ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
涼しげな秋の風が吹いている。
俺は今、総理につれられて、彼の弟の家に来ている。
官邸公邸が、家の屋上から望める。
そんな屋上の椅子に、俺達は向い合わせで腰掛けた。家には今、誰もいないらしい。
「ここなら、あそこよりも安心して話せる」
そう言って総理は胸ポケットから煙草を取り出そうとし、やめた。
少し苦笑して総理が言う。
「いかんいかん、ついいつもの癖でね。未成年の君と話すのに、煙草は良くないな」
どこぞの兄貴にも見習って欲しい姿勢だ。その辺り、流石は一国の首長。
総理は一つ、大きくため息をつき、話を切り出した。
「直人くん。あの子──有馬くんと出会って、何年になる?」
顎に手を当て、総理はそう聞く。俺は居ずまいを正し、答える。
「もう十一年になります。六歳の頃にあいつが施設にやって来たので」
十一年前のあの日、俺達は出会った。あの頃の俺はまだ無邪気で、逆に望愛はなにかを悟ったようだった。
全ては、あの日には既に始まっていたのかもしれない。
「君と出会う前、つまり施設に預けられる前の有馬くんについてのことは、彼女から聞かされているかね?」
総理は重ねて聞いてくる。
・・・・・・もちろん、いくらかは聞いている。胸くその悪い話だ。
「ええ。口に出したくはありませんが」
俺がそう言うと、総理も小さくうなずいた。きっと彼も知っているのだろう。
総理は立ち上がり、官邸の方を見る。
「あの子の、残り時間についても君は──」
「もちろん。そして望愛が、来年には別の男と結ばれることも知っています」
俺は、彼の言葉を遮るように言った。
俺も椅子から立ち上がり、総理の横に並ぶ。
「でも俺は、やっぱり望愛と共にありたいと思っています。望愛を、世界で一番間近で見ていた男になりたいんです」
望愛と出会って十一年。寝食を共にし、多くのことを分かち合ってきた。
だから、だからこそ俺は、永い眠りに入るそのときまでは、せめて共にありたい。
「君は、あの子と共にいばらの道に進むつもりかね?」
総理が聞く。俺はすぐさま返す。
「望愛にいばらは踏ませません。彼女は既に、傷だらけです。いばらを望愛に踏ませるぐらいなら、俺が望愛を抱えて、裸足で道を歩きます」
血を流すのは俺だけで良い。望愛はもう、充分過ぎるほど傷ついた。
「君がしようとしていることはこの国、そして日本国民一億五千万人へ弓引く行為ともとれる。何故、私に話した」
静かに、総理の言葉が響く。俺は、少し息を吸い、言った。
「望愛好きに、悪い奴はいません。それに何より、望愛は貴方に信頼を寄せている。俺は、そんな望愛を信じます」
総理は、横目でちらりと俺を見る。俺は総理に向き直り、言い放った。
「俺は、望愛が好きです。この国が滅びようが、海に沈もうが、更地になったって構わない。俺は、望愛さえ生きていてくれれば、それで良い」
総理の表情が、心なしか緩む。
総理は俺に向き直ると、スーツの内ポケットからあるものを取り出し、俺に手渡した。
「流石は
独特の金属光沢のあるそれはずしりと重く、ひんやりと冷たい。
「これは・・・・・・!」
「必要になったとき、使いなさい。
そう言って総理は俺の肩にポンと手を置き、階下へと降りていく。
俺は手渡された、使い方を知らないその銃を、まじまじと見つめた。
「おーい、君も降りてきたまえー。あんまり遅くなると、有馬くんに叱られるぞー」
階下から総理の声が聞こえる。俺は急いでそれをズボンのポッケにしまうと、階段を掛け降りた。