ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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幕間 二人のファン

 深夜二時。俺は総理に呼び出され、彼の弟の自邸にやってきた。

 お手伝いさんに、総理の待つ部屋の前まで案内される。

 俺は扉を二度ノックし、呼び掛ける。

 

「湯村です。ただいま到着いたしました」

 

 間髪いれずに、扉の向こうから「入りたまえ」と総理の声が聞こえる。俺は失礼します、と断り、部屋に入った。

 

「すまないね、こんな夜分遅くに呼び出して」

 

 彼は明らかに高級そうなソファーに腰掛け、煙草をふかしてそう言った。

 

「いえ、問題ありません。こちらからもお聞きしたいことがあったので」

 

 俺は総理に促され、向かい合わせにソファーに座る。

 

「聞きたいこと、か。それは、特災対職員としてかね? それとも、公安五課として? あるいは・・・・・・」

 

 俺は唾を飲み込み、言った。

 

「湯村則之として、あいつらの兄として、です。いかがでしょう?」

 

 総理は俺の言葉を聞くと、少し口角を上げた。

 

 彼は口からたばこを外すと、それを灰皿に押し付ける。

 

「・・・・・・昼間、(ジル・ド・レー)と話をした。君の見込み通り、いやそれ以上に肝の据わった、好青年だったよ。良い義弟(おとうと)を持ったな」

 

 総理の目の色が変わる。『仕事』をするときの、鋭い目だ。

 

「あいつにどこまでお話ししたのですか?」

「いや、私が話そうと思ったことは全部、彼の知るところだった。だから私は、彼に覚悟を問うた」

 

 総理は足を組み、背もたれに体を預ける。

 

「覚悟、ですか?」

「そう、覚悟だ。『あの子にいばらの道を歩かせるつもりか?』と聞いた。凡人なら尻込みするだろう。覚悟あるものは、痛みを分かつと言うだろう」

 

 総理はクククと笑い、体を起こして、俺を見た。

 

「だが彼はどうだ? 『望愛にいばらは踏ませません』、『望愛を抱えて、裸足で道を歩きます』と言ってみせた! 彼にしか出来ん答えだ!」

 

 そう言って総理は、嬉しそうに手を叩いて笑った。相当ナオを気に入ったようだ。

 

「気に入りましたか? 彼の人となりを」

「ああ、もちろんだ。だから彼には、例のものを渡してやった。いざとなったら、使えと言ってな」

 

 総理は指で拳銃を作ってみせる。

 

「銃を渡したんですか!?」

 

 少し驚き、俺はそう聞く。総理はうんうんとうなずき、満足げに答えた。

 

「とびきり、お気に入りのをな。古い友人から貰った銃だ。大舘君のお陰でしょっぴかれずに済んでいたのを、彼に託した。使い方は、ネットを見ればわかるだろう」

 

 総理は立ち上がり、窓から外の夜景を見る。

 しばらく、沈黙が部屋を包み込んだ。

 

「総理、『例の件』については、お話ししましたか?」

 

 俺は、夜景を見る総理の背に問いかける。

 その問いに、彼はぴくりともせずに、静かに答えた。

 

「世の中には、知らなくて良いことが、知る必要の無いことが山ほどある」

「しかし、彼は知るべきでは?」

「今はまだそのときではない。それこそ、彼らが旅立つ時にでも、その話をしてやれば良い。彼の気持ちは、変わらないだろうからな」

 

 総理は窓ガラスに手を当てる。

 

「・・・・・・この国の夜は、明るいな。大学時代に暮らしたシティ・オブ・ロンドンも、こうは明るくなかったはずだ」

 

 俺はそんな彼の横に並び立ち、夜景を見る。

 

「明るい夜を過ごせるのは、ヒーロー達の犠牲あってのことです。この景色は、彼らの犠牲の上に成り立っています」

「そう、だな」

 

 総理は大きく息を吸い、吐き、言った。

 

「湯村くん、私は決めたよ。ヒーロー法を、改正する。そして、この世界が細い糸で吊るされた剣の下にあることを、公表する」

 

 俺は驚き、総理の顔を見る。冗談で言っているとは到底思えない、身震いするほど真剣な顔で、彼は俺と目を合わせた。

 

「草案はここにある。写しを君に、渡しておこう」

 

 総理は強引に俺の右手を引っ張ると、そう言ってUSBを俺に握らせた。

 

「もし烏丸が動きをみせたら、後は君の手でこいつを押し通してくれ」

 

 俺はゆっくりと右手を引き、USBをジャケットの内ポケットにしまった。

 総理は安心したように笑った。

 

「後は、頼んだぞ」

 

 そう言って、彼は俺の肩に手を置いた。

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