ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第四十二話 夜は更けて

 夜は更ける。夕飯も終わり、風呂にも入った。

 明日の朝はかなり早い。

 おれはまだ九時にもならない内に寝室に向かった。が・・・・・・

 

「ナオ、ちょっと・・・・・・」

「ん?」

 

 寝室に向かう俺のパジャマを、望愛はうつむきながら引っ張る。何かあったのだろうか?

 

「望愛、どした?」

 

 俺の問いに、望愛はうつむいたまま答えた。

 

「一緒に寝ても、良い?」

 

 前髪の隙間から微かに望愛の顔が見えた。

 明日が不安だから一緒に、と言う理由じゃないことはすぐに分かった。だとすれば理由は、

 

「・・・・・・一人で寝るのが寂しくなった?」

「違うよ! もぉ、バカ!」

 

 望愛は顔を上げて少し声を荒げる。それでもやっぱり、視線を合わせてはくれない。

 望愛が意図せんとしていることは何となくだがわかる。寝ると言うのはつまり、そう言うことなのだろう。

 墓前で聞いた望愛の心の叫び。俺に向けられた俺への想い。

 でも、それでも──

 

「本当に望愛はそれで・・・・・・」

 

 それで良いのか? 望愛はそれで良いのか?

 俺達はいわばイレギュラーだ。一時の過ちでは済まされない。望愛はそれで、本当に良いのか?

 だが、俺がそう言うのを遮るように、望愛は俺の手を鷲づかみにして言い放った。

 

「それでじゃなくて、それが良いんだよ! ボクはナオと、そうしたいんだ! 本当の意味で、そうありたいんだ!」

 

 望愛はまっすぐ俺の目を見つめる。力強い、覚悟を持った瞳で、俺を見据える。

 望愛はそう言ったあと、煙が出そうなほど顔を真っ赤にして、またうつむいてしまった。

 

 そうか。望愛は本当に、それでじゃなく、それが良いのか。

 

 やはり俺は、不安だったのかも知れない。

 いくら俺が望愛を渡したくないと思っていても、望愛がそう思ってくれている確固たる確証がない。

 俺を心から好きでいてくれている確信が持てない。

 ・・・・・・だが、その答えは既にもう出たのだ。本人が、鈍感な俺のためにわざわざ教えてくれた。俺の家族の、墓の前で。

 

 それが、望愛の決断であり、決意であり、望んだ未来だ。なら俺は、それを受け入れる義務がある。

 聖域をおかし、聖女(ジャンヌ・ダルク)人間(有馬望愛)に引きずり下ろす義務がある。

 俺は怪物(ジル・ド・レー)。彼女のそばに控える守護の騎士。彼女の望みを叶え、守り、戦い、そして共に生きる者(城崎直人)

 

 彼女(望愛)がそれを望む。俺もそう願った。罪も穢れも喜びも共に分かち合い、全てを背負って、ここから去る。

 

 今夜は長くなりそうだ。

 

 俺は望愛を力強く抱きしめ、耳元でこう聞く。

 

「ほんとに大丈夫なのか?」

 

 こう言うところが、俺をヘタレ足らしめる所以なのだろう。

 望愛は小さくため息をつくと、俺の耳元でささやいた。

 

「バカ、恥ずかしいでしょ。・・・・・・優しくしてね?」

 

 心臓がドクンとはね上がる。体温が高まる。

 

「・・・・・・善処する」

「約束してくれなきゃヤダ」

 

 望愛は少し笑いながら、俺にそう返す。

 

「初めての人間にその約束は守れるかわからんぞ?」

「そんなこと言ったって、ボクだって初めてなんだからね?」

 

 至極全うな返答に打ちのめされる。

 

「・・・・・・俺の忍耐力に、期待しよう」

 

 苦笑いした俺は、そのまま望愛をお姫様抱っこし、そしてベッドに運んだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠のような、一瞬のような、ほどけるような、結ばれるような、そんな幸福な時間が流れた。

 良かったことも、悪かったことも、楽しかったことも、悲しかったことも、あらゆることを忘れられた。

 

 俺は子供を望めない。それでも望愛は、求めてくれた。彼女はやっぱり、優しかった。

 

「ナオー」

 

 すぐ横から望愛の声が聞こえる。心の底から幸福そうな、そんな声だ。

 

「どうした?」

 

 俺は望愛の方を見て、そう聞く。きっと俺も、幸福そうな声なのだろう。

 

「ボク達これで、後戻り出来なくなっちゃったね」

 

 望愛も俺を見て、にっこりと笑った。

 

「だなぁ。東京から帰ったら、フランス語の勉強しなくちゃな」

 

 俺は天井を見上げる。最早見慣れた天井であり、風景だ。でも今は、違って見える。

 望愛が俺の手を優しく包み込む。

 

「これからも一緒にいてくれる?」

 

 望愛が聞く。俺はもう一度望愛の目を見て、こう答えた。

 

「望愛が望む限り、ずっと一緒にいるさ」

 

 俺達は口づけをする。

 この前のようななし崩し的なものではなく、強い意思と決意と、約束を込めた、そんな口づけだ。

 

 夜は更け、やがて白む。

 聖女は地に落ち、穢れを知った。

 怪物は、新たな決意を胸に、彼女と新しい朝を迎えた。

 

 終わりに向かう、朝を迎えた。

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