ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
俺は今、割り当てられたホテルの一室にいる。
公邸に戻った後、俺達は関係各所への挨拶回りや、明日の打ち合わせ、衣装の着付けなどに忙殺された。
お陰でろくに食事もとれぬまま、一日を終わらせた。・・・・・・もっとも、常に二人で行動できたので、それはそれで良かったのだが。
さて、話を戻そう。このホテルはいわゆる高級ホテルだ。外国から来た政治家や、大金持ちなんかが泊まるような、そんなところだ。
そんな高級ホテルの、最上階角部屋に、俺達の部屋はある。
そして今、俺は人生最大とまではいかないが、中々の窮地に立たされている。それは・・・・・・
「ナオ、こう言うの覚えるの、苦手でしょ?」
「余の辞書にテーブルマナーの文字は無い!」
俺には絶望的なほど、テーブルマナーについての教養がないのだ。
「そんなこと言ってないで、ほら、まずナイフとフォークを使う順番は?」
そう言って望愛はテーブルの上に並べられた無数のナイフとフォーク、そして皿を指差す。
「・・・・・・外側、から?」
俺はゆっくりと望愛の方に顔を向け、答える。
「ちがーう!」
──ぺちっ
「あだっ!」
望愛は見事に外した俺の額にデコピンをお見舞いする。これがそこそこ痛いのだ。
ありがとうございます!
「ナイフとフォークは、お皿に近い方から取って使ってくんだよ? 全く・・・・・・こりゃ骨が折れそうだねぇ」
望愛はそう呆れ顔で笑う。心なしか楽しそうだ。
「もし眠かったら、いつでも寝てくれよ? 明日朝早いんだから」
明日の朝も五時起きだ。少しでも眠って、体力を回復しなければならない。
そんな俺の腕に、望愛はぎゅっとしがみつき、にこっと笑って言った。
「ぜーんぜん大丈夫だよ! それに、ボクのナオに恥ずかしい思いして欲しくないもん」
俺は少し頬を赤くする。
俺に恥をかかせないため・・・・・・か。それならば俺も、急いでマナーを頭に叩き込まなくてはなるまい!
「それじゃ、俺も頑張って叩き込まなくちゃな!」
しきたりみたいなのは苦手だが、人の真似ってのはそこそこ得意だ。何より、俺の無作法で望愛にまで恥をかかせたくはない。
「よし! それじゃ、再開だね! 張り切ってこー!」
「おー!」
俺達は拳を突き上げ、そう言った。
時刻は現在、深夜三時半。
望愛のお陰で、一人前とはいかずとも、精々半人前程度の教養を叩き込んだ俺は、ようやく就寝の運びになった。
望愛はベッドに入って早々に寝入ってしまった。寝顔を見てると、こっちまで眠たくなってくる。
俺は昼間に着ていたズボンのポッケから、総理に貰った
樹脂製のグリップに、重厚感のある金属製の銃身が、月とビルの明かりに照らされて光る。
リボルバーを回してみて、中を確認する。
中には、六発全ての弾が既に込められ、自身の出番を待っている。
「何かあったときは、よろしく頼むぞ」
そう小さく呟き、俺はそいつを新聞紙で綺麗に包み込んだ。
起床まで、あと一時間半ある。
俺は静かに、ベッドに潜り込んだ。