ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
──ゴオォォォ
建物が音を立てて揺らぐ。外の怪物のせいだろう。
そんな状況でも、望愛は眠っている。規則的な呼吸も、安定した鼓動もしているから、まだ大丈夫・・・・・・だと信じたい。
「望愛、死ぬな・・・・・・生きてくれ・・・・・・」
俺は望愛の手を強く握る。今までも、傷を作ってきたり、アザを作ってきたりしたことはあった。でも、こんなにひどい怪我をしたことはなかった。命の危機に陥るような事態に発展したことはなかった。結局俺には、覚悟がなかった。望愛を失うかもなんて考えたこともなかった。想定なんて、しちゃい無かった。俺は、何にもこいつの事をわかっていなかったのかも知れない。
──チュー、チュー・・・・・・
そのときだった、外からそんな声が聞こえてきた。ネズミの声なんてまともに聞いたことはないが、多分こんな声なんだろう。それが今、扉を挟んだ向こう側で大量に鳴いている。
──外にいたあのデカイ怪物関係なことは多分間違いない。俺はすぐにその辺にあるもので扉を塞いだ。・・・・・・これで俺達は部屋から出られなくなった。
その後俺はスマホをミュートにした。ネズミの耳はかなり良いらしい。スマホのバイブ音で気づかれたら堪ったもんじゃない。第一、ネズミに食い殺されるなんて願い下げだ!
直後、洲本のおっちゃんからメッセージが届く。状況を判断して電話じゃなくメッセージにした辺りは流石副司令だ。
『絶対に外に出るなよ!』
俺はそれにこう返信した。
「あのネズミの子分か? どれぐらいいるんだ?」
『子分じゃない、分裂したんだ。それがうじゃうじゃビルの中に浸透していってる』
分裂・・・・・・? あのデカイのが分裂? 言ってる意味がわからん。でも、そう言うことなんだろう。そんなのがうじゃうじゃ、気持ち悪いことこの上ない。
「来れそうか?」
『行くしかないだろ。お前にバラされちゃ堪ったもんじゃないからな』
「嫌味か!」
『もちろん』
オーケー洲本のおっちゃん、あんたは後で一発ぶん殴ってやる。
「兄貴は?」
『まだ県警に来てない。車も置き去りのまま動かない。そもそもネズミの群れがこっちにも押し寄せてきてる』
あの車にはGPSがついているらしく、司令部から位置を監視できるらしい。って、マジか・・・・・・そんなに多いのか。
「大丈夫なのか?」
『大丈夫だと思うか? すまん、ちょっと行ってくる』
「了解」
『 ️』
俺はスマホをポッケに仕舞うと、音を立てないよう慎重にリュックの中から荷物を取り出す。この中に何か使えるものがあると良いんだが──
「ん? これは」
なんだこりゃ。って、ジッポライター? いつの間に入って・・・・・・!
「兄貴、そういや押し付けてきてたなぁ」
でも、ここで火器は少し嬉しいかも知れない。動物は火が怖いってのは有名だ。こんなショボい火でも無いよりマシだろう。
「後は・・・・・・あ、制汗スプレー」
──先に断っておこう。今から俺がやろうとすることは絶対に真似しちゃ駄目だからな?
制汗スプレーの中のガスに、ライターの火を引火させて簡易火炎放射器を作る。これなら何とかしのげるかもしれない。あとは、
「頼むから、絶対に入ってこないでくれ・・・・・・!」
神様に真摯にお祈りをするだけだ。だが、
──ガンッ! ガンッ!
どうやら祈りは届かなかったようだな。くそが。見捨てるとか、ちょっと神様ひどくないか?
俺は望愛をゆっくり背負うと、ライターとスプレーを構えた。