ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
騒動はひとまず終わった。俺達は直後にやって来た兄貴に簡単な
「望愛、大丈夫か?」
「・・・・・・っ! う、うん! 大丈、夫。多分」
さっきから望愛の様子がおかしい。体調が悪いのか? それとも心の問題か? 乗り物酔い激しいのに、今はそんなことおくびにも出さずにぼーっと遠くを見つめている。
「・・・・・・望愛。晩ご飯、何が良い? あ、そうだ、兄貴もよってけよ。どうせ連絡なんて電話でも出来んだろ?」
ぴくり、望愛の耳が動く。効果アリみたいだ。
望愛はそのままゆっくりと俺の方を振り返って、そして、涙を溢れさせた。
「ナオ、ナオぉー・・・・・・!」
望愛はそう言って俺にはすがりついてくる。こうなるとは思っても見なかった。でも、望愛がこうやって自分からすがりついてくるのは珍しい。一体どうしたんだろ?
望愛は震える声で、涙を何とか堪えながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「機動隊のおじさん、娘さんがいたでしょ?」
「うん。よく話してくれたよな」
ああ、やっぱりか。俺はどういう話か、早々に理解した。
「あの杖、おじさんのでしょ?」
「うん。貸してもらったんだ。届けてやりなって」
ああ、嫌になる。本当は聞きたくない。でも、聞かなきゃいけない。
「杖が当たるとき、声が聞こえたの。──私はここだよ。お父さん──って」
「・・・・・・そっか」
・・・・・・。
「返り血が跳ねたとき、記憶が見えたの。家族との思い出。彼氏さんとの時間。みーんな、見えたんだ」
「うん、うん」
兄貴は黙って正面を見つめている。話を聞いて、眉をひそめてくれるような人で本当に良かった。
「ボク、殺しちゃったんだ・・・・・・この手で、殺しちゃったんだ・・・・・・!」
たまらず望愛は嗚咽する。今の俺には、どうしてやることも出来ない。望愛にも、そしてその手にかかってしまったあのおっちゃんの娘さんにも、どうしてやることも出来ないんだ。
「今まで何回も何回も同じようなことはあったんだ。孤独なおじいさんのときもあった、小さな子供の時もあった。でも、仕方ないんだって、これがボクの仕事なんだって、生まれてきた理由なんだって思って殺してきた。殺し続けてきた。・・・・・・でもこの前、ナオにああ言って貰えたあと、心の中でちょっと思っちゃったんだ。逃げても良いのかもしれないって。ヒーローの自分を捨てて自由に生きるのも良いのかもしれないって! そう思ったら、急に怖くなったんだ。今まではそれが全てで、逃げ場なんて無かった。でも可能性が見えて、ナオとずっと一緒にいられることももしかしたら夢じゃないかもって思っちゃうと・・・・・・ボク、怖いんだ。今まで平然と殺してきて、仕方ない仕方ない、ごめんなさいごめんなさいって何の感慨もなくするする避けて生きてきた自分が怖いんだ。ボクもいつか殺す側から殺される側になるんじゃないかって思うと怖いんだ。──ボクは、どうしたら良い・・・・・・? ナオ、教えて・・・・・・?」
それは、望愛が初めて見せた姿だった。ヒーローとしての自分への恐怖、いつか殺されるかもという恐怖。俺には今まで見せなかった感情。・・・・・・平和と堕落に浸ってきた俺には、到底抱えきれない闇の部分なのかもしれない。でも、それでも俺は受け止めなきゃいけない。俺を相棒と呼んでくれた、大好きと言ってくれた、自分の彼氏だと胸を張ってくれたこの小さな女の子の為にも、俺は受け止めなきゃいけ──
「ナオ、望愛。すまん、緊急伝達だ」
それは、もっとも最悪の形で、精神状況で、コンディションで、そして現場で起こった。
──県庁前で、大きなネズミ形の怪物が現れた。至急対応せよ。
この世界は、どれだけこの子を苦しめるのだろうか。