ジャンヌ・ダルクに恋煩い~幼馴染みの彼女と紡ぐ、千夜一夜の恋の唄~   作:さと かんひこ

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第五・五話 望愛の戦場

 暑い。すーっごく暑い。

 フルフェイスに映し出された電子地図では、接敵まであと五百メートルらしい。

 そろそろボクもスイッチを切り換えなきゃなんだけど・・・・・・暑い! ナオからスプレー借りなかったら今頃大変だった! 

 あ、ナオから虫除け借りるの忘れてた。・・・・・・って、そんなことどうでも──良くはないけど! そろそろもう敵が見えてくる。

 ボクは足を止めて近くの茂みに隠れて様子をうかがう。・・・・・・低身長なのはちょっとヤだけど、こう言うときには役立つんだよねぇ。

 深夜の山は驚くほど静かだ。そして暗い虫の音一つ鳴らない、風すら吹かない森の中で、ボクの息遣いだけが響く。

 

 

 ──おう! 行ってらっしゃい! 待ってるからな!

 

 

 ナオの声が、笑顔が頭に浮かぶ。大好きで大好きでしょうがない、ナオの顔が。

 自然と顔がにやけてしまう。ダメダメ、今は任務に集中しなくちゃなんだから! あー、それでもやっぱりにやけちゃう!

 早く終わらせて、ナオに抱きつきに行きたいなぁ・・・・・・。

 そう思いながらボクが周囲をうかがう・・・・・・いた。今日の敵だ。大きな羽音のお陰で、すぐに見つけられた。

 

 瞬間、スイッチが入った。

 

 ボクはすぐにフルフェイスに取り付けられた無線機から、本部(ちっちゃいテントだけど)に連絡を取る。

 

「こちら《ジャンヌ・ダルク》。見つけたよ」

 

『こちら本部。こっちからも確認した。・・・・・・状況を開始せよ』

 

 無線機の向こうからは安心と信頼の洲本さんの低い声が聞こえる。こっそり心の中でおとーさんと呼んでるのは内緒だけど。

 

「了解。状況を開始する」

 

 よし、切り換え完了! ・・・・・・ナオ、すぐ終わらせるから、待っててね!

 

 

 ボクは全身に力を入れる。それに合わせてスーツのラインが鮮やかに光輝く。そしてそれは広がり、収束する。体が軽くなった。

 

 目標はおよそ五十メートル前方、約五メートル上空をホバリング中。向こうからはまだボクの姿は見えていない。

 息を大きく吸って、吐く。鞘からマチェットは引き抜いている。勝負は一瞬で決める。・・・・・・ボクにはもう、時間がない。

 

 

 ボクは茂みを飛び出し、跳ねた。風景がみるみる下に落ちていく。そして目の前に、それが現れた。黒と黄のしま模様の、怪物が。

 怪物は虚をつかれた様に動きを止める。突然自分より少し上に人間が現れたら、普通はそうなるよね。でも、

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

 ・・・・・・謝って許される訳はないけど、今のボクにはそうするしか出来ないんだ。ボクは人殺しだ。

 姿は変わっちゃったけど、それでも人を殺したことに変わりはない。人を殺した、汚れた手で、昨日も今日もきっと明日も、ナオと手を繋ぎ、抱き付いたりなんかもしたりして、他人から奪った幸せを一人占めする。・・・・・・ボクって本当に、最悪だ。

 

 

 ──ざくり

 

 

 振り下ろしたマチェットが怪物の首を切断する。首はコトリと地面に吸い込まれるように墜ちる。

 切り口からは噴水みたいに真っ赤な血が噴き出し、それがボクにも降り掛かる。

 また一つ、ボクの罪が重なった。やっぱりボクも、怪物だ。ナオにすがらないと生きていけない、地上最弱・・・・・・いや、世界最弱の怪物だ。

 

 ボクは降り立ち、五点着地を取る。

 目の前には血溜まりと、怪物だった誰かの残骸。もう見慣れてしまった光景だ。ただただ、胸が苦しくなる。

 

 ボクは血で重く湿った土を踏みしめ、立ち上がる。こんな姿、ナオには見せられない。ナオの前では、元気な有馬望愛を演じないと──

 

「うっ・・・・・・!」

 

 直後、頭に耐え難い痛みがめまいと同時に走った。

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