転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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98話:子どもの成長は早い

 悪魔族の名付けを終えた翌日。

 

 テクトは早速、原初四柱を集めて相談を行っていた。

 

「テスタ、お前に俺達の全権代理たる外交武官として評議会へと赴いてもらいたい。それと、国内での悪事の捜査をする検察庁の検事総長と物事を公平に裁く司法府最高裁判所長官が空いているが、希望はあるか? 他にやりたいことがあるなら見繕うが」

 

 まだ幹部への紹介も済んでいないウルティマとカレラを要職に据えるのは反発を招く可能性もあるが、テクトは心配していなかった。

 

 まず、二人ともかなりの実力者だ。原初の悪魔という肩書は伊達ではなく、劇的に上昇した魔素をすでに周囲へ影響のでないレベルに抑えている。配下の悪魔達が未だ迷宮で妖気を垂れ流している中、完璧な制御を行う実力の高さに疑問を挟む余地はない。

 

 それに何より、相手が幹部であっても公正に接する必要があるため、互いに多少反発するぐらいがちょうどいいと考えていた。

 

 三人もそれぞれ快諾し、サラリと流し見た法案を諳んじてリムルを納得させた。

 

 ウルティマとカレラはあっという間に組織をまとめ上げ、元々業務に携わっていたログルドとルグルドの報告では問題なしとのことだった。

 

 ちなみに、二人の素性はディアブロの紹介の悪魔としか伝えられていない。原初を相手に仕事をしろと言われても困るだろうという判断だが、知らないが故にある程度フラットに接する事ができ、それが原初二人からの好評価に繋がっていたりする。

 

 ちなみに、魔国連邦に常駐して取りまとめを行う立場にディアブロが就任しているため、原初三人は形式的にはディアブロの下に就く事になっている。

 

 そして、テスタロッサは評議会参加に際しての情報収集を終えたらしく、ひとまず報告となっていた。

 

「しかし、任命に関しては失敗だったかもしれないな」

 

 テクトが空のカップをソーサーに戻しつつ呟いた。自嘲するような言葉にテスタロッサがおかわりを注ぎつつ問う。

 

「といいますと?」

 

「テスタの紅茶がこれほど美味いのなら、秘書を交代してもらうのもありだったかと思ってな」

 

 テクトの言葉に控えていたディアブロが絶望を纏った表情になる。それを見て、テスタロッサはクスリと笑った。

 

「でしたら、今からでもディアブロと代わりましょうか?」

 

「いや、モスの諜報能力を考えるとテスタの方が適任だ。引き続き、テスタに任せるよ」

 

 モスの能力とは小さく分離させた多数の「分身体」を各地に派遣して会話の内容を盗聴することである。無数の目と耳によりソウエイとも連動して今も各国の動きを探っている。

 

 明らかにホッとした様子のディアブロに笑いながらテクトが紅茶を味わっていると、隣に座るリムルが思い出したように口を開いた。

 

「そういえばさ、なんでテスタロッサのことをテスタって呼ぶようにしたんだ? ウルティマ達の勧誘に送り出す直前ぐらいからだったよな?」

 

「ん? ああ、それ? 意識付けかな」

 

「どういうことだ?」

 

「結局テスタはあの時にご褒美の提案はしなかっただろ? 何か用意しないとって覚えておくためにね。本人が嫌なら辞めるけど」

 

 そう言ってテクトはテスタロッサへと視線を向ける。以前にもベニマルを相手に似たようなことをしている事を思い出し、リムルは呆れた顔をしていたが、当の本人は微笑むと胸元に手を添える。

 

「とんでも御座いませんわ。もしこれがディアブロであれば迷宮にて殺し合いに発展していたでしょうが、他ならぬテクト様ですもの。この程度のことで恩義も忠誠も何一つ陰ることはありません」

 

「そうか、では今後もお前をテスタと呼ぼう。それと、何か要望が出来たら言えよ? できる限り叶えてやる」

 

「テクト様も頑固ですわね」

 

 にこりと笑うテスタロッサを見て控えていたモスが瞠目し、気取られる前に表情を戻す。それを見てテクトは笑みをこぼし、モスは引きつった顔で肩を揺らしていた。

 

 

 

 原初達のそれぞれの職場での馴染みぶりを確認した数日後。

 

 テクトとリムルはヒナタに呼ばれ、新設された学校へと来ていた。

 

 ケンヤ達の通うことになった学校では魔物の子供だけでなく家族単位で移住してきた者達の子供も通っており、人間社会での常識を学ぶ機会を作っていた。

 

 また、大人も通うことができ、必要に迫られた者達は必死に勉強をしている。

 

 ちなみに、リムルとマサユキは会話や読解はできるものの書き取りができない。リムルは智慧之王に頼って誤魔化しているが、自力では二人とも語学のテストは点を取ることができなかったりする。一方のテクトだが、書類仕事の傍らでしっかり勉強して問題ないように仕上げていたりする。

 

 ケンヤ達には漫画をこの世界の言語に翻訳したものを渡したことで非常にスムーズに言語習得を成功させている。

 

 漫画という娯楽の力は凄まじく、所有者であるケンヤ達は憧れの対象となっており、喧嘩も強いのでケンヤは番長のようになっていた。

 

 ただし、クラスのボスはアリスである。強烈な恋敵(ルーシェ)への嫉妬心が訓練への意欲につながり、後衛ではあるものの真正面から戦ってケンヤを下せる程の実力を得ていた。

 

 テクトとリムルが待ち合わせよりも少し早く到着した時には掃除に不真面目なケンヤたちにアリスが食って掛かり、喧嘩が始まろうとしていた。見てみたい気持ちはあったものの、この後のことがあるためテクト達が入室して止めにかかる。

 

「はいはい、そこまで」

 

「教室で暴れるもんじゃないぞ?」

 

「「先生!」」

 

 入室したとたん、クロエがリムルへと抱きつく。事前に察知できなかったらしくリムルは驚いていた。

 

 アリスも素早く反応し、テクトへと抱きつく。テクトが膝をついて抱きとめていると、生徒達の間から狐耳の少女が飛び出してきた。

 

「テクト様、リムル様、お久しぶりでありんす!」

 

「クマラ、元気そうだな」

 

 近づいてきたクマラの頭を撫でると、心地よさそうに目を細める。そんな事をしている間に二柱の訪問に気づいたらしく、生徒も教員も騒ぎ始める。

 

 教員は引退した冒険者やミョルマイルの伝手で雇った商人を雇っており、聖騎士が特別講師として持ち回りで教鞭を執っている。校長にはゴブリンの村の長老だった者の一人を任命しており、魔物の子供達が迫害されないように目を光らせていた。

 

「ほらほら、魔王様方が困ってるぜ? 少しは落ち着け」

 

 そう言って場を収めたのはフリッツ。

 

 聖騎士の隊長格の声に落ち着き始めたのを見て、テクトは立ち上がる。

 

「済まないな、フリッツ。それと、学校行事への協力、感謝している」

 

「止して下さいって。ぶっちゃけ、ヒナタ様の過酷な訓練に比べれば、ここの任務は極楽なんですって。飯は出るし、子供達からは尊敬されるし。実はね、団員の中でも取り合いなんですよ?」

 

 そう言って笑うフリッツだったが、その表情はすぐに青ざめることになった。

 

「ほう。それは良かったわね、フリッツ。私の過酷な訓練? 貴方達の力量に合わせて手加減してあげていたのだけど、要らぬお節介だったみたい」

 

 フリッツへと冷たい声がかかる。

 

 声をかけたのはヒナタ。それと同時に魔王二柱を除く全員が背筋を伸ばして直立不動となる。フリッツは誤解だと言い繕っていたが、誰も庇うことはなかった。

 

 

 

 ケンヤ達五人とクマラを伴い、ヒナタとテクト、リムルは迷宮へと移動した。そこにはハクロウが待っており、今回は子供達の成長度合を知らせたかったらしい。

 

「へぇ……そういうことなら、俺が相手をしよう。この魔王テクトを相手にどこまで追いすがれるか見せてみるが良い」

 

 そう言いながら飾緒などの装飾が付いた軍服とローブへと着替えたテクトが進み出る。最近作った魔王衣装であり、強度こそシュナの巫女服に及ばないが、ゴテゴテした装飾も含めて動きの邪魔にならない相変わらずのメイド・イン・テクトである。

 

 無駄に悪い顔でそれっぽく邪悪な妖気を放つテクトを見て苦笑するリムルの前で模擬戦が始まった。

 

 そして、一時間後。

 

「お、お前達、強くなりすぎだろ!」

 

 声を上げたのはリムル。

 

 テクトも深く頷いており、身にまとったローブの端々が切れていたり装飾の一部がちぎれていたりしており、僅かだが冷や汗をかいていた。

 

 ケンヤは構えが漫画で見るようなものだったが、そこから変幻自在の剣技を繰り出し、光の精霊とのコンビネーションも凄まじかった。

 

 リョウタは剣術こそまだまだだが、水と風の精霊魔法を使い分け、器用な戦い方を習得していた。

 

 ゲイルは剣と盾を器用に使い、土の精霊魔法を駆使した鉄壁の守りを敷いていた。

 

 アリスは操るのが魔鋼製の人形になっており、人型と四足獣型の混成となっている。さらに大量の剣が不規則に襲ってきた。これも魔鋼製であり、テクトのローブを切り裂く程の切れ味をみせた。

 

 クマラは魔王達の宴では二匹だった魔獣が八匹に増え、それぞれが軽くAランクオーバーという驚くほどの強化がされていた。さらに、戦闘経験が共有されるらしく、連携は完璧で装飾をいくつか持っていかれる事になった。

 

 最後のクロエだが、凄まじい剣技をみせた。アリス戦やクマラ戦のように衣装を傷つけることはなかったが、それはローブを脱いで全力で相手をしたからであり、他の五人と同じ状態で相手をしていれば衣装はボロボロになっていたかもしれない。模擬戦が終わった直後はテクトの表情は引きつっていた。

 

「貴方の気持ち、良くわかるわよ」

 

「左様ですな。ワシもテクト様同様、クロエ嬢との模擬戦だけは本気になりますのでな」

 

 ヒナタとハクロウの評価に、テクトは精神生命体でなければ盛大に肩で息をしていたであろう消耗を感じながらリムルと顔を見合わせるのだった。

 

 

 

「いやぁ、驚いた。随分と上達したもんだ」

 

「だろ? テクト先生にそう言ってもらえると自信が出るぜ!」

 

「ええ、前は完全にあしらわれてましたからね」

 

 テクトの評にケンヤが自慢げにし、ゲイルが安心したように微笑む。リョウタもゲイルと同意見でコクコクと頷いていた。

 

「アリスも人形の制御がよくできてたよ。形の違う人形を複数同時に操るなんて相当難しいしな」

 

「そうでしょ? もっと褒めてもいいのよ?」

 

 手放しの称賛にアリスがドヤ顔で胸を反らし、テクトは苦笑混じりに頭を撫でる。そのまま話を聞いていると、子供達の認識でもクロエの実力は頭抜けているらしい。

 

 ヒナタの剣技を真似たその構えの習得には本人の才能によるものが大きいらしく、ハクロウが指導した中でもピカイチとのことだった。

 

 ちなみにケンヤの構えはマサユキの言葉によるものらしく、ヒナタの指導にも耳を貸さないそうだった。ハクロウも構えと剣術の噛み合いの悪さは気にしているものの、本人が頑ななので構えへのこだわりを捨てさせるのは諦め、実戦に使えるようすり合わせつつ連携を重視させる方針にしているらしい。

 

 模擬戦の講評を終え、子供達とハクロウが模擬戦を始める。

 

 それを見ながらヒナタは呼び出した理由を語り始めた。

 

 まず、子供達の実力を確認させるということ。力はあるが幼い子供達が歪んだ成長をしないように現状の理解を促しておきたかった。

 

 そして、こちらが本題だが、ルミナスから音楽交流会の日程調整の要望があったという。

 

 これまでは多忙に任せて後回しにしていたわけだが、状況も落ち着いた今、断る理由はなかった。

 

 楽団の移動も考えて聖騎士による元素魔法:拠点移動を使う方向で話を詰め、日程等細かい点を確認していると、模擬戦を終えて休憩していた子供達が集まっていた。

 

「リムル先生、ヒナタお姉ちゃんとどこかに行くの?」

 

 クロエの質問にルベリオスでの音楽交流会について説明すると、子供達も行きたいといい出した。

 

 呼応するようにクマラも行きたいとこぼし、危険がある可能性もあるが、護衛を増やすことで対応して連れて行くことにした。

 

 旅行の間は学校をサボれるといい出したケンヤには宿題の増量で対応することにして、方針を固めるのだった。

 

 それから数日後―テクト達は神聖法皇国ルベリオスを訪れていた。

 

 同行しているのは子供達や楽団に加え、秘書としてディアブロとシオン。ヴェルドラも来たがったが、ルミナスと会わせれば問題が起きるのが確実だったため適当に説き伏せて置いてきている。

 

 出迎えたのはヒナタ。

 

 予定としては夜に晩餐会。翌日に調律を行い、本番は三日後となる。練習に使えるのは一日だけだが、楽団の面々は自身に満ちており、問題ないとのことだった。

 

 晩餐会を終え、あてがわれた部屋でのんびりしていると、超克者のメイドに呼ばれ、案内に従ってルミナスの元へと参じる事になった。

 

「久しぶりじゃな、テクト、リムルよ。あの邪竜を連れてこなかった事、褒めて遣わすぞ」

 

「まぁ、問題になることは明らかだからな」

 

「ククク、良くわかっておるではないか」

 

 ニヤリと笑うルミナスにテクトは苦笑を返しながら座る。

 

 ルミナスの背後にはギュンターとルイが控えており、テクトとリムルの後ろにはシオンとディアブロが控える。ヒナタは精神生命体である聖人にはなっているものの、人間の場合は魔物のようにすぐに進化が終わることなく、肉体的にはまだ物質に依存するらしい。そのため睡眠が必要であり、零時を回ったこの会談の席には呼ばれていないのだ。

 

「そういえば、ロイはまだ復活させてないのか?」

 

 ルミナス側の出席者を見回してテクトが聞く。魔王達の宴からすでに数カ月経っているが、この場にいないことで復活させるのに不都合があったのかと気にしたのである。

 

「ああ、そのことか。ロイであれば、そこに居るよ」

 

 そう言ってルミナスが指したのはルイだった。以前と比べ魔素量は大幅に増加しているが、ロイの気配を感じないためテクトは困惑する。

 

「詳しく話すと長くなるが、ルイとロイは一体の吸血鬼族だったのじゃ。妾が配下に加えた際にその凶暴さの為にトラブルを起こしかねなかった故、その身を二つに分けておったのよ。じゃが、奴が動くのであれば無為に戦力を分散させるのは悪手じゃからな。コヤツも精神的に成長しておるし、統合したのじゃ」

 

「奴?」

 

「うむ。グランベルが何やら悪巧みをしておるようでな。お主達を呼び出したのもそれが理由よ」

 

 本来であればルベリオスが対処すべき案件ではある。しかし、グランベルは七曜の老師の長として長くこの国にて暗躍しており、ルミナス達も知らない抜け道を用意している可能性が高い。そうでなくとも光の勇者としての技量が高く、全力で気配を断たれると察知するのは困難だという。

 

 さらに言えば、グランベルは長くを生き、聖人として、勇者として完成されている。その力はヒナタどころか魔王すらも凌ぐという。

 

「正直に言おう。最早あの者の力がどれほどのものか、妾にもわからぬ。双方の利害が対立せぬから約定を結び、七曜として最大限の権限を与えておったのじゃ。奴を箱庭に閉じ込め、切り札の一つとして温存するためにな」

 

「敵対する原因は、俺にもあるんだろうな」

 

 グランベルが動き始めた原因の一端はマリアベルが死んだことだと考えられた。復讐とはいかずとも、何かしらの因果関係はあるのだろう。

 

 グランベルの願いは人の世の平穏だった。

 

 人類の生存権を守るべく戦っていたグランベルはルミナスが人類を滅ぼすつもりがないことを理解して約定を結び、ダグリュールとヴェルドラからの守りをルベリオスに任せ、西側諸国の基礎を築き上げた。そこに栄えた国々をまとめ上げるため西方諸国評議会を作り上げ、東の帝国との情報戦を続けていたという。

 

 そのグランベルが、東の商人と接触したのだそうだ。

 

「お主らには言えぬが、アヤツが動く理由に思い当たるところはある。じゃが、接触したのが東の商人というのがどうにも不可解でな。侵攻に邪魔なお主等の排除を狙っておるやもしれぬ」

 

「なるほどね。まぁ、警戒はしておくよ」

 

「そうしておくがいい。後三日、それが過ぎれば貴様達には関係なくなるからのう。妾としては、演奏会が楽しめればそれでいいのじゃ」

 

 ルミナスの物言いにテクトは苦笑しつつ会談は終わる。

 

 念の為ではあるが警戒のための人員を手配し、床につくことにしたのだった。

 

 

 

 翌日―テクトはヴェノムとその配下の悪魔達の補助を受けつつ大聖堂にて機材の搬入と設置の指揮を取って過ごし、ルベリオスでの三日目。

 

 狂気に侵された勇者の反逆が始まった。

 


 

次回「反抗開始」




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

先週は原作ロス等ではなく、インフルエンザで伏せっておりました。皆様もご自愛下さい。
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