転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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どうしてこうなった……

久しぶりにサブタイトル付きで投稿できる程度には先が読めていたはずなのに……何故……


97話:やらかす阿呆

 やる気を強調しつつ去っていくディーノの姿に呆れた目を向けつつ二柱も仕事に戻ろうとしたところで、ヴェルドラが手を掴んで引き止めた。

 

「待て。お前達に頼みがあるのだ。ラミリスよ、約束を果たす時である!」

 

「なんだよ、急に」

 

 面倒事の匂いに二柱そろって嫌そうな雰囲気を出しつつ振り返る。しかしヴェルドラは気にせずラミリスへと話を振る。

 

「うむ、実はな」

 

「師匠はね、助手が欲しいって言ってたのよさ。人手が多いのは大歓迎だし、アタシからもそのう、お願いしたいかな、なんて……」

 

 ラミリスの言葉に二柱は苦虫を噛み潰したような顔になる。そもそも、ヴェルドラの相手ができる人材がいればすでに世話を押し付ける所存である。いないからヴェルドラは自由に研究所に入り浸っているのだ。

 

「いや、ヴェルドラの存在には色々と助かっているし、要望を聞きたいのは山々何だが、人材不足に困っているのにこっちに回す余裕は」

 

「待て待て、我も別に上から連れて来いなどとは言わん。リムルの「胃袋」にいた頃からの友と呼べる存在がいるのだよ。ソイツに是非とも、この肉体を一つ与えてやりたいのだ」

 

 テクトのお断りを遮り、ヴェルドラが心当たりを示す。

 

 ヴェルドラの友というのがイフリートであり、リムルがシズから捕食した際にヴェルドラが同じ隔離空間へ誘導したらしい。解析には不都合がないため大賢者も黙認し、そうして過ごす内に仲良くなっていたようだ。

 

「つまり、イフリートを復活させたい、と」

 

「クアハハハ! 流石はリムル、話が早いな!」

 

「そういえば将棋がどうこう言ってたっけ」

 

 要望は把握できたが、それを叶えるのは躊躇われた。

 

 そもそも、イフリートはレオンの配下である。その上戦った相手であり、ヒナタと戦った時は自我のない炎の上位精霊(イフリート)として召喚しただけなのだ。

 

 そのため、復活させて暴れられたり逃亡されると面倒だと感じていた。

 

「イフリートはレオンに忠誠を誓っていたはずだ。それを復活させてもお前の助手になるとは言わないんじゃないか?」

 

「む? ふむふむ、なるほどな。その点に関しては大丈夫だ。我の熱意が通じたから、イフリートのヤツも快く助手になりたがっておるわ」

 

「快く? 本当かよ……」

 

 ヴェルドラが一瞬誰かと話すような素振りを魅せていたためイフリートと思念を交わしたのは想像に難くないのだが、ヴェルドラの下に付きたいと本気で考えているのか疑わしく思ったのだ。

 

「でもでも! 師匠がイフリートに頼んだから魔導列車用の火炎蜥蜴(サラマンダー)をたくさん召喚できたし、今後のことを考えるとイフリートに仲間になってもらったほうがいいと思うわけよ」

 

 ラミリスの擁護を聞き、テクトが唸る。迷宮内ならともかく外部で運用する魔導列車で使役する火炎蜥蜴のことを考えるとイフリートの存在は大きい。僅かな時間考えてリムルへと視線を送るとリムルが頷いたためテクトも沙汰を下す。

 

「なるほどなぁ……わかった。ただし、ヴェルドラがきちんと責任持てよ?」

 

「おお、任せよ!」

 

「良かったね、師匠!」

 

 ペットを飼うことを許可するようなやり取りにリムルが微妙な顔をしつつ、イフリートを復活させる準備に入る。

 

 イフリートは「胃袋」でヴェルドラの魔素に晒されていたため、核としてヴェルドラの魔力の残滓から生まれた暴風大妖渦の魔核を使うことになり、依代は先程ヴェルドラが魔素を吹き込んだ竜気魔鋼に変質したものを使う事になった。

 

 作業はすぐに終わり、骨格に筋肉がつき、褐色の肌が覆っていく。長い黒髪に炎のような赤が刺し、金の瞳に真紅の瞳孔が輝いていた。

 

「おお、イフリートよ。ようやく肉体を持ち復活した気分はどうだ?」

 

「ヴェルドラ様、こうして現世にてまみえるのは初めてですね。そしてリムル様、私を復活させて下さり、感謝の念に堪えません」

 

「お、おう……」

 

「へぇ、随分と変わったもんだな」

 

 カプセルから出てきたイフリートが礼をする。リムルが戸惑ったのはイフリートが明らかに女性型だったからだ。

 

 以前戦った際は男性型だったのが、現在は肉感的な美女となっており、服装も薄布で要所要所を覆っただけの扇情的なものだ。

 

 テクトの言葉で容姿の変化によるリムルの動揺に気づいたのか、イフリートがため息を吐く。

 

「ああ、この姿ですか……おそらくヴェルドラ様のせ―御意向のお陰かと」

 

「お前、苦労してたのな……」

 

 テクトの眼差しが警戒から憐憫へと変わる。ヴェルドラと二人きりで逃げ場のない空間にいたことでだいぶ苦労をしていたようだった。

 

「ヴェルドラの意向って?」

 

「知っての通り、私は炎の上位精霊なのですが、今は風系統の力も扱えるようです。本来は真紅の髪色のはずなのですが、漆黒の比重が大きいことから考えるに、ヴェルドラ様の御力の影響が強くでているのでは、と。後は、暴風大妖渦が女性型だった為に、このように変化したのだと愚行します」

 

「あれ、女性型だったんだ……」

 

 衝撃の事実にテクトが呆然と呟く。その横でリムルはイフリートと話を始める。

 

「不満があるなら何か考えるけど」

 

「不満など、とんでも御座いません。見た目はともかく、この姿は以前の私よりも遥かに強靭ですから」

 

「お前はその、俺を恨んでいるんじゃないのか?」

 

「いいえ、恨んでなどおりません。私もリムル様の内にて、ヴェルドラ様から様々な事を学びました。思えば私は、そして井沢静江(シズエ・イザワ)も、使命感と責任感が強すぎたのでしょう。互いに相反する考えを持ち、決して混じり合う事が出来なかった。もっと違った道もあったのではないかと、そう思わずにはいられないのです」

 

 イフリートの悔やむような表情に嘘は感じられなかった。その様子にテクトは信用へと考えを傾けつつ、しんみりした気持ちを切り替えるように場所を移して今後の事を相談することにした。

 

 イフリートとは様々な話をし、「胃袋」での苦労とヴェルドラへの忠誠を確認できた。レオンへの気持ちは残っているが、忠誠心と呼べるものではないらしい。例えるなら郷愁なのかもしれない。

 

 リムルも思うところはあるがそれはそれとしてヴェルドラの助手として受け入れる構えを見せ、話は落着―しなかった。

 

「それでだな。一つ相談があるのだ」

 

「今度はなんだよ」

 

 ヴェルドラの言葉にテクトは嫌そうな顔を作る。だが、暴風竜には通じない。

 

「うむ! 実はな、イフリートに名前を授けてやりたいのだ。何しろ、イフリートとは個体名であって個体名ではない。精霊召喚:炎の巨人(イフリート)によって呼び出された炎の上位精霊は皆、“イフリート”と呼称されておるゆえな」

 

「なるほど、今のイフリートへの名付けには危険が伴うから協力してほしいと」

 

「そういうことだ。お前達に任せれば問題あるまい」

 

 今のイフリートの魔素量は特A級である。ソウエイやゲルドに匹敵する魔素量の存在への名付けは如何にヴェルドラでも危険なのだ。異常なことをして無事なテクト(バカ)がおかしいのである。

 

 そんなバカがヴェルドラの要請へ得意げに応じる。

 

「任せろ。この俺が完璧に調整してやる」

 

「クアハハハハ! 頼もしいな! よし、ではイフリートよ、貴様は今日より“カリス”と名乗るがいい!!」

 

「御意。私は“カリス”として、偉大なるヴェルドラ様に忠誠を誓いましょう!!」

 

 イフリートが“名”を受け入れたことで膨大な魔素がヴェルドラから流れていく。

 

「―む?」

 

 まず異変を感じたのはヴェルドラ。

 

「おい、テクト?」

 

 次いでリムル。

 

 ヴェルドラの要請は、過剰な魔素の投与を抑えるため魂の回廊を通じて名付けによる魔素の流れを遮断することだった。

 

 だが、そこはテクト・テンペスト(稀代の阿呆)。減った魔素量だけ、かつて自分達が受けていた恩恵のようにヴェルドラへと送り込むことで補填していく。

 

 結果として莫大な魔素がイフリート―カリスへと注ぎ込まれ、上位精霊から炎の聖魔霊王(プロミネンスロード)へと進化した。精神生命体である精霊が、魔的に進化して肉体を得た上で、さらなる進化をしたらしい。カリオンやフレイを優に超える魔素量にリムルは目眩がする思いである。

 

「完璧なしご―ヘブっ!」

 

「阿呆かぁぁあああ!!」

 

 清々しい顔で汗を拭い、サムズアップを極めたテクトの顔面にリムルの拳が突き刺さった。リムルは後頭部から着地したテクトへと馬乗りになると襟首を掴んで(こんな感じ)になった頭を揺さぶり始める。

 

「阿呆か!? そうだな! 阿呆だったな! お前に任せたのが間違いだったよ!」

 

「せめて弁明は聞いて?」

 

 テクトとて悪ふざけで魔素を注いだ訳では無い。これまで自分達が危険を回避した方法がヴェルドラからの魔素吸収という手段であったため、協力の意味を取り違えたのである。

 

 ヴェルドラが反応を示したことで意味の取り違えには気付いたが、魔素を流すために開けた魂の回廊を閉じる事はできず、ついでに問題自体は起きないため諦めたのだった。

 

「クア──ッハッハッハ、流石はテクトだ! お前はいつも我の予想を超えてくるな」

 

 上機嫌で笑うヴェルドラだったが、カリスの姿を見て眉を顰める。

 

 というのも、カリスの姿は黒をベースに赤と()が混じった髪にかつて戦った男性型へと変化していたのだ。

 

「チッ、せっかく我が、面白―良かれと思って美しくしてやったのに。こうなるとはな」

 

「やはりですか、どうせそんな事だろうと思いました。テクト様が私の願望をすくい上げて下さって安堵しております。まあ、女性型にも戻れますので、どうしてもということであれば……」

 

「良い良い、冗談で貴様をからかってみただけよ。好きな姿をしても文句など言わぬわ!」

 

「冗談じゃ済まなかったかもしれないんだから適当に言うなよ?」

 

「お前はもっと反省しろ!」

 

 ため息混じりに主従が話す横でリムルは折檻を始める。視覚的には関節が異様な方向に曲がっていて大変な状況だが、実際は何の問題もない。カリスはそんな魔王二柱を視界に収めないよう立ち位置を調整して話を続ける。

 

「それで、カリスの種族だが、炎の聖霊魔王らしい」

 

「炎の聖霊魔王ですか!? 信じられない力です……」

 

 下手な魔王級を凌ぐ力にカリスが瞠目する。どれだけ強くなっても役目はヴェルドラのお目付け役であることにリムルは同情的な目を向けつつ、テクトの関節を極めていくのだった。

 

 その後、あっという間に馴染んだカリスは予測通りヴェルドラとラミリスにこき使われるようになった。

 

 突如として並の魔王を凌ぐ力を持った配下が生えたことにディーノは色々と言っていたが、ベスターやラミリス達に宥められ、しばらくすると何も言わなくなった。

 

 また、霊樹人形妖精への進化は樹妖精全員が受け入れた。依代も憑依するだけなので仮魔体として完成させ、樹人族が次々に憑依していった。個々人の修正は憑依後に各自で行うことにして作業は終了した。

 

 樹人族に使った依代の補充を急ぐべきか考えていた頃、ディアブロとテスタロッサが帰還した。

 

 今回は部外者もいるため応接室へ通すように指示をだし、先に移動して待機する―間もなくディアブロとテスタロッサが入ってきた。

 

「「リムル様、テクト様。ただいま戻りました!」」

 

 ディアブロが満面の笑みで、テスタロッサが微笑みを浮かべながら入室する。その二人に女性が二人、信じられないものを見たといった様子で続く。

 

「今日は約束通り、御二人にお目通りさせたい者共を連れてまいりました。是非とも会ってやって頂ければ、これに勝る喜びは御座いません」

 

 ディアブロの言葉を流し、二人がソファへと腰掛ける。

 

 紫と金髪の少女二人を観察して、テクトが僅かに咳き込んだ。

 

 一見すると人間にしか見えないが、二人とも上位魔将であることは智慧之王が看破したことでリムルも知った。それでもテクトが動揺するほどのことかと考えていると、テクトは何かに気づいたようにゆらりと立ち上がった。

 

「ディアブロ、テスタ、この二人が上位魔将でわざわざ連れてきたってことは、原初の紫(ヴィオレ)原初の黄(ジョーヌ)で間違いないな?」

 

 テクトの言葉に座っていた二人が動揺を露わにする。

 

 それに対し、ディアブロとテスタロッサは嬉しそうに笑う。

 

 一方、リムルは初めて聞く名称に内心で疑問符を浮かべていた。

 

「クフフフフ、流石はテクト様。御賢察の通りです。全力で隠蔽するように言ってありましたが、簡単に見破られましたか」

 

「そうか、お前が原初の紫か……」

 

 確認を取ったテクトはディアブロには答えず、紫の髪の少女へと視線を移す。見つめられたことに動揺冷めやらぬ少女だったが、気付けばテクトが正面に立っており、そのまま頬を思い切り引っ張られた。

 

「お前か〜〜!」

 

 旧知の知り合いの思いがけない変顔状態にディアブロとテスタロッサが吹き出す。原初の黄は事態を飲み込めず、原初の紫は混乱してされるがままとなる。

 

 テクトの蛮行を止めたのはリムルだった。

 

 ひとまず羽交い締めにして原初の紫から引き剥がすとそのままソファへと戻る。

 

「ちょいちょいちょい! 何やってんだ、テクト!」

 

「離せ! こいつの監督不行き届きでラージャはあんなに面倒になったんだ!」

 

「は? ラージャ?」

 

 ラージャとはかつてテクト達が介入したことで国難を逃れたラージャ小亜国の事だが、そこで毒素を撒く魔法陣を設置し、意図的に王女トワを苦しめていたのが、原初の紫の配下であるラキュアとその仲間の悪魔族だった。

 

 当のラキュアが見捨てられたり、トワを苦しめていた呪毒が祓われたりと、一連の難題が原初の紫の意思によるものではないことはなんとなく察していたが、原初の紫の存在に当時のヒイロに対するやり場のないモヤモヤを思い出し、八つ当たりしたのである。

 

 最終的にスライムに戻ったリムルを揉んで気持ちを落ち着けつつ話に進める。

 

「まぁ、後は当人同士に任せるとして……他はいないのか?」

 

 先程の蛮行については触れる事なく話を振る。答えたのはテスタロッサだった。

 

「私とそこの二人の側近が二体づつ。それとディアブロが拾ってきたものが一体。後は雑兵程度ですが、私の配下が二百。それと先程挙げた拾い物の配下が百となります。後は、本人次第ですわ」

 

 そう言って原初の紫と原初の黄に視線を送る。

 

 二人はようやく認識が戻ったのかハッとしたように口を開いた。

 

「シロの話を聞いた時は正直疑ったけど、それは愚かだったと気づかされたよ。ボクのシモベ二百と一緒に、テクト様とリムル様のお仕えしたいです」

 

「私も意義なし! 我が軍勢二百を引き連れ、御二人の軍門に降るとしよう!」

 

 原初の黄の尊大な態度にディアブロとテスタロッサが動きかけたが、テクトが軽く手を振って抑える。尊大ではあるができる限り丁寧に接しようとしているからこその措置である。

 

「これで七百か」

 

「はい。千体用意するはずが、このような結果となり、申し訳御座いません」

 

「構わん。使わなかった依代にも使い道はあるからな。とりあえず、顔合わせといくか」

 

「おお、有難う御座います! と、その前に。私が彼女達をどのように勧誘したのか詳細な報告を」

 

「長くなりそうだから後でな」

 

「えっ?」

 

「待たせるのも悪いし、さっさと紹介してくれ」

 

「し、承知しました。それでは、場所を移したく思います……」

 

 話を遮られ、ディアブロが固まる。リムルの追撃に肩を落とした。テスタロッサ達はその姿をみてクスリと笑い、ひとまず迷宮百階層へと移動した。

 

 ディアブロが迷宮を提案したのは悪魔族が大量に召喚された場合の住民への心労を気遣ったわけではなく、単純にリムルとテクトが共同で敷いた結界に悪影響を及ぼすのを避けるためだった。移動先が百階層なのは依代が近いためだ。

 

「姿を見せる事を許す。顕現せよ!」

 

 ディアブロの命令で悪魔達が出現する。

 

 先に挙げられていた側近六体は上位魔将で、拾い物は上位悪魔である。

 

 以前ギィが説明していたように、悪魔族は上位魔将が成長限界であり、そこから生きた時間と強さで分類される。

 

 時間での分類は

 

 まず原初が存在し、

 

 三千年以上の太古から生きる伝説的な、先史種。

 

 千年以上の時を生きる大悪魔、古代種。

 

 四百年以上の知識を蓄えた、中世種。

 

 百年という世代を超えた、近世種。

 

 人の半生以上を学んだ、近代種。

 

 生まれたばかりの、現代種。

 

 となる。

 

 また、これらは“王侯貴族”のような分類もされ、支配者階級の指標である伯爵位はもっぱら古代種が該当する。

 

 そして、支配者階級の悪魔は他と隔絶する権能を有しているのだ。

 

 そういった智慧之王の説明にディアブロが強大な悪魔だったことを理解したリムルは身震いしていた。

 

 ディアブロの説明では魔王二柱の素晴らしさを説いたところ、是非とも役に立ちたいと懇願してきたそうだが、テスタロッサはため息を吐きながら頭を振る。なぜなら七体全員がボロボロにされた痕を残しており、特に上位悪魔は生きているのが不思議な程だった。

 

 だが、なにかいいたげな雰囲気をだしつつもそれについては沈黙し、忠誠の言葉を紡ぐ。

 

『我らは今この時より、魔王両陛下の忠実なる下僕です。何なりと、御命令を!』

 

 七百体の悪魔が異口同音に忠誠を誓うのにディアブロが満足そうに頷く。リムルを抱えたままのテクトがにんまりと笑っていた。

 

 

 

 全員揃っているため早速依代へと受肉させる作業に移る。

 

 リムルが「暴食之王」で捕食して骨格に設置された“疑似魂”に統合していく。早速思い思いに依り代の形状を変化させていく様を見つつ、テクトは原初二柱に向き直った。

 

「お前達の依代は俺が調整しようと思うが、リクエストはあるか?」

 

「いえ、テクト様にお任せします」

 

「右に同じく。テクト様に一任する」

 

 テクトの提案は原初を宿すには魔鋼製の骨格では器足り得ないので再調整を行う必要があるため、ついでのにできることならしてやろうと考えたためだが、特に意見はでなかったためそのまま調整を始める。

 

 二柱の外見から容姿を再現できるように骨格を調整し、ついでに金を混ぜて神輝金鋼へと変化させる。馴染ませるために魔素を注ぎつつ、思いついたようにテスタロッサへと振り返った。

 

「お前もこっちに移るか?」

 

「いえ、テクト様より賜った身体を変えるなど不敬な真似は出来ませんわ」

 

 テスタロッサの身体は召喚時に存在した大量の死体を使ったものである。そのため気になるのではと考えた故の提案だったが、杞憂だったようでテクトは内心で胸を撫で下ろしていた。

 

 調整が終わった骨格に原初二柱が宿り目覚めを待っていると、ディーノ、ラミリス、ヴェルドラが見物に来た。

 

「お前ら仕事はどうした?」

 

「いいじゃん! アタシ達も手伝ったんだし、紹介ぐらい」

 

「どうした?」

 

「いや、どうしたって……」

 

 原初二柱を見て言葉を失ったラミリスへの問いかけに答えたのはディーノだった。だが、明確な答えを出すことなく黙り込んだ。

 

「これはまた。これほどの数の悪魔族を呼び集めるとは、大したものだなディアブロよ」

 

 ヴェルドラの称賛にリムルは二人が言葉を失った理由を数だと認識した。元より千体と言っていたが、実際にそれほど多く集めるとは思っていなかったのだ。

 

「いや、それだけじゃないんですけど。ちょっとアタシも驚いているんだけど、そこの二柱、すっごく長生きしてそうに見えるんですけど……」

 

「まぁ、原初だしな」

 

「げ……」「な……」

 

「長生きってあんまり女性に言うべきじゃないような気がするんだよな」

 

「クアハハハ。それについては我も学んだぞ。いらぬ怒りを買うらしいな」

 

 テクトの適当そのものの返答にラミリスとディーノが絶句する。そんな二人を放置し、テクトは原初二柱のカプセルへと向き直る。

 

「原初の紫―お前にウルティマの名を与える。そして、原初の黄―お前にはカレラの名を与える。我らが配下として励むがいい」

 

 名付けに伴い受肉が一気に進み、内部から放たれる妖気に耐えかねたカプセルが砕け散る。

 

 ちょうど到着した直後に原初が悪魔公に進化する瞬間を見たベスターは、そのまま現実逃避をしながら戻っていった。

 

 それを尻目にリムルから魔素を受け取って側近達にも名付けをしていく。

 

 テスタロッサの側近―モスとシエン。

 

 ウルティマの側近―ヴェイロンとゾンダ。

 

 カレラの側近―アゲーラとエスプリ。

 

 そして、上位悪魔がヴェノム。

 

 名付けにより全員が受肉すると、モスとヴェイロンは悪魔公、ヴェノムが上位魔将に進化した。残りの四人は進化しなかったが、成長限界超えて魔素量を増している。

 

 一旦打ち止めかと思われたが、他の悪魔族であればカプセル内の魔素を消費して名付けを行えたため、名前を考える手間だけで済み、二日程で全員が受肉に至った。

 

 全員が最低でも上位悪魔へと至り、個体によっては上位魔将へと進化した。

 

 黒色軍団(ブラックナンバーズ)

 

 形式的に原初の黒(ディアブロ)を頂点に置く魔国連邦の最大戦力

 

 複数の原初を擁する恐怖の象徴が生まれ落ちたのだった。

 


 

「シロ―じゃなかった、テスタロッサが降ったって聞いたときは何を言ってるんだろうって思ったけど、実際に会って、理由がよくわかったよ」

 

「そうだな、当時は戯言だと切って捨てるところだったが、こうして出会えて良かったと思えるよ」

 

 テクト達がカプセルの中の悪魔達に名前を付けていく傍らで原初達が話していた。ディーノはベスターとともに現実逃避気味に仕事に戻り、ラミリスとヴェルドラも邪魔をしないようカリスによって連れ出されていた。

 

「まったく、私がくだらない嘘を吐くことなどないのはわかっていたでしょうに」

 

「それはそうだけどさ。キミが誰かに降るっていうのはそれだけの事態ってことだよ」

 

 嘆息するテスタロッサにウルティマが肩を竦める。

 

 カレラもウルティマに同意するように頷き、思い出したように視線を向けた。

 

「それにしても、まったく抵抗しなかったな。ああもいいようにされれば反射的に手が出ると思ったが」

 

「まあ、普段なら手が出てたところだったけどね」

 

 そこで言葉を切ると、ウルティマは僅かに身震いする。

 

「あんなにゾクゾクしたのは初めてだよ」

 

 そう言ったウルティマの表情はうっとりとしていた。

 

「気付けば目の前にいて、触れられた瞬間に理解したよ。これはダメだって」

 

 原初たるウルティマは敗北したことなど無い。加えて言うのであれば、自分達こそが最強であるという自負がある。

 

 それでも、触れた瞬間に様々なことが覆された。

 

 感じ取れない動きで触れられ、計り知れない力を感じた。

 

 捕食者が被捕食者へと転がり落ちたような状況にも拘らず、懊悩するでも反抗するでもなく恍惚とした表情を浮かべるウルティマにテスタロッサは額に手を当てながらため息を吐いた。

 

「まあ、あなたが何を思おうが構いはしないけれど、あまり派手に動きすぎると不況を買うわよ」

 

「わかってるよ。新参で割って入ろうとするほど恩知らずってわけじゃないし。ちゃんとお役に立てるところをみせてからじゃないとね」

 

 口では嘯きながら不敵に笑うウルティマに、テスタロッサはも一度ため息を吐く。カレラが目を瞬かせるのも構わず、ウルティマは思案するのだった。

 


 

 次回「子どもの成長は早い」




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炎の聖魔霊王(プロミネンスロード)という誤字から生まれた新種族にウルティマ……どうしてこうなった……

まぁ、いいか!(思考放棄)
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