隊で、主に初動対応(今回みたいなのは異例中の異例だけど)や区域の封鎖なんかをしてくれる、頼りになる人達だ。
「わかった。なら機動隊が到着するまで待機だね」
「だな。・・・・・・だいぶ落ち着いたか?」
「うん。ナオ、ありがと」
「おう」
ナオの手はボクよりずいぶん大きくて、優しく包み込んでくれる。とっても頼りになる大きな手。でも、
「ねぇナオ」
「ん?」
「もしかして、緊張してる?」
ナオの手から伝わってくる鼓動は、もしかしたらさっきのボクのよりも早くって、大きいかもしれない。走って来たから・・・・・・じゃ無さそうだね。
「馬鹿やろ、武者震いって奴だ」
「震えてないよ?」
「なら武者
「なにそれ」
「後で教えてやるよ」
そう言ってちょっとだけそっぽを向くナオ。昔っから困ってるボクを見つけてはいつも助け船を出してくれるのに、いっつも自分の方が追い込まれちゃうんだ。本当に、本当にナオは・・・・・・
「ありがと、ナオ。大好きだよ」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、なんにも?」
そうこうしていると、周囲が騒がしくなってきた。機動隊が到着したみたいだ。
「お、来たみたいだな」
「うん」
スピーカーから不発弾が見つかったとアナウンスが流れる(もちろんカバーストーリーだけど)。群衆は急いで砂浜から引き揚げていく。
「ねぇナオ」
「どした?」
「また、海来ようね!」
ボクは、飛びきりの笑顔でナオにそう言ってやった。
──ドクン、心臓がはね上がる。
すごく痛い。でも、ナオにはそんなとこ見せられない。あと一年。あと一年なんだ・・・・・・。