米花町で五等分   作:マイケルみつお

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更新が遅れてしまい、申し訳ありません。


7話 米花町で回想に浸る

 〜八年前〜

 

 それはまだ俺が小学三年生だった時の話である。

「おはよう。」

「あら、今日は早いのね。朝ごはん、持ってくるから待ってなさい。」

「おはよう、修斗。あ、そうだ。今度あのシャロンヴィンヤードも参加する個人的なパーティーに呼ばれているけどお前も来るか?是非家族連れでと言われているがさっき聞いたら母さんたちは予定があるらしくてな。」

「うん、じゃあ行くよ。」

「あ!嘘?私修斗より起きるの遅かったの?!」

 

我が家は俳優の父と専業主婦の母。そして高校生の姉との四人家族であった。俺はそこで何不自由なく暮らしていた。食卓にはツヤツヤしているスクランブルエッグと焼き色が入ったベーコンが並ぶ。

 

 「いってきまーす!」

俺は朝ごはんを食べるとランドセルを背負って小学校へと向かう。今日はいつもと違って時間に余裕があるため走って登校する必要がない。俺はのんびりと普段とは違った通学路を歩いた。

 

「さようなら!」

「はい、さようなら。」

小学校も帰りの会が終わって放課後になる。今日は特に友達と遊ぶ約束もしてないのでそのまま下校する。

 

「あ、零奈先生!」

「あら、修斗君。」

家への帰り道にある公園で零奈先生を見かけたので声をかける。

 

「お母さん、この人は?」

すると公園の遊具で遊んでいた五人が近づいてくる。ってか顔そっくりだな…

 

「この子は私の教え子の弟さんなの。」

「初めまして村城修斗です。零奈先生、この人たちは?」

「ああ、そういえばまだ紹介してなかったわね。この子達は私の娘よ。五つ子なの。そうね...もしよかったら修斗君。この子達と遊んでくれないかしら。あなた達、さっきサッカーするには一人足りないって言ってたでしょ?」

 

「じゃあよろしく。ええと…」

「私が一花で」

「私が二乃よ。」

「私が三玖。」

「私が四葉です!」

「そして最後に私が五月だよ!」

大変失礼だと思うが判別できなかった…。

「まあ、そんなに落ち込む事はないわよ!私たちを見分ける事は難しいんだから。」

あ、この口調…

「二乃か。」

「えっ?」

「いやただ口調と仕草を見ただけだ。父さんがよくそういうコツを教えてくれたからな。」

「へ、へぇ…」

「とりあえずサッカーの人数が足りないんだろ?さっさと行こうぜ。」

 

「ナイスシュートです!修斗さん!」

「ナイスアシストだ四葉。ってか俺はお前がくれたパスを受けてシュートしただけだ。この一点はお前が取ったようなものだぞ。」

「そうですか、ニシシ。」

 

こんなに楽しかったのはいつぶりだろうか。そうか、まだ俺の苗字をこの人たちは知らないからかな。…学校じゃみんな大役者村城修の息子としてしか見てくれないからな…。サッカーの試合も終わってみんなでドリンクを飲んで休憩している時に俺は五人に尋ねた。

 

「なあお前ら。もし周りの人間が自分自身を見てくれなかったらどう思う。自分の家族とか変な肩書きで見られたら。」

「それなら私たちはいつもそうだよ。いつも五つ子の何女か?とか。私達個人というより五つ子という一つの集団で捉えられる方が多いよ。でも修斗君は私たちの家族以外で初めて私達を見分けてくれたんだよ!」

「そう。だから私は初めて家族以外で中野の三女じゃなくて中野三玖として見てもらえた。」

 

そうか。こいつらも俺と同じで常に自分以外の肩書きで見られているのか…。

 

色々と話もしていたら日も暮れてきた。

「まだ遊び足りないけどそろそろ帰るわ。」

早く帰らないと怒られてしまう。

「じゃあまた遊ぼうよ!私達、ママが再婚?したみたいで今日からこの近くに引っ越す事になったの。私達学校が終わったこの時間にはこの公園にいるから。また来てお話しなさいよね!」

 

彼女達と手を振って別れた。

 

 

翌日の土曜日。

「じゃあ準備はできたか?修斗。」

「うん。じゃあ行こうか。」

「いいなぁ〜二人とも。私部活休んででも行けばよかったな。あ、修斗。シャロンのサイン、必ず貰ってくるのよ。」

「へーへー。姉貴シャロンの大ファンだもんな。できたら貰ってくるよ。」

「か・な・ら・ず・よ!」

んな無茶な…。

 

 都内某所。俺は父さんとタクシーでパーティ会場へと向かった。

「うわ、すげぇ…」

「個人パーティといってもあのシャロンヴィンヤード主催のパーティだからな。」

その装飾の荘厳さと参加人数の多さは俺の予想を遥かに超えていた。しかもあちらこちらにはテレビで見た事があるような有名人も多く参加しており、小学生の自分がすごく場違いなように感じられた。

 

「あ!ミスター村城。ようこそいらっしゃいました。」

「村城さんだ!」

「うわすげー本物だ。」

 

父さんとパーティ会場に入った瞬間に父さんの周りには人が集まる。会場の視線を父さんが独占する。

「この子は?」

「ああ。私の息子だよ。」

「まあ!村城さんのご子息!ねえ坊や、お名前は?」

 

ああ、これだ。俺個人としてではなく父さんの息子としてしか扱われない。俺は参加してから僅か数分にして早くもこの場に来た事を後悔し始めたのだった。

 

 

「ねえ、今どんな気持ち?」

俺への興味もすぐに失せたのか、彼らの視線は再び父さんへと向かう。会場の端でオレンジジュースを飲む俺の事など誰も見ていないだろう。そんな俺に話しかけてきたのは…

「シャロ…」

「しっ!折角あなたのお父さんがこの会場の注目を集めているんだから。」

シャロンヴィンヤードだった。

 

「...さっきの問いですが…俺の父さんはすごい人だと思っています。でもその子どもの俺は大した事ない。学校でもここでも、俺は俺自身では見られない。常に村城修の息子という色眼鏡で見られるんです。シャロンさんには悪いとは思いますが今日ここに来たことも後悔し始めています。」

 

「そう…それはごめんなさい。このパーティも元々は個人規模のパーティにしようと思っていたのだけれど、どこかからか話が漏れてしまって参加者がこんなに増えてしまったの。坊やには本当に悪い事をしたわね。」

 

 

 日本を飛び越えて、世界で活躍するムービースター。村城修。彼は息子を連れてパーティに参加していた。その息子は著名人の息子としか見られていない事を不満に思っているようだ。別に珍しい事はない。偉大な親を持つ子どもにはよくある話だ。偉大な親の実績をさも自分の実績であるかのように誇らしげにする者、親の偉大さに飲まれる者。私は芸能界に携わっている者としてそのような者達を多く見ていた。

 

最初は取るに足らないただの少年だと思った。しかし実際はどうか。私は場の注目を集めないように気を払いながら彼に話しかけているのではないか。一体なぜ私の本能がそれほどまでに彼に興味を抱くのか。その理由が知りたい。

 

「あなたは必死に頑張っているのに偉大な親の息子としてしか見られない。これから頑張って、あなたの力が認められたとしてもメディアなどはその才能を偉大な親から受け継いだからと囃し立てるでしょう。」

 

どれだけ頑張って、仮に親を超えたとしても100%あなたの努力ではなくどこかしらで親のおかげと言われるでしょう。努力してもそれが完全に報われる事がない未来を歩む事になるであろうあなたに問いたい…。

 

「神様っていると思う?」

 

良い事をした人間が不幸になる。いい人間に限って早くいなくなる。悪い事をしている私は世間では称賛され、そしてこの歳になっても昔の美貌を保ち、生き永らえている。こんな世界に私は何度絶望したか…。

 

「神様…ですか。幼稚園の頃とかはいい事しても悪い事をしても神様が見てくれて後で罰が当たったりすると教えられました。しかし現実では悪人が裁きを与えられずに生き続ける事もあります。悪い人間に罰、というのは悪いことをしないようにという教訓と罰せられない人間に対する復讐への妥協だと思っています。「あいつには必ず天罰が下る」とかですね。そういう意味なら神はいないと思います。」

 

そう。やはりあなたもそう思うのね。

 

「しかし俺は神の役割とはもっと別のところにあると思っています。」

 

しかし少年の話はそこでは終わらなかった。

 

「人間って生まれた時からの悪人っていないと思うんです。俺が知らないだけかもしれませんが。でも赤ん坊の頃から悪人だなんて人、いないでしょ?育った環境とかで次第に悪に染まっていくんだと思います。だから神様は人間が死んだ後に悪に染まってしまったその罪を清算して洗い流してくれる存在だと思っています。その過程に地獄があって…生前あまりに酷い事をしてしまったら地獄での罰がそれなりに酷くなってしまうかもしれませんが、それでも死後、他の人たちと同じところに行けるように…ってシャロンさんどうしました?すみません。俺何か変な事言っちゃいましたか?」

 

少年に指摘されて私は自分が涙を流している事に気づく。

 

「いえ、何でもないのよ。ごめんなさい。」

 

 あれからシャロンさんは他の人達に気づかれ、父さんの時と同じように大人数に囲まれる事になる。その時涙を流していたため、彼らは俺に対して、父さんには見えないように怪訝な視線を送ってきた。が、シャロンさんが目にゴミが入っただけと言うとその視線は俺に一切の興味を失ったと言わんばかりに再び彼らの視界から俺という存在が削除される。

 

「正直よく分からなかったけれど、シャロンさんは俺を父さんの息子としてではなく村城修斗として見てくれたよな。」

 

その事がただひたすら嬉しくてその他の事などどうでもよく思えてきた。

 

長い間振り続けてきた雨もようやく止んだ。

 

 

 俺は他人に俺として認められる事。その嬉しさをあいつらにとにかく伝えたくて帰り道にわざわざ五つ子に会った公園で父さんにおろしてもらった。あいつらに会いたくて別れた公園の滑り台で何時間も待った。約束もしていなければ来る保証などなかったがそれでも待ち続けた。

 

しかし現実はそう小説のようにはいかない。運命の出会いも神様のいたずらも現実には存在せず数時間待ったが彼女達が現れる事はなかった。まあ彼女達には落ち度は全くないな。

 

「あ、やべ!」

公園の時計を見るともう8の数字を超えていた。完全に門限の時刻を過ぎている。

「裏からこっそり入るか。」

実はこの家には地下に繋がる秘密口のような場所があって。父さん達は俺がこの場所を知っているかは分からないが…かくれんぼで見つけたこの場所を通ればリビングを通らずに俺の部屋に辿り着く事ができる。それで実は既に帰ってました…って感じで今日をやり過ごすか。

 

 「すいやせん兄貴。最後の一人。あのムービースター。妻が殺されたって言うんでかなり抵抗してきて。薬でやる前に拳銃で撃っちやいました。」

「問題ない。元々薬の実験は余裕がある時にって話だ。標的三人は既に終わっている。それ以外の二人も既に心臓が止まったのを確認した。ガキが二人いるらしいがどうせこの炎で消し炭になるだろう。隠れたネズミを探し回るのも悪かねぇ余興だが今は他にやる事がある。ネズミが住み着いたのならその住処ごと燃やすだけだ。」

 

秘密口から家に入ると長い銀髪の男とサングラスをかけた男が何やら物騒な会話をしていた。彼らの姿を見た瞬間、比喩表現なしに全身の毛が総毛だし、本能が全力で恐怖という警鐘をこの男達から鳴らしていた。俺は咄嗟に物陰に隠れ、いや足が固まりその場から動けないようにしてその様子を眺めていた。しかし脳は足りない情報から生き延びる手段を講じるために全力で思考を続けていた。

「拳銃で撃ち殺した…?ムービースター?妻が殺された…?」

散りばめられたワードから俺は男達が何の目的でこの場を訪れたのかを察した。

 

 

 「任務完了した。」

組織のメンバーが集まるバーに現れる銀髪の男。組織の人間だろうと疑わしきは罰する。冷酷な思考回路を持つジンが入るとそうボスに報告する。

「ボス。ジンの任務って?私聞いてないんだけど。」

「ああ、ベルモット。役者の村城一家を皆殺しにするという任務を達成してきただけだ。ガキ二匹もあの炎の中じゃ生きてねぇよ。」

 

「村城...まさかジン!村城修の一家を殺したの?どうして?!」

「どうしたベルモット。お前あの役者と何かあるのか?」

「い、いえ...それは...。」

良い人間ほど早くいなくなる。私の心を浄い流してくれたシュートも...。やはり神はいないのね...いや、それは彼を否定する事になるわね...




最初は村城修斗は偽名にしようと考えていたのですが、そうなるとヒロインの五つ子にはいつまで経っても本名で呼ばれない事になり、それって本心で話す事ができてないって事だよな…と思い村城修斗が本名という事になりました。当初考えていた偽名も別のキャラとして出せたらいいな。

修斗は最初から五つ子を、というより零奈の娘として覚えていました。五つ子はまだあの時の少年だとは気づいていません。修斗の雰囲気が変わっているからです。

五月って零奈が死ぬまでは普通の口調だったよね。

あと最後のツメが甘いジンの兄貴は原作と何も変わっていません

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