「それじゃあ実行委員会を決めたいと思います。僕たちのクラスは......キャンプファイヤーの担当です」
眼鏡をかけた学級委員長がそう切り出す。今度ある林間学校。その学級委員を全クラスから数人募集するらしい。カレー作り、オリエンテーション、肝試し、スキー準備、キャンプファイヤーが仕事内容とされておりこのクラスの担当はキャンプファイヤー。担任の教師達によるくじ引き戦でそれぞれどのクラスが何を担当するかが決められたようだがこのDクラスの担任の山下先生がキャンプファイヤーを引いてしまい、現在クラスメイトから責められている。
どうにもこの学校の林間学校ではキャンプファイヤーのフィナーレの瞬間に共に踊っていた男女が生涯結ばれるという結びの伝説があるらしく実行委員会になってしまえば誰もが狙うそのイベントに参加できないため文句が飛び交っている。
別に伝説自体には興味ないがだからと言って実行委員会として働きたいとも思わない。こういう場合は変に誰かにやれと言ったりして目立つのではなく周囲の背景に溶け込むようにして黙っておくべし。
「..........」
隣に座っていた三玖も俺の意図を察したのか俺と同じように黙ってやり過ごすようにしたようだ。結果、メガネをかけた学級委員長とその友達らが実行委員を務める事になった。
ホームルームも終わり、それぞれが鞄を持ってある者は部活へ、ある者は自分の家に帰るための準備を始める。上杉と五つ子は確か今日は図書室で勉強をするらしい。俺は今日はその日ではないためこのまま家へと帰る。
「おい村城。ちょっといいか?」
「えっ、あ、はい!」
教室を出ようとしたその時、野太い声を掛けられる。振り返れば生徒指導の柴田先生。通称鬼柴田がこちらを見ていた。
「ちょっと手伝え」
「......はい」
テストの日のアレがなぜか彼の琴線に触れたらしく何かにつけて話しかけられるようになった。......全く嬉しくないが目をつけられ......気に入られたようである。
──────
「薬を下さい!」
「だからねぇ。あの薬はまだ試作品で使えば使うほど耐性ができるの。......あら、お帰りなさい」
自宅のドアノブに手をかけ扉を開くと...
「修斗じゃねぇか! ちょっと聞いてくれよ!」
新一と灰原が何やら言い争いをしていた。
新一から聞けば林間学校に行きたいために灰原にAPTX4869の解毒薬をせがんでいたようだ。
「馬鹿じゃねぇの?」
それもおそらく想像じゃ例の結びの伝説に憧れてるのであって......
「思春期なの?」
俺も灰原が新一に向けるのと同じような視線で新一を見てしまう。
「彼も私と同じ意見のようね。もう私じゃ手に負えないし、彼を説得できたらいいんじゃないかしら?」
今まで新一に長い間拘束されていたようで疲労の色を見せる灰原。......尤も欠伸はいつもの事だからそれが即座に疲労に結びつくかは分からないが。その言葉を受け、新一はどこか「待ってました!」と言った顔に変わった。......いや、何を聞いても首を縦に振るとは思えないが。
新一は俺の耳の近くに寄って話し始める。
「灰原。新一に薬を渡してあげてくれ」
「え? ちょっと?!」
流石にあんな事を言われれば多少のリスクを孕んでも首を縦に振るしかない。
──────
林間学校当日。バスは学校から出るためいつものように登校する。いつもとは違って一人ではなく......
「やっぱ元の身体はいいよな〜!」
高校生探偵、工藤新一が隣を歩いている。
「あんまり目立つなよ新一」
「わーってるよ。灰原にも言われたしな」
APTX4869の解毒剤を渡された際、俺は新一の監視を頼まれた。薬の効果時間といくつかの注意事項も併せて。何かあればすぐに連絡しろとも言われている。灰原は現在俺の家で匿われている。が、ジンとの邂逅からもう暫く経っているが未だに襲撃の気配すらない。そのためここ数日、灰原は博士の家に里帰りしている。零奈さんもいるし。もしかすればまた戻るかもしれない。
「そういえば蘭には今日行くって言ったのか?」
そもそも俺が新一と二人で登校するのがおかしい。幼児化するまでは蘭と二人で登校していたようだし林間学校に新一が行くって言ったら絶対飛んでくると思うが...
「まあドッキリってやつだな」
「どうなっても知らねぇぞ.....」
「歯食いしばりなさい新一ィィ!!」
「うおおおぉぉ!!」
学校へ向かう途中に蘭と園子に偶然出くわし暫く何の連絡も取っていなかった新一が蘭にボコされている。
「ま、新一君の自業自得みたいなものだけどね」
「鈴木が蘭を焚きつけたのも大きいと思うけどな」
「村城君も止めなかったけどね。あ、私も蘭や新一君みたいに園子でいいわよ、修斗君」
新一は俺に対して蘭を押し付けすぎた。途中から俺が蘭と新一を繋ぐ外交窓口のようになって毎回蘭に対して嘘を吐かなければならず罪悪感は膨らんでいった。だからこそ目の前の新一の様子を見て少し思ってしまった。
「(ざまぁ)」
っと。
──────
新一が蘭にボコボコにされた後(蘭はスッキリとした顔をしていた)俺たちは何食わぬ顔で学校に到着した。
「修斗くん、おっはー! あれ? 蘭、その人って......?」
「そっか、一花は初めてだったわね。彼が蘭の旦那の工藤新一君よ」
園子のその言葉で蘭と新一がまた騒ぎ始めて......視線を移せば一花と一緒に来た五つ子が何やら会議している。
「そういえば上杉は?」
その問いかけで五月が何かを思い出したようで
「そうです! 何やら上杉君がまだ来てないみたいなので迎えに行こうと考えているんです!」
新一と蘭が激しい殴り合い(一方的)をしていたため登校は遅れ、もうバスの出発時間は目の前。今から上杉を呼びに行っても確実に遅刻だが......。
「はい。ですから宿泊先までは学校のバスではありません。既に先生の許可も頂きました。父にも連絡して既に車の準備もできています」
「なるほど」
家庭教師を始めた時には半分以上の五つ子から嫌われていた上杉。しかし学校行事を投げ打ってまで彼のために全員が動こうとしている。最も上杉に対して敵対意識を持っていた二乃でさえ内心は分からないが同意している。彼らの人間関係に対して俺が補佐としてする事はもうないのかもしれない。
「すまん。俺は行けない」
「え......」
普段であればその申し出に首を縦に振るだろう。しかし今回に限ってそれはできない。今回の林間学校で俺が他の何よりも優先しなければならないのは新一に何かがあった時のフォローだ。だからこそ荷物を何も入れていない小学生を入れられるくらいの大きさのリュックサックを身につけている。
そしてその理由を話す事もできる訳がなく「事情がある」などと言えば質問されるしかないためぶっきらぼうに断るしかできない。
「すまん修斗」
──────
「村城と話すの久しぶりだな!」
バスが発車した。バスの定員はクラスの人数よりも多く、一部の生徒は他クラスのバスに乗車している。俺もその一人でD組ではなくB組の生徒がたくさん乗るバスに乗車している。何かを謀った事なくこれは新一達のクラスであり近くには新一や蘭、園子は勿論、一年生の頃は同級生だった中道とも久しぶりに言葉を交わした。
「でも俺たちラッキーだな! 工藤! 村城!」
「何でだ?」
中道は声を抑えながらも、しかし高いテンションで言い放った。
「クラス内投票上位の毛利と鈴木が近くだぜ! まあ毛利は工藤のだから誰も狙ってないけどな」
一年生の時もクラス内投票をこいつはしていたが......二年生になってもやってたのか。
「だからこそ中野さんがバスに乗らねぇのはがっかりだよなぁ。くじでせっかく近くの席を引けたのによぉ......。工藤に遠慮したからか票数が伸び悩んだ毛利に代わってクラス内トップに立った中野さんとせっかくお近づきになれると思ったのによぉ......」
「一花達は五つ子だからねぇ。修斗君のクラスにもいるでしょ?」
「ああ、三玖な」
園子の問いに答える。新一達のクラスには一花、俺のクラスには三玖、上杉のクラスには五月と、五つ子それぞれが別々のクラスに配属されている。
「大阪と横須賀で会ったけど私、全然見分けられなかったわ」
「あ、園子も? 私もみんなが揃った時何回も間違えちゃったんだよね」
尚、新一もできないがそれを馬鹿正直に言うヘマは回避した。新一と彼女達は初対面という事になっているから。
「そういえば修斗君って一花達をちゃんと見分けてたよね?」
「あ、それ私も思った! そういえば前に一花にこの事聞いたんだけど、五つ子に対して愛があれば見分けられるらしいわよ。ムフフ、修斗君にもやっと春が来たって事なのね」
前に四葉と五月が言ってたやつか。
「初対面の時とかから割と見分けられてたから関係ないと思うぞ。注意深く見ていれば細かい所作とか分かる」
「じゃあ一目惚れってやつね〜」
そうだった。園子は恋愛脳だったな。これ以上続けても意味はないどころかめんどくさいので適当にあしらう。
「それよりさっきからバス止まってるよなー」
季節は12月。冬である。そして林間学校で訪れる場所はスキーができるほどの山間部。積雪の影響からか高速道路で動けないほどの渋滞が発生し、先ほどからバスは全然動きもしてなかった。そんな時、携帯電話でずっと話し合っていた先生がマイクをとった。
「えー。ご覧の通りの交通状況により今日中に予定の宿舎に着く事が難しい。今、他の先生方と話し合った結果、道中の旅館に宿泊する事に決定した。部屋割りを追って通知するので各自到着までに確認するように」
そうして紙が前からまわされる。
「新一と同じ部屋か」
クラスは違うはずだが......あ、これバスの座席順になってる。
──────
「いい? 薬の効果が切れたらすぐに次の薬を飲まずに8時間は間隔を空ける事。幼児化している間は周囲に気づかれないように気を配る事。元の工藤新一の姿に戻ったら目立つ行動は避ける事。薬の効果時間には誤差があるから期限に余裕を持って行動する事。いくら彼がついてるからと言っても不測の事態が起こるでしょうから常に最悪の想定をして動きなさい」
灰原の言葉を思い出す。
新一とひとまず同じ部屋になれた事で夜に部屋に忍び込む必要がなくなったのは大きいな。新一が小さくなった時の布団の膨らみを作るカモフラージュも完成したし......(同じ部屋のメンバーが中道達なので正直多分何とかなる)
「まだ数時間は余裕があるな。まあお前は必要以上に部屋を出るなよ」
そう思って部屋を出る。上杉と彼女達はそういえばどうしたんだろう? 部屋の中で電話してしまえばまた何か言われるかもしれないので部屋を出てから電話をかけるべくポケットからスマホを取り出す。そんな時、廊下の奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「で、どうすんのよ!」
「今日のフータロー君、徹夜明けのテンションみたいだったねー」
「上杉さん普段旅行とか行かないのかな?」
「問題は誰がフータローの隣で寝るか」
「二乃がいいんじゃないですか? 上杉君も二乃を襲う度胸はないでしょうし二乃なら撃退できます。そうしましょう!」
「何で私なのよ! 村城が来てればこんな事で悩まなくてよかったのに! 何でアイツ断ったのよ!」
「そうですね。私も村城君が断ったのはちょっと意外でした」
「何かあるんじゃないでしょうね......あっ」
五つ子と同じ旅館に泊まっていた事が判明し、先生に話した上で上杉を俺たちの部屋に引き入れた。
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