転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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遅くなり申し訳ありません。

さらに言えば普段と比べて短いです。


107話:こんなものは犬も食わない

 臨時会談から数日後。

 

 執務室の扉がノックされる。

 

「どーぞー」

 

「失礼しま―なんですか、この状況?」

 

 入室したベニマルは目を剥いた。

 

 執務室は重苦しい空気に満ちていたからだ。

 

 発生源はテクト。

 

 なにやら思い詰めたような顔で項垂れる主の一人に何事かとベニマルは事情の説明を求めてリムルを見る。

 

 しかし、対するリムルは肩をすくめるだけだった。

 

「気にしても仕方ないと思うぞ」

 

「ええ……」

 

「ほら、テクト、ベニマルが来たぞ」

 

 リムルに肩を叩かれたテクトがゆっくりと顔を上げる。それでようやくきづいたのか、憔悴した様子のテクトはベニマルを見て僅かに明るい顔になった。

 

「あぁ、義兄上か……ちょっと相談したいことがあるんだ」

 

「そういうことでしたら」

 

 ベニマルの即応にテクトは弱々しく笑みを浮かべた。

 

「シュナを、怒らせてしまって……」

 

「シュナを、ですか?」

 

 ベニマルはテクトの言葉の真偽を疑った。テクトが明らかに落ち込んでいる以上、嘘ということはないはずなのだが、シュナが怒るというのが想像もつかなかったのだ。

 

 というのも、基本的に双方共にベタ惚れといっていい。

 

 特にテクトは圧倒的強者(ミリムやヴェルザード)を前にしてシュナが一番大事だと言い切る程なのだ。

 

 そのテクトがこうも落ち込むほどにシュナの機嫌を損ねるような言動を取るということは考えづらいことである。

 

 そのため考えても答えはでず、直接聞くことにした。

 

「何があったんです?」

 

「一昨日の夜に色々話した結果、昨日する予定だったデートの相手がシュナからルーシェになったんだけど」

 

 早速ベニマルは話を聞こうとしたことを後悔した。

 

 何を話したのかは定かではないが、何を話したとしてもテクトが有責である。シュナの方針がテクトを囲い込むものであることは知っているが、だからといってこのようなことをして怒らない理由に心当たりはなかった。

 

 ベニマルの表情が無になっていくのを見て、テクトが慌てた様子で続きを話す。

 

「いや、違うんだよ。あ、いや、何も違わないんだけど、発案はシュナだから、そこが発火点じゃなくて……うん、最初から話すよ」

 

 

 

 遡ること三十六時間程。

 

「私の勝ちですね。さあ、話して頂きますよ」

 

「……はい」

 

 笑顔のシュナを前にテクトはがっくりと項垂れる。それと同時にその手からカードが落ちた。

 

 二人がしていたのは前世で知ったゲームを参考にテクトの開発したカードゲームだ。本来はそれぞれのカードの能力を活かしつつ相手の攻め手を削るゲームなのだが、シュナのテクトに対する人読みによって僅か三手での決着となった。

 

「それで、何をそんなに気を揉んでいるのですか?」

 

 テクトは僅かに眉をひそめる。臨時会談の翌日にギィからの警告を受けてからテクトは気も漫ろになっていた。

 

 それはリムルをはじめ他者に気取られるようなことはなかったが、シュナにはあっさりと看破されてしまったのだ。

 

 そのためシュナは仕事への姿勢について咎めつつ質問し、話すのを躊躇ったテクトに対し、賭け事という形で問い詰めることになったのである。

 

「ギィに、言われた。帝国にヴェルザードを殺したことがある悪魔族がいる、と。脅威ではある。戦えば犠牲が出る可能性が高い。なのに、俺が一番最初に考えたのは、ヴェルザードのことだった」

 

 ゆっくりと、俯いたままのテクトが語る。

 

 自分の考えが傲慢で不芳な考えであることは理解しているが、好意を向けてくるヴェルザードに対して揺らいでいるのも確かであり、それを失いたくないと考えてしまっている。

 

 過去、ギィに向けられていたその感情が失われているという事実はテクトの心に澱を生み、最初の悪魔と相対すれば守ることが叶わないという予測はテクトを不安にさせていた。

 

「最悪だろ? 誰かが死ぬかも知れないっていう戦を前にして、一番最初に気にするのが最愛とは違う女のことなんだから……」

 

 テクトが暗い顔でそう自嘲すると、シュナは立ち上がった。流石のシュナも呆れたのか、それとも失望されただろうかとシュナの行動をぼうっと眺めていると、不意に手刀を落とされた。

 

「あぅ……シュナ?」

 

 痛みはないが意図を汲みかねたテクトは頭を抑えつつシュナを見上げる。当のシュナは少々不満げに口を尖らせていた。

 

「明日はルーシェさんと過ごして下さい」

 

「え……」

 

 前述の通りこの日の翌日はシュナとのデートの予定だった。それを覆したことに呆然としていると、シュナはため息を吐いた。

 

「私とて、不満がないというわけではないのですよ? ですが、テクト様にそのようなお顔をさせるぐらいであればこの方がましというだけです」

 

「いや、でも……」

 

「いいですか? テクト様が恐れているのはルーシェさんの記憶が欠けることで、その気持ちが誰かへと向いてしまうことです。であれば、多少欠けたところで目が逸らせないほどに刻みつけてしまえばいいのです」

 

 シュナの言にテクトが口を曲げる。気遣いは嬉しいのだが、承服しかねるといた様子にシュナは顔を挟んで目を合わせた。

 

「テクト様、私はテクト様を愛しています。もし世界がテクト様の存在を否定しても、私は共にあります」

 

「そこまでいったら俺が悪いんじゃない?」

 

「……」

 

「……ごめんなさい」

 

 気恥ずかしさからの茶化しを絶対零度の目で非難され、テクトは即座に謝罪する。シュナは話を先に進めるべく咳払いを一つ挟んだ。

 

「とにかくです。ルーシェさんがいる未来の方がテクト様にとって良い未来というのは間違いないはずです。ここで私自身を優先してテクト様が先々後悔に暮れるようなことになれば、私は私を許せなくなってしまいます。テクト様も複雑かもしれませんが、飲み込んでください」

 

「……うん。ありがとう」

 

 説き伏せられ、テクトは僅かに目を伏せながら小さく礼を述べる。

 

「んむっ」

 

 何か埋め合わせを提案しようと開いた口がシュナの口付けによって塞がれた。乗り込んできた舌にも抵抗することなく身を任せていると暫くしてシュナはゆっくりと口を離した。

 

「代わりといってはなんですが、今夜は、私の時間ですよね?」

 

 据わった目で見下ろしてくるシュナを見て、テクトは生唾を飲み込んだ。

 

 

 

「ここまでが一昨日の夜の話なんだけど……」

 

 一度話を切り、テクトがベニマルの顔色を伺うとげんなりとした表情をしていた。

 

「妹の情事があったことは聞きたくありませんでしたが、まあ、デートの時点では何の問題もなかったことは理解しました」

 

 ベニマルは頭が痛そうにこめかみを抑える。気持ちを落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をすると改めて質問した。

 

「結局、何があったんですか?」

 

「昨日のデートは夕食までで終わりにして、庵に帰ったんだ。で、シュナは俺を出迎えてくれたんだけど……」

 

 そこまで言ってテクトは口ごもる。だが、このまま黙っていても話が先に進まないことは理解しているため、意を決して話を続ける。

 

「俺の我侭で予定を潰した結果になった上に、他の女性とのデートだったわけだし、申し訳ないとは思ってたんだよ。ついでに言うなら、相手に失礼だからデート中って他の女性のこと以外は考えないようにしてたのも理由だけど……。まぁ、複数人デートの相手がいる時点で失礼もなにもないんだけど……」

 

 テクトの自嘲にベニマルは何ともいえない表情になったが、当のテクトに気にする余裕はなく、ゆっくりと息を吸ってから再開する。

 

「そんなこんなで申し訳なさが募った結果、つい口からいらない言葉が……」

 

「何を、言ったんです……?」

 

「……「俺のことは気にしないで出かけても良かったのに」って」

 

 空気が凍る。少なくとも愛する男が他所の女とデートを楽しんでから帰ってくるのを健気に待っていた少女にかける言葉ではない。

 

 テクトの懺悔にベニマルは顔を覆い、一度聞いていたリムルは深いため息を吐いた。

 

「やっぱりテクト様が悪いんじゃないですか……」

 

「うぅ……わかってるんだよ……怒った理由も……でも、どうすればいいのかわからなくて……」

 

 そう言って再びテクトは項垂れる。沈鬱とした空気が流れる執務室へソウエイが影から現れた。特に服装に乱れはないがノックもなしに突入してきたためベニマルが驚いていると、テクトは顔をあげないまま声をかける。

 

「おかえり、どうだった?」

 

「残念ながら、俺を差し向けられることは読まれていたようで追い返されました。申し訳ありません」

 

「いや、いいよ……」

 

 ソウエイはシュナの様子を探れればと送り出されていたのだが、収穫なしということでテクトの雰囲気が一段階落ち込む。とうとう頭を抱えたテクトにベニマルは思い出したように問う。

 

「そうだ。シュナが怒ったって話ですが、どういう状況だったんです?」

 

「えっと……昨日の夜は口を利いてくれなくて……布団は離れて置かれてた……」

 

 ここまでの話を聞いても一応は相談を続けるつもりのベニマルに、テクトは感涙しつつ少しづつ答えていく。やや大げさにも見える反応にベニマルは苦笑した。

 

「布団、ですか。各部屋はどれぐらい離れてました?」

 

「へ? 同じ部屋だったけど?」

 

 ベニマルの質問が予想外だたのかきょとんとした様子でテクトが答える。しかし、予想外なのはベニマルも同様であり、首をひねった。

 

「え? じゃあ、端と端とかですか」

 

「今の義兄上とソウエイぐらいだけど」

 

 テクトの回答にベニマルとソウエイは顔を見合わせる。彼我の距離はさほど離れていない。お互いに手を伸ばせば触れ合えそうな距離感だった。

 

「「「……」」」

 

 状況を想像し明らかに白けていく三人の様子を察して、テクトが言い募る。

 

「普段は一組なんだよ。それが二組になって離れた場所にあったんだよ?」

 

 ベニマルが先ほどとはまったく違う頭痛に頭を抑える。閉口したベニマルに代わり、リムルが口を開いた。

 

「……シングルに二人は狭いだろ」

 

「さすがにそこまでじゃないって、セミダブルだよ」

 

「「「……」」」

 

 テクトの回答に再び全員で黙り込む。そのままテクトを放置して目線で意思疎通を済ませ、同時に深い溜息を吐いた。

 

「ソウエイ、付き合ってくれ。呑まなきゃやってられん」

 

「そうだな。今日ぐらいは酒に溺れても誰も文句はあるまい」

 

「俺も行く。静かなところにしようぜ」

 

 そう言って三人は部屋を出ていく。もはや視界にも入れようとしない様子にテクトは困惑しつつ手を伸ばした。

 

「え、ちょ」

 

「連日帰るのが遅くなったらこじれるぞ」

 

「う……」

 

「これもいい薬です」

 

「ぐ……」

 

「俺達に出来ることはないのでご自分でどうぞ」

 

「……」

 

 口々に突き放され、テクトは完全に沈黙する。机の上に崩れ落ちたテクトに目をくれるものはいなかった。

 

 

 

「だから言ったろ? 気にしても仕方ないって」

 

「そうですけど、流石にここまでとは思いませんでしたよ……」

 

「しばらく経っても解決しないようであれば、動くべきですかね?」

 

「大丈夫だと思うぞ。多分明日には戻ってるだろ」

 

 

 

 そして翌日。

 

 シュナは休んでいたがテクトは妙に上機嫌であり、ベニマルの頭痛は加速した。

 


 

 次回「」




感想・評価・お気に入り等ありがとう御座います。

相変わらずどうしてこうなったのか。

未投稿の他原作の二次創作含め、何かしら情けない部分が出来ているような……。

完璧超人よりは親しみやすいってことで納得しようと思います……。
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