アヤベさんがトレーナーからもらったケーキのことでモヤモヤする小説です

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アヤベさんとホワイトデー

 今日分の練習メニューが終わり、帰る準備をしていると、彼に声をかけられた。見たところ箱のようなものを持っている。

 

「はいこれ、バレンタインのお返し。手作りのマシュマロチョコケーキ。俺こういうの作ったことなかったから本当は市販品を買おうと思ったけど、アヤベが手作りチョコをくれたから手作りで返さないとって思って色々見ながら作ってみた。」

 

 そういえば今日はホワイトデー。すっかり忘れていた。

 

 箱を開け、中を見ると美味しそうなマシュマロチョコケーキが2つ入っていた。

 

「こういうケーキ系は初めて作ったからあんまり上手く作れなくてね。一応味見はしてあるか美味しくないってことはないと思うけど、口に合わなかったらごめん。」

 

「…どうしてケーキが2つ入ってるの?」

 

「それはアヤベの妹さんの分だ。アヤベって誕生日のときケーキ2つ買ってただろ?それにならって俺もお返しは2つにした。妹さんと一緒に食べなよ。」

 

 彼は笑いながらそう言った。

 

「…余計なお世話よ。でも…ありがとう。」

 

 そのあとは今後出るレースの打ち合わせをして、その日は解散となった。

 

*

 

 彼と別れた後、ちょっとそっけない態度をしてしまったことに少し反省しながら、彼の手作りのケーキを食べることにした。

 

 正直、思っていたより美味しかった。調べながら作ったと言っていたから当然といえば当然なのだけれど…普段不器用な彼がここまで美味しく作れるとは思っていなかった。

 

(彼って意外な才能持ってるのね)

 

 そんなことを考えながら食べていると後ろから視線を感じた。

 

 後ろを振り返るとカレンさんが私の方を見ていた。

 

「カレンさんどうかした?」

 

「それって…アヤベさんのトレーナーさんからもらったの?」

 

 少し居心地が悪そうな顔で質問された。

 

「彼の手作りだそうよ。あの人って不器用なくせして変なところで意外な才能もってるのね。」

 

 思っていたことをそのまま答えた。

 

 実際、カレンさんも彼が不器用なことは知っている。カレンさんからしても意外だったのかもしれない。

 

「…もしかして、アヤベさんってお返しの意味とかあんまり知りませんか…?」

 

「…知らないわ。何かこのケーキに意味があるの?」

 

「いや…チョコケーキ自体に意味はないんだけど…えぇっと…あ!アヤベさんがケーキ食べてるならカレン先にシャワー浴びるね!」

 

 カレンさんは慌ててシャワー室に入っていった。シャワー室を見た後、目線をケーキに戻した。

 

(…このケーキに意味なんてあるのかしら)

 

 カレンさんの歯切れの悪さも気になり、調べてみることにした。

 

 検索をかけると、『バレンタイン・ホワイトデーでNGなお菓子6選』というサイトが出てきた。その中の1選にマシュマロが入っていた。

 

『マシュマロの意味は「あなたが嫌い」です。口に入れるとすぐに溶けて無くなってしまうというところから「関係を終わらせたい」という意味で使われることもあります。』

 

「……」

 

 彼がこの意味に気付いてるとは思えないが、「でも、もしかしたら…」と考えると、目の前にあるケーキを素直に楽しめなくなった。こんなことなら食べ終わった後に調べればよかったと後悔した。

 

 その日の夜は気になってあまり眠れなかった。

 

*

 

 次の日のトレーニング中

 

 彼はメモ帳を見ながらノートに何か書いていた。

 

「…ねぇあなた。昨日のチョコケーキに乗ってたマシュマロだけど…」

 

 気になってはいる。けど、もし彼が意味を知っていてお返しにマシュマロを乗せた可能性がゼロではないので聞くに聞けない…

 

 声をかけると彼はノートから目を離し、私を見た。

 

「ん?あー、ケーキの上に乗せたマシュマロか!あれはアヤベがふわふわなものが好きなのは知ってたから乗せておいた。マシュマロ自体はレシピ材料に存在しないよ。」

 

「…じゃあ、意味を知らない…?」

 

「え、マシュマロに意味あるの?」

 

 それを聞いた途端、昨日の夜悩んでいたのが馬鹿らしく感じた。やはり彼は意味を知らなかった。私のために後から乗せた。それだけのことだった。少し安心した。それと同時に、一晩中彼のことを考えていたことに気付き、急に身体が熱くなった。

 

「お、おいアヤベ大丈夫か!?顔赤いぞ!?」

 

「トレーナーのバーカ…!」

 

 彼はなぜ今自分がバカと言われた分からないような顔をした。咄嗟に出た言葉のせいで彼のことをトレーナーと呼んでしまった。

 

「はぁ…トレーニングの続きしてくるわ。」

 

「え、あぁ…了解。」

 

(来年のバレンタインはあえてNGのお菓子あげようかしら…いや、送ったところで彼は気付かないか。)

 

 後ろを振り返ると、彼はまだバカと言われた理由を探しているらしい。彼の考えていることは分かりやすい。顔に出ているからだ。未だに身体が熱い。

 

(今からの予定をスピードトレーニングからスタミナトレーニングに変更しようかしら。)

 

 そんなことを考えながら彼の姿を後にした。


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