紙束の決闘者   作:藤岡優介

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遅れてすいません。携帯が直ったので投稿します。


第3話

レッド寮の入学歓迎会はつつがなく行われた。

 

他のクラスでは派手にパーティーをしたりもしたようだが、レッド寮では簡素な食事が振る舞われた程度。

隣に座っていた、遊城はバクバクと一心不乱に食べているのが印象的だ。寮長である大徳寺先生の挨拶を聞き部屋に戻る。

 

 

デュエルアカデミアで過ごす入学初日も終わりに近い。

 

明日からはデュエルモンスターズに関する授業が始まるそうだ。万丈目とのデュエル後、パックを買いに購買部に向かったが生憎今日は開いてはいなかった。

 

暇なのでデュエルアカデミア周辺を探索した所、十枚ほどカードを拾ったが何らかの作為を感じてならないラインナップだ。

 

『地霊使いアウス』

『風霊使いウィン』

『水霊使いエリア』

『火霊使いヒータ』

『光霊使いライナ』

『ブラックマジシャンガール』

『ガスタの静寂カーム』

『アトラの蠱惑魔』

『久遠の魔術師ミラ』

『サイレントマジシャンLV8』

『ゴーストリックの雪女』

 

しかも、汚れもなく新品同様で落ちていた上に点々とカードが続いていた。この手のカードは一部のマニアが欲しがるカードだが何故落ちていたのだろうか。

 

デュエルアカデミア特有の新手の怪奇現象かもしれない。拾った以上カードを大切にするのはデュエリストとしての義務だ。拾ったカードと今日まで使って来たデッキをシャフルし、特製カードボックスの中に納める。

 

伝説のブルーアイズを多用してくる偉そうな人(ブルーアイズは世界に6枚無いらしいから半数をあの人が持っていると言う事になる。海馬コーポレーションの社長の人と同じ枚数もっているとは凄い)とのデュエルの賞品として貰ったこのボックスの中にはデュエルモンスターズを初めてから今日まで手に入れたカード全てが入っている。

 

その無数のカードの中から一枚づつカードを引いてデッキにする。俺からしても正気の作業ではないが既に何回も繰り返した作業だ。なるべくまともな構成になるように願いながらカードを四十枚引く。

 

恐る恐るデッキ(紙束)を確認するとやはり統一感は一切無い。そして、何より問題なのは、枠が紫色のカードが入っている。融合モンスターとかどう使えばいいんだ!融合素材はおろか、融合事態入って無いんだが!

 

俺はやり場の無い悲しみと共に融合モンスターをデッキから外しもう一枚カードを引いてデッキに加えデッキケースにしまう。

 

明日から実技とかあったらどうしようか。

一応やれるだけやってみよう。

俺はトレードマークの帽子を深く被り直しベッドに横たわった。

 

 

どうやら万丈目とのデュエルの後、俺が万丈目に勝ったと言う噂は急激に広まっていた様だ。朝早くに確認したPDFには大量のデュエルの申請メールが来ており、データ容量がマッハとなっている。

 

レッド寮からイエロー寮、さらにはブルー寮の生徒からも申請が来ている。

 

しかし、こんな大量のデュエルをする自信は無い。更に俺のデュエルの腕なんて街の奇抜なヘアスタイルのお兄さんとどっこいどっこいのレベルだしな。

 

とりあえず、断りのメールを一括で送っておく事にする。内容は『実力が足りない。相手にならないので断らせてもらう』にしておこう。

 

いやー、これで皆の誤解も解けるだろうな。

俺はそのまま、食堂に向かい朝食を取り教室へと向かった。

 

 

 

 

 

オベリスク・ブルーの女王《クイーン》と言う異名を持つ生徒がデュエルアカデミアには存在する。

天上院明日香。

 

戦士族のモンスターを扱い華麗に敵を粉砕する。

その美しい容貌と気さくな性格からファンは多く存在している。

だが、それらは全てが他人の意見であり明日香本人からしてみれば自分の実力は確かに高いかも知れないがトップでは無い。

 

その為日々研鑽に励みそれ相応の努力をしていたから今の自分があると理解していた。

そんな彼女が小波にデュエルの申請をしたのは紛れもない偶然だった。入学試験の時に見かけた、帽子を深く被った男。遅れてやって来た二人でのデュエルを見ていたが最初は呆れた物だ。

 

低ステータスカードにシナジーのないデッキ構成。

対する相手の男の子は使用難易度の高い融合のカードを容易く使いこなしていた。

 

正直、勝負にならないと思っていた。

 

しかし、そんな考えは簡単にひっくり返されていたのだ。お互いのエースカード同士が火花をぶつけあい、死力を尽くす手にあせ握る決闘。

 

久しぶりに自分が興味を持った相手でもあった。

いずれ、決闘したい。

 

そんな時だった。

 

 

入学式が終わり歓迎会の始まる前に二人のうちの一人が中等部男子トップと言われていた万丈目をデュエルで下したと言う噂が流れて来た。

 

その男子は帽子を深く被り、低ステータスのカードを自在に操ったと言うではないか。

確実に帝王が興味を持った男だろう。

 

いずれ、とは考えていたがこの疼きは収まりそうにも無かった。

 

だからその日の内にクロノス・メディッチ教頭先生に頼み込みあの男子、小波のPDFの番号を教えていボイスメールを送りつけた。

 

明日の放課後にでもデュエルをしたい。

 

デッキを調整しなくちゃ。

なんて事を考えながらベッドの中で微睡みに落ちていく。明日が楽しみ。

 

そんな淡い期待は朝一番に打ち砕かれたのだ。

 

起きた時には既に返信が帰って来ていた。

その返信の内容は全く想像とは違っていた。

 

『実力が足りない。相手にならないから断らせてもらう』

 

 

ショックだった。

 

自分の実力を見たわけでも無い者に実力不足と判断する小波に対して怒りが溢れる。

 

「上等じゃない・・・・・・!」

 

何がなんでもデュエルで白黒付ける。

 

明日香は自分の持てる人脈を全て駆使して動き始めた。

 

 

 

 

「シニョール小波。装備魔法について答えるノーネ」

 

最初の授業と言う事で授業の難易度もそんなに高くはない。今、授業しているのはデュエルアカデミアの教頭を勤めているクロノス教諭だ。

 

装備魔法か・・・・・・頭の中で覚えている事を纏めて答えを出す。

 

「装備魔法はモンスターに装備させることでステータスを変化させることが出来ます。攻撃力・防御力の上昇、破壊耐性の獲得、守備貫通能力の付与などが主な効果として挙げられます」

 

「フーム・・・・・・ドロップアウトの多いレッド寮の生徒にしてーは、なかなか勉強してるみたいなノーネ。では次はシニョール丸藤。フィールド魔法について答えるノーネ」

 

どうやら俺の答えは正しかったらしい。

次に指されたのは遊城の隣に座っている水色に染めた小柄な生徒だった。

 

 

「えーと、フィールド魔法は・・・・・・う、う・・・」

 

どうやら答えが纏まらないようだ。

その様子を見てクロノス教諭は困ったような顔をして

 

「もう良いノーネ! やはーり、レッド寮の生徒はもっと勉強しないと駄目なノーネ!」と言って次の問題へと 進んで行った。

 

回りの生徒たちは口々に笑い声を上げ、悔しそうに下を向く生徒を遊城は慰めている。

 

遊城がフォローしてるなら大丈夫だろう。

俺は目の前の授業に思考を落として行った。

 

 

今日の授業のハイライト。

 

一時間目デュエルモンスターズのカード基礎知識。

二時間目大徳寺先生による錬金術の授業。

三時間目不動性ソリティア論。

四時間目体育。

 

初日なのでここまでとなったが、四時間目に体育とは。やはり、デュエリストは体を鍛えなければ行けないと、言うことなのだろうか。

 

そのうちデュエルでバイクに乗ったり、フィールドを駆け巡らない事を切に願う。

 

そんな風に現実逃避している理由。

 

それは寮に帰る直前だった。

十代と水色ヘアーの丸藤に声を掛けられ一緒に帰ろうとした時に起こったのだ。教科書を鞄に納めようとしたら机の中から手紙が出てきた。

 

ご丁寧にハートのシールまで付いている。

その時点で俺は半分諦めていた。

横にはこういうイベントに敏感な遊城と色恋沙汰に敏感である事が判明した丸藤に見られてしまった時点で。そこからはあれよあれよと言う間にレッド寮の自分の部屋。

 

そして今に至る。

 

「すごいね! 小波くん! まだ入学して間もないのに!」

 

丸藤は興奮しすぎな気がするが。

取り敢えず中身を読んだがどうにもキナ臭い。

まず、差出人の名前がない。

 

しかも、このラブレターの文面には熱を感じない。

綺麗な文字で綺麗な文体で書かれているが近所に住んでいた乙女から感じていた熱意が伝わらない。

 

しかも、こんな帽子をかぶった顔も殆ど見えない男に一目惚れ?

 

そして疑念に拍車を掛けるのが隣で首をひねる遊城である。

 

「うーん、なんかデュエルの臭いがするんだよなぁ?」

 

遊城の勘は馬鹿に出来ない。

こいつが大量のおにぎりから意図も容易く鮭を召喚しているのを見かけたしな。

 

まぁ、でも行ってみるしかないか。

指定されたのは灯台。

何故かデュエルディスクを持ってくる様に書かれていたのは何故だろうなぁ・・・・・・はぁ・・・・・・

 

 

 

 

夜。灯台は港に建っており、辺りが十分明るく成るほどの光を放っていた。

 

そのたもとにオベリスクブルーの制服を着た女子が立っている。

 

「来たわね! 小波!」

 

 

どう考えても告白という気配ではないんですがそれは。

 

「貴方に与えられた屈辱・・・倍にして返してあげるわ!」

 

 

気のせいじゃないんですか。

逃げ出したいが何か逃がしてくれる雰囲気じゃない。畜生。

 

こうなったら。

 

「言いたいことはそれで終わりか。文句があるからデュエルで掛かってくるんだな」

 

「言われなくても!」

 

いやー、お互いデュエリストだと楽でいいな。

取り敢えずデュエル終わったらクールダウンしてることを願おう。

 

『デュエル!』

 

 

天上院LP4000

小波 LP4000

 

 

「先行は私よ! ドロー!」

 

さてはて彼女はどんなデッキの使い手だろうか。

 

 

「私は『エトワール・サイバー』を攻撃表示で召喚!」

 

『トォア!』

 

驚異的な身体能力を活かした動きでフィールドに登場する全身タイツのお姉さん。

 

効果モンスターかー。辛いわー。こっちまともな効果モンスター殆どいないわー。ふぅ・・・。

 

 

『エトワール・サイバー

効果モンスター 星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600 このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、 ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする』

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンドよ!」

 

確実に罠じゃないですかヤダー。

 

 

「俺のターン。ドロー!」

 

手札を眺めると相変わらずのバラバラ感であるが何時もの事だ。

 

 

「出でよ! 旧支配者の一族よ! その大いなる力を示せ!『グラッジ』召喚!」

 

その瞬間。

フィールド上に亀裂が現れその中から赤い液体が漏れだし一つの形を取る。

 

 

『――――――――――――!』

 

叫び声を聞き取る事は出来ない、何故ならば存在の次元が違うのだ。

 

 

「グラッジで攻撃! 『這いよる悪夢』!」

 

グラッジはその体を高速回転させながら突進し、エトワール・サイバーをすり抜けて天上院に向かう。

 

「直接攻撃効果ですって!?」

 

そう、グラッジは相手モンスターを無視して相手を攻撃する効果がある。

 

「さらに俺は速攻魔法『天使のサイコロ』を発動! 旧支配者よ! 天使の加護を受けよ!」

 

凡骨っぽいお兄さんから譲り受けたこのカードを見よ!

 

帽子をかぶった天使が大きなサイコロを振る。

 

『ダイスロール!』

 

出た目は4!

 

「4の目が出たのでグラッジの攻撃力と守備力は400上昇!」

 

 

『天使のサイコロ

 速攻魔法 サイコロを1回振る。 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力・守備力は、 エンドフェイズ時まで出た目×100ポイントアップする』

 

グラッジはますます勢いを増し天上院に突撃する。

 

「クッ! やるじゃない・・・・・・罠を警戒して直接攻撃効果モンスターを召喚なんて。先制攻撃を貰うとは・・・・・・え?」

 

 

天上院の顔が訝しげな表情を浮かべる。

 

 

天上院LP4000→3600

 

そう天上院のライフは400しか減っていない。

天使のサイコロで上昇した数値は400。

 

つまるところ。

 

 

「何が旧支配者よ! 攻撃力0じゃない! 」

 

 

いや、テンション上げていかんとやってられんよ。

グラッジ使うのなんて。

 

「グラッジは無限大の攻撃力を持つ。ダイレクトアタックに成功した次のスタンバイフェイズに攻撃力を1000上昇させる」

 

「何ですって!?」

 

そう、ダイレクトアタックに成功する限りこのカードの攻撃力はブルーアイズをも凌駕する数値まで上昇・・・するがそう甘くない。

 

 

『グラッジ

効果モンスター 星3/闇属性/水族/攻 0/守 100 このカードは相手プレイヤーに直接攻撃をする事ができる。 このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた場合、 次の自分のスタンバイフェイズ時このカードの攻撃力は1000ポイントアップする』

 

そう、攻撃力の上がるタイミングは『次の自分のスタンバイフェイズ時』にだ。

 

つまり、返しのターン攻撃力0のグラッジただの案山子になる。

 

「俺はカードを三枚伏せてターンエンドだ」

 

相手はエトワール・サイバー一体に伏せカードが一枚。まだ、どんなデッキかは判断がつかない。

 

「私のターン。ドロー!」

 

天上院はドローカードを見て笑みを浮かべる。

さてはてどんなカードが飛んで来るのかな。

 

「私は手札から『サイクロン』を発動! 私から見て右側の伏せカードを破壊する!」

 

そんな強いカード羨ましい事この上無いな畜生!

 

『サイクロン

 速攻魔法 フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。 そのカードを破壊する』

 

フィールドに存在する魔法か罠を破壊すると言うシンプル故に強力なカード。

 

俺がサイクロンいれようもんなら手札に来ないか逆に最初から手札に三枚合って事故る。100パーセント事故る。

 

砂埃を巻き上げながら伏せカードへと向かっていくサイクロン。

 

「だが甘い! チェーンして罠カードを発動! グラッジを生け贄に現れよ。『ナイトメア・デーモンズ』!』

 

「グラッジを生け贄に捧げたですって!?」

 

グラッジ残す理由は無いだろ。

フィールドから緑色の炎が溢れその内部から真っ黒な肌をした悪魔が三体現れる。

 

「「「キャキャキャキャ!」」」

 

悪魔は何が嬉しいのか知らんが俺の回りを高速回転している。

 

ええい!鬱陶しい!

 

「この罠は三体のナイトメア・デーモン・トークンを特殊召喚する。その攻撃力は2000!」

 

「攻撃力2000のモンスターを三体も!?」

 

ああ、素晴らしいカードだろ。

 

ただし、悪魔が天上院のフィールドに居なければな。

 

 

『ナイトメア・デーモンズ

 通常罠 自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。 相手フィールド上に「ナイトメア・デーモン・トークン」 (悪魔族・闇・星6・攻/守2000)3体を攻撃表示で特殊召喚する。「ナイトメア・デーモン・トークン」が破壊された時、 このトークンのコントローラーは1体につき800ポイントダメージを受ける。』

 

「よし!」

 

「よし!・・・じゃないわよ! さっきからふざけて無いで真面目にデュエルしなさい!」

 

ふざけてるだと?

大真面目だ。使えないカードなんてこの世には無いと蟹のお兄さんは言ってた。

 

確かにそうだ。使い難すぎるカードが大量にあるだけなんだよ。

 

「俺は更に罠カード『大落とし穴』を発動する!」

 

「え?」

 

その瞬間、エトワール・サイバーの下に大きな穴が現れる。そして、横にいた悪魔が足を掴み穴へと引きずり込んでいった。うわぁ、あんな演出になるのコレ。

 

「私のエトワール・サイバーが・・・・・・何故」

 

『大落とし穴

 通常罠 同時に2体以上のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。 フィールド上のモンスターを全て破壊する。』

 

実際このカード使うならブラックホールや奈落の落とし穴を使った方がいいレベルのカードだ。条件が厳しい上に効果には自分のモンスターが巻き込まれると言う殆ど使う人は居ないカードの一枚だ。

 

「さらにナイトメア・デーモン・トークンは破壊された時に800のダメージをコントロールしていたプレイヤーに与える。つまり、合計2400ダメージだ」

 

「キャア! やってくれるわね・・・・・・」

 

天上院3600→1200

 

「正直に言って貴方の事、期待外れだと思ってたの。だけどいつの間にか私は追い詰められてる。だから認めるわ。貴方は素晴らしい決闘者よ」

 

お、おう。何か急に認められた。

 

「だからと言って私が負ける理由には為りはしない! 私は手札から魔法カード『死者蘇生』を発動! 蘇れエトワール・サイバー!」

 

光と共に破壊されたエトワール・サイバーが現れる。

 

『死者蘇生

 通常魔法(制限カード)

自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。』

 

デメリット無しの完全蘇生か。

相手の墓地からも奪い取り可能な鬼畜カードだ。

 

昔、星のお兄さんに墓地に送っていたエグゾディアパーツを取られて負けたのはいい思い出。

 

「更に私は手札から『ブレード・スケーター』を攻撃表示で召喚!」

 

フィールドをフィギュアスケートの様に滑る全身タイツモンスターが現れる。

 

『ブレード・スケーター

 通常モンスター 星4/地属性/戦士族/攻1400/守1500 氷上の舞姫は、華麗なる戦士。 必殺アクセル・スライサーで華麗に敵モンスターを切り裂く』

 

これで都合、3100のダメージ。

此のままではじり貧。

ならば!

 

 

「バトルよ! ブレード・スケーターとエトワール・サイバーでダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、永続罠『ラッキーパンチ』発動!」

 

フィールドにレスキュー・ラビットが現れ突撃してくるブレイド・スケーターとエトワール・サイバーの前でシャドーを始める。そのレスキューラビットの前には回転する三枚のコイン。

 

「そのカードは入試の時の!」

 

そう、三枚カードをドロー出来るか。

6000ダメージを受けるかのギャンブルだ。

もっとも、どちらにせよ12.5%の確率であり何も起こらない事が多い。しかもライフダメージは正確には失う為回復させることが出来ないクソ仕様だ。

 

 

「運命の時だ! コインストップ!」

 

高速で放たれたレスキュー・ラビットの拳はコインを止め・・・・・・

 

表 表 表

 

「ラッキーパンチ成功! 俺はカードを三枚ドローする」

 

「そんな!?」

 

だがしかし、ラッキーパンチは攻撃を止める効果はないので確実にダメージは入るのだ。

 

高速で近づいて来る二体のモンスターからのダメージを受ける。

 

小波LP4000→900

 

「手札を補充されてしまったけどまだターンエンドじゃないわよ! 私は手札から融合を発動! フィールドのエトワール・サイバーとブレード・スケーターを融合! 現れよ『サイバー・ブレイダー』!」

 

 

バイザーを装着したスピードスケートがしたいのかフィギュアスケートがしたいのかよくわからないモンスターが現れた。

 

これ以上は死体蹴りレベルじゃないですかね。

 

 

だが有難い。

この状況で特殊召喚してくれるとはな!

 

「俺はこの瞬間、手札の『エクストラ・ヴェーラー』の効果を発動! このモンスターを守備表示で特殊召喚する!」

 

「手札から特殊召喚されるモンスターね・・・・・・だけどこの瞬間、サイバー・ブレイダーの効果を発動! 『 パ・ド・ドゥ 』!」

 

サイバー・ブレイダーに続いてフィールドに光が走る。

 

『ハァ!』

 

掛け声と共にマタドールがフィールドに登場。

 

でた!エフェクト・ヴェーラとバトル・フェーダに喰われた効果を持つ悲しみのカードのエクストラ・ヴェーラさんだ!

 

『サイバー・ブレイダー

 融合・効果モンスター 星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800 「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」 このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。 相手のコントロールするモンスターが1体のみの場合、 このカードは戦闘によっては破壊されない。 相手のコントロールするモンスターが2体のみの場合、 このカードの攻撃力は倍になる。 相手のコントロールするモンスターが3体のみの場合、 このカードは相手の魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする』

 

『エクストラ・ヴェーラ 効果モンスター 星2/光属性/魔法使い族/攻 600/守 200 相手がモンスターを特殊召喚した時、手札からこのカードを特殊召喚する事ができる。 この効果で特殊召喚したターン、 相手のカードの効果によって発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける 』

 

成る程、サイバー・ブレイダーは相手フィールドのモンスターの数で効果が変化するのか。今はエクストラ・ヴェーラが一体なので戦闘破壊耐性か。

 

かぁー助かったわー、俺のフィールドにサイバー・ブレイダーの攻撃力を上回るモンスター居ないから只の通常モンスターと変わらんわー。ふぅ・・・・・・

 

「私はこれでターンエンドよ」

 

相手フィールドにはサイバー・ブレイダーに伏せカードが一枚?こんな逆境は何時もの事だ。

ラッキーパンチ破壊されたら負け?

次のターンに新しいモンスター引かれたら負けだ。

 

何が何でも諦めないで俺の紙束を信じるのみ。

 

「俺のターン・・・・・・ドロー!」

 

引いたカードは・・・・・・ん?

 

これは行けるのか?

つかこんなカードデッキに入ってたか?

 

まぁ、いいか。

手札で腐りまくってたカード達が一気に頼もしく見えてきたぜ。

 

「俺はモンスターを裏側守備表示で召喚!」

 

「あら、いいカードが引けなかったようね。だけど容赦はしないわ。サイバー・ブレイダーの効果を発動! 相手フィールドのモンスターが2体のため攻撃力は倍になる! 『パ・ド・トロワ』!」

 

サイバー・ブレイダー攻撃力2100→4200。

 

ああ、一気にサイバー・ブレイダーが化け物レベルのステータスになった。

それにこのデッキにいいカード何て殆ど無いんですがそれは。

 

「まだだ、俺は手札から『太陽の書』を発動する!」

 

俺の頭上に光輝く本が現れ、その光で裏側守備表示のモンスターを照らす。

 

『太陽の書

 通常魔法 フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする』

 

「わざわざ魔法カードを使ってまで攻撃表示にすると言う事はリバース効果モンスターね!」

 

当たりだな。俺のデッキにはリバース効果モンスターは入ってなかった筈なので完全に限定的守備封じとして使う事しか出来なかったのだが漸く本来の使い方が出来る!

 

「太陽の光を受けて現れよ! 『幻想召喚師』!」

 

光が消えたとき現れたのは袈裟を着こんだ坊主だった。

 

「幻想召喚師は幻想と現実を繋ぐ存在! エクストラ・ヴェーラを生け贄にこのカードは融合無しで融合モンスターを特殊召喚出来る!」

 

「融合無しで融合召喚ですって!?」

 

エクストラ・ヴェーラが光となり円を描き、新たな形へと変化していく。

 

 

「集いし想いが、地獄からの呼び声となる! 光指す道となれ! 幻想召喚! 現れよ。『アンデッド・ウォーリアー』!」

 

 

 

ガシャン・・・ガシャン・・・と言う金属音とカタカタカタカタと言う乾いた音が聞こえ、フィールドの真ん中から不意に悪意が現れる。

 

その窪んだ眼下には何を写すのか・・・・・・。

 

 

 

 

いや、写さないわ、骸骨だろ。

 

 

『アンデッド・ウォーリアー

 融合モンスター 星3/闇属性/アンデット族/攻1200/守 900 「ワイト」+「格闘戦士アルティメーター」』

 

そう、このアンデッド・ウォーリアー。

雑魚である。

 

 

遊城が使っていたHERO。

今、対峙しているサイバー・ブレイダーには効果が付いている。

 

しかし、アンデッド・ウォーリアーはデュエルモンスターズ最初期のカードの一枚であり、効果何て無い上に素材のカードも貧弱。

誰も使う事は現在まずないと言う凄惨なカードである。

 

 

「せっかく、守備表示だったモンスターを攻撃表示にしてまで召喚したモンスターがそれ? サイバー・ブレイダーの攻撃力には遠く及ばないわ!」

 

「そうだな。だがこのアンデッド・ウォーリアーがお前に止めを刺すことになる。俺は魔法カード『痛み分け』を発動! 幻想召喚師を生け贄に捧げる!」

 

「何ですって!」

 

『痛み分け

 通常魔法 自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。 相手はモンスター1体をリリースしなければならない』

 

「痛み分けは相手に自分フィールドのカードを強制的にリリースさせるカード! さぁ、サイバー・ブレイダーをリリースして貰おうか」

 

痛み分けは実際強いが、使う奴は見たことがない。

何故なら地割れ、地砕き、クロスソウルなど類似に使いやすいカードが多いからだ。

自分のカードをリリースする効果も不人気の一つだろう。

 

「・・・・・・私はサイバー・ブレイダーをリリースするわ」

 

さて、あの伏せカード。

次元幽閉じゃねぇよな・・・・・・

 

「バトルだ。俺はアンデッド・ウォーリアーで直接攻撃! 『アンデッド・フィスト』!」

 

しなやかな動きで天上院に肉薄し、剣を使わず拳で攻撃する。

 

あれ? ソリッドビジョンって音声認識機能あったっけ?

 

「キャアアア!」

 

天上院LP1200→0

 

 

 

デュエルが終わると同時にソリッドビジョンが消えていく。

 

一瞬、アンデッド・ウォーリアーが此方を見ていた気がしたが気のせいだろうな。

 

目無いし。

 

「やられたわ・・・・・・完敗よ。あれだけの事を言うだけは有るのね」

 

クールダウンしたのか落ち着いた声色だ。

うん?あれだけ?

 

「いや、俺だって危うかった。遊城とのデュエルの時と同じくいつ負けても可笑しくはなかった」

 

何時もギリギリ何ですけどね。

 

「そう? そう言ってくれると嬉しいわ」

 

うむ、デュエルしてスッキリした。帰るか。

 

「もう夜も遅いし明日も授業だ。帰って寝る。天上院も早く帰れよ」

 

帽子を深くかぶり直してレッド寮に帰る。

 

そして、レッド寮の前まで来た時に何のために呼び出されたか結局解らなかったが呼び止められなかったと言う事は大丈夫何だろうと思って寝る事にした。

 

 

「まさか、あんなに強いなんてね」

 

 

灯台の下で未だに海を眺めながら小波の事を考えていた。よく、あんなギャンブルの様なデッキを回せる物だ。まるであのデュエル。昔、ビデオでみた初代決闘王の様なデュエル。全てのカードが使われるべきタイミングで手札に来ていると錯覚するまでのプレイング。まだまだ、自分は完成していない。私はまだ強くなれる。

 

 

「確か、遊城十代ってコも強いって言ってたわね」

 

いずれ、デュエルしてみるのも面白いかも知れない。

そう思い笑みを浮かべた。


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