転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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105話:闖入者

 会談の目的も果たし、解散を宣言しようとしたところでテクトが眉間にシワを寄せる。リムルがその理由を問う前に、テクトは小さくため息を吐いた。

 

「ディアブロ」

 

「はっ」

 

 名を呼ばれたディアブロが不愉快そうな表情で扉の前へとたどり着くと、同時に外から扉が開かれた。

 

「よお!」

 

「帰れ」

 

 一瞬だけギィがその姿を見せ、即座に扉が閉められる。その上テクトの糸がドアを縛り、施錠した。再び扉を開けようとして阻まれ、苛ついたような声が聞こえてきた。

 

「おい! テクト、手前ぇだろ! 開けろ!」

 

「やかましい! 昨日の今日で来るんじゃねぇよ! 情報の整理もついてないのにお前の相手なんかしてられるか!」

 

 怒鳴るギィにテクトも怒鳴り返す。普通に口論するテクトにリムルが苦笑し、レオンとルミナスが何とも言えない顔になった。

 

「貴様、魔王達の宴(ワルプルギス)でもそうであったが、ギィと何があったのじゃ?」

 

「あいつ、俺が困ってると心底愉しそうに嗤うんだぜ? 腹立つだろ」

 

 ルミナスの質問にテクトは悪態でも吐きそうな顔で返す。ちなみに困る原因は概ねヴェルザードだ。

 

 不遜な態度を貫いていたテクトだったが、舌打ちすると糸を解き、ドアを解放した。

 

「ったく……大人しく開ければいいものを」

 

「来なきゃ良かったんだ」

 

 互いに不機嫌を隠すことない二柱だったが、リムルがテクトを宥めたためそれ以上の口論は無かった。ギィが肩を竦めながら入室すると、廊下が騒がしくなり始める。

 

「テクト様、リムル様、無事ですか!?」

 

「我が主君、“赤”の気配を感じたが!?」

 

「戦争なの? やるって言うなら、ボクも頑張っちゃうよ!」

 

 まずベニマルが駆けつけ、続いてソウエイ。さらにカレラとウルティマがほぼ同時に到着した。

 

 あっという間に大騒ぎとなった空間にテクトの柏手が響き、全員を落ち着かせた。

 

「まぁ、招かれざる客ではあるが、用があったのは確かだ。会談の客が増えただけ、騒ぐ程のことでもない。全員、業務に戻ってくれ」

 

 テクトの言葉に落ち着きを取り戻すとギィを残して解散していく。最後にシュナが扉を閉めるなり、レオンが口火を切った。

 

「おい、どういうことだ? なんで原初の黄(ジョーヌ)がここにいる!?」

 

「妾からも質問じゃ。もう一人は原初の紫(ヴィオレ)だったように思うのじゃが、気の所為か? もっと陰気で陰湿な性格だと聞いておった故、少し自身がないのじゃがな……」

 

 思わすと言った様子で声を荒げるレオンにルミナスが追従する。いまだギィと睨み合うテクトの代わりにリムルが答えた。

 

「カレラとウルティマなら、そこのディアブロが勧誘してきたんだよ。これが思ったより優秀で」

 

「カレラ? それに、ウルティマだと!? 貴様、まさかあの者達に、“名前”を付けたのか!!」

 

「信じられん。お主等はそこのディアブロだけではなく、他にも原初を従えたと申すのか……」

 

 リムルの説明を遮り、レオンが立ち上がる。ルミナスも心底驚愕しておりで、そんな二柱を見て我が意を得たりといった様子で頷いた。

 

「な、呆れるだろ? オレが来たのも、コイツラの真意を問いただす目的もあったのさ」

 

 ギィの言葉に鼻を鳴らしつつテクトが遠隔でドアを開く。

 

 シュナが入室し紅茶を配膳する間と香りが落ち着きを取り戻させ、レオンも着席する。

 

 そこで、不思議そうにしていたリムルが背後を振り返った。

 

「ディアブロ、お前ってもしかして、始まりの悪魔の一柱だったりする?」

 

「え?」

 

「まあ、そうですね。確かに私は、この世界で最初に誕生した、七系統の悪魔族の一柱です」

 

 自身の問いにディアブロが事もなげに答えたことでリムルは頬を引きつらせる。

 

「……まさか、知らなかったのか?」

 

「信じられん。抜けておるとは思っておったが、まさかここまでとは……」

 

 レオンとルミナスに呆れを多分に含んだ視線を向けられ、リムルは気まずそうにする。驚きを共有しようとテクトを見るが、テクトもどちらかというとルミナス達側だった。

 

 リムルとしては意識の混濁した状態での適当な召喚に応じる悪魔がそこまっで大物だと考えておらず、テクトは智慧之王(ラファエル)から聞いていると思っていた。そして智慧之王はまさかリムルが原初を知らないとは考えていなかったため、だれもすれ違いに気づいていなかったのだ。

 

 一応、開国祭のときにエルメシアが警戒していた理由を深く考えれば正体に行き着くこともできたかもしれないが、テクトが居合わせていたディアブロを問題視していなかったので思考を放棄していた。カレラ・ウルティマとの初対面でもテクトが脅威と認識していなかったので、原初に対する脅威度の認識が低かったりもする。

 

 結構な大事となったことでリムルが疑問点は早い時点で智慧之王にでも聞いて解消しようと考えていると、ディアブロがリムルとの出会いについて語り始めていた。

 

 なんでも、ディアブロはシズと縁があったらしく、彼女の最期の気配を感じ取ったディアブロはこの地を訪れていたらしい。

 

 そこから観察を続けていたディアブロだったが、黒の系統の下位悪魔(ベレッタ)に抜け駆けされ、次こそはという意気込みのもと、魔王への進化に際して戦力を求めていたリムルの召喚に応じることが出来たという。

 

 また、ディアブロは依代を用意してもらったベレッタに嫉妬して粛清を目論んだものの、リムル謹製の身体を傷付けることが出来ず、諦めたそうだ。余談だが、マウザーもテスタロッサに詰められ、同様の手管で難を逃れている。

 

 ディアブロの話はまだ続きそうであったので、テクトが止める。

 

「ディアブロ、一度止めろ。会談の後でやることがある者もいるからな」

 

「それくらいで満足だろう? それよりもよ、ここにディーノの野郎も来てるんだろ? ちょっと呼んできてくれねーか?」

 

 テクトに続き、ギィも口を開いたことでディアブロも話を止める。テクトが視線でシュナにディーノを呼びに行かせたところでディアブロが不満そうに言う。

 

「ここからがいいところなのですが……」

 

「あとでギィにでも聞かせてやれ」

 

「承知しました……」

 

 残念そうな顔のディアブロには誰も取り合わず、一度静かになると、アルロスとクロードが隣の待合部屋から追加の椅子を持ってきた。

 

「おう、気が利くじゃねーか」

 

 ギィの言葉に二人が軽く頭を下げる。

 

 本来であれば魔国連邦側で手配するべきではあるが、ディアブロは話に夢中になり、シオンに至っては我関せずと動こうとしなかった。

 

「すみませんね、気を遣わせちゃって」

 

「いえ、お気になさらず!」

 

「両陛下の事情も存じております。我等に警戒させぬよう、この部屋から人を遠ざけておられるのでしょう? であれば、この程度は我等が」

 

 リムルの礼に二人は爽やかに応じる。

 

 こういった雑事にも細やかなテクトの手配も遅れたため珍しいこともあるのかと横目で伺うと

 

「立ったまま聞いていればいいものを」

 

 小さく悪態を吐いていた。どうやら手配を忘れたのではなくしなかったらしい。やはりギィとは折り合いが悪いようだ。

 

 聞こえていたのであろうギィは僅かに反応を示しつつも着席し、同時にシュナがディーノを連れて戻ってきた。

 

 何故か同行していたラミリスも交えて会議は再開した。

 

 

 

「で、ディーノよ。言い訳を聞こうか?」

 

「え、言い訳って何の?」

 

 ギィの問いに、ディーノは本気でわからないという様子で問い返す。その態度で、ギィはここまでで我慢していた怒りを噴出させた。

 

「ふざっけんなよ、お前! 何でコイツが、あの二柱に名付けるのを止めなかったんだ!?」

 

 ギィがテクトを指さしながら怒鳴る。普通に席を用意してもらっていたディーノは気圧されたのか居住まいを正す。

 

「いいか、お前を何の為にここに送り込んだと思ってやがる?」

 

「えっと、観光?」

 

「ちげーよ! 偵察だよ、偵察!」

 

 堂々とスパイを送り込んだことを宣言するギィをテクトは半眼で見る。リムルも苦笑していたのを見て、ギィの矛先が変わった。

 

「って、お前等もだよ! 他人事みたいな顔してんじゃねーよ!」

 

「クアハハハ! ギィよ、小さな事で怒るでないぞ。コヤツ等がホイホイと名前を付けるのは、今に始まった事ではないわ!」

 

「黙るのじゃ! 大人の会話に口出すでないわ!」

 

「う、うむ」

 

 フォローをしようとしたヴェルドラだったが、ルミナスに一喝され黙り込む。あまり役には立っていないが、場の怒りの矛先が逸れたのを逃さぬよう、すかさずリムルが口を開いた。

 

「まあまあ、ディーノがここに来た目的は、俺達を監視する為だった訳だろ? それに関する苦情は今は措いておくとして、テクトを止めなかったディーノも悪いし、そのディーノを信頼して派遣した人物にも、監督責任というものがあるんじゃないかな? そうは思わないかね、ギィさん」

 

「そうだぜ、ギィ。だいたいな、俺に監視なんて出来ねーって。まさかお前が、俺を働かせようと考えていたなんて驚きだよ」

 

 リムルが責任を共有化してディーノやギィにも責任を分担させようという考えを敏感に察知し、ディーノが乗っかる。テクトはここまでの悪態から後押しするのは悪手と判断し、黙り込んだ。

 

「テメーら……」

 

 リムルの言にも一理あるのでギィの語気が弱まる。

 

 再び怒らせないよう言葉を選びつつ、ディーノが畳み掛ける。

 

「大体よ、俺に止める間なんてなかったんだよ。俺はな、テクトとリムルが原初を連れているのを見て、言葉も出ないほど驚いていたんだよ。だって、これで四柱だぜ? 原初の黒(ディアブロ)はまあ、変人だからで納得出来たけどよ、原初の白(テスタロッサ)は既に名付けされてるし、そこから追加で二人も来て、過半数が降るなんて誰にも想像出来ないだろうがよ!」

 

「まあな」

 

 ディーノの責任逃れの為の主張にギィも同意した。このままでは旗色が悪いとみてリムルも主張を始める。

 

「俺達もさ、ディアブロが役立つと言って連れて来たから、それを素直に信じて受け入れたんだよ。まさかそんな大物だったなんて思わなかったし、彼女達も行儀よく俺達の部下になることを納得してくれていたしね。彼女達はディアブロの直轄だし、責任はディアブロにある。何かあったら俺達も責任を負うことになるけど、部下を信じるのは当然だろ?」

 

 実際のところ、テクトは最初から原初であると気づいた上で名付けをしているのだが、それを知っているのは極少数で、その一人であるディーノも黙っている。であればギィが確実に怒るポイントは避けて納得させる方向へと舵を切ったのである。

 

 当の責任を押し付けられる立場となったディアブロは信頼を言葉にされたことで輝くような笑顔を見せており、それを見たギィは疲れたように無言となる。そのまま身体を椅子にもたれさせた。

 

「つまり、ディアブロが悪いんだな?」

 

「悪いっていうか……」

 

「俺達も被害者っていうか、なあ?」

 

 尊大に問うギィにリムルは口ごもり、ディーノも気まずそうに言葉を飲み込んだ。テクトは出来る限り存在感を薄くしていたが、逆にディアブロは堂々と誇らしげにしていた。

 

「こいつが変なのは昔からだから、今更文句を言っても仕方ないとして……。ディーノよ、お前がテクトを止められなかった、これはまあ、状況的に理解できなくもない」

 

 会話の方向を察しテクトの気配が更に薄まる。しかし、その場から動けない以上、さしたる意味はなかった。

 

「で、だ。テクト、テメーだよ!」

 

 テクトの座るはずの席に指をさされ、無駄な抵抗のしようがなくなったテクトが存在感を元に戻す。目が合ったのを確認するとテクトは堂々とした様子でとぼける。

 

「俺が何だっていうんだ?」

 

「何もクソもねーんだよ!」

 

 そこからはギィの怒りを発散する場になった。

 

 傾きかけていた世界のバランスは完全に崩壊し、世界情勢がどう転ぶかが完全に不明となったことを長々と語っていく。

 

 かなり計算高く人間世界へと干渉していたらしく、魔国連邦が原初を追加で取り込んだことで完全にご破産となったようだ。

 

「今回のミザリーの作戦もお前のせいで失敗したんだ。その責任は取ってもらわねえとな?」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 ギィが一旦落ち着いたことでテクトは肩を竦めつつ頷いたのだった。

 

 ギィの話では、定期的に災禍を起こすことでギィを人類共通の敵として認識させていたらしい。強大な存在への恐れを抱かせることで、身内同士での権力闘争に明け暮れさせないことが目的だった。

 

 グランベルが仕切っている間は支配層が安定していたために様子見に徹して、大胆な行動は謹んでいたが、今回のルミナスへの総力戦は均衡を崩す事態だった。

 

 そこでギィは、人類を恐怖で一つに纏めるようにミザリーに命じたのだ。

 

 各国から選出された議員を殺すことで、評議会加盟国の首脳陣に魔王の脅威を再認識させ、西側諸国を一致団結させる―はずだったのだが、それはテスタロッサによって阻まれた。

 

 作戦の失敗により、西側諸国は団結の切っ掛けを失い、ロッゾという統率者を失ったことで権力闘争が始まることになる。

 

 東の帝国が動き出そうとしている状況で内輪揉めをしていれば、西側諸国は蹂躙されてしまう。

 

「手前のせいでこのままじゃ西側は全滅だ。どう責任を取るつもりだ? ええ?」

 

 凄むギィにテクトは頭を掻く。

 

 少し言葉を選ぶように視線を彷徨わせてから口を開いた。

 

「何のプランもない、というわけでもない」

 

「ほう?」

 

 テクトの言葉に最も驚いたのはリムルである。失言を避けるために身体の主導権を智慧之王へと任せていたのでそれを表に出すことはなかったが、視線を向けるのは避けきれなかった。

 

「今後魔国連邦を中心とした経済圏の構築に着手するわけだが、ロッゾ一族の行っていた一極集中ではなく、富の再分配を行うことになる。これにより、ある程度の公平性を保ちつつ国家間の関係性を再構築する。この際の交渉に措いて、人類国家からすれば、一見して―いや、精査したとしても、魔国連邦側からの譲歩を引き出せたように見える結果となるわけだが、無論、それはこちらの予定通りの選択ということになる」

 

「どうなるんだ?」

 

「結論から言えば、魔国連邦からの無償の安全保証と競争可能な経済圏の策定―だが、武力を魔国連邦に頼り、裏から市場操作が可能であるため、事実上は魔国連邦の意のままだ。しかし、これは人間の中では絶大な価値を持つ。本来であれば手に入れることなど出来ないものを自身の力で手にしたように見えるからな。そして、一度豊かさを知れば、もう戻れない。それを失わないために多少疑わしいと思っても従わざるを得ない」

 

「なるほど、弱者をお前達に依存させて、血の流れぬ戦争で全てを決する社会を創る、と。だが、それを実行に移すには、長期的視野と緻密な計算が必要になるぜ? ちゃんと管理しねーと、今度は増えすぎて図に乗る人間共の様子が目に浮かぶがな。そこまで面倒を見てやれるのかよ」

 

 ギィは語気こそ楽観的だが、雰囲気は真剣そのものだ。リムルは思わず息を呑むが、テクトは肩を竦めてみせた。

 

「お前のやり方よりは効率的で、平和的だよ。別に失敗してもお前に害が及ぶこともない。なら、問題ないだろ?」

 

「そこまで言うなら、お前等に任せてやろうじゃねーか。仮にしくじっても、オレが馬鹿共を間引くだけのことだしな。お前等の責任の取り方、見せてもらうとするぜ」

 

 テクトの言葉にギィはニヤリと笑って返す。集った魔王全員がそれを承認し、魔国連邦による西側諸国の管理が行われることになったのである。

 

 

 

 ギィが憂慮していた西側諸国については解決し、それで話が終わるというわけではなかった。

 

 話の終わりを見計らってレオンが口を開いたのだ。

 

「一応忠告しておいてやろう。原初の黄ことカレラだが、ヤツは気が向くままに核撃魔法をぶっ放すような、そんな気性の荒い面を持ち合わせている。ちゃんと手綱を握っておかねば、せっかくの都が灰燼に帰す羽目になるぞ」

 

 レオンに続いてルミナスも忠告する。

 

「そうよな。妾からも一つ教えてやろう。先程も述べたが、妾が知る原初の紫というのは、陰気で陰湿。そして、残虐非道の代名詞のような存在じゃった。魔族と違って人間を根絶やしにしようなどとは考えておらなんだようじゃが、とても気まぐれで移ろいやすい性格をしておったのじゃ。貴様等の前では明るい少女を演じておるようだが、決して油断はせぬ方が良いと思うぞ」

 

「お、おう……了解……」

 

 二人の言にテクトは頬を引くつかせながら返す。

 

 危険度に関してはレインとミザリーを参考に考えていたが、二柱の評に精神面での不安が浮かび始めたのだ。だがしかし、既にエルメシアにも責任を持つと宣言している以上、この場で翻すわけにはいかず、自分で何とか出来る範囲の騒動で済むよう祈るのだった。

 


 

次回「警戒対象」




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