米花町で五等分   作:マイケルみつお

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40話 米花町で肉まんおばけ

「ふざけんなっ! お前! 言っていい事と悪い事があるって分かんねぇのか!?」

 

「村、城......?」

 

私はあいつを、そして一花は上杉を明日のキャンプファイヤーに誘うために今、あいつと上杉の部屋の前に立っている。

隣を見てみれば......一花も私と同様に信じられないといったような顔をしていた。私達は何度かあいつを怒らせるような事をしてきたけど、上杉はともかくあいつがここまで怒ったところを見た事がなかったから。

そしてそんなあいつの様子に半ば呆然としていると......

 

「ぐ、ぐあああああああっっっ!!」

 

「え、何? 今の......?」

 

村城の声がした扉から今度は悲鳴に似た、苦しんだ声が響き渡る。

違う、これはあいつの声じゃない。でも私はこの声をどこかで聞いた事が......

 

「二乃! 何してるの? すぐに扉を!」

 

「そうね。村城! そこにいるんでしょ? 開けなさい!」

 

米花町在住の私達は悲鳴を聞けば自然と最悪の光景(殺人現場)が脳裏に浮かぶ。あの中には村城が! 

 

「早く開けなさい村城!」

 

鍵がかけられたままで扉は開かない。しかし私と一花の力だけでは扉を打ち破る事も難しい。

 

「一花? 二乃?」

「あ! 二人ともこんなところにいた!」

「......こんなところで何をしているのですか?」

 

「三玖に四葉に五月ちゃん? 三人こそどうしてこんなところに?」

 

騒ぎを聞きつけたからか知らないけれど他の姉妹も皆駆けつけてくれた。これなら扉を打ち破る事ができる! 姉妹の中で最も運動神経に長けた四葉と重量級の肉まんおばけがいれば! 

 

「四葉! 五月! この扉を破るわよ! 中からあいつが......悲鳴が聞こえたんだから!」

 

「すぐにやりますよー!」

「......なぜ四葉はともかく私に頼んだのかは後で聞きますが......分かりました」

 

四葉と五月は......やや不満げだったけれど納得してくれたようで、二人は助走のために十分な距離を確保する。

今に最高のスピードと重量によって扉を打ち破ろうとした時......

 

「しなくていいから」

 

内側から扉を開けた村城が二人を制止した。

 

 

 

 

「......何もないわね」

 

村城が開けた扉から村城達の客室に入り、悲鳴の正体を捜査したけど......死体はどこにもなかった。

 

「だからさっきから何もないって言ってるじゃん。大音量で映画を見ていて、その中の悲鳴と勘違いしたんじゃないか? ほら、ホラー映画見てたし」

 

そう言って村城はスマホを私達に向ける。あいつの言う通り、スマホにはゾンビが人間を次々と喰らい続けるホラー映画が映し出されていた。

 

「二乃。ちゃんとして」

 

「そうですよ。もう少しで私達は扉を打ち破るとこだったんですから!」

 

「違う! そんなんじゃ!」

 

三玖と五月に追及を受けるけど......あれは絶対に映画の悲鳴なんかじゃない! 

 

「一花も! あんたも聞いてたでしょ! 映画じゃあんなリアルな音は出せないわよね!?」

 

「それは......私としては首を縦に振りにくい質問なんだけど......。でも二乃の言う通り私も映画の音には聞こえなかったかな」

 

「でも一花、二乃。部屋の中には特に変な様子はないよ?」

 

四葉の言う通り、部屋を見渡す限り荒らされた形跡はどこにもなく、あいつの言う通り、この部屋では何も起こらなかったという発言が自然に聞こえるように整然としていた。──それはむしろ不自然なほどに。

 

「な? 何もないだろ? ......そうだ。今からちょっと出るから鍵閉めるぞ。お前らもさっさと出ろ」

 

そう言って私達を部屋から閉め出そうとする村城。......やっぱり怪しいわ。

 

「ちょっと出るって、どこに行くのよ。そんな大きいリュックなんてして」

 

私はやはり湧き上がる疑問を抑えられず村城に尋ねる。

 

「別に。ちょっと散歩に出かけようかと思っただけだ」

 

それだけであんな大きなリュックを? 怪しいわ。......もしかして! あのリュックの中にさっきの声のヒントが! 

 

「ちょっと待ちなさい! そのリュック......」

 

しかし最後まで私は言葉を続ける事ができなかった。辺りにあいつの姿がなくなっていたから。

 

「......ねえ一花、あいつどこにいったか知らない?」

 

「あれ? さっきまでいたはずなんだけど......どこ行っちゃったんだろ?」

 

ずっとあいつの近くにいた一花でさえあいつがどこに行ったのか見逃している。

 

「こんな事、前もあったわね......」

 

それは確か花火大会の時。あの時も途中であいつの姿を見失ったのよね。......いえ、私達が見逃したんじゃないわ。あいつが私達に見られないように離れたのよ。

 

「一花、あいつが帰ってきたら問い詰めるわよ」

 

私は......私達はあいつの事を知っているようで何も知らない。

 

──────

「......いやマジで危なかった」

 

二乃が目を逸らした隙に何とかその場を離脱したが......咄嗟の事で言い訳も上手く作れなかった。

 

「お前のせいだからな、新一。蘭にバラして殴られろ」

 

一連の騒ぎの元凶となった相手に対して小言を言えば......リュック越しに背中を小突かれる。

言うまでもなく背中のリュックサックに入っているのは幼児化した新一であり──いや、マジで危なかった。

 

 

 

 

「......すまんな、修斗」

 

本来ならあんな時間に新一の幼児化が解ける訳が無い。もう少し後のはず。勿論薬には個人差があって時間が早まる事もあるだろうが──流石に早すぎる。

 

「風邪、だな」

 

幼児化した新一のおでこは──かなり熱かった。

おそらく上杉の風邪が移り、免疫力の低下によって想定よりも早く発作が起きたのだろう。

新一と上杉は昨日、同じ部屋で眠っていたし元々あいつは体調不良のらいはちゃんの面倒を見ていて遅れたらしいから多分風邪はそこから。

 

「取り敢えずそんな状態でもう一度薬を飲ませる訳にはいかない。灰原とも約束したしな」

 

お目付け役としてAPTX-4869解毒の試作品は俺の手の中にある。......新一に渡したらとんでもない事になるのは火を見るより明らかだからな。

 

「流石にこればかりは、納得してくれるよな?」

 

新一と約束したのは林間学校終わりまであいつをサポートする事だったが、流石に約束を破った事にはならないだろう。それに──既にあいつが言っていた組織についての情報は既に得た。

 

「お、来た来た」

 

先生に何も言わず、というか言う余裕もなく林間学校を抜け出して道路まで出てくると──丁度見慣れた乗用車がこちらに向かってやってきた。

ハイビームの眩しさに目が慣れ、その乗用車を視認すると──阿笠博士のビートルだった。

 

「免疫の問題があった場合、想定よりも早く幼児化が解けるようね。貴重なデータが取れたわ」

 

運転席の隣、助手席に座っているのは灰原。チラリと彼女が書いているノートを横目で覗いてみれば昨日からの日時が全て記録されていた。それに合わせた所見もビッシリと。

APTX-4869の解毒薬を預ける代わりに新一の発作が起きた時間を提供する約束だったが──ちょっと引いた。

灰原から目を逸らし、俺はビートルのリアドアを開き、後部座席に新一を寝かせる。そして俺自身もあいつの隣に腰掛ける。

 

「おいおい何をやっておるんだ修斗君。君も体調を崩してたりしとるんか?」

 

「俺はこいつから風邪を貰ってはいませんが」

 

博士は俺が新一と一緒に林間学校を抜け出す事にやや驚いた様子を見せる。

 

「俺は今回、こいつの監視とこいつの正体がバレないように周りを警戒する事が林間学校での任務のようなものでした。肝心のこいつが途中離脱する以上、もう俺がこれ以上留まる必要はないかと」

 

「それならこれから新一を気にせず楽しんできたらいいと思うがのぅ......」

 

「......さっき、こいつから組織に関する情報提供を受けました。こいつが言った情報が本当なら......呑気に遊ぶ訳にもいきません」

 

「と言ってものぅ......林間学校もあと少しなんじゃろう? 組織について数日で何か確実な情報を得られる訳でもなかろう」

 

「それは......そうですけど」

 

林間学校が終わるまであと2日。それだけで組織に関する捜査が進むのであれば、こんなに苦労する事はない。

 

「それなら楽しんできなさい。君はまだ高校生じゃ。君の場合、今後どうなるか分からんから学生らしい事をできる機会はもうないかもしれんし......。もしかするとその体験が今後活かせる場面が来るかもしれんじゃろう?」

 

「博士の言う通りよ。それに学生の間にしかできない事もたくさんあるわ。あなたはまだ高校生なんだし、楽しんできなさい」

 

博士と灰原から更に追及を受け......ん? 

 

「ちょっと待て。博士はともかく灰原はまともに高校にも通ってないからそんな事分かんねぇだろ」

 

灰原はぷいっと目を逸らした。おい。

だけど......二人が言うのも一理あるか。一昨日から新一に必死であいつらとはあまり話してこなかったし。あれが本当ならあいつらと関われる時間はもうそんなに残されていない。

 

「分かった。じゃあ博士、学校への連絡はよろしくな?」

 

「......え?」

 

いや、「え?」じゃないでしょ。

 

「学校の先生には何も言わないで連れて来たんだ。このまま連絡なしに新一を帰らせたら大問題になるだろ? こいつ、まだ寝込んでいるし誰かが電話しないといけないからな。俺は今から宿舎に戻る以上、電話するのはおかしいしな」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ修斗君。一体何て説明すれば──」

「じゃあ戻るならそろそろ行かないといけないから。博士、あとよろしく」

 

「ちょ、ちょっと待つんじゃー!!」

 

博士の断末魔をBGMに俺は宿舎に戻った。




扉を蹴破るなんて現実では難しいですがここは米花町なので悪しからず。

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