ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第四十六話 民王といばら

 涼しげな秋の風が吹いている。

 俺は今、総理につれられて、彼の弟の家に来ている。

 官邸公邸が、家の屋上から望める。

 そんな屋上の椅子に、俺達は向い合わせで腰掛けた。家には今、誰もいないらしい。

 

「ここなら、あそこよりも安心して話せる」

 

 そう言って総理は胸ポケットから煙草を取り出そうとし、やめた。

 少し苦笑して総理が言う。

 

「いかんいかん、ついいつもの癖でね。未成年の君と話すのに、煙草は良くないな」

 

 どこぞの兄貴にも見習って欲しい姿勢だ。その辺り、流石は一国の首長。

 

 総理は一つ、大きくため息をつき、話を切り出した。

 

「直人くん。あの子──有馬くんと出会って、何年になる?」

 

 顎に手を当て、総理はそう聞く。俺は居ずまいを正し、答える。

 

「もう十一年になります。六歳の頃にあいつが施設にやって来たので」

 

 十一年前のあの日、俺達は出会った。あの頃の俺はまだ無邪気で、逆に望愛はなにかを悟ったようだった。

 全ては、あの日には既に始まっていたのかもしれない。

 

「君と出会う前、つまり施設に預けられる前の有馬くんについてのことは、彼女から聞かされているかね?」

 

 総理は重ねて聞いてくる。

 

 ・・・・・・もちろん、いくらかは聞いている。胸くその悪い話だ。

 

「ええ。口に出したくはありませんが」

 

 俺がそう言うと、総理も小さくうなずいた。きっと彼も知っているのだろう。

 総理は立ち上がり、官邸の方を見る。

 

「あの子の、残り時間についても君は──」

「もちろん。そして望愛が、来年には別の男と結ばれることも知っています」

 

 俺は、彼の言葉を遮るように言った。

 俺も椅子から立ち上がり、総理の横に並ぶ。

 

「でも俺は、やっぱり望愛と共にありたいと思っています。望愛を、世界で一番間近で見ていた男になりたいんです」

 

 望愛と出会って十一年。寝食を共にし、多くのことを分かち合ってきた。

 だから、だからこそ俺は、永い眠りに入るそのときまでは、せめて共にありたい。

 

「君は、あの子と共にいばらの道に進むつもりかね?」

 

 総理が聞く。俺はすぐさま返す。

 

「望愛にいばらは踏ませません。彼女は既に、傷だらけです。いばらを望愛に踏ませるぐらいなら、俺が望愛を抱えて、裸足で道を歩きます」

 

 血を流すのは俺だけで良い。望愛はもう、充分過ぎるほど傷ついた。

 

「君がしようとしていることはこの国、そして日本国民一億五千万人へ弓引く行為ともとれる。何故、私に話した」

 

 静かに、総理の言葉が響く。俺は、少し息を吸い、言った。

 

「望愛好きに、悪い奴はいません。それに何より、望愛は貴方に信頼を寄せている。俺は、そんな望愛を信じます」

 

 総理は、横目でちらりと俺を見る。俺は総理に向き直り、言い放った。

 

「俺は、望愛が好きです。この国が滅びようが、海に沈もうが、更地になったって構わない。俺は、望愛さえ生きていてくれれば、それで良い」

 

 総理の表情が、心なしか緩む。

 総理は俺に向き直ると、スーツの内ポケットからあるものを取り出し、俺に手渡した。

 

「流石はジル・ド・レー(聖女の騎士)を名乗るだけはある。君になら、これを託せる」

 

 独特の金属光沢のあるそれはずしりと重く、ひんやりと冷たい。

 

「これは・・・・・・!」

 

「必要になったとき、使いなさい。S(シングル)A(アクション)A(アーミー)。世界で一番高貴な銃だ。西部劇のガンマンさながら、それで彼女を守ってやりなさい」

 

 そう言って総理は俺の肩にポンと手を置き、階下へと降りていく。

 俺は手渡された、使い方を知らないその銃を、まじまじと見つめた。

 

「おーい、君も降りてきたまえー。あんまり遅くなると、有馬くんに叱られるぞー」

 

 階下から総理の声が聞こえる。俺は急いでそれをズボンのポッケにしまうと、階段を掛け降りた。

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