ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第二十一話 空を舞う聖女

 頭がズキズキと痛む。脳裏を怪物だった人々の記憶がよぎる。心臓がバクつく。それでもボクは、足を止めない。止めてはいけない。今まではその事に何の理由も意味も考えることはなかったし、必要もなかった。それがボクの使命で、運命で、生まれてきた意味だと思ったから。でも、今は違う。はっきりと理由がある。意味がある。

 ボクの後ろには、ナオがいる。ボクが戦わなくちゃ、ナオが危ない。大好きな人を守るために、大好きな人が生きる世界を守るためにボクは戦うんだ。どれだけ辛くても、苦しくても、ボクにはナオがいた。ナオの存在が、ボクを引き戻してくれた。だからボクは、戦えるんだ。

 

 

「・・・・・・改めてみるとでかいなぁ」

 

 近くにあったビルの屋上からボクはそれを見下ろす。地上からの光景じゃその全容は見えなかったけど、ここからなら見える。鞭のようにしなる長い人の腕が編み込まれたような尻尾、風船のようにブクブク膨らんだ楕円の胴体。その割に小さく見える四肢は確実に人間の物だけど、巨大すぎる体を動かすことは出来ないようだ。真っ赤に血走った大きな瞳はギョロギョロと左右別々に絶え間なく動き続け、とても気持ち悪い。ナオにエチケット袋貰っとけば良かった。

 

「こちら《ジャンヌ・ダルク》。司令部聞こえる?」

 

 フルフェイスの通信をオンにしてボクはそう呼び掛ける。・・・・・・良かった、すぐ繋がった。

 

『こちら司令部の洲本。よく聞こえてる』

「ナオとノリ兄は?」

『まだ来てない』

 

 一気に不安が広がる。大丈夫、きっと大丈夫だ。だからボクは、こっちに集中しないと。

 

「・・・・・・対象を今視認してる。これより状況を開始する」

 

 ボクは怪物を睨み付ける。彼、もしくは彼女にも人生があったんだ。良いことも悪いことも、幸福なことも不幸なことも。でもボクは、倒さなくちゃならない。

 

(──私はここだよ)

 

 脳裏にそんな声がよぎる。サッと一気に血の気が引く。でも、それでも・・・・・・

 

『了解した。状況を開始せよ』

 

 その瞬間、ボクは屋上を蹴って跳んだ。狙いは、怪物の眉間だ。

 風がスーツ越しに肌を撫でる。少しむしっとした、夏の風。ふと見ると、空中にはドローンカメラが見えた。これがあるだけで、何故だか安心するんだ。

「グギオォォォォァァァァァァァァァア!!!!」

 怪物はボクを見てそう叫び声をあげる。お腹の底から震えるような、耳障りな嫌な声だ。

 怪物は腕のような尻尾を伸ばして、ボクを捕まえようとする。でも、そうはさせない!

「うおぉぉぉりゃぁぁぁぁー!!」

 鞘からマチェットを引き抜き、振るう。スーツのラインは鮮やかに発光し、力がみなぎる。

 

 ──バスンッ

 

「グギャァァァァ!!!!」

 

 尻尾は赤い血を吹き出し、ボクの目の前で切断される。返り血がフルフェイスにかかる。くそ、視界が狭くなっちゃった。頭痛もひどくなってきた。でも後少し。後少しであいつの眉間に・・・・・・

 

(──ワタシハココダヨ。ココニイルヨ)

 

 その瞬間、ボクの視界が大きく揺らいだ。お腹には鈍い衝撃が走って、口には鉄の味が広がって、フルフェイスの端には・・・・・・尻尾が見えた。

 

 

 

 

「がっ・・・・・・ぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 直後に聞こえたのは、ガラスの割れる音と、誰のかわからない大きな叫び声だった。ひび割れたフルフェイスからは、冷たい床が良く見えた。

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