ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第二十二話 地を駆ける怪物

 腹の底から震えるような声が響く。望愛はもう戦闘を始めたみたいだ。

 

「急ごう」

 

 兄貴は足取りの重い俺をそう急かす。ああ、わかってる。

 俺は無言で頷き、少し駆け足になって兄貴に追い付く。・・・・・・そのときだった。

 

「!! 今のは!?」

 

 ガラスが割れたような大きな激しい音と、誰かの叫び声が少し遠くから聞こえてきた。方角は──望愛のいる方だ。今この街に人は居ない。ならあの音は、声は、

 

「兄貴」

「どうした?」

「ごめん」

 

 俺はそういって兄貴の返事も待たずに、顔も見ずに駆け出した。──きっとあれは、望愛だ。望愛に何かあったに違いない。そう思うと、足は自然と動いていた。

 

 走る最中、脳裏に嫌な予想が走る。大ケガを負っていたら? 骨折していたら? ガラスの破片で顔に傷なんかついていたら? 頭を打って出血していたりしたら? マイナス思考な自分に腹が立つ。今はそんなことに体力を使っている場合じゃない。

 俺はそんな予想を振り払うように、足を早めた。あいつを殺す訳にはいかないんだ。絶対に助けてみせる。それが今俺が出来る、最大限の役目だ!

 

 

 無人の大都市に、俺の足音だけが響く。音はこの辺りからしたはずだ。

 思わず鼻を覆いたくなるような強烈な血の臭いが辺りに漂う。正面の大通りには、人間の腕を編み込んだような気味の悪い物体が転がり、血を流しながらうごめいていた。

 

 って、そんなことどうだって良い。今は望愛だ。どこだ、どこにいる?

 俺はビルを見上げる。ガラスが割れている窓はないか探す。が、

 

「クソッ、どこも割れまくりじゃねぇか!」

 

 ビルの隙間からあの大きなネズミの姿が見える。あいつが望愛に何かやったのだ。そうに違いない。正直、殺意が沸いた。今すぐあいつをぶっ殺してやりたい。だが、今は望愛が最優先だ。それにそもそも、俺にはそれだけの力はない。

 

 非力な俺は頭を抱えて考える。どうすれば望愛を見つけられる。どうすれば、どうすれば──

 

「あ」

 

 そのとき、俺はポケットの中に入っているものに気づいた。俺はそれをすぐさま取り出す。

 

「望愛、スマホ持っててくれよ・・・・・・」

 

 望愛は基本スマホを車において戦いに出る。だが今回は乗り捨て覚悟の非常事態。微かな奇跡に、賭けるしかない。

 

「頼む・・・・・・持っててくれ・・・・・・!」

 

 俺は望愛のスマホに電話をかける。コール音が流れる。よし、電源はついてる。俺は耳からスマホを外し、目をつぶった。

 

 一回、二回。コール音が刻む。

 

 全感覚を耳に集中しろ。

 

 三回、四回。コール音が刻む。

 

 微かな音も逃すな、ここにいる人間は望愛だけだ。

 

 五回、六回。コール音が刻む。

 

 望愛のスマホの音を探せ。探せ。探せ──────

 

 

 

 

 ~♪ ~♪ ~♪ ~♪

 

 

 

 

 聞こえた。確かに聞こえた! ほんの僅かにだが、確かに聞こえた! 俺は顔を上げてビルを探し、走る。音がなっているビルは、

 

「──あった。あそこだ!」

 

 そのビルの三階、南向きのオフィスの大きな窓に一つ、穴が開いていた。俺は全力でビルに滑り込み、階段を駆け上がる。足に疲労がたまる、肺が苦しくなる。ここがデッドゾーン(正念場)だ! ここさえ、ここさえ走りきれば望愛を・・・・・・!!

 

 

 俺はオフィスの扉を開ける。着信音が鳴り響くその中に、彼女は血を流して横たわっていた。

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