ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
第四十三話 終わりの第一歩
午前五時三十分頃、家のインターホンが鳴った。
歯磨き洗顔も、早めの朝食も、朝のシャワーも、パジャマから制服への着替えも、荷物の整理もした。
準備はもう出来ている。
俺達は寄り添いあって、手を繋いで、リビングから出て、玄関に向かった。
「ねぇナオ」
隣にいる望愛が俺を見る。
「どした?」
俺が聞き返すと、望愛は少しこわばった表情でこう言った。
「ちょっと、緊張する・・・・・・」
そんな望愛に、俺はちょっと微笑んでみせて、握る手に力を込めた。
「望愛、大丈夫。俺もだ」
「そっか・・・・・・なら怖くないね」
望愛は表情を少し緩めると、柔らかくはにかんだ。
俺は空いている手で玄関のノブを握る。
「行こっか、ナオ」
「おう、行こう。望愛」
俺は玄関扉を開ける。
白んだ空と、柔らかな朝日が早朝の空気と共に外に出た俺達を出迎える。
そしてそこに、兄貴はいた。
「よう、二人とも。おはようさん」
兄貴は口からたばこを外すと、ポケット灰皿に入れて俺達を迎える。
「おはよう、兄貴」
「ノリ兄おはよー」
俺達も、そう挨拶をして兄貴に歩み寄る。
車は流石に、痛車ではなかった。
「朝からラブラブだなぁ、お前達。俺を殺す気か?」
「勝手に死んでろ」
いつも通りのノリの兄貴に、俺はいつも通りのスタンスで返す。一方の望愛は、ちょっとうつむき加減だ。
朝日が徐々に強くなる。セミ達が騒ぎ出す。
「それじゃ二人とも、乗ってくれ」
兄貴が促す。
俺と望愛は目を合わせ、うなずく。
手を繋いだまま、俺達は車に乗った。
車が動き出す。兄貴はバックミラー越しに俺達に話しかける。
「こっからは車で空港まで行く。その後飛行機で羽田まで飛んで、そしたら今度は車で首相官邸に直行だ」
──首相官邸に直行だ
その一言に、俺は開いた口が塞がらなかった。
「は? 首相官邸?」
俺が聞き返すと、兄貴はさも当然のようにこう言った。
「そう、首相官邸。望愛は行ったことあるだろ?」
俺は望愛を見る。望愛はこくりとうなずいた。
「うん、中一のときから何回か」
なるほど、中学の頃何度か日をまたいで外出してたのはそう言うことだったのか。
「望愛、もしかしてお前って実は凄い人だったりする?」
「えっ? ボクそんなに凄くないよー?」
こういう否定は大概人をイラつかせるものだが、望愛の場合は本当にそう思っているのだ。心が和みこそすれ、イラつくことなどあり得ぬのだ。
「一応望愛の肩書きは『最強のヒーロー』だからな。実は国内外のヒーロー関係者からはアイドル級に人気があったりするんだぞ?」
兄貴が運転席からそんな耳寄りな情報を投下する。顔は見えないが、きっとニヤニヤしてる。多分。
そんな兄貴の情報を、望愛は慌てて否定する。
「もぉー、やめてよノリ兄ぃー! ぜんっぜんそんなこと無いんだからね!?」
なるほど、そんなことあるらしい。良いことを聞いた。
そんな隙をついて兄貴は更に畳み掛ける。
「ちなみにナオ、お前もそこそこ知名度高いぞ?」
は?
「は!? なんで!?」
俺は前のめりになって聞き返す。
兄貴はニヤニヤしながら続けた。
「この前カナダとアルジェリアとフランスのヒーロー関係者の友人に聞いたんだけどな、お前は憧れの存在なんだと」
憧れ? なんで?
疑問が増える中、兄貴は更に続ける。
「『ただの一般人なのに、あんなにもヒーローを深く理解し、尊重し、共に生きようとしているから』だそうだ。それともう一個」
もう一個? まだあるのか!?
驚きと気恥ずかしさでごっちゃになっている中、兄貴は問答無用でこう言い放った。
「『決して諦めない不屈の心』に惹かれたんだと。みんな、お前らを応援してるんだよ」
兄貴はそう言って、微笑む。
車は、高速道路に乗った。