ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第四十一話 前夜

 時間はあっという間に過ぎるものだ。

 気付けば八月はもう明日で九月に切り替わり、夏休みが終わる。

 そして俺達は明日、東京に向かう。

 荷物の整理は昨日の夜に終わらせてあるし、足りないものは朝の内に買い足した。あとは明日になるだけ。なるだけなのだが・・・・・・

 

「なーんか、落ち着かないねぇ」

 

 望愛が食卓に肘をついて、はぁとため息を一つ。ソワソワするのも無理はないだろう。実際俺も、

 

「だなぁ」

 

 そう返事をしながら、特に今やるべきでもない掃除なんかの家事をやっている。

 

「明日、朝イチで兄貴が迎えに来るんだっけ?」

 

 俺は落ち着かないついでにふと、そう確認をとる。

 

「うん。御付きの人を引き連れてやって来るみたい。それで東京に行って、色々打合せして、明後日に食事会って感じだね」

 

 望愛はよほど落ち着かないのか、テーブルの下で足をバタバタさせながら、顎をついてそう言った。

 

「あの痛車で来るのか? 御付きの黒服を何人も引き連れて」

 

 俺がそう冗談半分で言うと、望愛もちょっと笑ってこう返した。

 

「もしそうだったら面白いよねぇ。目立ちすぎて暗殺されちゃうかもよ?」

「おーこわ」

 

 そう言い合って、俺達は目を合わせて、笑い合った。不思議と気持ちが楽になった気がする。

 

 俺はふと、時計を見上げる。時刻は五時半。

 ・・・・・・あ、落ち着かない落ち着かないと言ってたら、夕飯の材料を買いに行くのを忘れてた。

 まぁ、丁度良いか。少し寄りたい所もあったし。

 

「なぁ望愛、今から買い物行くけど、一緒に来るか?」

 

 俺がそう言い終わる前に、望愛はサッと立ち上がり、出掛ける準備に取り掛かっていた。

 

「あ、ライターって家にあったっけ?」

 

 俺も出掛ける準備をしながら、振り返らずに後ろの望愛にそう聞く。今振り返るのは、あんまりよろしくないだろう。

 

「ライター? ちょっと待ってね、着替え終わったら見てくるからー。でも何に使うの?」

「ちょっと寄りたい所があるんだ。望愛も来るか?」

「もちろん!」

 

 そう言って俺達は準備をし、夕日が沈む町に繰り出していった。

 

 

 

 俺達が買い物を終え、スーパーから出る頃には、夕日は随分と落ちていた。

 

「これぐらいの時間って、なんかテンション上がるよな」

「わかるー! ウキウキするよね!」

 

 俺達はそう言いながら、エコバッグと仏花をそれぞれ持って、ある場所へと向かっていた。

 

「お、見えた見えた。最近来れてなかったけど、だいぶ綺麗だな」

 

 俺と望愛は少し長い階段を登り、そこにたどり着いた。

 

 そこは、墓地だった。

 

「すっかりタイミング失って、こんな時間になっちゃったな」

「もっとお昼間に来たら良かったのに・・・・・・」

「ごもっともです・・・・・・んじゃ、ぱっぱとやっちゃうか」

 

 俺はそう言って墓地に置いてあるバケツに水を満たし柄杓(ひしゃく)を持って、俺の家の墓に向かった。

 

 『城崎家』と記されたそこそこ目新しいその墓は、中々手入れに来られていないわりに綺麗だった。誰か親戚が来たのだろうか?

 

 敷石のところに雑草はほとんど生えていないし、墓石もほとんど汚れていない。

 花も数日ほど前に誰かが挿してくれたようで、まだまだ枯れていなかった。

 俺達は二人で、そんな小綺麗な墓の掃除をした。

 

 墓石の裏には、白く上から塗られた城崎亮太(きのさきりょうた)優子(ゆうこ)の文字が記されている。俺の両親の名だ。

 この墓の下には、名も知らない遠い先祖と、祖父母、両親。そして俺の兄・直久(なおひさ)と、妹の鈴音(すずね)が眠っている。

 

「父さん、母さん。みんな・・・・・・」

 

 最早顔もおぼろげな両親と兄妹。でも確かに俺は、この四人に愛されていた。それだけは強く覚えている。

 

 夕闇が濃くなる。俺達は線香にライターで火をつけ、線香立てに挿した。

 

「父さん、母さん、兄さん、鈴音。久しぶり。今年は色々忙しくってさ、来るの遅くなっちゃったよ」

 

 俺は墓前でしゃがみこみ、両手を合わせる。隣の望愛も、なにも言わずにそれに(なら)う。

 

「明日、望愛と一緒に二人で東京に行ってくる。正直ちょっと不安だ」

 

 自然と言葉が浮かんでくる。墓前パワーとでも言うのだろうか。心の声が、そのまま外に出る。

 

「俺さ、やっぱり望愛の事が好きなんだわ。うん。大好きだ。今すぐにでも結婚したい」

 

 隣の望愛がびっくりしたようにこっちを振り返る。俺はそれを横目に、語り続ける。

 俺は望愛に言っているわけじゃない。そう、心で言い訳をしながら。

 

「望愛を誰にも渡したくない。ずっと一緒にいたい。・・・・・・わがまま、かな?」

 

 するすると言葉が出てくる。

 

「父さんと母さんも、そう思って結婚したのかな? 兄さんは確か、彼女さんがいたんだっけ? 鈴音は・・・・・・まだ早いか。うん。だからさ、僕は、望愛とずっと一緒にいたい。一緒の墓に入りたい。一緒に生きて、死んだ後も一緒にいたいんだ」

 

 自分でも気付かぬ内に、俺から僕に人称が戻る。横の望愛がどんな顔をしているかは、暗がりでよく見えなかった。

 そんなとき、望愛が口を開いた。

 

「ボク・・・・・・私も、直人君と一緒にいたいです。ずっと一緒に、いたいです。一緒に生きて、これまでみたいに楽しく過ごして、それで一緒のお墓に、入りたいです!」

 

 今度は俺が驚いてそちらを振り返る。

 望愛の声は、少し震えている。泣いているのかもしれない。

 

「お義父さん、お義母さん、お義兄さん、鈴音さん。息子さんを、弟さんを、お兄さんを、ボクに下さい!!」

 

 望愛の声が、夕闇に響き渡った。

 

 

 

 俺達は墓地をあとにする。

 自然と手を繋いで帰路につく。

 

 墓地の方から、澄んだヒグラシの歌が、聞こえてきた。

 

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