音楽交流会を終えたその日に、テクト達は帰国した。
テクトの召喚した悪魔達や楽団員にも欠員はなく全員無事での帰国である。
子供達にも怪我は無かったが唐突に戦闘へ巻き込まれたこともあり、精神的な疲れが出たのか元気がなかった。そのため一週間の休みが与えられたが、トラウマにならないことを祈るばかりである。
そして、クロエについては日を改めて話すことになった。
場所を何処にするかで多少揉めたが、ルベリオスは復旧の必要があり、レオンの治める
日程は決定していなかったのだが、翌日には二人とも魔国連邦へとやってきた。
今回の一件についての情報のすり合わせの重要性は理解しているのでテクトとリムルとしても文句はなく、臨時の会談が行われることになった。
今回の出席者を応接室へと通し、各々座っていく。
まず話の中心であるクロエ。
魔国連邦からはテクト、リムル、シオンとディアブロ―そしてヴェルドラ。
ヴェルドラは置いてくる予定だったのだが「我が参加しないでどうする!」と強気で言い張った。今回は戦闘など起こりようもないので
ルベリオスからはルミナス、ヒナタ、ルイ、ギュンター。
最後にレオンと二名の騎士―アルロスとクロード。
長方形の机の長辺にテクトとリムルがヴェルドラを挟んで座り、その対面にルミナスとヒナタ。短辺でクロエとレオンが向かい合って座り、他の者はそれぞれの主の後ろに立っていた。
会談はクロエによる説明から始まった。
およそ二千年での周期でヒナタとともに何度も過去へ戻っていたこと
そのトリガーがヒナタの死だったこと
これまでのループでのリムルの死とヴェルドラの暴走
その間、テクトの存在はどこにもなかったこと
テクトの存在を抜きにしても今回のループがこれまでとはまるで違うものだったこと
最も違うことはリムルが生きた状態で過去に飛んだことだそうだ。
クロノアへの名付けとヒナタの「
勇者として活動し、二人が歴史に現れるタイミングでクロエの中から意識が消えていったこと
そして、先日の戦いでリムルが“魂”へと直接干渉し、ヒナタを蘇生したことでループを終わらせることが出来た
ヒナタも横から口を挟みつつ話を終えると、全員が神妙な面持ちとなる。周囲の出方を伺う空気の中、真っ先に口火を切ったのはヴェルドラだった。
「ということは、我を封じた“勇者”は」
ヴェルドラの封印は各ループで行われていたため重要なことではない。そのためリムルは呆れていたが、ヒナタが反応を示した。
「私よ。これで貴方とは一勝一敗ね。良かったじゃない。敗北を味わえて」
「な、何ィ──ッ!?」
「あら、文句でもあるのかしら? 何なら、決着をつけてあげてもいいわよ」
「ぐぬぬぬ、良かろう! そこまで言うのなら、我の真の力を」
「後にしろ」
ヒナタの挑発に熱り立ったヴェルドラを抑え、テクトはため息を吐く。今回に繋がるループではヒナタがクロエの身体を借りて戦ったらしく、どうにも迷宮で戦った際に煽りちらされたのを根に持っていたらしい。
「ヒナタよ、そこの馬鹿竜を躾けるのはとても大事なことじゃ。やるなら妾も手伝ってやる故、ちゃんと申すのじゃぞ」
ルミナスの追加の煽りに反応しそうになったヴェルドラの口を噤ませ、話題を変えることにした。
「そういえば、クロエの存在値が大分増えてないか?」
「うん。どうやら私、“勇者”として本当の意味で覚醒したみたいなの。自分の中で育っていた“卵”と、ヒナタが温めていた“卵”が、一つにくっついちゃったみたいなんだ」
蘇生に際してヒナタとクロエは完全に分離するのではなく、ヒナタがいつの間にか宿していた“勇者の卵”だけはクロエの中にそのまま残されていたらしい。
一つの身体に二つの卵を宿したクロエは、かつてないレベルでの覚醒を成し遂げたのだった。
無限にも等しい輪廻を、純粋なまま真っ直ぐに超克したクロエの不屈の意思が成した奇跡にテクトが感心していると、感じ入った様子のリムルが穏やかな顔で口を開いた。
「よく頑張ったな。俺もお前を見習って、何があっても諦めないと誓うよ」
「うん!」
リムルの誓いにクロエも笑顔を浮かべる。
テクトはつられて浮かべていた微笑みを真剣な表情に戻し、もう一度話題を変える。
「となると、今後の対策をしないとな。
「多分、帝国の人間だと思う。ヒナタを殺したのもね。帝国にはかなりの実力者がいたみたいだし、複数名で挑まれたのかも知れないけど、ヒナタを貫いた閃光は私にも見えなかったもの」
「魔王に進化しているからと油断はできないな」
「その方がいいと思うよ。断片的にしかわからないけど、暴れているヴェルドラさんを帝国が撃退したのは確かだから」
ヒナタの死でクロエが過去に飛んだ後のことだが、クロノアの記憶が断片的に残っているらしい。
その記憶によると、暴走するヴェルドラと激突したクロノアの隙を突き、帝国が介入したのは間違いないようだ。
既にクロノアの力を実感しているので、彼女の戦いに介入出来るだけでも帝国の戦力が凄まじいことがわかる。
皆が帝国への警戒度を引き上げる中、空気を読めないヴェルドラは能天気だった。
「我が暴走するなど信じられんな」
ドヤ顔でそう宣ったヴェルドラに対する視線は冷ややかだった。
「待て! 何故我をそんな目で見るのだ!? 我のようなジェントルマンが、そうそう暴走などするはずがあるまい!」
「そうだねーそのとおりだねー」
否定するヴェルドラにテクトは適当に返す。
ヴェルザードから色々と過去のやらかしを聞いているテクトには暴走しないなどという言葉は世迷い言と言っていい。過程を考えるとリムルの死に怒り狂ったという線も捨てきれないので特に詰めることはなく、話を先のことに進めることにした。
先のこと―すなわちクロノアの記憶についてだが、ヴェルドラが倒れた後、世界は大戦へと発展したらしい。
西と東の戦争は、帝国有利に進められることになった。
人間世界の混乱の中、魔王達も動き始める。
まず、ミリムがリムルの死を引き金に帝国へと攻め込む動きを見せる。それにギィが介入し、ミリム対ギィという最古の魔王同士の戦いが再現されることになる。
さらにダグリュールが進軍を始め、ルミナスと衝突。世界中へ戦火が広がっていった。
そしてクロノアは、残されていた“破壊の意思”に従い戦場を巡り、強者を倒し続けていた。その末に何者かとの戦いで命を落とすことになった。
最期の相手は覚えていないとのことだったが、この場では満場一致だった。
「まぁ、ギィだろうな」
「そうじゃな」
「奴しかいないだろう」
テクトの言葉にルミナスとレオンが頷き、理由は不明ながら一応警戒ということになった。
「それで、クロノアが俺に好意を寄せていた理由は?」
聞いたのはリムル。
会談前にテクトとリムルが秘密裏に共有した話では、“魂”へと語りかけた際にクロノアと接触したのだが、驚くほど好意的だったそうだ。
荒れ狂う精神はリムルが無事であれば問題なしとして落ち着き、クロエとヒナタが歴史に現れ意識が消えた際にその魂が閉じ込められた「無限牢獄」に関する“情報子”への権限の委譲もあっさりと行ったらしい。
この“情報子”はあらゆる物質に含まれるもので、リムルの場合は「胃袋」の中であれば観測できるものであった。それをいじることで智慧之王は能力の統廃合を行っている。
権限を委譲された智慧之王によりクロエの各能力は統合され、究極能力「
結果としてクロエと「
精霊の住処で実体を持たない状態でもキスをしていたし、よほど鈍くなければクロノアがリムルに好意を寄せていることは理解できるというものだ。
「それはね」
『私がリムルに助けられたからよ。未来の世界で、暴れるだけだった私を救ってくれたのは、間違いなく貴方だったの』
答えようとしたクロエに割り込んで答えたのはクロノアだった。
基本的にはクロエの補助を行う存在である“神智核”であるクロノアだが、クロエが油断していれば会話に割り込むことはできるらしい。
そこからはクロエとクロノアが交互に説明することになった。
クロノアの記憶では、リムルは死んでいなかったらしい。帝国に倒されたのは確かだが、その後復活を果たしていたのだ。
だが、復活した世界は様変わりしており、ヴェルドラは消失し、魔国連邦は崩壊。
西側と東側では大戦が続いており、魔王間でも勢力争いが激化していた。
クロノアの断片的な記憶にリムル本人による推測も含むが、リムルは生き残った縁者を探して世界を巡り、クロエ―クロノアを発見。何度も戦いながらもクロノアの心を取り戻すことに成功したのだという。
しかし、その頃にはすでに世界情勢は決しており、クロノアとギィは戦うことになった。その際リムルとは離れていたそうだ。そして、死ぬ間際のクロノアをリムルが抱きしめ、気付けば精霊の住処での場面へと意識が移っていたそうだ。
当時のリムルは魔王へと進化しており、今よりも強かったらしい。そのため未来を変えるために智慧之王が何かしらの干渉を行ったことが考えられた。
ある程度未来で起きたことが解ったことで、リムルは安心した様子で告げる。
「ま、結果オーライだな」
「軽いわね」
「そう言うなって。クロエはこうして無事だし、ヴェルドラも既に復活済み。ちゃんと見張っていれば、二人が暴走する心配もないしな。それに、テクトもいるんだし」
横目で睨むヒナタにリムルは爽やかな笑顔で返し、その途中で思い出したようにクロエへと視線を向けた。
「そういえば、途中からクロノアの攻撃ってテクトに集中してたけど、何かあったのか?」
その瞬間、クロエの視線がテクトを捉える。テクトも全力で応じ、意見交換を零秒で終える。
「他の時間軸じゃ俺はいなかったんだろ? リムルが生きていること以上の異変なんだから、そりゃあ悪影響の懸念があるなら除きたいんじゃないか? 結局、俺の存在がどういう効果を生んでいるかわからないから攻撃も相当加減されてたと思うけどな」
「うん、多分混乱してたんだと思う。クロノアの意識もはっきりしてなかったし、気になったんじゃないかな」
「俺も無事だし、俺も気にしていないさ。後の問題も帝国ぐらいかな」
藪蛇にならないよう適当に言葉を繋ぎ、話題をすり替えた。
クロエの目配せを受け、ルミナスが話を続ける。
「この国に関してはそうかもしれぬな。ダグリュールも動く可能性はあるが、そちらは妾が受け持とう。クロエを助けてくれたのじゃから、それくらいの礼はさせてもらうぞ」
「助かるよ」
「未来でも戦いになったというし、帝国が動けば便乗する可能性が高いであろうな」
「だけどさ、ダグリュールの息子達がこの国に身を寄せているんだぜ? そうそう簡単に武力行使するとは思えないなだよな」
「何? それは本当なのか?」
リムルの言葉にルミナスが僅かに目を見開いた。
「ああ、開国祭の前に色々あってな。今はシオンの預かりになっている」
テクトがシオンへ目を向けると、シオンは得意げにした。
「はい。あの者共もまだまだですが、それでも最近はマシになってきました。褒美として私の手料理を振る舞うこともあるのですが、泣いて喜んでおりますよ。可愛いヤツ等です」
シオンの料理も特訓の甲斐あって改善されているのだが、それでもまだまだ問題点はある。
紆余曲折ありシオンに惚れている三兄弟が泣いている理由が歓喜かそれ以外の理由かは、疑問の残る部分である。
とはいえ特に文句も出ないのだから外から口を挟む理由はないのだ。
間違いなくダグリュールの息子達が魔国連邦にいると聞き、ルミナスは呆れたような顔を見せる。しかし、すぐに気を取り直した。
「本当のようじゃな。それでは、ダグリュールのヤツも何者かに踊らされた―いや、未来の話じゃから、この言い方はおかしいな。踊らされる可能性がある、という事じゃな」
「そうか、あくまでまだ可能性だから、回避出来る可能性もあるか……ダグラ達にもそれとなく聞き取りをしてみるよ」
「では、頼むとしよう。妾としても、無理に戦をする気などないのでな」
ダグリュールについては、調査結果を待つことになった。帝国と連動されると厄介なので、ルミナスによる警戒は続く予定である。
「後は、ギィか……というか、何であいつがクロノアと戦うんだ?」
「それについては、俺から話しておこう」
思案するテクトにレオンから説明が入る。
ギィは魔王とは別に役割を持っており“調停者”というものである。
“調停者”とは、“勇者”や“魔王”とは別枠で存在する
そのため、ギィは人類の味方でも敵でもないという立場に存在しており、クロノアと戦ったのは“破壊の意思”そのものとなったクロノアを放置することが世界の崩壊に繋がる可能性があったためと考えられた。
ヴェルドラも覚えていないが滅ぼされたことがある気がするらしい。
「そうだったのね。それじゃあ、ギィが今のクロエを狙う可能性は低そうね」
「うん。私としても、クロノアが暴れていた記憶があるし、その、魔王ギィ、さんには恨みはないよ」
ヒナタとクロエも納得したのか笑顔で言葉を交わす。
暴走の心配がない以上、ギィが手出しする可能性は低いとみて、テクトは軽く息を吐いた。
「なら、まぁ、ギィへの説明は任せてくれ。ちょっと、話す用があってな」
「そういうことなら任せるが、しくじるなよ。俺とクロエの未来がかかっているのだからな」
「レオンお兄ちゃんは関係ないよ?」
テクトを値踏みするように見つつ釘を差すレオンにクロエが正面から指摘する。
どうやらレオンはクロエに並々ならぬ愛情を向けているらしい。
一見すると美形でクールな様子だが、クロエに対してはそういった空気を感じさせることはない。わざわざルミナスの勢力圏であるルベリオスに来た目的が、状況の変化があったとはいえ、クロエに会えるかも知れないからというものであった。そういった点から愛情の深さが凄まじいことがうかがえるが、残念ながらクロエには通じていない。
昔からモテるレオンからそういった感情を向けられていると露ほども思っていないようで、せいぜい近所の親切なお兄ちゃん程度の認識らしかった。
シズの件でも誤解の面が多分にあったらしく、口下手で偽悪的な面が様々な誤解を招いているようだ。結果としてかなりの悪人という印象を各方面から持たれているようで、スキルによる干渉があるわけではなさそうだがマサユキの逆バージョンのような状態と思われる。
かなりの不幸体質のうえ、想い人にも素気無く扱われるレオンにリムルが気遣わしげな表情をで見る。
ともかく魔王二柱からの強力を取り付けることが出来、テクトは胸をなでおろすのだった。
次回「闖入者」
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来週は昨年と同じような投稿の仕方をする予定です。