ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
俺はライターとスプレーを構える。望愛は伸ばしたリュックのひもと背中の間に挟まれ、ひもに足をかけるようにして俺に背負われている。昔にテレビで見ただけだが、案外出来るもんだな。
耳元で望愛の呼吸音が聞こえる。興奮する・・・・・・とか言ってる場合じゃない。命の危機だ。落ち着け、落ち着け、落ち着け。
──ガンッ! ガンッ!
チューチューと言う声と共に、向こうのナニカは扉をこじ開けようとする。俺は扉に隙間が出来た瞬間を狙って構える。
扉が揺れる。そろそろ隙間が開きそうだ。俺はスプレーとライターにかけた指に力を入れる。・・・・・・そのときだった。
──ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!
耳をつんざくほどの凄まじい音が響いた。聞いたことはないがこれは、マシンガンか?
「ミスターユムラ、この先デスね?」
次に聞こえてきたのは、少し片言な日本語。低い男の声だ・・・・・・って、今湯村と言ったか?
「ええ。その扉の向こうに」
そして聞きなれた若い男の声、これはもう間違いない。そこに居るのは、
「おい兄貴! 兄貴なんだろ!?」
「ナオ! すまん、遅くなった! もう大丈夫だ」
ああ、やっぱりだ。この声は兄貴に違いない。兄貴は今、扉の向こう側に居る。だが、万一の事がある。こういう時こそ、慎重にならないと。
俺は望愛を背負ったまま、扉にわずかな隙間を開けて外を覗く。そこにはやはり、
「よっ!」
「よっ! じゃねぇよ馬鹿兄貴。おせぇんだよ」
兄貴が居た。それも、背後にミニガンを携えた巨大な白人男性を連れて。どこかで見たことあるんだが・・・・・・思い出せないな。二枚目なのは言うまでもない。渋い感じのイケメンだ。
「後ろの人は?」
「強力な助っ人だ。・・・・・・すまんが早く開けてくれるとありがたい。ネズミ共が再生する前に」
怪物達は、ヒーローの力以外では致命傷を与えられない。つまり後ろのはヒーローじゃないのか? いや、攻撃型のヒーロー以外にも、支援型ってのもいるらしい。まだわからないな。
そんな疑念を抱きながらも、俺は扉を開け、二人を中に入れてまた閉めた。
「望愛の容態は?」
「全身打撲と頭から血が。止血は一応」
俺はゆっくり望愛を床に下ろした。望愛は、不気味なほど良く眠っている。
「あなたが、東洋の『ジル・ド・レー』卿デスか?」
片言の白人が俺にそう聞く。その名を知ってると言うことは、機関絡みなのは間違いないらしい。
「良くご存じですね。元々は自称だったんですけど・・・・・・失礼ですが、出身は?」
「スコットランドのエディンバラデスね」
なるほど、つまりイギリス人か。確か望愛の婚約者もイギリス人だったな。丁度歳もこのくらいで──
「──おい、あんたヒーローだろ?」
そう言うと彼は少し驚いた顔をして、フッと笑った。
「ご名答デス」
そうだ、こいつの顔には見覚えがあったんだ。こいつは・・・・・・
「あんたの顔には見覚えがある。イギリス出身、三十七歳のベテランヒーロー。連合王国特殊部隊、
ロバート・ブルース。スコットランドの王であり、勇者ウィリアム・ウォレスと共にスコットランド独立の英雄として尊敬されている。かなりの巨漢だったとされているが、なるほど、そのコードネームに間違いはないようだ。
「そこまでご存じなら、その後の事ももちろん・・・・・・」
「知ってるよ。納得もしてない。でも、今はそれよりもこっちのが優先だ」
俺は望愛のフルフェイスと、包帯代わりの布をゆっくりと外す。まだ少しだけ、血がにじんでいる。俺はロバートを見る。悔しいが、俺にはなにも出来ない。俺は静かに立ち上がって、後ろに下がった。
「怪我をしたのはどれぐらい前デスか?」
「一時間半は少なくとも」
「そうデスか・・・・・・彼女は幸運デスね」
「?」
「まず第一に、大きな血管はどこも損傷していないこと。フルフェイスを被っていたのも大きいデスね。それともう一つは、」
「もう一つは?」
ごくり、息を飲む。ロバートはニカッと笑ってこう言った。
「彼女にあなたがいたことデス」
俺が、いたこと?
「この状況で、完璧でないとは言えある程度の処置が出来ています。良い腕を持ってます。彼女を救ったのは、あなたデスよ」
俺が、望愛を救った? 救えた、のか?
「それじゃ望愛は・・・・・・!」
「もちろん、今すぐ治療すれば命に別状ありません。戻った後に頭を診てもらう必要はありますが」
ああ、そうか。俺は、ちゃんと出来たんだ。ちゃんと望愛を、助けられたんだ。安堵と同時に、体の力が抜ける。俺はその場に尻餅をついてしまった。
「それでは、処置を始めます」
ロバートはそう言って、望愛の傷に手をかざした。