ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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  話 人間、有馬望愛

 夢だと思った。幻だと思った。

 

 死んじゃう前に脳が見せた、幻覚だと思った。幻聴だと思った。

 

 でも、違った。

 夢なんかでも、幻なんかでもない。そこに居たのは、正真正銘、本物の、ナオだった。

 

「望愛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 雄叫びをあげたナオは、怪物に拳を突きだし、吹き飛ばしてしまった。

 

 なんでだろ。自然と、涙がこぼれてくる。

 

 この涙は、体が痛いからじゃない。死ぬのが怖いからじゃない。ただ、ナオが来てくれたことが、言葉にできないぐらい、嬉しいからだ。

 

「ナオ・・・・・・!」

 

 ボクは、まだ動く右手をナオに向かって伸ばした。

 こんなところからじゃ、届くわけ無いのに。

 

 ナオがこっちを振り向く。

 

 なんだか、さっきよりもずいぶんとたくましくなった気がする。

 ちょっと、いやかなり筋肉質になって、身長もずっと大きくなって、そして何より、両腕が内出血を起こしたように真っ黒になっている。

 

 あ、でもやっぱりあんまり変わらないかも。

 

 ボクの顔を見たとたん、必死な顔になって、泣きそうな顔になってナオはボクに駆け寄るんだから。

 

「望愛、遅くなってごめんな・・・・・・助けに来た! もう、大丈夫だからな!」

 

 目に涙を浮かべて、ナオはボクの右手を握ってくれた。

 

「ボクの方こそ、ごめんね・・・・・・ナオは、もう大丈夫なの?」

「俺はもう大丈夫だ。だから謝んな。待ってろ、今瓦礫どけるから」

「そっか・・・・・・ありがとう、ナオ」

 

 

 ああ、やっぱりそうなんだ。

 

 ボクは、全てを察した。

 

 

 『怪物』は、能力者、もといヒーロー以外から受けた傷は、全て修復してしまう。

 きっとナオは、ボクのために、こんなボクのために、こんなボクとの約束を守るために、人間であることをやめたんだ。

 

 ふと、足がずいぶん軽くなる。ナオが瓦礫をどかしてくれたみたいだ。

 

「あとは腕か」

 

 瓦礫をどかしてくれたナオが、ボクの左側に片ひざをついて屈む。

 

 あの怪物は、どうやらまだノックダウンしているみたいだ。

 

「望愛、ちょっと我慢出来るか?」

 

 ナオが心配そうに顔を覗き込む。

 やっぱりナオは、優しい。

 

「うん。大丈夫だよ」

 

 ボクはうなずく。

 ナオは、「わかった」と言うと、鉄筋の上部分を、近くに落ちてたボクのマチェットで切り飛ばした。そして、

 

「行くぞ?」

 

「うん」

 

 一気に、ボクの腕を持ち上げた。

 

「・・・・・・ッ!」

 

 ザクザクとした痛みが、ボクの腕から広がる。

 でも、気づいたときにはもう、ボクの腕から鉄筋は抜けていた。

 

「痛かったか? ごめんな」

「ううん、大丈夫だよ」

 

 ナオが来てくれたことが嬉しくて、ちょっとだけ元気が出てきた。

 

 ナオは、自分が着ていた上の服を脱いで、ちぎって、ボクの腕に巻いてくれた。

 

「まだあいつはへばってるな。望愛、俺が背負うから、逃げよう」

 

 ナオはそう言ってボクに提案する。でも、ボクは首を横に振った。

 驚くナオに、ボクは言う。

 

「アイツの粘液は、皮膚の表面を溶かしちゃうんだ。そんな粘液が、ボクのスーツにもついてるから、背負ってるうちにナオの背中がただれちゃうよ」

 

 なるほど、とナオは自分の右手を見た。

 さっき怪物を殴り飛ばしたナオの右手は、軽いやけどのようになっている。

 

「このスーツだって、完全には浸透を防ぎきれてないんだから、生身でなんて絶対ダメ」

 

 そんなこんな言っていたそのとき、地面が大きく揺れた。アイツが、動き出したみたいだ。

 

「・・・・・・早かったな」

「うん・・・・・・」

 

 瓦礫が無くなったとはいえ、ボクはここから動けない。

 そんなボクに、ナオはにっこり笑ってこう言った。

 

「それじゃ、行ってくる。さっさと終わらせてくるわ」

 

 ナオは拳を差し出す。

 そんなナオを、ボクは引き留められない。

 無力感が、そこにあった。

 きっと、ボクを見送るナオも、そんな想いを抱いていたのかな?

 

「うん、ありがとう。行ってらっしゃい」

 

 だからせめて、笑ってナオを送り出さなくちゃ。

 あの時ナオがボクにしてくれたように。

 ボクは右手で拳を作り、ナオの拳と合わせる。

 

 ナオは、にっこり笑うと、ボクのボロボロになったマチェット(バトン)持って(受け継いで)、行ってしまった。

 

 ナオの背中は、どこまでも大きくって、たくましくって、最高にかっこよかった。

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