ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~ 作:さと かんひこ
スーツを身に付け、フルフェイスを被り、マチェットを差し、無線を繋げてボクは渋谷の町に降り立った。
テレビやニュースでよく見たあの町並みは崩れ去り、見るも無惨な光景が広がっている。
横転した車からは火の手が上がり、林立するビルは数棟がポッキリと折れ、砕けたガラスが空から降ってくる。
瓦礫の下に挟まり、既に動かなくなった人もちらほらと見受けられた。
悲惨で、無惨な光景。だけどボクの胸には、何の感慨もわかない。ただ、そこにある情報として捉え、脳内補完する。
今はただ、ナオのことが気がかりだった。
これから死ぬボクと違って、ナオはここから先、ずっと先、必ず良い人生が待っているはず。
ナオはまだ、死ぬべきじゃない。
そんなナオのために、ボクは死ぬ。
ボクと言う呪いじみた鎖から、ナオの人生を解き放つ。
『・・・・・・着いたか、ジャンヌ・ダルク』
フルフェイスに内蔵された無線機から声が響く。
いつもの
『やることは、わかっているな。君はここから数時間、増援のヒーローが到着するまで時間を稼げ』
どこまでも冷徹で、冷静な、低い声で彼は言う。この男の血が半分体に流れていると思うと、ぞっとする。
ボクはどう足掻こうが、ナオを撃った、憎くて憎くてしょうがないこの男の娘なんだ。
そんな憎い男の遺伝子を、次に繋いで良いはずがない。
「・・・・・・烏丸司令。ナオの容態は?」
ボクは静かに聞く。
ボクの問いに、無線機から返ってきたのはため息混じりの、呆れたような声だった。
『作戦行動と無関係な私情を、持ち込まないでくれ。君が心配せずとも、彼の治療は目下行っているよ』
「・・・・・・ありがとうございます。それでは、状況を開始します」
ボクはそう言って、無線を一方的に遮断した。
これで、安心して死ねる。
すっきりとした自分と、申し訳なさを抱く自分と、どこか切ない自分がいる。
まさかまだ、この期に及んで死にたくないとか思っているのだろうか?
いい加減諦めろ、有馬望愛。ボクは、大好きなナオのために死ぬんでしょ?
ナオがボクや機関に縛られない、自由な人生を歩むために、ナオが笑って暮らしていけるように、今日ここで死ぬんでしょ?
自分で自分に言い聞かせる。
ボクはマチェットを抜刀し、走った。
体が少し重い。薬の影響で、能力がずいぶん抑えられているみたいだ。
こんなのじゃ、戦闘の方も期待できそうにないな。
景色はいつもよりゆっくりと後ろへ流れていく。
突如、ビルの隙間からその怪物は顔を覗かせる。
粘液をまとった、不気味にテカる黒い体に、真っ赤なお腹の丸いトカゲのような見た目の、ソイツは、大きく口を開けて、飛び出してきた。
ボクはマチェットを構えて、ソイツに飛びかかった。
体が痛い。口の中から血の味がにじむ。
吐く息が熱い。右目はもう、見えない。
一体どれだけ戦ったんだろ。
東の空が、うっすら明るくなった気がする。
フルフェイスはとっくの昔に壊れて、もう通信すら出来ない。
気がつけば、ドローンや機動隊の人たちの姿が見えない。全滅しちゃったか、それとも撤退しちゃったか。無事だと良いな・・・・・・。
息をするごとに胸が痛い。息が苦しい。肺が潰れちゃったのかも知れない。
「ごほっ・・・・・・! がっ・・・・・・、はぁ・・・・・・」
口からまた血が出る。この感覚にも、いい加減慣れちゃった。
肌がヒリヒリ痛む。まさかあの粘液がスーツを浸透して肌を溶かすとは思ってなかった。
最初の内は傷まなかったから、思わず目を擦っちゃったりしたけど、それが間違いだった。
なんとか左目は守りきれたけど、右目はダメだったな。
こんなことになるんだったら、理科の授業まともに聞いてたら良かったなぁ。
両足にのし掛かる瓦礫が重い。
その上左手にはビルの基礎? の細い鉄筋みたいなのが突き刺さっているから、身動きが取れない。
怪物がボクに向かってゆっくりと迫ってくる。
ぬるぬるした粘液を滴らせて、人間みたいな歯のはえた不気味な口を広げて、迫ってくる。
この辺りみたいだ。
人間はみんな、泣いて産まれてくる。ボクだって、そうだった。
だから最期は、笑ってやろう。
こんな人生だったけど、良いことだって一杯あった。
楽しかった。良い人生だった。
後悔がない訳じゃない。やり残したことも、心残りもあるけど、しょうがない。
「ナオ・・・・・・」
ふと、涙がこぼれる。
ナオの顔が、大好きなあの人の顔が浮かぶ。
胸が締め付けられる。
ボクが、あんなに良い人の人生を狂わせてしまった。
今ナオは、どうしているのかな?
無事に治療が終わって、ボクのいない新しい世界を、迎えてくれるかな?
「ナオ・・・・・・ごめんね」
──ああ、やっぱりダメだ。
無理だ。
笑って最期なんて、無理だ。
ナオの顔を思い出すと、涙がこぼれる。
あの楽しかった思い出が、幸せだった日々が頭の中を駆け巡る。
あの日々が永遠に続けば良いと、何度思ったことか。
「ナオ・・・・・・ナオ・・・・・・!」
──大好きだよ
ボクはきっと、忘れない。
あなたと過ごした日々を。
幸福だった、あの日々を・・・・・・。
ボクは静かに、目を閉じた。
【あ縺ィがき】
まず始めに、ここま縺ァ読んで下さり、本当縺ォありがとう縺斐*います! 作者のかんひこで縺ァ縺!
譛ャ譌・を謖√■縺セして、『繧クャンヌ繝サダルクに恋煩い』、堂々完結縺ォござい──────
豁「繧√m
豁「繧√m
豁「繧√m
豁「繧√m
────こんな終わらせ方、させてたまるかよ