準備を終え、村を出発して三日。
「私も相棒決めようかな。毎回誰かに相乗りさせてもらうわけにもいかないし」
「まぁ、そのことは全部終わった後で考えたほうがいいだろ」
決戦の舞台となる湿地帯に向けてテクト達は進んでいた。ちなみにテクトは
戦闘地帯となるであろう湿地帯にたどり着く前に休憩をしておこうと考えた矢先、警戒のため分身体とともに先行し、周囲を探っていたソウエイから連絡が入る。なんでも戦闘中の集団を発見したらしい。
多数の
『こちらで始末してもかまいませんか?』
『できるの?』
『たやすいことです』
『なら、やっちゃって。私たちもすぐに向かうから』
「みんなごめん。ソウエイが戦闘中の集団を見つけたみたいだから合流しようと思う。このまま戦闘参加になるだろうから心構えをしておいて」
号令をかけそのままソウエイのもとへと向かう。到着したころには豚頭族は全滅していた。
「さすがソウエイ。仕事が早いなぁ」
「全く、俺たちの分も残しておいてくれよ」
豚頭族に対する報復をかけらもできなかったベニマルが悪態をついているのをしり目に、ソウエイに現状を確認すると襲われていた蜥蜴人族は重症のようだった。すぐにリムルが回復薬を飲ませると一度吐き出そうとしたが、回復薬であることを伝えると素直に飲み込み回復した。
回復した首領の側近は平伏し、現状を説明する。
ガビルが謀反を起こし首領や首領に近しい蜥蜴人族を拘束したこと。そのうえで豚頭族に対し打って出てしまったこと。ガビルが
(魔人の存在を考えれば、ガビルをそそのかして豚頭族に有利な状況を作り上げようとすることは想像に難くなかったはず…………考えが甘かったかな)
テクトが反省している間に、シオンが首領の側近の手を取り助けることが確定しているかのような雰囲気を作り出していた。
懇願の最中にテクトとリムルを持ち上げる発言をしていたことが彼女の琴線に触れたらしい。それに呆れつつも結局やることは変わらないとリムルが首領の側近を首領の代理として同盟の締結の是非を問うていたので、テクトはシオンを手招きし、正座させる。
「さて、シオン。なんで正座しているかとかを考えさせている暇はないから手短に言うよ。蜥蜴人族との同盟の件はもともと予定していたことだったからよかったけど、今回のシオンの行動ははっきり言ってマイナスだ。自身に耳障りのいい言葉があったことであっさりと信用して他人の意見を聞かずに方針を決めてしまった。これが周囲に迷惑を強いるものであったら大変なことになる。今後はよく考えてから行動するようにね」
神妙な顔つきで返事をするシオンに小さくうなずき話を終える。そしてリムルに蜥蜴人族の首領救出を命じられたソウエイが移動を開始しようとしていたところを呼び留め、自分も向かうことを宣言した。
「同盟の締結前にあっておきたいって話だったでしょ。もう締結された後だけど一度会っておきたい。それに、私の糸なら外に通じるルートに罠を仕掛けて通れなくすることもできるしね。そういうわけだから、湿地帯での指揮は任せる」
「おう、任せろ」
言葉を交わしテクトはソウエイ、首領の側近とともに首領救出へ、リムルたちは進軍を開始した。
蜥蜴人族の住処で行われたのは蹂躙といって差し支えなかった。
ソウエイの影移動によって移動してきた彼らに豚頭族が驚いている間にあるものはバラバラに、あるものはチリとなって消えていった。襲い来る豚頭族を何の障害でもないかのようにあっさりと突破していく様に側近は開いた口が塞がらない様子だったが、首領の姿を確認すると気を引き締め現状の説明をする。それが終わったのを見計らい、テクトが前に進み出た。
「お初にお目にかかります、蜥蜴人族の首領殿。私の名はテクト・テンペスト。この度蜥蜴人族と同盟を締結させていただいた村の管理者をさせてもらっているものです」
「これは丁寧にどうも。このような格好で申し訳ない」
「まぁ、話はあとで。ひとまず移動しましょう。ここは糸で封鎖するには広すぎる。もっと通路の狭い場所に移動したほうがいい」
テクトの言葉に従い移動を始める一行。道中で再び豚頭族が襲撃に来るも、あっさりと撃退する様子に側近以外は呆然とし、側近が同情を籠めた目でそれを眺めながら進んでいく。その最中、一体の豚頭族の始末をテクトがわずかの間止める。
「もういいよ、ソウエイ」
「はっ。見ているな、魔人よ。次は貴様の番だ。大鬼族の里を滅ぼし、我らを敵に回したこと、冥府で後悔するといい…………しかし、テクト様。なぜ御止めに」
「こっちを見ているなら、それをたどって魔人を見つけられないかと思ってね。無事見つかった。先にこいつを仕留めておくよ。ソウエイはこのまま首領たちを安全な場所へ。それが済んだら前線に出てくるといいよ」
「御意。お気をつけて」
ソウエイから離れシラヌイがつけたマーキングをもとに魔人を追うテクトだったが、魔人が前線へ向かったことで森に入ってそのまま湿地帯に逆戻りすることとなってしまった。そして、テクトが到着するころにはすでにゲルミュッドは息絶えていた。
「あれ? テクトはソウエイと一緒だったんじゃないのか?」
「先にゲルミュッドを捕まえておこうと思ったんだけどね。まさか裏方が表立って動こうとするとは思わなかった。で、なんで死んでるの? あいつ」
「ゲルミュッドが豚頭帝に魔王になれって言ったら、油断しきっていたゲルミュッドを切り殺して食いだしたんだ」
「そうなんだ。ソウエイと一緒に来ておけばよかった。一発ぐらい殴っておきたかったな」
豚頭帝は最速で名付け親の目論見をかなえるために最適な方法をとったらしい。豚頭帝は殺したゲルミュッドの体を食べ、その力を取り込んでいった。
≪確認しました。豚頭帝、個体名:ゲルドの魔素量が増加しました。魔王種への進化を開始します≫
魔素が渦巻き豚頭帝を包み込む。魔素の霧が晴れた先から新たな姿となってゲルドが姿を現した。
≪成功しました。個体名「ゲルド」は豚頭帝から
「俺は豚頭魔王! この世のすべてを食らうものなり! 名をゲルド。魔王ゲルドである」
「面倒なことになっちゃったな。さっさとゲルミュッドを始末できていればよかったのに」
「起きたこと言っても仕方ないだろ。このまま放置ってわけにもいかないし、さっさと終わらせるぞ」
そう言って身構えた二人を置いて鬼人たちが飛び出していく。
シオンがとびかかり、手にした大剣で切りかかるも魔王ゲルドの持つ肉切り包丁によってはじかれる。なおも向かっていくシオンに気をとられた一瞬でハクロウが首を落とすも魔王ゲルドは動き出し、そのままハクロウに肉切り包丁を振り下ろした。しかし、ハクロウはすでに退避しておりその一撃は当たらない。
「首を落としても動くとは」
「やれやれ、テクト様と最初に合いまみえたときのことが頭によぎらなければ、もらっていたやもしれませんな」
魔王ゲルドの首の断面からオーラがあふれ、首をもとの位置へと戻し、再生する。しかし、回復している間硬直していた魔王ゲルドの体をソウエイの糸が覆いつくし、そこにベニマルの
「これが、痛みか」
攻撃による煙が晴れた先にいたのは全身を焦がしながらも依然健在である魔王ゲルドの姿だった。その耐久力に愕然となるテクト達の前で、魔王ゲルドは自ら進み出た一体の豚頭族を食べ始めた。それによって自らの魔素を回復させ、傷を完全に癒やした。
「足りぬ。もっとだ。もっと大量に食わせろ!」
叫ぶと同時に手から魔力弾を打ち出し、それが鬼人たちの頭上で分裂する。それらが降り注ぎ鬼人たちを仕留めようとするが、それらはすべてリムルによって捕食された。
「リムル、私も」
「いや、いい。ここは俺に任せてくれ」
進み出ようとしたテクトを制し、リムルはゆっくりと魔王ゲルドに近づいていく。少し間を開けて止まると目が赤く染まり、すさまじい速度で動きだした。
魔王ゲルドが放った
まとわりつく炎によって回復ができないことを悟った魔王ゲルドが左腕を肩口から引きちぎり、強引に再生させた。魔王ゲルドは魔力弾を放ち「大賢者」がその対処をしている間に接近し、その体をとらえる。自身の「
(自身の耐性も計算づくで確実に命中させにいってるのか。これが「大賢者」に任せた
≪是。権限の委譲があれば実行可能です。実行しますか?≫
(いや、今から参戦しても意味ないからいいよ)
このまま焼き尽くされるかと思われた魔王ゲルドだが、これまでの黒炎獄や黒炎によって炎への耐性を得たことによってさしたるダメージもなく耐えきった。
「フハハハハ、俺に炎は効かぬようだぞ。このままお前を食らってやろう!」
「お前に食われる前に俺がお前を食ってやるよ。俺はスライムだ」
リムルの体が不定形となり魔王ゲルドを覆っていく。魔王ゲルドも必死になってリムルを引きはがし、「飢餓者」で食らい、対処を試みるが着実に体が覆われていった。
魔王ゲルドが飲み込まれた瞬間、魂の回廊を通じてテクトにもリムルたちの会話が聞こえてきた。
魔王ゲルドが名無しのころ。
彼は飢饉により苦しむ子供たちに自身の腕を引きちぎり、食料として与えていた。側近は止めるが彼は再生する自身を顧みることはなくその体を使っていく。すべては絶望的な状況の配下を救うために。
そして、彼は森を目指した。食料を得て飢饉によって飢える民を少しでも満たすために。
しかし、その半ばで倒れ伏した。自身を顧みず食料を配下に与え、ろくに食事をとらなかったことで限界が来てしまったのだ。
そこに魔人が現れた。魔人は彼に名前と食事を与え、一つの情報を与えた。豚頭帝が食事をとれれば「飢餓者」の影響下にあるものが飢えて死ぬことはないと。何かしらのたくらみに利用されていることは理解しながらも、配下を救うため、目につくものを片端から食らい続けることにした。
魔王ゲルドは告げる。
『負けるわけにはいかない。俺は他の魔物を食い荒らした。ゲルミュッド様も食った。同胞すら食った。同胞を飢えさせるわけにはいかない。俺は負けられない。俺が死ねば同胞が罪を背負うことになる。俺は罪深くともよい。だが、同胞たちに罪を背負わせるわけにはいかないのだ』
『この世は弱肉強食。お前は俺との食い合いに負けて死ぬ。だが安心しろ。俺がお前の罪も一緒に食ってやる』
『俺の罪を食う?』
『ああ、お前だけじゃなく、お前の同胞すべての罪も食ってやるよ』
『俺だけでなく同胞すべての罪も食うだと? お前は欲張りだ。しかし』
『罪が失われるだけでは不安だというのなら私が宣言しよう。豚頭族は私が救うと』
『お前は?』『テクト?』
『豚頭魔王ゲルドよ。暴風竜から与えられた加護の証明であるテンペストの名に誓おう。リムルが豚頭族の罪を引き受け、私が救う。本質とは少し異なるが俺は「
『そうだな。その通りだ。だから、安心して眠れ』
『強欲なものよ。慈悲深きものよ。感謝する。俺の飢えは今満たされた』
≪確認しました。豚頭魔王消失≫
ゲルドが消滅したことで「飢餓者」の効果も消え失せ、豚頭族の進行も停止した。ジュラの森を襲った災厄は終息した。
「しっかし、とんでもない約束したもんだな」
「もともとリムルもそういうつもりだったでしょ。言いっこなしだよ」
軽口をたたきあいながら皆の輪の中に戻っていった。
テクト、リムル、鬼人たちは部隊から少し離れた場所で話していた。契約についての話である。
「これで豚頭族の件は片付いたね。片付いたら自由にしていいというのが契約だ。今までご苦労様」
「テクト様、リムル様。お願いがございます」
「何かな」
「何卒、我らの忠誠をお受け取りください。我ら、これからもお二人にお仕えいたします」
「「いいの(か)?」」
そう告げ、ベニマルが頭を下げる。ソウエイたちに目をやっても不服そうな様子は見られなかった。シオンなどリムルに抱き着き絶対に離れないと言い出している。
こうしてテクト達の村に鬼人たちが正式に加わったのだった。
次回「同盟の発足」
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テクトが豚頭魔王戦に参加した場合を書いていたら、リムルが捕食する前に討伐完了してしまいました。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい