物語を進展させるというよりはちょっとだけ書き足したって感じです
あの後はそれはもう大変だった。まあ一つ一つ話していこう。
まずはそうだな、Qの……いや、希優のことからだ。希優はあの後すぐに、駆けつけた海上保安庁の船に乗せられて病院に運ばれた。幸い事情は把握されていたらしく、俺も一緒に連れて行って貰えた。
いろいろ検査して出された希優の診断結果は、重度の栄養失調のみ。備蓄の食料だけじゃ、だんだん栄養が足りなくなってしまったそうだ。まあビタミンとか時間経過で減っていくらしいし、10年以上も経ってるから仕方ないのだろう。間に合って本当によかった。
宇宙特有の病気なんかに罹っていたらどうなるかわからなかったそうだが、幸い栄養失調のみだったのでじきに良くなるとのこと。後は体調が良くなり次第地球の重力に慣れるためのリハビリと筋肉作りだそうだ。
余談だが、俺がポッドの中の希優とキスしていたこともバレていたらしく、俺も検査された。幸い未知のウイルスとかはもらっていなかったが、「不用意な事をするな」とめちゃくちゃ怒られた。
次に俺自身のこと。俺と希優の様子が全世界にライブ配信されていたから、もう大変だった。クラスメイトには希優との関係を囃し立てられ、先生には怒りとか安堵とかその他ごちゃ混ぜの感情をぶつけられた。……いや、ずっと休んでいて迷惑かけたのは申し訳ないと思っている。
センセーショナルな出来事だっただけにメディアの取材攻勢もすごかったのだが、優秀なガヤの対応のおかげで希優と一緒にいる時間がちゃんと取れるくらいに抑えてくれている。チラチラと記事を見るに、俺たちに好意的な記事が多いようで一安心だ。
それからワールドツアー。自分で言うのもあれだが、今の俺に……Q-BITに敵はいない。ルナーワールドも再接続できたから企業と互角以上の環境で戦えるし、Qのナビゲートもある。俺自身も絶好調だ。正直負ける気がしない。
あとはプロジェクト・セレーネとイリヤのことか。結論から言うと、上層部だけ辞任してセレーネ自体は存続することになった。いろいろごちゃごちゃ理由を付けていたが、要するに「地球での消費電力のほとんど担う月面ソーラーパネルの保守点検を行えるグループが他にいない」からだ。希優と希優の母親をあんな目に合わせた相手なので存続決定は複雑だが、まあ仕方ないのだろう。
イリヤの父親であるロジェストヴェンスキーCEOは当然辞任。したがってイリヤも没落お嬢様……にはならなかった。今までほど気前よくアイテムは使えないようだが、蓄えも豊富にある上、今回の件でイリヤ自身は告発側に回っていたことで、ゆくゆくは新生セレーネのリーダー格になっていくのではないかという話だ。
希優は、見ているこちらが心配になるほど必死でリハビリに打ち込んだ。
「今日はそろそろ終わりにしてもいいんじゃないか?」
と希優に言ったら、
「いえ、もうちょっと頑張ります! だって、早くビットさんと一緒にクレープ食べたいですから!」
と俺を魅了して止まない満開の笑顔で言うのだから、敵わない。これ以上言っても止まらないだろうから、俺もできるだけ側で見守った。
その甲斐あってか主治医さんも驚くほどのペースで筋力をつけ、みるみるうちに自力で歩けるようになった。そして、ついに退院の日。
「天宮希優さん、退院おめでとうございますわ」
「ミャウさん! ありがとうございます!」
「だからイリヤですわ! もうまったく……」
イリヤが呆れた感じで微笑む。
「るなきゅん退院おっめでと〜! 後でスイーツを奢ってあげよう!」
「ガヤさんも! ありがとうございます!」
ガヤがいつもみたいに騒ぎ立てる。
「希優、退院おめでとう」
「ビットさ……いえ、旅人さん。ありがとうございますっ!」
希優が俺に笑顔を向けてくれる。俺も今までにないくらいの笑顔だろう。だって〈LUNAR-Q〉を好きになってからずっと待ち望んだ光景が、一度は諦めかけた光景が、確かにここにあるから。
「それで……旅人さん、退院のキスはまだですか?」
「……なんだ、その退院のキスって」
「えー、私にそれを言わせるんですかー? 旅人さんのえっち」
「はあ……希優、目閉じろ」
目を閉じた希優の唇に、そっと唇を合わせる。言葉では表現できないような何とも言えない幸せが脳内を駆け抜ける。
「あーっ! あいつら、キ、キ、キキキキスとかしてやがりますわ!」
「ひゅーひゅー! 二人ともやるねぇ!」
キスの余韻に浸る暇もなく、二人が騒ぎ出した。まったく……まあでもこの方が俺たちらしいか。
ギャーギャー何事か喚くイリヤとヒューヒュー囃し立てるガヤを尻目に、俺は希優に笑いかける。
「希優」
「旅人さん、なんでしょうか?」
「これからも一緒にいような」
「もちろんです! ずーっと、一緒です!」
いちおう本編のCHAPTER1のタイトル"SKYOUT FOREVER"に合わせてタイトルつけたんだけどまあうん……機会とアイデアがあれば更に続きも読んでみたいですよね(人任せ)