ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第二十九話 窮鼠

 血飛沫が舞う。望愛がマチェットを振るう度に、小さなネズミ達は真っ赤な液体に変わり、空中に散る。鎧袖一触だ。

 

 俺達はそんな望愛の後ろに続いてひた走る。

 さっきまでは無限に沸き続けるネズミ達が壁になっていたせいで中々進めなかったが、望愛のお陰で道はみるみる開けていく。階段まではもう少しだ。

 

「流石は日本にその人ありと言われたジャンヌ嬢デスね・・・・・・」

 

 望愛の活躍を見て、ロバートは苦笑し舌を巻く。望愛を誉められると、なぜだかこっちまで誇らしくなってくる。

 

「凄いだろ? ()()()()()

 

 後半のほうを少し強調して、俺はそう言う。一応ロバートはライバルだ。今のパートナーは俺だと言うことを強調しておかねば。

 

 俺のそんな意図を察してか、兄貴とロバートはフッと笑みをこぼす。なんだ? なんか文句あんのか?

 

「ロバート卿、宣戦布告ですよ?」

 

 兄貴がニヤケ顔でロバートに耳打ちする。するとロバートは不敵な笑みを浮かべて俺にこう言った。

 

ロバート・ブルース()の名を継ぐものとして、挑戦を受けましょう。ジル・ド・レー(元帥)

 

 

 

 

「望愛ー! 大丈夫か?」

 

 前を行く望愛に俺は声をかける。丁度望愛がこの階最後の群れを蹴散らしたところだった。

 

「うん! ボクは全然へっちゃらだよ! むしろ体が軽くなったかも?」

 

 階段の入り口手前で、そう言って望愛は振り返り、俺達に元気に手を振る。スーツやフルフェイス全体にべったりと付着した怪物達の返り血が、奴らの数の多さと望愛の規格外の強さを物語っている。

 

「・・・・・・家帰ったらまず風呂だな」

 

 俺はあえて少し距離を置いて立ち止まり、望愛に言う。望愛はあからさまにガクッと肩を落として、こう返す。

 

「・・・・・・やっぱり臭う?」

 

「俺は気にしないぞ? 望愛の臭いならなんだってオッケーだからな」

 

「よし、すぐお風呂入ろう」

 

 望愛はすぐさま決断した。まさに即決だ。

 

「一応言っとくが冗談だからな?」

 

「もぅ、わかってるよー! ほらほら、早くー!」

 

 そう言って望愛はぴょんぴょん飛び跳ねながらおいでおいでする。

 

「やはりお二人は仲がよろしいデスね」

 

「あんまりおっさんの前でいちゃコラしはなさんなよ? 心臓に悪い・・・・・・」

 

 大人二人のそんな声を背に、俺は望愛に向かって歩いていく。

 

 一時はどうなることかと思ったが、何とか今回も二人で生き延びられたみたいだ。

 ロバート・ブルースというライバルも現れたが、結果として助けられた。まぁ、望愛を渡す気なんてさらさら無いが。

 

 目の前では満面の笑みの望愛が待っている。

 

「あんまり飛び跳ねんなよー、頭ん中出血してるかもしれないんだからなー」

 

「えっ!?」

 

 お、止まった。可愛い奴め。

 

 

 でも、望愛を助けられて本当に良かった。さて、あとは階段を降りるだけ。こんなところさっさと脱出──

 

 

 

 

「・・・・・・!!!!」

 

 音もなく、上に伸びる階段からそれは忍び降りてきた。

 廊下を塞いでいたものとは比べ物になら無いぐらいの大きさの怪物、長い尻尾は中途で切り落とされ、目玉はぎょろぎょろ動き回る。

 鋭い門歯は不気味に光を反射してきらめき、床にポタポタと唾液を滴らせている。

 

「望愛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 自然と声が出た。足が動いた。間に合わないかもしれない。それでも俺の足は、口は頭は、体は、腕は、筋は、骨は、筋肉は、脳は、望愛を助けようと動く。

 

 力がみなぎる。たぎる。燃えるように熱い。心臓がバクバクと音を立てて脈打つ。頭がガンガンと痛む。

 

 全ての光景が、背後へと流れて溶けていく。だと言うのに、世界がスローに見える。

 正面に意識を集中する。望愛が徐々に近づく。背後の怪物の歯が首筋に伸びようとしている。

 

 俺は全身全霊を持って腕を伸ばす。拳を握る。ネズミを捉える。

 

「────ッ!!!!」

 

 俺は、声になら無い声をあげ、拳を目一杯伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱちん

 

 

 

 

 風船の割れる音がした。

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