ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
ロバートは傷口に手をかざす。淡い緑色の光が部屋全体に広がる。
「レー少年、彼女の手を握ってあげてください」
ロバートは優しく微笑む。俺は小さくうなずいて、望愛の手をしっかりと握る。
心なしか、暖かさが戻ってきているように思えた。脈動が感じられる。望愛が生きている、確かな証だ。
「レー少年。少しここを見てみて下さい。面白いデスよ?」
そう言ってロバートは手をかざしている傷口を目で示す。俺は言われるままそこを覗く。すると、
「・・・・・・! これは、」
壊れた組織が、皮膚が、まるで早送りのようにみるみる内に回復し、傷口を塞いでいくのだ。
遠巻きに見ていた兄貴も、「ほぅ」と驚いている。
「私の能力は正しく言えば回復ではありません。私の能力は、細胞分裂の促進デス。この光で細胞を刺激し、分裂を促すのデスよ。使い方によっては、武器にもなります」
よし、と、ロバートは手を離す。望愛の傷口は、多少の血の跡を遺して、綺麗に治ってしまった。
「じきに意識も取り戻すはずデス。今のところは、大丈夫デス」
「・・・・・・ありがとう、ございます」
俺は深々と頭を下げる。彼に思うところが無いかと言われれば嘘になる。実際、思うところの方が大きい。
それでも彼は、望愛を助けてくれた。礼は、しなくてはならないだろう。
そんな俺にロバートは優しくはにかんで、肩に手をおいた。
「レー少年。いえ、レー卿。あなたは本当に、ジャンヌ嬢がお好きなんデスね」
ロバートは一呼吸おいて、続けた。
「好きであるなら、その様になさるべきデス。思うままに、貫くべきデスよ」
まるで敵に塩を送られた気分だ。これが大人なのかと、知らしめられた気分になる。優しいその眼差しは、俺をまっすぐに突き刺した。
──ガンッ! ガンッ!
「おっと、もうお目覚めデスか」
直後、激しく扉を叩く音が聞こえた。チューチューと言う声。間違いない、奴らだ。
「ミスターユムラ、ガンの弾数は?」
ロバートは立ち上がり、真剣な表情で兄貴を見つめる。
「まだなんとか」
「オーケー。レー卿」
ロバートはスッと振り返る。
「ジャンヌ嬢をよろしくお願いします。道は私が開きます」
有無を言わさぬ強い眼差し。歴戦の猛者なだけはある。
俺は無言でうなずくと、携帯できる最低限の荷物をポーチに詰め、望愛を背負った。
「いつでも行けるぞ」
俺は二人を交互に見渡す。兄貴とロバートはうなずくと、扉に向き直った。
ロバートはミニガンを扉に向ける。
「カウントダウンは要りませんね。では・・・・・・!」
直後、轟音が部屋に響き渡った。
「私の後ろに着いてきてください!」
蜂の巣になった扉を蹴破り、ロバートはそう言った。