転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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101話:遺志の成就

 面白そうな顔をしていたギィの表情が唐突に変わった。

 

「おい、たった今、ミザリーから連絡があったんだがよ、どうして原初の白(ブラン)が名前を持ってるんだ?」

 

「テスタのことはもう少し伏せたかったんだけどなぁ……」

 

 やや唖然としたギィに対して、テクトは苦い顔で頭を掻く。

 

 質問には答えていないが、それ以上に確認したいことが出来たギィは質問を変えた。

 

「テスタ? 聞いていた名前と違わねえか?」

 

「テスタロッサで名前は合ってるよ。テスタは俺が勝手に呼んでいるだけだ」

 

 テクトの答えにギィの表情が歪む。後ろに控えるレインに至ってはひどく青褪めていた。

 

「名付けたのは誰だ?」

 

「俺だよ。当時は原初とは知らなかったけどな」

 

「は? あの時注意しただろ?」

 

「召喚したのは魔王達の宴(ワルプルギス)の前だからな」

 

 悪びれもしない様子にギィのこめかみに青筋が浮かぶ。その気配を敏感に察知し、テクトはディアブロを盾にするように後ろに下がった。

 

「来ちまったもんは仕方ないだろ! あの時は名付けをしないっていう選択肢とか取れる状況じゃなかったし、今更文句言うなよ!」

 

 喚くテクトにギィは深々とため息を吐く。

 

「ったく、原初には気をつけろって言ったろうが……三竦みを壊した以上、原初の紫(ヴィオレ)原初の黄(ジョーヌ)も必ず絡んでくる。ヘマをしてお前が死ぬと困るんだから、くれぐれも」

 

「問題はないでしょう。ウルティマもカレラもそれはそれは喜んで仕事に取り組んでいますし」

 

「ちょっと待て」

 

 自身の声を遮り話し始めたディアブロを遮り返し、ギィは顔を引きつらせる。目元を引くつかせ、嫌な予感をひしひしと感じつつも確認する。

 

「まさかとは思うが、ウルティマとカレラってのは……」

 

「ウルティマが原初の紫で、カレラが原初の黄ですよ。ちゃんと名前で呼ばないと、あの者達はすぐに怒り出しますからね。最近では昔の呼称など忘れられているのです」

 

「そうかよ……」

 

 もはや言葉もないギィは絶句する。絶妙なバランスで保たれていた各勢力の均衡が崩れ、自身の帯びた役目を鑑みて状況を整理していく。特に原初の白がテクトに降ったのはギィの予測の範疇を超えており、困惑は深まる。それをぶった切ったのはディアブロだった。

 

「ま、ウルティマとカレラを勧誘したのは私なんですけどね。仕事が増えるのは大歓迎なのですが、それでリムル様のお世話が出来ないのでは意味がない。そう思うでしょう?」

 

「は?」

 

「ですから、雑事を押し付ける―コホン。一緒に働く仲間が欲しくなったので、ちょうど暇そうだっただったあの者達を誘ったのです。いつまでも馬鹿みたいに勢力争いなどと、下らない。もっと大人になってリムル様とテクト様を手伝え、とね!」

 

 誇らしそうなディアブロに対し、ギィの表情が歪む。頭が痛そうに深く息を吐いた。

 

「で、名付けたのはどっちだ?」

 

「俺がやった。もうどうこうできる状況じゃなかったしな」

 

 あっさりと答えたテクトにギィが空を仰ぐ。もはや呆れるという次元を通り越し、諦観とともに怒鳴りたい気持ちを抑えて口を開いた。

 

「今度、遊びに行くわ」

 

「え、嫌だけど」

 

「面倒事が増えそうなので、遠慮しますよ」

 

 あっさりと断る二人にギィは拳を握りしめる。だが、テクトは滅ぼすわけにはいかず、ディアブロは特殊なのですぐに復活することが解っている。そのため怒りを堪えつつ、笑ってディアブロの肩に手を回す。

 

「いや、よ。ディアブロの話ももっと聞きたいし、こんな場所じゃあ落ち着いて話も出来ないだろ? ディーノから聞いたが、リムルとテクトの支配地は素晴らしく栄えているそうじゃねーか。オレもよ、ちょっと見てみたくなったのさ」

 

「当日はディアブロに任せるよ。案内してやってくれ」

 

「承知しました。きっとリムル様も喜ばれるでしょう」

 

 盛大に顔を歪めたテクトの言葉にディアブロは恭しく応じる。テクトの顔からは歓迎などしたくないという気配がありありと感じられたが、魔国連邦を褒められていい気分のディアブロは気づかなかった。

 

「それじゃあ、お前達がいるならオレは行くぜ」

 

「とっとと帰って」

 

「お前な……まあいいや。リムルにもよろしくな」

 

「ええ、それじゃあまた。次に会えるのを楽しみにしておりますよ」

 

 虫でも追い払うかのようなテクトに呆れた顔をしつつもギィはその場を去っていった。

 

「戻るぞ」

 

「はい」

 

 一度瞑目して気持ちを切り替え、テクトは戦場へと戻っていった。

 

 

 

 少々時間を戻し、テクトが去った直後。

 

 リムルはどうするべきか考えあぐねていた。

 

 ヒナタとグランベルは互角の戦いを演じており、良い方に転ぶ確証が無い以上、参戦して均衡を崩すのは憚られる。

 

 シオン、ランガ、フェルとラズルの戦いだが、「超速再生」による回復ができるシオンを前衛にランガとフェルが魔法や死角からの攻撃を狙っている。

 

 しかし、ラズルは見た目通り虫の特徴を持っているらしく、複眼で死角をなくしており、不意打ちになるような攻撃も回避していく。

 

 甲殻もシオンの攻撃を受け付けないほどに硬く、魔法も「魔力妨害」を持っているように弾いていく。

 

 厳しい状況だが、自分ならなんとかなるだろうと移動しようとしたとき、テクトの警告していた何者かが到着した。

 

 来訪者を見たグランベル以外が驚愕する。

 

 そこに立っていたのはレオンだった。

 

 騎士服と黄金の鎧の上から白いローブを纏い、なにやら不機嫌そうに周囲を見回す。背後には強大な力を持つ騎士を複数連れており、おそらく幹部級のものだけを選抜したと思われる。

 

 レオンがどちら側なのかは判別がつかず、最悪の状況の想定を始めていると、グランベルが口を開いた。

 

「来たか、魔王レオン殿。そしてヒナタよ、ワシとの戦いの最中に余所見とは、ずいぶんと余裕があるな」

 

 ヒナタはレオンの存在に硬直してたが、グランベルはその隙を突くでもなく泰然としていた。

 

 グランベルの言葉にリムルはレオンを敵の増援としてみなそうとしたが、レオンはより不機嫌そうに口を開いた。

 

「馴れ馴れしいな。誰だ貴様は?」

 

「そうだった、顔を合わせるのは初めてだったな。貴様が何度もご贔屓にしてくれておるのは、ワシが集めた子供達なのだよ。今回はここまで御足労願い、すまなかったね」

 

「何を言っている? 貴様になど用はない。私がここに来たのは」

 

「おやおや、ワシは君から教えられた術式で、子供達を召喚しておったのだがね。それを知らないとでも言い張る気かね? 貴様は、まだ安定していない“異世界人”の子供達を利用して、精霊使役者の配下を増やしておるではないか。あの、シズエ・イザワのような強靭な戦士をね」

 

 グランベルの言葉を聞き、リムルは拳を握りしめる。

 

《告。危険です。個体名:グランベル・ロッゾは、言葉巧みに主様(マスター)と魔王レオンを敵対させようとしております》

 

 智慧之王の忠告にリムルも同感だった。明らかな挑発に乗るなど愚の骨頂なのだが、

 

「貴様の欲した者を呼ぶのに、どれだけの失敗を重ねたと思う? その者共は、その成れの果てよ」

 

 とてもではないが無視できないものだった。

 

 テクトの縛り上げた異世界人に中には子供も混じっているのだ。

 

 シズはレオンに召喚され、そして置き去りにされた。その上でレオンがほかの子供達の召喚を続けていたなど許せることではなかった。

 

「その話は本当か?」

 

「本当だとも、魔王リムルよ。我等商人は求められればどんな商品でも提供するものさ」

 

 レオンに向けた質問を横から答えられ、リムルの苛つきが募る。視界それを一旦脇に置き、再度レオンへと問う。

 

「お前……シズさんだけじゃなく、他にも召喚していたのか?」

 

「ああ」

 

「不安定に召喚された子供が、長く生きられないのを知っての上でか?」

 

「それは」

 

「クックック、クハハハハッ!! 笑わせるな。レオンよ、貴様からの依頼は、“十歳に満たぬ異世界人の子供”を提供せよ、というものだったではないか! 安定した異世界人を従えるよりも、不安定な子供を救い恩を売る事を考えたのだろう? そして、兵器として利用しておるのだろうが!」

 

 レオンの発言を遮ってグランベルが哄笑する。その目的がリムルを煽り、レオンと戦わせようとしているのは明らかだ。

 

 厄介なことに、不安定な子供でなければ定着しない精霊の気配をレオンの部下からは感じ、グランベルの言葉に信憑性を生んでいた。

 

「……本当なのか?」

 

「ああ。だが、それには理由が」

 

「うるせぇ! やっぱりお前が原因なのかよ!!」

 

 リムルは叫ぶとレオンへと一直線に走る。

 

 殴りかかるリムルに反応した配下を制し、レオンは真っ向から受けた。

 

「気が済んだか?」

 

 怒り任せに身体能力のみで放たれた拳はレオンの唇の端を僅かに切る程度に留まり、簡単に拭われて終わる。

 

 受ける必要もない拳を無防備に受けたことでリムルの中でのレオンの評価は変わる。シズは末期にレオンを憎もうとしてもどうしても出来なかったと零し、真意を確かめたいと願っていた。

 

 シズの思いをぶつけるという約束は果たした。

 

 レオンが動かなかったことで何か事情があることも理解した。

 

 それを聞いて許すかどうか判断するのは後回しにして、リムルは刀を構えた。

 

「まだだね。シズさんの想いは伝えたが、俺の分が残っている。それをゆっくりと、()()()()()()()としようか!」

 

 リムルの言葉にレオンは眉を僅かに動かし剣を構える。

 

 期待通りの反応に内心で喜びつつ、リムルは地を蹴った。

 

 

 

 レオンはリムルに応対しつつ、状況を整理する。

 

 この地に降り立つ前―“三巨頭(ケルベロス)”からの魔法通話を受けていた。

 

 情報員と連絡が取れず、何者かに正体がバレた可能性があるという不確かな報告で、猜疑心を呼び起こすだけのものだ。

 

 明らかな罠に踏み込んだ理由は、自分が探し求めるものがそこに存在すると確信していたからだった。

 

 レオンの求めるもの―それは過去に召喚され生き別れた少女、クロエ・オベール。

 

 “三巨頭”から取引中止の連絡を受け、その際に魔国連邦が引き取った子供達の名を聞き出した。それらは実際の名前とは僅かに違うものだったが、音の符丁に疑念を抱いて最近魔国連邦を訪れリムル達と接触したエルメシアを尋ねたのだ。

 

 サリオンにて正確な子どもの名前を聞き、打ち合わせを行った。

 

 リムルとレオンを引き合わせ敵対させようとしているのはおそらくロッゾ一族。レオンの目的がクロエであるとどこから推測したのかは謎だが、リムルの持つシズとの因縁を以てレオンをぶつけるのが、西方諸国を危機に晒してまでルベリオスを攻めている彼等が最も利益を得られたのだ。

 

 それを承知で踏み込もうとするレオンの援護としてエルメシアは魔法士団を動かし、北方への守護を担ったのである。その移動に途中まで同行することで自力での移動以上の速度で移動できたわけだが、思えば“三巨頭”からの連絡のタイミングが良すぎた。

 

 移動も監視されていたと考えるのが妥当であり、レオンとしては不快なものである。

 

 考えをまとめることで状況を俯瞰できるようになり、周囲を確認すると、とてつもない混沌となっていた。

 

 大聖堂内部の入口付近ではレオンとリムル。

 

 そこから少し離れてヒナタとグランベル。

 

 外ではシオンとランガ、フェルがラズルと戦っている。

 

 レオンの護衛である魔法騎士団(マジックナイツ)の精鋭も巧妙に誘導され、聖騎士達と戦闘になっている。レオンはルミナスと戦う意志はないため、彼等には防戦に徹して相手を殺さぬように努めさせている。

 

 問題はテクトとルミナスが姿をくらましていることだ。

 

 テクトはまだいい。ギィを認めさせるのだから警戒対象ではあるが、リムルがこの場をコントロールしようとしている以上、下手な動きはしないだろう。

 

 しかしルミナスがいないのはおかしい。大規模な戦闘が起き、その戦場を魔国連邦に任せているこの状況をルミナスが許すはずがない。にも関わらず姿が見えないのはそれ相応の事情が出来ているということだ。

 

 だが、その混迷した状況がレオンをおびき寄せた理由を浮かび上がらせた。

 

 すなわち、このレオンとリムルのマッチアップこそが目的なのだ。

 

 剣を合わせる最中、リムルがグランベルを流し見たことでレオンも黒幕を察する。

 

 陣営不明なレオンが罠に嵌められたと信じて動くリムルに、ギィをして用心深いと評すレオンは珍しく素直にリムルを信じることにするのだった。

 

 

 

 ヒナタは混乱の中にいた。

 

 目まぐるしく変わる状況もそうだが、目の前のグランベルはこれまでヒナタが相対していた誰よりも異質だった。

 

 ヒナタのユニークスキル「簒奪者(コエルモノ)」の強みは上位者に対する絶対優位である。

 

 上位者の能力や技術を奪う、あるいは複製し、彼我の差を逆転させることができる。その副次作用として相手が自身より格上か同格以下か知ることが出来、現在のグランベルは《対象外》―格下であると判定されていた。

 

 しかし、打つ手がないというわけではない。奥の手である「強制簒奪」であれば、《対象外》と判定された相手からも力を奪うことができるのだ。

 

 だが、グランベルには通じない。正確には「強制簒奪」は効果を発揮している。ヒナタにとっては既知の技術であるため意味はないが、グランベルの手札は削げているはずだった。しかし、「強制簒奪」の直後でもグランベルは奪ったはずの技を行使する。

 

 頼みの綱が機能しないということに動揺するヒナタを見て、グランベルはニヤリと笑った。

 

「どうした、ヒナタよ? 顔色が悪いぞ」

 

 底意地が悪い物言いにヒナタの苛立ちは募る。

 

「ふむ。ワシが何をしておるのか、理解できぬという顔だな。戦闘において最も重要なのは、相手を観察するということだ。ワシが貴様と戦う前に他の六人をあてがったようにな。情報を得ているというのに、何の対策も立てずにおると思うのか? もしそうであるなら、それは甘い考えだぞヒナタよ」

 

「チッ、うるさいわね」

 

「貴様の戦い方からは、格上に対する優位性が見て取れた。対して、格下から技を奪うという事例は少ないようじゃな。ゼロではなかったゆえ、何等かの手段は有しておるのだろう。しかし、それは大きく疲労するのではないか?」

 

「……」

 

「何、答えずとも良いぞ。今のお前を見ておれば、ワシの推測は正しいと確信を持っておるからのう」

 

「クッ……確かに、これ以上続けても意味はなさそうね」

 

 完全に見抜かれていることにヒナタは驚愕とともに考えを改める。目の前の相手は既に超えた過去の人物ではなく、自身以上の技量を供えた油断ならぬ古強者だと。

 

 冷静になったヒナタは一度距離を取る。呼吸を整え、間合いを測り直そうそしたところで、違和感に気づいた。

 

 消耗している―それも、普段の戦闘とは比較にならないほどに。

 

 いかに消耗のある「強制簒奪」を連発したとしても、これほどまでに疲労するということはない。

 

 その理由はグランベルが語り始めた。

 

「混乱しておるようだな。ヒナタよ、貴様は確かに強い。だからこそ、こういう陰湿な戦い方の経験も少ないのであろうな」

 

「なんですって?」

 

「簡単な話よ。ワシの行動は、貴様に無理をさせるように計算して動いておるのだ。少しづつ、少しづつ、ちょっと無理をすれば攻撃が成功すると思わせて、無駄に体力を消耗させたのだよ。いいか、同レベルの者と相対したならば、先に相手を消耗させた方が勝つ。判断が鈍り、隙も大きくなるからのう。今、貴様が身をもって体験しておる通りに、な」

 

 グランベルの言葉は事実だった。ヒナタの「数学者(カワラヌモノ)」による戦況の分析を超えたグランベルに「簒奪者」でも経験に裏打ちされた技量は奪えないのだと認識して、剣を構え直した。

 

「よくわかったわ。貴方を倒すには、私も本気を出すしかないようね」

 

「そうじゃ。本気を出せ。さもなくば、ワシを超える事など夢のまた夢というものぞ」

 

 ヒナタの集中とともに周囲から雑音が消えていく。

 

 他の全てを置き去りに、世界にはヒナタとグランベルだけが残された。

 

「いくわよ、グランベル翁!」

 

「胸を貸してやろうぞ、ヒナタよ!」

 

 かくして、ヒナタとグランベルの戦いは激しさを増していく。

 

 

 

 最奥の間では戦闘が続いていた。

 

 だがそれは二組での話。残る一組はすでに決着の様相を呈していた。

 

「ぐ……くっ」

 

「ふむ、凶暴さで恐れられたという“鮮血の覇王”もこの程度か……いや、まだ馴染みきっていないようにも見えるな。長い平和でなまっているというのもあるか?」

 

 ルイは地に伏していた。法衣のあちこちは血に染まり、裂けている。対するダムラダは涼しい顔であり、かつての力を取り戻したはずの狂王を睥睨する。

 

 屈辱にまみれながらも立ち上がれず鈍く身体を動かすルイをよそに時計を確認すると少し離れたところで戦うヴェガとギュンターへと視線を向けた。

 

「ヴェガ、戻るぞ。役目は果たした。もう十分だ」

 

「ああ!? 何言ってやがる! まだこいつを食ってねえぞ!」

 

 ヴェガは振り返ると苛ついたように返す。対するダムラダは目を細めて静かに口を開いた。

 

「ヴェガ、私に二度言わせるつもりか?」

 

「……あ、ああ、済まねえ。昂ぶっちまってつい調子に乗っちまったみてえだ」

 

 ダムラダが凄むとヴェガはしおらしくなり、すぐに退いた。ルイが倒れている状況で撤退する敵を前にギュンターも戦闘継続は望むところではなく構えを解くと去っていく二人を見送った。

 

 残るはルミナスとマリアのみ。

 

 かつて聖女としてグランベルを支えていたマリアの姿を思い、本気を出せないルミナスは目の前のマリアへの考察を進める。

 

 見た目はかつてのマリアそのものだが、その内情は別物。おそらくは死霊魔法:死霊蘇生(レイズデッド)使い魔(サーヴァント)。禁断の邪法さえ使用するグランベルの覚悟と狂気を想像し、ルミナスは眉を顰める。

 

 マリアの強さは異常だった。いくつものユニークスキルを行使するかのような、数え切れぬ程の特殊能力を駆使してルミナスへ対処を迫る。

 

 だが、それでもルミナスに伍することはない。能力の多様さに多少苦慮する面はあれど、力を十全に扱えない人形ではルミナスを相手に勝てるはずもなかった。

 

「ルミナス様、申し訳御座いません。賊を取り逃がしました。ルイが敗北し、重態です。死ぬことはなさそうですが、追跡は困難を極めるかと」

 

 ギュンターの報告にルミナスは小さく舌打ちする。

 

 殺せる状況からの撤退という不可解な行動が思考にノイズを与えた。グランベルの思惑を計りかねながらも覚悟を決めて目の前の事態へと対処する。

 

「すまぬな、マリアよ。せめて、傷は少なく屠ってやろうぞ」

 

 攻めかかるマリアを捌き、虚空から手にした剣でその胸を刺し貫く。

 

 核となっている魔法を破壊され、マリアはそのまま崩れ落ちる。その身体を受け止めると開いたままの目を閉じさせ、横抱きにした。

 

「ギュンター、この部屋の守護は任せるぞ。事態が収まるまでネズミ一匹立ち入れさせるな。よいな!」

 

「はっ!」

 

 ギュンターを残し、ルミナスは玄室を出る。

 

「グランベルよ。望み通り決着を付けてくれようではないか」

 

 わざわざ長い道を辿る暇も惜しいためそのまま天井へ穴を開け、大聖堂へと急ぐのだった。

 

 その後ろで静かに起きた異変には気づく事は出来なかった。

 


 

 次回「災厄の覚醒」




感想・評価・お気に入り等ありがとう御座います。

ここで言ってしまうのもどうかとは思いますが、該当作の更新は当分先なのでこちらで。

現在の回答状況では九割弱の方がとりあえず書くという事で賛成のようです。本筋こそありますが、描くその場の考えで差異が生まれると思うので先々の事はIFであることを留意して頂きたく思います。
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