ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
夜は更ける。夕飯も終わり、風呂にも入った。
明日の朝はかなり早い。
おれはまだ九時にもならない内に寝室に向かった。が・・・・・・
「ナオ、ちょっと・・・・・・」
「ん?」
寝室に向かう俺のパジャマを、望愛はうつむきながら引っ張る。何かあったのだろうか?
「望愛、どした?」
俺の問いに、望愛はうつむいたまま答えた。
「一緒に寝ても、良い?」
前髪の隙間から微かに望愛の顔が見えた。
明日が不安だから一緒に、と言う理由じゃないことはすぐに分かった。だとすれば理由は、
「・・・・・・一人で寝るのが寂しくなった?」
「違うよ! もぉ、バカ!」
望愛は顔を上げて少し声を荒げる。それでもやっぱり、視線を合わせてはくれない。
望愛が意図せんとしていることは何となくだがわかる。寝ると言うのはつまり、そう言うことなのだろう。
墓前で聞いた望愛の心の叫び。俺に向けられた俺への想い。
でも、それでも──
「本当に望愛はそれで・・・・・・」
それで良いのか? 望愛はそれで良いのか?
俺達はいわばイレギュラーだ。一時の過ちでは済まされない。望愛はそれで、本当に良いのか?
だが、俺がそう言うのを遮るように、望愛は俺の手を鷲づかみにして言い放った。
「それでじゃなくて、それが良いんだよ! ボクはナオと、そうしたいんだ! 本当の意味で、そうありたいんだ!」
望愛はまっすぐ俺の目を見つめる。力強い、覚悟を持った瞳で、俺を見据える。
望愛はそう言ったあと、煙が出そうなほど顔を真っ赤にして、またうつむいてしまった。
そうか。望愛は本当に、それでじゃなく、それが良いのか。
やはり俺は、不安だったのかも知れない。
いくら俺が望愛を渡したくないと思っていても、望愛がそう思ってくれている確固たる確証がない。
俺を心から好きでいてくれている確信が持てない。
・・・・・・だが、その答えは既にもう出たのだ。本人が、鈍感な俺のためにわざわざ教えてくれた。俺の家族の、墓の前で。
それが、望愛の決断であり、決意であり、望んだ未来だ。なら俺は、それを受け入れる義務がある。
聖域をおかし、
俺は
今夜は長くなりそうだ。
俺は望愛を力強く抱きしめ、耳元でこう聞く。
「ほんとに大丈夫なのか?」
こう言うところが、俺をヘタレ足らしめる所以なのだろう。
望愛は小さくため息をつくと、俺の耳元でささやいた。
「バカ、恥ずかしいでしょ。・・・・・・優しくしてね?」
心臓がドクンとはね上がる。体温が高まる。
「・・・・・・善処する」
「約束してくれなきゃヤダ」
望愛は少し笑いながら、俺にそう返す。
「初めての人間にその約束は守れるかわからんぞ?」
「そんなこと言ったって、ボクだって初めてなんだからね?」
至極全うな返答に打ちのめされる。
「・・・・・・俺の忍耐力に、期待しよう」
苦笑いした俺は、そのまま望愛をお姫様抱っこし、そしてベッドに運んだ──
永遠のような、一瞬のような、ほどけるような、結ばれるような、そんな幸福な時間が流れた。
良かったことも、悪かったことも、楽しかったことも、悲しかったことも、あらゆることを忘れられた。
俺は子供を望めない。それでも望愛は、求めてくれた。彼女はやっぱり、優しかった。
「ナオー」
すぐ横から望愛の声が聞こえる。心の底から幸福そうな、そんな声だ。
「どうした?」
俺は望愛の方を見て、そう聞く。きっと俺も、幸福そうな声なのだろう。
「ボク達これで、後戻り出来なくなっちゃったね」
望愛も俺を見て、にっこりと笑った。
「だなぁ。東京から帰ったら、フランス語の勉強しなくちゃな」
俺は天井を見上げる。最早見慣れた天井であり、風景だ。でも今は、違って見える。
望愛が俺の手を優しく包み込む。
「これからも一緒にいてくれる?」
望愛が聞く。俺はもう一度望愛の目を見て、こう答えた。
「望愛が望む限り、ずっと一緒にいるさ」
俺達は口づけをする。
この前のようななし崩し的なものではなく、強い意思と決意と、約束を込めた、そんな口づけだ。
夜は更け、やがて白む。
聖女は地に落ち、穢れを知った。
怪物は、新たな決意を胸に、彼女と新しい朝を迎えた。
終わりに向かう、朝を迎えた。