ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
第三十話 りぼーん
──今日はみんなに新しい仲間が増えたわ。
ここは施設。家族がいなかったり、家族に要らないってされたり、家族にごめんねってされたり、家族から逃げてきたりした子達が集められて、家族として過ごす僕たちの家。
僕には家族がいない。二年前、事故でお父さんもお母さんも、きょうだいもみんな死んじゃった。
朝早く、職員のお姉さん先生がそう言って僕と同い年ぐらいの女の子を連れてきた。
うつむいてて、顔とか腕はデカバンだらけ。女の子にしては、ちょっと短い髪をしている。
──さぁ、みんなに自己紹介しよ?
お姉さん先生はいつも優しい。黒くて長い髪の毛を頭の後ろで一つにくくっている。ちっちゃい子達はその髪の毛が歩く度にゆさゆさ揺れるのが面白いみたいだ。
お姉さんの優しい声に、女の子はちっちゃくうなずいて、こう言った。
「有馬・・・・・・望愛、です。六歳、です。よろしく・・・・・・」
みんなが拍手する。おてんばそうだからもっと大きな声だと思ったけど、案外大人しい子なのかな?
でも、僕にはそんなことどうだって良かった。
今、この女の子は六歳って言ったんだ!
この施設には僕と歳が近い子は一人もいない。だからちょっとだけ寂しかったんだ。でも、今日からはこの女の子、望愛ちゃんがいる! 頑張って仲良くならなくちゃ!
僕は望愛ちゃんのところにとたとたと走って近寄る。それで、大声を出して、元気にこう言った。
「僕の名前は城崎直人です! 六歳です! よろしくお願いします!」
望愛ちゃんは、ちょっぴりびっくりしてた。
「──んぁ、あぁ・・・・・・」
気付いたら俺は、仰向けになっていた。
知らない天井。真っ白なベッド。ここは病院か?
「・・・・・・っ! 望愛!!」
俺はハッと思い出して、声を出す。だが、かすれて上手く声がでない。
そうだ。俺はあのとき望愛に忍び寄ってきたデカネズミを倒そうとした。で、そこからどうなった?
体に力を入れようにも、上手く入らないし、本当に何がなんだか────
「直人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そう思い出そうとしていた直後、聞き慣れたその人の声と共に俺の胸にドシンと、なにかがのし掛かる。あばらが折れそうだ。
俺は顎を少し引いてそこを見る。
そこにはやっぱり、望愛がいた。泣きじゃくって、俺に覆い被さっている。
「良かった、本当に良かったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
わかったわかった。ごめんって。
ふと気がつくと、若干腕に力が入ることに気付いた。俺は右腕に渾身の力を入れ、ベッドの外から出し、望愛の頭に──頭に・・・・・・
!?!?!?!?
俺は目を疑った。これは、夢か?
ベッドの中から出てきた俺の腕は、赤黒くに変色し、一回り大きくなっていた。
「こ、れは・・・・・・!」
思わず声に出す。かすれも少しましになってきた。
望愛がさっと顔を上げた。そして涙で潤んだ大きな目で、俺をじっと見つめた。
「お、はよう。ごめん、な?」
何となくだが、何があったかはわかった。俺は、望愛を助けられたんだ。
俺はそう異って、右手を望愛の頭に乗せる。左手は点滴がついてるから、動かさない方がよさそうだ。赤黒く、醜くなってしまったが、許してくれ。
望愛は俺が頭を撫でると、先ほど以上に涙をぼろぼろ流し、飛び付いてきた。
「バカぁ!! ナオのバカぁ!! ほんとに、心配したんだからね!!」
望愛はそう言ってより一層泣きじゃくる。泣きわめく。その声は、病室全体に広がっていった。
望愛がようやく落ち着いた頃、看護士さんと並んで兄貴が病室に現れた。
「よっ。ナオ、体調はどうだ?」
「右腕がラスボスみたいに禍々しくなってることと、脱力感が凄いのを除いたらまずまずだな」
そんな軽口を叩きながら、兄貴は望愛と同様、丸椅子に腰かける。
望愛はさっきまで散々泣いていたからか、目が少し腫れぼったい。
「望愛、顔洗ってきた──」
「やだ! 離れない!」
望愛はそう言って左腕にしがみついて、上目遣いで俺を睨む。
子供か! 写真撮るぞ!
そんな俺達を見る看護士さんの目が生暖かい。
看護士さんは点滴の中身を交換すると、さっさと出ていった。
看護士さんが出ていったのを見計らって、俺は早速本題に入った。
「ここは?」
「機関専属の総合病院だ。腕が千切れてもくっ付けられるぞ?」
「どれぐらい眠ってた?」
「三日だ。望愛はその間ほとんど寝てないんだぞ?」
俺は望愛を見る。おい、目をそらすな。
「・・・・・・ほんと?」
望愛は目をそらしたまま、小さくうなずいた。
「そっか・・・・・・ごめんな」
望愛はまた、小さくうなずいた。
俺は兄貴に質問を続ける。
「なんで俺の腕はこんなのになった?」
兄貴は少し押し黙る。そして、
「ここじゃ言えない」
そう言った。俺はさらに聞くことにした。
「あの日、何があった?」
兄貴はチラリと天井や壁を目で示し、こう言った。
「言えない」
「・・・・・・わかった」
どうやら俺は監視されているらしかった。
「あのネズミ共は?」
「ボクとロバートさんで全部倒したよ」
次に答えたのは、望愛だった。
俺は望愛を見る。相変わらず目を合わせてくれない。望愛は、頭の後ろをかいた。昔からの癖は治らないらしい。
つまり嘘、と言うことだ。本当に、望愛は嘘をつくのが下手くそだ。それとも、わざとか?
「望愛、ありがとな」
俺はそう言って望愛に、笑ってみせた。
それを見て望愛も少し、はにかんだ。