ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
お昼からは食事会を挟み、関係各所への挨拶まわりが始まる。部屋に戻れるのは夜遅くになるだろう。
『デート』を終えたボクとロバートさんは、食事会の会場である某高級ホテルにやって来た。
ボクはそこの控え室で、先程とは違う服にドレスアップし、出番を待つ。
・・・・・・ほんとはこんなに綺麗な衣装も、お化粧も、ナオに最初に見て欲しかった。
一刻も早くナオの顔を見たい。そして、お土産を渡して、ごめんなさいともう一度謝りたい。
一緒のお墓に入る。そうナオと約束した。たがえる気は全く無い。
それでも少し、不安になる。ナオを信じてない訳じゃないけれど・・・・・・。
控え室のドレッサーについた鏡に、ボクの顔が映る。
マスカラにアイシャドー。チークや口紅等々、一度は名前を聞いたことがある超高級ブランドのお化粧道具を駆使して彩られたボクの顔だ。
普段は滅多にこんなに立派なお化粧はしない。めんどくさいから、と言うのもあると思う。
でも一番は、ナオの前では出来るだけ素に近い自分でありたいから、だと思う。
今、鏡に映るボクの顔は、なんだかボクじゃないみたいだ。あまりにも綺麗すぎて、作り物のようにみえて、別人のように見える。
多分ボクにはこう言うの、合わないんだ。
ボクはお姫様になりたかった訳じゃない。普通の、どこにでもいる普通の女の子になりたかった。今すぐナオのところに、帰りたい。
ボクはただ、ナオの側にいたいんだ。
コンコン、と、誰かが部屋のドアをノックする。
「望愛さん、入っても大丈夫デスか?」
相手はロバートさんだったようだ。
「はい、大丈夫です!」
ボクはドレッサーの前に座ったまま、そう答える。
ロバートさんは「失礼します」と言って、ドアを開けた。
「oh・・・・・・望愛さん、似合ってますよ」
タキシード姿のロバートさんはボクを見て少し驚くと、そう言って微笑んだ。
「まるでプリンセスのようデスね。きっと皆さん、目を奪われることデしょう」
「ロバートさんこそ、タキシード似合ってますよ。王子様みたいで」
「恐縮デス」
ロバートさんはボクの隣に進み出る。
「・・・・・・直人くんが気がかりデスか?」
静かな部屋に、声が響く。
ボクはこくり、と小さくうなずいた。
ロバートさんは「そうデスか」と呟き、続けた。
「この食事会、直人くんも招待されているようデスね」
ボクは思わずロバートさんを見る。
彼はニコリと笑うと、ボクに一つの小さな紙包みを手渡し、耳元でささやいた。
「私が部屋を出た後、その中を見てください。きっと、全て上手くいきます」
ロバートさんはそう言って一歩下がる。
ボクが何か言おうと口を開く前に、彼は言う。
「それでは十分後、再びお迎えに上がります。では・・・・・・」
「あ、ち、ちょっと!」
彼は、ボクの制止も聞かずに、部屋を出ていってしまった。
ボクは部屋で一人、呆然と立ち尽くす。
ふと、先程ロバートさんの言ったことを思い出し、右手の紙包みを見る。
手のひらに収まるサイズの小さな紙包み。中に楕円形の何かが入っているようだ。
ボクは紙包みの封を切り、中を見る。
そこには小さなカプセル錠が一つと、びっしりと書かれた日本語の文字列があった。
『その薬は、抗能力剤と言うものです。服用すれば、貴女のヒーローとしての力が大きく減衰します。それこそ、ヒーローで要られなくなるほどに・・・・・・。きっと、貴女が今最も欲している物でしょう。英政府が極秘裏に製造していたのをくすねてきました。もっとも副作用として、数時間~二日程度昏睡状態に陥りますが、貴女ならきっとこれを喜んで服用することでしょう。
明日の夜、私はこの世界全ての人類に対し、怪物やヒーローの存在を公表するため、香住総理や湯村さんと共に行動を起こします。その混乱に乗じて貴女は直人くんと共にこの街を、そしてこの国を脱出してください。貴女は、貴女を想う少年と、添い遂げて下さい・・・・・・』