ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第三十七話 終わりは静かに急速に

 気付いたらボクは、ナオの胸の中で眠っていた。

 ナオの匂いが、鼻を突く。心が落ち着く。

 昨日の夜は、随分泣いてしまった。泣かないつもりで、ちゃんと心の準備をしていたはずだったんだけど・・・・・・。

 

 ふと気付く。ボクの腕は、ナオのを抱き締めるように、彼の背中に回っている。そしてナオの腕は──

 

「──!!」

 

 まってまってまってまって!?!? これって、エッチなことをした後みたいになってない!? 

 ボク達って昨日、そんなことしてないよね!?

 全身がカーッと熱くなる。心臓がドキドキする。

 ボクはすぐに手を引っ込めた。

 

 ・・・・・・待って。ボク、ひょっとしなくても、ナオの足に自分の足絡めてる・・・・・・?

 

 気付いてしまったらもう止まらない。体温がどんどん上がっていく。心臓が破裂しそうなほどドクドクと脈打つ。

 

 まだまだ暑さの残る夏終盤。しっとりと汗が肌を濡らす。ただでさえそうなのに、こんな状況だから、今のボクは汗ダラダラだ。ヤバイヤバイヤバイ・・・・・・

 目の前にはナオの胸がある。目のやり場に困る。一刻も早くこの状況から脱出しないと、ボクの心臓が持たない!

 まずは足を抜いて、それから顔も離して、距離をとっ・・・・・・ってムリ! ナオが手回してるからムリ!!

 

 背中をツーっと汗が流れていく。

 

 マズイマズイマズイ、どうしたらどうしたらどうしたら──あっ、

 

 考えている最中、ふと目に入ってしまった。眠るナオの顔が。ボクの頭の、少し上に。

 規則的な寝息をたて、目蓋を閉じた無防備な寝顔。・・・・・・ボクには到底、耐えられなかった。

 

 心臓がさらにドクドクバクバク脈を打つ。

 今、ボクの目線の先には、ナオの顔がある。ちょっと伸びをすれば、唇くらいなら届くかもしれない。

 ナオは今、眠っている。ボクが眠ってしまう寸前まで背中をさすってくれていたから、多分今頃はぐっすり夢の中だろう。完全に無防備だ。

 

 今なら、今なら行ける──ってダメダメ! 寝込みを襲うなんて絶対ダメ! でもこんなチャンスもう一回あるかないか・・・・・・あぁー!! ボクはどうすれば!!

 

 大好きな人の胸の中で、大好きな人の匂いに包まれ、大好きな人の寝顔を見てボクは悶々として下を向く。

 そんなときだった。ナオが少しみじろいだ。そして・・・・・・

 

 

 ──ちゅっ

 

 

「!?!?!?!?」

 

 なにか暖かい、柔らかいものがボクのおでこに当たった。これは、もしや・・・・・・!?

 ボクは恐る恐る上目遣いで確認する。

 そこにはやっぱり、ナオの顔があった。つまり、これは──

 

「────!!!!!!!!!」

 

 ボクも案外、ナオのこと言えないのかもしれない。

 

 

 

「ん、望愛。もう起きてたのか。おはよー」

「・・・・・・・・・・・・うん。おはよ」

 

 数十分後、ようやくナオが目を覚ました。一瞬のような、永遠のような、ボクの幸福な禁固刑が、幕を閉じたのである。

 ボクは、ナオと掛け布団の狭間で小さく縮こまっている。

 

「望愛、大丈夫か?」

 

 何を勘違いしたか、ナオが心配してそう聞く。昨日あんな話をしたからかもしれない。

 ちゃんと意識してくれているのが嬉しかったりするけど、でも、ちょっと今のボクには耐えられない。

 

「だ、大丈夫っ! それより、手・・・・・・」

「手?」

 

 ナオはそう聞き返し、自分の手を見て、赤面した。

 

「すっ、すまん!」

 

 ナオはサッと手をのけて、勢い良くボクから距離を取る。でも、

 

 

 ──ガンッ!

 

 

「いってぇ!」

 

 後ろの壁におもいっきり頭をぶつけ、悶絶する。

 そんなてんてこ舞いな、朝が来た。終わりが始まる、朝が来た。

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