中間テスト勉強。上杉は時給がいいこの仕事を失わないように今までとは目の色を変えて取り組んでいる。
「修斗。お前に二乃と五月を任せてもいいか?」
妥当だな。二乃と五月はまだ上杉と折り合いがあまり良くない。
「分かった。そっちは人数が多いから二乃と五月がある程度落ち着いたらそっちも手伝うよ」
そう言ってから、上杉一行とは机の対角線に座る。
「じゃあ二乃、五月。まずは一番苦手な科目から始めよう」
勉強が得意な人はともかく、勉強が苦手な人なら得意科目から伸ばした方がいいだろう。勉強が苦手な人の苦手科目とは基礎から危ういレベルだからだ。順位は総得点で決まる以上、得意科目を伸ばすべきだろう。
ただ、今回に限って言えば違う。目的は総得点を伸ばすのではなく赤点を無くすこと。ならば苦手科目から取り組むのがいいだろう。
テストとは日常の学習の進捗を測るものである。しかしそこに採点をする必要があれば大きく変わる。歴史を学ぶ理由は、時を重ねたとしても人間の本筋は変わっておらず同じ過ちを繰り返すからだ。過去の人間の行動を学ぶことで現代の我々がどう生きればいいのかを教えてくれる。だが採点の必要があるテストでは偉人から何を学んだのかを問えない。点数によって受験者の順位づけをし、扱いを変えるのなら採点基準は平等かつ明確、誰が採点しても同じ結果にならなければならないからである。
数学はその公式がどうして成り立つのかなどの数学的思考こそ将来数学に携わるのなら役に立つ。事実、数学者には計算が遅い人間も珍しくないし、高校まで数学が得意だとしても大学からでは通用しない人間が少なくないのはこのためだ。理論を無視した、公式の当てはめで問題は解く事もできる。どの公式を選択するべきかという問いに数学的思考の程度は低い。
英語の進捗が知りたければ実際に英語を話させればいい。だがその採点が難しいからこそ英単語の暗記などをさせる。
試験が学習の進捗を測るものなら欠陥が多すぎる。
しかしだからこそ、今回はそこに活路がある。学習の理解度が不十分でもテストで点を取らせる事は可能である。俺は二乃と五月の指導を始めた。
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今回の中間テスト、俺だけだったら赤点回避は難しかっただろう。二乃と五月は絶対に俺の言う事聞かないし…。だが! 俺の隣には修斗がいる! 他人頼りだとか言われても気にしない! 俺のクビがかかってるからな!
俺は、俺に対して反抗的な二乃と五月を修斗に任せて、一花、三玖、四葉に勉強を教える。まずはそれぞれの得意科目から赤点のラインを越えさせよう。
同じ部屋でやってるので当然向こうの様子も聞こえる。修斗は俺とは反対にそれぞれの苦手科目から取り組ませているようだ。修斗の説明がとても分かりやすいのは隣で聞いてる俺にでも分かる。テストでは大きな差はないと思っていたが、人に教える能力では俺と修斗では大きな差があるのだと実感する。
しかし俺の教える能力を高めるのは中間テストの後だ。今はその事に思考を割くな!
修斗がいれば! この馬鹿五人の赤点を回避するのだって夢じゃない!
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「今回で赤点回避は無理ですね」
明日の試験に向けて上杉は中野家に泊まるらしいが俺は断った。そして帰宅すると...
「母親のあなたに言うのは申し訳ないですが、この一週間つきっきりで指導しても確実に赤点を回避できるかは分からなかったでしょう」
何か奇跡でも起これば少なくとも二乃と五月は赤点を突破する可能性がなきにしもあらずってレベルだな。
「では今回で家庭教師は?」
「終わり、でしょうね」
元々家庭教師を引き受けたのは零奈さんと自然に会うためだ。だがもうこうして直接家に来たりしてるし、俺が家庭教師を続ける理由はない。上杉のように金に困っている訳でもない。仮に困っていたとしても家庭教師以上に割がいい仕事も知っている。
ただ......見知らぬ仲ではない彼女達と中途半端な形で離れるのは...
いや、俺にはやる事がある。零奈さんをこんな姿にした仇を、両親の仇を取るまでは。
修斗の指導は、勉強を教えるというものではなく、どうテストの点を取るのかというものです。
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