逃げ水   作:ピト

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兄妹姉妹

 風邪を引いた昨夜から時間が経ち、私の体調はおおかた回復を遂げた。今朝はまたも、兄さん姉さんに甲斐甲斐しく世話を焼かれた。一応念のため、今日は学校を休んだ。本当は登校しようとしていたのだけれど、兄さんが既に学校へ連絡しており、こういう形になった。幸い仕事は持ち帰っていたから、あまり遅れは出なさそうだ。そう思って仕事をしようとすると、リビングには誰かが弄ったと思われる書類が大量に机上にあった。なんとなく予想がついていたのだけれど、一応確認する。そうすると、全ての書類がキッチリと不備なく処理されていた。

 

「雪乃ちゃ~ん、何してるの~?あ、それ私と陽人で終わらせておいたから」

「そうみたいね………」

「うん。後はかる~く確認するだけでいいと思うよ」

 

 自分の仕事を取られて少し釈然としないのだけれど、姉さん兄さんなら不備も無いはずだし文句は言えない。しかし、まあ、それでは手持無沙汰になった。

 

「ところで姉さん、貴女、大学は?」

「ん?んふふ~、自主休講だよん♪」

 

 何の悪びれなく堂々と言い放つ姉さん。

 

「それはサボりと言うのよ。………まったく、向こうでも頻繁にそうしてるんじゃないでしょうね?」

 

 私が呆れ気味に説教すると、姉さんは頬を小さく膨らませた。

 

「雪乃ちゃんひどいっ。お姉ちゃんのことそんなに信用できないのっ?」

「ええ」

「そっ、即答は流石に傷付くなぁ………。ちゃんと行ってるってば。雪乃ちゃんが心配で心配で私たち講義どころじゃなーいの」

「………このくらいで大袈裟よ。熱もほぼ出てないし、調子も回復したのだし」

「んー、でも、ただでさえ体力のない雪乃ちゃんなんだからいつ症状がぶり返すか。おまけに考えの甘い本人は登校しようとするし。これは監視が必要でしょ?」

 

 正論で痛いところを突かれる。

 

「………本音は?」

「サボる口実ができてラッキー!雪乃ちゃんの弱った姿を写真におさめよう──とかは考えてないからね」

 

 私は姉さんの目の前に右の手の平を突き出した。そしてニッコリと母のような笑顔を意識して口を開く。

 

「出しなさい」

 

 姉さんは「しまった!」とばかりに口元を押さえ、フルフルと首を横に振る。私は素早く姉さんを捕まえ、スカートのポケットをまさぐる。

 

「やーん、雪乃ちゃん大胆~♪」

 

 そして、消さねばならぬ物品を取り出した。しかし、兄さんの寝顔が写ったロック画面を越えると壁に阻まれてしまう。画面にはパスワードの確認が求められていた。横目で姉さんを窺うと、先程の慌てた様子はなく、ニヤニヤとからかうような表情をしている。

 

「姉さん、勝負しましょう」

 

 どうやら姉さんとは数年ぶりに喧嘩をすることになりそうだ。

 

「ふふん、内容によっては受けてあげなくもないよ」

「一発勝負。うちにあるボードゲームで私が勝ったら昨日撮った写真は消しなさい」

 

 ここには姉さんが娯楽用として揃えた様々なボードゲームが存在している。普段一人暮らしの時には何の役にも立たない代物なのだけれど、今久々に使用する時が来た。

 

「私が勝ったら?」

「姉さんが勝てば、………誠に遺憾ながら所持を認めるわ」

「残念。私は別に雪乃ちゃんの許可はどうでもいいの」

「母さんに今日大学サボったことは言わないであげる」

「………それはちょっと魅力的だけどまだ弱いよ。そもそも雪乃ちゃんが自らお母さんに連絡なんてしないでしょ。それもこんな些細なことでさ」

「くっ………」

 

 やはり一筋縄ではいかないわね。しかしどうしようかしら。手札が………。

 

「雪乃ちゃん、私ね、またあの時みたいに姉妹三人でデートがしたいんだよね」

 

 姉さんがそう前置きした。姉妹三人?

 

「陽人に私たちでメイクを施してー、仕草も女性のそれにさせてー、デートするの。ウインドウショッピングしたり、甘い物を食べたり、プリクラを撮ったりね」

 

 あれは私が中学二年生で留学に旅立つ直前の夏のこと。ある事件によって気持ちが辟易としていた私。そんな時、兄さんが部屋に女装をして現れた。衝撃だった。端的に言えば似合いすぎていた。思わずお姉様と呼びそうになったぐらいに綺麗だった。その日の私は、外見も言動もイケメンのお姉様に連れ出され、姉さんと一緒にあの事を忘れるくらいに楽しい時間を過ごしたのを覚えている。今思えば恥ずかしい行動などもあったが、あの時期の私には間違いなく救いとなった。

 

「今度はお母さんも誘ってさ、女四人でお出かけもいいかも。お母さんどんな顔するかなぁ?息子がいきなりとんでもない美女になって目の前に現れたらさ。たぶん固まっちゃうだろうなぁ」

 

 何かを想像してクスクスと失笑する姉さん。

 

「つまり、私は何をすればいいのかしら?兄さんはあれ以来そんなことしていないんでしょう?あの時だって私を元気づけるためにやってくれたことなのだし、頼んでもやってくれるかしら?」

「だから雪乃ちゃんが頼んで欲しいの。一月三日、雪乃ちゃんの誕生日にね」

 

 なるほど。そういうことね。

 

「………乗った。私が負ければ兄さんに頼みましょう」

 

 敬愛なる兄さんへ、私の自衛のために兄さんを売ってしまった罪深き妹をお許しください。でもね兄さん、正直私ももう一度お姉様にお会いしたいの。

 

「でもね、承諾できるまでが条件だよ。できなかったら雪乃ちゃんの恥ずかしい写真を捻くれた彼に見せちゃうからね」

「なっ!?」

 

 付け加えられた条件に慌ててしまう。

 

「そっ、そんなの聞いてないわ!それに、よりによってどうして比企谷くんに!」

「おやおやぁ?私は一言も比企谷くんなんて言ってないよぉ?」

 

 ニタニタと完全犯罪を思い付いた犯人のような下卑た笑みを浮かべる姉さん。

 

「わっ私たちの周りで捻くれた男性を挙げれば比企谷くんが出てくるのは当然のことよそもそも姉さんの話し方からして私の周囲にいる男の人のことを指していたと読み取るべき文脈であったのだから兄さんは真っ先に除外され父に至っては捻くれたというよりはむしろ母に逆らえないというだけであって必然的に候補者として残るのが彼以外にいなかっただけよ」

「雪乃ちゃん照れてるの可愛い~♪でも確かに比企谷くんより捻くれた子ってなかなかいないよねぇ」

「やっぱり彼で合ってるんじゃないの」

「え?何言ってるの雪乃ちゃん。そんなの当たり前じゃん」

「貴女ねぇ………」

 

 もうやだ、この姉疲れる。

 

「それでどうするの雪乃ちゃん?やるの?やらないの?」

「そんな意味の分からない条件でやるはずがないでしょう。この話はなかったことに──」

「負けるのが怖いんだ?」

「──別にそんなことはないのだけれど?勝手に決めつけないでもらえるかしら?」

「じゃあやるよね?勝てばいいんだしさ」

「当然よ。私が負けなければいいもの。姉さんを後悔させてあげるわ」

 

 そう、勝てばいいのだ。私が勝てばすべてが上手くいく。

 

「なら確認するよ。九月○○日午前9時20分からやるダイヤモンドゲームで、雪乃ちゃんが負ければ陽人にお願い事をすること。内容は陽人が女装し、私と雪乃ちゃんの3人でデートする。もし雪乃ちゃんが陽人を説得できなかった場合、比企谷くんに雪乃ちゃんの寝顔写真を見せます。この条件に一切の偽りはありません。いいですか?」

 

 妙に改まった口調の姉さん。

 

「ええ、異議なし」

 

 私は不思議に感じながらもそれを肯定した。すると、姉さんは満足そうに微笑む姉さん。いったい何なのだろうか。

 

「じゃ、やろっか!」

 

 姉さんが立ち上がり、手に所持していたスマホを少し操作してからボードゲームを取りにリビングを後にした。

 

 

 

 

 ────

 

 インターホンが鳴ったのは夕方のことだった。私たちは兄妹三人で兄さんを中央にしてソファに座り、読書をしていた。

 

「俺が出るよ」

 

 兄さんが私には読めない文字の本を閉じ、対応に向かう。

 

「ん?」

「兄さん、どうしたの?」

 

 兄さんは画面を見たまま疑問の声を挙げた。

 

「いや、何でもない。………はい、雪ノ下です。………ああ、うん知ってる。久し振りだね、陽人だよ。どうしたの?………うんうん、あー、はいはい。いいよ。入っておいで」

 

 兄さんが宅配相手にはいささかフレンドリーすぎる対応をする。嫌な予感がして冷や汗が背中を伝う。

 

「陽人ー、誰だったのー?」

「なんかガハマちゃんが雪乃のお見舞いに来たんだってよ」

 

 ………やっぱり。ならおそらく彼もいるでしょうね。

 

「兄さん」

 

 少し抗議の視線を送る。すると、兄さんは首を傾げた。

 

「あれ?通しちゃダメだった?」

 

 この反応は私たち奉仕部の内情を知った上での行動か、単なる純粋な友情と捉えての行動か判断できなかった。

 

「いえ、そういう訳ではないのだけれど………」

「ねー、比企谷くんもいたー?」

「画面には映ってなかったし、声もしなかったけどおそらくいるんじゃねえの?ガハマちゃんがチラチラ横を確認してたし」

「だって、雪乃ちゃん。よかったね」

「何がよかったのか分からないのだけれど?」

 

 兄さんがキッチンで出迎えの準備をしていた。私も立ち上がってそれを手伝う。やがて、玄関のベルが音を奏でた。

 

「着いたみたいだな。陽乃、頼む」

「りょーかい!」

 

 姉さんがトテトテと駆けていく。姉さんだけではちょっと不安だ。

 

「ガハマちゃん、ひゃっはろ~!あ、ついでに比企谷くんも」

「や、やっはろーです、陽乃さん」

「………うす」

「あ、あの、ゆきのんは………」

「中で待ってるよ。さっ、入って入って」

「お、お邪魔します」

「ほら、比企谷くんも」

「………うす」

 

 案外普通に姉さんが二人を出迎えたことに若干安堵しつつ、ますます私の中のいたたまれなさが増してくる。兄さんが二人分の紅茶をソファ前のテーブルに並べに向かう。

 

「二人ともいらっしゃい」

「あ、陽人さん、こんにちは」

 

 比企谷くんが無言で頭を下げた。

 

「………由比ヶ浜さん」

 

 姿を見せた私に、由比ヶ浜さんは安心したような表情になった。

 

「ゆきのん、大丈夫なの?」

「ええ。一日休んだくらいで大袈裟よ。熱も下がってるし、体調の方はもう大丈夫だから」

「体調の方()、か」

 

 比企谷くんが私の言葉の揚げ足を取り、その部分を強調して繰り返す。

 

「ところで、どうして貴方がここに?」

「話がある」

 

 端的に用件を伝えられる。

 

「まーまー、ガハマちゃんも比企谷くんもまずはそこに掛けなよ」

 

 姉さんが立ち話が続きそうな状況に釘を差す。比企谷くんと由比ヶ浜さんはそれに従ってソファに腰を下ろした。

 

「俺と陽乃は外に出てるから、終わったら連絡くれるか?」

「ええー………」

「分かったわ」

「陽乃、行くぞ」

「ぶぅー………、はーい」

 

 若干不満そうな姉さんの肩を兄さんが引っ張って行く。程なくして扉を閉じる音が耳に響いた。静寂がリビングにやってくる。私は立ったまま壁に背を預けたまま。

 

「ゆきのんは座らないの?」

 

 由比ヶ浜さんが席を勧めてくるが、私は首を横に振った。

 

「………ゆきのん、私、怒ってるからね」

 

 話は長くなりそうだ。

 

 

 

 

 ────

 

 奉仕部三人での話し合いが終わり、八幡は雪乃が住むマンションを後にしようとしていた。百合展開が始まりそうな女子二人を残して、八幡は一人でエレベーターに乗ってエントランスまで来た。

 

「比企谷くん」

 

 エントランスのソファで座っていたのは雪乃の双子の兄と姉。陽乃がチョイチョイと八幡を手招きしていた。八幡は愛する妹が待つ家に一刻も早く帰りたい衝動に駆られたが、さすがに無視するにはいかず双子の許へ歩み寄る。

 

「なんすか?」

 

 ため息を同時に八幡が用件を問うた。

 

「終わったの?」

「はあ、まあ、見ての通り」

「ガハマちゃんは?」

「由比ヶ浜ならもう少し雪ノ下と話していると思いますけど」

「ふーん。それで?どんなことを話したの?」

「いや、まあ、特別なことは無いっすよ」

「うん。その特別じゃない内容が知りたいの」

 

 陽乃が眼光を強めた。さっさと吐けと、蛇のような目が訴える。八幡はカエルのようにビクビクとなりながら一歩後退した。

 

「………ただ、あいつの従来のやり方と今回のやり方が違うってことを指摘しただけです」

「くわしく」

「………奉仕部、ひいては雪ノ下のやり方は人の助け方の方針が定まってました。空腹の人に魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えることで依頼人の自発的な解決を促す。あいつは過去にそう言っていました。けれど、今のアイツがやっていることは依頼人をおんぶしてアイツが魚を獲って与えている」

 

 陽乃は右の人差し指を顎に当ててコテッと首を傾げた。

 

「それの何が駄目なの?」

「別に今雪ノ下がやっていることが丸っきり間違いって訳じゃありません。文化祭そのものに関して言うならの話ですが」

「委員長をしている子が掲げた自分自身の成長が達成され得ないから?」

「………そうです」

 

 八幡は心の中で「分かってるなら聞かなくていいじゃん」と悪態をついた。八幡の雰囲気を敏感に感じ取った陽乃はクスクスと笑う。

 

「それで?これからの君はどうするの?」

「別に何をするまでも無いですよ。今まで通り、下っ端の雑用としてこき使われて終わりです」

「あらそう?私はそんなことないと思うけれど?」

「………どういうことですか?」

 

 八幡が怪訝な面持ちで聞き返す。

 

「さぁ?君のことなんだし私が分かる訳ないでしょ」

 

 しかし、陽乃はあっけらかんと矛盾したことを言い放った。八幡は陽乃の冷然とした態度に内心を見透かされたような気分になる。

 

「………今の状況は雪ノ下さんの──」

「──陽乃」

「………雪ノ下さんの思惑通りですか?」

 

 陽乃の改正には八幡は耳を貸さずに言い切った。すると、陽乃が下唇を尖らせる。

 

「相変わらずつれないなぁ、比企谷くんは」

「………」

「まあ、そこが君のイイところなんだけどさ」

 

 陽乃がソファから立ち上がった。そして、八幡の傍まで歩み寄り、耳元で囁く。

 

「ごはん、食べていきなよ」

 

 脈絡のない誘い。明らかな回答の拒否だった。

 

「………家で妹が作って待ってくれてると思うんで遠慮します」

「そっか、残念。ならまた今度だね」

 

 陽乃は八幡の肩を叩いてエレベーターに向かって歩き出した。

 

「よっこいせ」

 

 今まで沈黙を決め込んでいた陽人も、陽乃に続いて立ち上がった。

 

「じゃ、またな、比企谷くん」

 

 八幡と陽人がすれ違う。

 

「陽人さん」

 

 すれ違いざまに八幡が陽人の背中を呼び止めた。

 

「………なに?」

 

 陽人は立ち止まって半身になる。

 

「………」

「………」

 

 視線が交錯したまま、陽人は八幡が喋りだすのを待った。急かしたりしないのは八幡の目が真剣に陽人を捉えていたからだ。

 

「お~い、陽人ー」

 

 陽乃から呼び出しがかかる。しかし、陽人は陽乃の方を見ることなく、手だけで先に行くように合図した。血を分けた双子だけあり、陽乃がそれを読み違えることはなかった。

 マンションのエントランスに男が二人対峙している。剣豪の立ち合い寸前のような静寂が場を支配する。

 

「………今まで」

 

 八幡が意を決して口を開く。

 

「人間関係で本物と呼べるものを見たことがありますか?」

 

 八幡の質問はえらく抽象的だった。しかし、八幡には陽人には通じるだろうという半ば確信めいたものがあった。トップカーストの最上位に常に位置し、色々な人々に仮面を通して接してきた陽人ならば。

 陽人が目を細めて八幡を睨む。その陽人の瞳は鋭利で包丁を突き付けられたように思え、先程陽乃と視線を合わせた時よりも遥かに大きい威圧を感じ、八幡はゴクリと生ツバを飲んだ。

 

「俺が何かを言ったところでお前はそれを信じるのか?」

 

 八幡はハッとなった。陽人の言葉は一週間ほど前に総武の会議室で陽乃に言われた言葉に酷似していた。双子故の遺伝的偶然か、それとも、陽乃が八幡に対して放った言葉を知っていてワザとこの表現を使ったのか。もし後者であるのならばそれの意味するところは何なのか。

 陽人が八幡から完全に背を向けた。数十秒して陽人はエレベーターに消える。

 過去において様々な人間から悪意を受け、人間観察に勤しんだ八幡。その八幡を以ってして、あの双子の考えていることは読み取れない。予測すらできない。特に陽人に関しては謎が深まる一方だった。違和感の筆頭として、悪感情を陽人に一欠片も抱けないことがあげられる。別に違和感のないことだと思われるかもしれない。確かに大抵の場合において、接点が少ない相手には悪印象を持つには至れない距離にいることが普通かもしれない。しかし、陽人に関しては悪感情の根底が他の大勢と異なる。あらゆるコミュニティーで中心となるような存在は必然的に日の目に当たることが多く、その分噂や憶測が飛び交い、本人の意図せぬデマなどで悪感情を持たれやすくなるのだ。頻出例を出すなら嫉妬や僻みだろう。スポーツ、学力、地位、ありとあらゆる才能に嫉妬して、理不尽な妬みを持ったことが誰しも一度や二度はあるはずである。八幡の近くの存在で例を挙げるならば、葉山隼人がいい例だ。八幡は隼人に対してちゃんとそういう悪感情を持っている。リア充爆発しろと何度心の中で唱えたことか。だが、どういう訳か陽人に対して八幡はそういった感情を一度たりとも抱けなかった。それの何が問題なのかは、八幡自身もよく分からない。それでも、悪と呼ばれる抽象的概念に敏感な八幡は、悪が無い陽人を懐疑的な目で見てしまう。陽人の言動全てに裏があるのではないかと疑ってしまう。今回の文化祭実行委員会での出来事の引き金を引いた自由奔放な陽乃。あれは本当に陽乃だけの思惑で引き起こされたものなのだろうか?

 八幡はかぶりを振って思考を中断した。彼は糖分が足りていないと考え、千葉のソウルフードであるマックスコーヒーを入手すべく近くの自販機を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

「あ、陽人おかえり~」

 

 陽人が玄関を開けると、リビングから陽乃が顔を出した。

 

「ただいま」

「ガハマちゃんが夕食を一緒に食べることになったんだけど、何かリクエストはある?」

「そうか。ガハマちゃんの食べたいものでいいよ」

「私もそう言ったんだけどね、特に思いつかないみたいでさ、陽人に任せようってなったの」

「なら鍋でどうだ?豆乳鍋が食べたい。確か、スープの元がまだ残ってたはず」

「だって。二人ともどう?」

 

 陽乃が視線をリビングの中へと戻す。陽人もヒョコッと陽乃の頭の上から顔を出した。

 

「ええ。私はそれで構わないわ」

「は、はい。大丈夫です」

 

 雪乃と結衣は同意を示す。陽乃がニコッと笑って頷いた。

 

「決まりだね。陽人、手を洗っていらっしゃい」

「うい~」

 

 陽人は洗面所に向かう。鏡の前に立つと一心不乱に手を洗い始めた。やがて手を洗い終わり、陽人は水を両手に溜めて顔に当てた。数度それを繰り返してから近くにあるタオルを掴み、拭き始める。顔を上げた。鏡に映る自分の顔を見て嘲笑を浮かべる。

 

「………ある訳ねぇよ、そんなもの」




 また加筆するかもしれないですm(_ _)m
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