転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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102話:災厄の覚醒

 レオンとリムルの応戦は余人の入り込むことの出来ぬ高速戦闘となっていた。

 

 一見してそうは見えないが、レオンとリムル(智慧之王)の両者間では示し合わせた打ち合いとなっており、双方無傷での高速戦闘となっている。

 

 周囲を探ると

 

 テクトとディアブロは未だ行方不明

 

 シオン、ランガ、フェルはラズルを相手に苦戦中

 

 ヒナタとグランベルはグランベルへと傾き始めている

 

 といったところだった。

 

 リムルが対処の優先順位を決めかねていると、地面から熱線が伸び、空いた穴から女性を抱えたルミナスが現れた。

 

「グランベル、貴様、何を考えておる。本気で妾を相手にするつもりか?」

 

 怒りとも悲しみとも取れる表情でルミナスが問う。グランベルはヒナタを相手にしながらも余裕の態度だった。

 

「クックック、流石はルミナス様です。私の使い魔でさえ、貴女の足止めにもなりませんか。数多の“異世界人”より抜き取った力を注ぎ込んだ、最高傑作だったのですがね」

 

「痴れ者が。紛い物の力をどれだけ注ぎ込もうと、意思なき人形では本物に敵わぬ。そんな事、貴様なら百も承知であろう」

 

「勿論、存じておりますとも」

 

 そんな会話をする間にもヒナタの攻撃は続いている。しかし、グランベルは軽々といなして見せている。その飄々とした態度にルミナスは目を怒らせた。

 

「ならば貴様、一体何のつもりでこのような真似を―マリアを、死後も貶めるような真似をしたのじゃ!?」

 

 激昂し、妖気を滾らせるルミナスに対してもグランベルは平静に返す。

 

「必要だったからです。全ては、今、この時の為に」

 

 訝しげにするルミナスの前で、グランベルは左手の手袋を脱いだ。手の甲に刻まれた紋様が輝き始め、それに呼応するようにマリアの死体も光を発する。

 

「何を―!?」

 

 不可思議な事態に問おうとしたルミナスが言葉を失う。

 

 事態を目にしている全員が手を止める前でそれは起こる。

 

 マリアの死体が光となり、グランベルの紋様へと流れ込んでいく。それに伴い、グランベルの身体に力が漲っていった。

 

 色素の抜けていた髪は金の輝きを取り戻し、枯れたような肌には瑞々しさと張りが与えられた。

 

 往年の“勇者”グランベル・ロッゾがかつての若さを得て、その鋭い眼光でルミナスを見据える。

 

「そうか、貴様……妾が与えた愛の接吻も全て、マリアに注ぎ込んでおったのじゃな!」

 

 そう、マリアには仕込まれていたのだ。愛の接吻―人間を若い状態で長らえさせるための生命エネルギーと異世界人から奪った力。それらを回収し取り込むことでグランベルは若返りを可能としたのだった。

 

「ルミナス様―いや、ルミナス。貴女との決着がまだだったな。それを果たすまでは死ねないと、ふと思い出したのだよ。マリアベルが死んだ今、ワシの野望は潰えた。だが、それでもまだ、望まずにはいられないのだ!」

 

「貴様ッ!」

 

「舐めるな!!」

 

 グランベルはルミナスの感情任せの攻撃を軽く弾き、衝撃から復帰したヒナタをいなすとヒナタへと語りかける。

 

「そうだったな、ヒナタよ。お前への指導もまだ残っておったわ。貴様はワシが手掛けた弟子の中で、最高の才能を持っておる。その上、向上心も強く、努力を惜しまず自己研鑽を怠らない。優秀だと褒めてやってもいい。じゃが」

 

 言葉の途中でグランベルが軽く剣を振り抜く。ヒナタは回避こそしたが、信じられないものを見たような顔をしていた。

 

「崩魔霊子斬ッ!? 嘘、呪文の詠唱もなく霊子を操ったというの!?」

 

「ヒナタよ、お前がどうして勇者になれぬのか、ワシにはそれが疑問だった。才能と努力だけでは勇者に至れぬ。精霊に愛されなければ、勇者たる資格は得られぬのだ。だが、貴様は精霊に愛されておった。それなのに……」

 

「残念だったわね。精霊に愛されていようが、なれないものはなれなかったってだけの話じゃない」

 

「貴様が勇者として覚醒すれば、ワシの野望に役立てるであろう。ゆえに、助言してやろう。貴様は、心に闇を抱えておるだろう? 近しい者を殺しでもしたか? 親か、兄弟か、それとも、友か?」

 

「黙れッ!!」

 

 崩魔霊子斬を避けて出来ていた距離を一気に詰めてグランベルへと斬りかかる。その表情は怒りに染まっており明らかに平静を欠いていた。

 

 甲高い音を立てて剣と剣がぶつかり、斬り掛かったヒナタが吹き飛ばされた。

 

「お前は、光の精霊を受け入れていないのだ。克服せよ。闇とは、己の心が勝手に生み出した幻影に他ならない。過去の自分を許容し、今の、自分の生き様を誇れ。そうすれば、貴様も光を」

 

「黙れと言っている!!」

 

 激昂するヒナタを、グランベルは冷めた目で捉える。

 

「残念だよ、ヒナタ。もっと時間があれば、貴様を導いてやれたのだがな。理解出来ぬなら、現実を以て体験するがいい。守りたいものを守れぬようでは、世界を救うなど言語道断なのだ」

 

 リムルの直感が何かを囁く。

 

 話の内容とヒナタの反応で全員の意識は彼女へ向いている。

 

 その切っ掛けを作ったのはグランベル。であれば、この状況はグランベルが狙ったものであり、何かしらの目的があるはずなのだ。

 

 その狙いは「未来攻撃予測」が暴くことになった。

 

 グランベルの攻撃は刺突状の崩魔霊子斬―その対象へリムルは全力で走り出す。

 

「クロエーッ!!」

 

 リムルが叫ぶのとグランベルの攻撃はほぼ同時だった。

 

 最初に動いたのはヒナタ。

 

 何の迷いもなく射線状に割り込むと、その身を犠牲に光線状となった攻撃を受けた。ヒナタの胸を貫通した光線は威力を若干落としただけで、依然クロエを標的に突き進む。

 

 だが、その僅かな遅れでテクトが間に合った。

 

「こなくそっ!」

 

 右腕を吹き飛ばされつつもなんとか受け止め、上がりそうになった悲鳴を悪態で誤魔化す。傷から霊子が侵食し、テクトの動きを止めた。

 

 激痛に苛まれつつもヒナタへと視線を向けると、ルミナスが駆け寄って傷を診ようとしていた。

 

「ヒナタ、無事か?」

 

「ヒナタお姉ちゃん、死んじゃダメーっ!!」

 

 テクトの横を抜けてクロエが駆け出す。それを追おうとした他の子供達をリムルが気絶させ、テクトが隠してディアブロに命じられて子供達の護衛をしていたヴェノムへと任せた。

 

「ク、クロエだと!? 本当に、クロエ、なのか……」

 

 レオンが挙動不審となっているが、全員が放置する。テクトも治癒を終えてヒナタへと駆け寄ると既に傷は癒えていた。

 

 しかし

 

「これは……」

 

「くっ、霊子の侵食が速い、速すぎるのじゃ!!」

 

 傷は完治しているが、ヒナタは衰弱していく。霊子の影響はヒナタの精神体を破壊しているのだ。テクトも同様ではあるが、霊子の動きを阻害することで少しずつ回復している。だが、テクトは自身に対する影響を抑えるので手一杯であり、ヒナタを助ける余裕はない。

 

 このままでは星幽体まで影響が進み、そうなればいかにルミナスといえど蘇生はできない。リムルが歯噛みしているとヒナタがうっすらと目を開けた。

 

「よ、良し、いいぞ、ヒナタよ。意識をしっかりと保つのじゃ!」

 

「いいえ、ルミナス様、わ、私は―ゴフッ!」

 

 ルミナスの治療も意味をなしていないのかヒナタが喀血する。息も絶え絶えの様子だが、左手を支えに身体を僅かに起こし、クロエへと顔を向ける。

 

「ク、クロエ、貴女が無事で良かったわ……」

 

 既にヒナタの目の焦点は合っておらず、今にも倒れ込みそうな様子だ。それでも口元には笑みを浮かべ、右手を差し出した。

 

「……クロエ、貴女に預けるわ。ま、だ師匠……らしい事、何も……出来なかったけど、貴女なら、私を……超えられる、から」

 

 その手に握られたのは“月光の細剣(ムーンライト)”と“聖霊武装”の腕輪。掠れた声で告げられた言葉はクロエに届いたようで、泣きじゃくりながらもその手を伸ばした。

 

「ヒナタ……お姉ちゃん……」

 

 次の瞬間、ヒナタの身体が発光し、クロエの手へと流れ込んでいく。それを観測したテクトとリムルが目を見合わせた直後、クロエが叫んだ。

 

「う、嘘っ!? こんなの知らない! 何でよ、まだ早いじゃないっ!!」

 

 それを最後にクロエの姿が掻き消える。

 

 時空の歪みを生み出し感知範囲から消えたことにテクトが動揺するが、ルミナスは驚きもせず死者蘇生を発動した。

 

 しかし、それは何の効果も発揮せずに無為に終わる。それを受けてルミナスは驚愕した。

 

「なぜじゃ!? まだ死んでから」

 

 そこでルミナスはテクトを見た。その意図を察し、手持ちの“魂の牢獄”を確認するが、ヒナタの魂は収められていなかった。

 

 連続する想定外の事態に瞠目しつつもテクトは首を振る。

 

 それが示す事実にルミナスは顔を歪めると顔を俯かせる。

 

「ヒナタよ、すまぬ。妾がいたのに、このような目にあわせてしまうとは……」

 

 ルミナスの目から一滴、涙が零れ落ちる。

 

 そこに、実に無粋な声が届いた。

 

「そう嘆かないで欲しいな。これも全て、ワシの狙い通りなのだ。最後の計画は、実に順調なのだよ、ルミナス!」

 

 グランベルだけが、楽しそうに笑っていた。

 

 その態度が、それを許した自身がルミナスの怒りの炎に薪を焚べる。

 

「許さんぞ、絶対に許さん。貴様は八つ裂きにしてやる!」

 

 湧き上がる感情のままにルミナスが吼える。

 

 ヒナタを失ったことで精神の均衡が崩れ、本能が、欲望が鎌首をもたげる。

 

 その大いなる感情の揺らぎが、自身を抑制していたルミナスに、とある変化を齎した。

 

《確認しました。条件を満たしました。ユニークスキル「色欲者(ラスト)」が究極能力「色欲之王(アスモデウス)」へと進化しました》

 

 “世界の言葉”が告げるのはルミナスが壁を超えたという事実。その身に宿る力が、凶悪にして凶暴な更なる高みに―天井の支配者の領域へと進化したのだ。

 

 この「色欲之王」が司る権能は“生と死”。

 

 ヒナタの死に対する無力感を切っ掛けに覚醒したルミナスだが、彼女にとってはもはや無価値なもの。今この時において、こんな権能に何の意味もないと本能で理解しているのだ。

 

「今更、どうでもいいんだよ! 今となっては遅い……肝心な時に役に立たぬなど、妾にとってはどうでもいい力なのじゃーッ!!」

 

 ルミナスは怒りに身を任せて妖気を爆発させる。テクトがヒナタを抱えて下がることも気にせず、憎悪に満ちた目でグランベルを射抜いた。

 

「貴様が望むのは、決着だったな?」

 

「ああ、ルミナス。貴女も進化したんだね? それは計算外だったが、喜ばしいことだ」

 

 ルミナスの力が増したことを理解してもグランベルの態度は崩れない。それがルミナスをより怒らせることは理解しているようだった。

 

()()()()()()()()()―が、そんな事はどうでも良い。あの世に送ってくれるわ、グランベルッ!!」

 

 絶叫し突き進むルミナスを笑顔のグランベルが受け止める。

 

 千年を超える因縁の先、雌雄を決する戦いが始まった。

 

 

 

 玄室にて、それは椅子から立ち上がる。

 

 地上を見据え、吹き荒れる妖気を感じて大きく伸びをした。

 

「さてと、そろそろ頃合いか」

 

 明らかな異常事態だが、警戒を命じられたギュンターは反応しない。

 

 なぜなら、すでに倒れているからだ。死んではいないようだが完全に気を失っていた。

 

 誰にも制止されることなく悠然と歩を進め、聖櫃へと手を添える。

 

 突如として聖櫃が砕けた。

 

 何の予兆も痕跡もなく高密度の聖霊力の塊は崩れていき、その中身がむき出しとなった。

 

 それは一糸纏わぬ姿の少女。黒銀髪の髪が尾を引き、その体は倒れる。しかし、白磁のような肌には傷一つついた様子はなかった。

 

「さて、帰りますか。……一応、運んでおかないと」

 

 そう言うと解放された少女を残して全員の姿が消える。気絶しているルイとギュンターも含め、退避した。

 

 ゆっくりと少女が立ち上がる。頭を振ると目を開け、天井を茫洋と眺める。その先で動き回る者達を認識してその力を解放した。

 

 

 

 ルミナスの絶叫とヒナタを抱えて退避したテクトを見て、ヒナタの死に呆然としていたリムルの思考も戻る。

 

 直後、大聖堂が爆発した。

 

 リムルが閃光と爆風から楽団員と子供を守り、その原因へと視線を向けると全裸の美少女がゆっくりと浮き上がってきた。

 

 邪悪な気配と莫大な妖気。そこから生じる重圧感と黒銀髪という姿に精霊の住処でクロエと融合した何者かを想起するが、言語化できない差異が別物だと感じさせた。

 

《告。対象は物質体です。異常なまでの存在地を検知―その上限は、個体名:ヴェルドラと同等です》

 

 智慧之王の解析に少女の幻想的な美しさに見惚れていたリムルは相談をしようとテクトへと視線を送る。が、当のテクトは未だ見惚れていた。

 

 無言でぶん殴って意識を向けさせようとするがダメージにはならずに効果は薄かった。だが、視点の変化の成果かテクトは頭を振ると気を取り直して思考をし始める。

 

「グランベル、貴様! どうやって封印を!? 破滅の意思(クロノア)をどうするつもりなのじゃ!」

 

「封印に関しては何とも言えませんが、彼女を解放した理由など明白でしょう。邪悪なる者共をここで全滅させるのだよ!」

 

 ルミナスの問いにグランベルは哄笑して答える。

 

 クロノアの出現に止まっていた戦いが再開され、それに応じるように事態も動き出す。

 

 全裸だったクロノアが手首の腕輪を輝かせると、黒いの粒子が身体を覆っていく。漆黒の鎧衣を形作ると次いで一振りの剣を手に取る。

 

 月光の細剣に似た形状ではあるが刀身は漆黒であり、伝説級を超えて更なる領域―神話級(ゴッズ)へと至っている。

 

 その切先から黒い閃光が放たれ、連続した破砕音が響き渡る。

 

「嘘だろ!?」

 

 これも霊子を利用した一撃らしく、テクトの張り巡らせていた糸と防御結界を紙くずのようにぶち破りテクトとその横にいたリムルに回避を強要する。

 

 攻撃はその後ろの壁に大穴を開けながら通り過ぎ、彼方へと消えていく。次に標的となったのはレオンだった。

 

「ぼけっとすんな!」

 

 テクトが怒鳴るが、クロエが消滅したことで呆然としていたレオンの反応は鈍い。舌打ちを一つすると鎌を振りかぶりクロノアへと斬り掛かった。

 

 特訓の成果か音を置き去りにした切り下ろしは軽々と受け止められる。テクトとともに度重なる死線をくぐり抜けた大鎌も神話級に進化しているため武器に大事はなかったが、剣圧のようなものがテクトの身体を薄く切り裂く。

 

 防御の余波だけでダメージを受けたことで全力を以て仕留める準備をしようとした瞬間、漏れた殺気を感じ取ったのかルミナスから強烈な思念が届いた。

 

『伝えておくが、クロノアはクロエの別人格じゃ! ヒナタの魂も眠っておるやも知れぬゆえ、絶対に殺すでないぞ!!』

 

 一瞬の動揺の内に腕が切り飛ばされる。剣が当たった瞬間に根元から自切して霊子の干渉から逃げつつ、情報をリムルにも共有する。レオンに伝えないのは、クロエの消失あたりの動きからクロエとの間に何かあることを察しているため面倒事を避けるためだ。

 

 その間にもテクトの傷は増え、周囲が血の海に変わっていく。霊子の侵食は精神体へのものがメインのため、自切の跡が散らばり猟奇殺人の現場のようになっていた。

 

 消耗浅からぬように見えるテクトだったが、救援は来た。

 

「テクトよ! ここからは我に任せるがいい!」

 

 リムルが呼び出したヴェルドラが威風堂々と前に出る。

 

「大丈夫か?」

 

「無論だ! ヴェルドラ流闘殺法のサビにしてくれよう!」

 

「目的は無力化だぞ!?」

 

 気合の入った様子のヴェルドラにテクトが思わず叫ぶ。そのままクロノアと相対したヴェルドラだったが、素手で防御しようとしてあっさりと腕を切断された。

 

「ギャワ──、き、斬られたァーッ!! テ、テクトよ、斬られてしまったぞ!」

 

「お前、あたりに散らばる俺だったものが見えねぇのか!!」

 

「ぐっ、そ、そうだ、この攻撃には覚えがあるぞ。あの我を封じた勇者の「絶対切断」だ!」

 

 テクトの叱責に話題をずらし、正体見たりと自慢気にする。呆れた様子のテクトの視線から逃げるようにヴェルドラはクロノアの相手をする。素手での防御は無理だと学んだらしく、クロノアの注意を引きながら逃げ回る。

 

 攻撃が来ない内に情報の整理を始める。

 

 まず、クロノア=クロエである事情だが、過去に飛んだクロエが成長した姿である可能性がある。同一の魂が同一時空に存在することは不可能であるため、クロノアの復活による弾みでクロエの存在が過去へと飛ばされたのだろう。

 

 成長の過程で智慧之王のようになったのが暴れているクロノアであり、ルミナスの言う封印でその存在を封じたことで結果としてクロエの存在する余地が作られたと考えられる。

 

 そして、ヒナタの魂の件だが、クロエの転移に巻き込まれた可能性がある。剣と腕輪を受け渡した際に流れ込んだように見えたのがヒナタの魂であれば、少なくとも蘇生が不可能であったこととクロノアの中にヒナタが眠っているかも知れないという言葉に納得出来るのだ。

 

 卵が先か鶏が先かというような因果のジレンマが生じているが、そこはもうそういうものとして納得するしかない。

 

 わからないことはわからないと割り切り、ではどうするべきかと考え始めた時、クロノアがテクトへと振り返った。

 

「え?」

 

 直後、テクトの首が飛ぶ。普通であれば即死だが、今回は単に切断されただけなので、もはやテクトにとっては軽傷の部類だ。迷宮内ではあるが伊達に身体を木っ端微塵にされたりしていない。

 

 何事もなかったかのように再生し、続けて攻撃を受けた。

 

「何故!?」

 

 テクトの困惑に答えることなくクロノアが剣を振るう。そこに宿る僅かな感情に、突如として標的を変えた理由を見た。

 

 読み解くのは一筋縄ではいかないが、おそらくは負の感情―リムルに懐いていたクロエにとってテクトの存在は口に出しづらく溜まっていたものがあったらしい。本人の有り様に関するためテクトから触れることはないが、ともすれば恋人(シュナ)以上に近い距離感は琴線に触れるには十分過ぎたようだ。

 

 クロエ=クロノアであることを確信しながら、テクトは回避を続ける。

 

 テクトはクロノアの攻撃を防御していない。今なら武器さえあれば子供でもテクトに傷を付けることが出来るだろう。というのも、どうあっても砕かれることは明らかなので、無駄なことに魔素を割いている理由がないのだ。

 

 精神生命体にとって魔素とはRPG的に言えばHPかつMPだ。ダメージを負っても能力を行使しても減っていく。現状のテクトの効率と回復速度であれば、よほど無茶をしない限りは消費よりも回復が早い。しかし、現在負っている傷はその無茶に近く、信頼出来る味方がいる状況で無駄遣いする理由はないのである。

 

 ほとんど攻撃を減衰できない防御を捨てれば回復だけで済むので効率が上がる。周囲がテクトのパーツで溢れていくが、今それを気にするのはリムルぐらいだった。

 

 とはいえ、標的が絞られているのであれば被害は抑えられるので悪いことばかりではない。実際にテクトの犠牲により策を練る時間は捻出された。

 

『テクト!』

 

 リムルより複雑に暗号化された思念で作戦が伝えられる。

 

 物質体をヴェルドラが、精神の安定を智慧之王が複製した抗魔の仮面で封じることで行い、星幽体同士での接触して魂へ干渉するという。

 

 危険度はとてつもなく高く、ディアブロが提案しなければ智慧之王に秘匿されるはずだった方法だが、「思念伝達」よりも成功率は格段に高いためリムルは実行するつもりらしい。

 

『なるほど。俺にも出来ることはありそうだ。「虚飾之王」で魂の保護はある程度行える。こっち側も心配ない。大船に乗ったつもりで行ってこい!』

 

『サンキュー!』

 

 テクトの言葉を受けて、リムルの思念に喜色が交じる。どこか自慢するような感じがあるのは智慧之王に対するもののようで、リムルの安全を最優先にする智慧之王により、テクトの協力がなければ実行はできないということになっていたらしい。前提条件が提案前から解決したことでそうなると信じていたリムルが得意げになっていたようだ。

 

 そんな背後の事をよそにテクトも準備をする。

 

 ヴェルドラが抑えやすいよう位置を調整し、魂の回廊を経由して「虚飾之王」でリムルの魂を包んでいく。

 

 そして僅かな隙を作り出し、胸へとクロノアの刺突を受け入れた。動きをすこしでも封じようと抱きつき、叫ぶ。

 

「「ヴェルドラ!!」」

 

 二柱の声が重なり、ヴェルドラの創った力場がクロノアの動きを完全に封じる。

 

 リムルがクロノアへと仮面を被せ、意識を飛ばした。

 


 

 次回「反抗の目的」




感想・評価・お気に入り等ありがとう御座います。

最近ここ好きが大量に付いていることに気付きました。

ありがたい限りです。
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