転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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今回は少し長くなりました。


14話:魔王と蜘蛛と獣人と

 ミリムが風呂に入っている間に、その監督のため一緒に行った女性陣を除く主要メンバーが会議室にそろっていた。

 

 議題は言わずもがな「ミリムについて」だ。

 

「まさか、魔王本人がやってくるとは思いませんでしたな」

 

 リグルドが呻くようにつぶやく。そしてそれはこの場にいるもの全員の心情と一致していた。

 

「一応、俺かテクトの許可なく暴れないと約束してもらったから、大丈夫だと思いたいが」

 

「いや、それよりも気になるのは、他の魔王の動向だ」

 

「他の魔王?」

 

 テクトはカイジンの言葉の意味が分からず、首をかしげる。それはリムルも同様のようだった。

 

 ベニマル達によると、魔王は複数いて、互いにけん制しあっているらしい。

 

 他の魔王からすれば、ミリムのテクト達との友達宣言がこれまで配下を持つことのなかったミリムとジュラ・テンペスト連邦国の同盟のように映るため、魔王間のパワーバランスが崩れることとなり、場合によってはジュラの森にも戦火が広がる可能性があるという。

 

「…………つまり、私たちの行動次第で大変なことになるかもしれないと」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「しかし、実際にミリム様を止めるのは不可能でしょう」

 

「確かに、正直に言ってあれは別次元の強さだった。勝てる勝てないを論じることすら無駄だと思える。テクト様が事前に止められたために機嫌を損ねることこそなかったが、挑みかかったのは無謀というほかないな」

 

「全くだ。他の魔王が敵対するというのなら、そいつ等を相手にするほうがいくらかましだろうな」

 

 リグルドの言葉にベニマルが本音をこぼし、スイレンがそれを肯定する。

 

 その後もいくらか話をしたが、結局他の魔王に関しては敵対するものが出てきてから対処を考えるという形で収まった。

 

 そして、肝心なミリム本人については

 

「じゃあ、ミリムの相手はテクトに任せるってことでいいな?」

 

「「「異議なし」」」

 

「ゑ⁉」

 

 突然のリムルの発言によって決定した。

 

「ミリムが一番なついてるのってテクトだと思うんだよな」

 

「ええ、移動中もテクト様に乗ったまま楽しそうにしてましたし」

 

「魔王ミリム様といえば、最強最古の魔王の一柱。絶対に敵対してはならない魔王の一人ともいわれております。お任せできるのは、テクト様かリムル様しかおりませんからな」

 

 口々に言われ、テクトは反論を封じられる。文官への教育も進み、テクトなしでの業務に不安が少ないこともあって、ミリムの担当はテクトで決定したのだった。

 

 

 

 それから数日、テクトはミリムに引っ張りまわされていた。

 

 ミリムはこれまでの生活では見なかったものに興味関心が尽きない様子で、あちらこちらへと顔を出し、テクトはそれについていく形をとっていた。

 

 とはいえ、気まぐれに動くミリムに完全についていくことはできず、腕をとられて引っ張られていた。

 

 そしてこの日、リムルはベスターの研究室に足を運んでいた。

 

 彼の研究によりリムルが作っている回復薬である「完全回復薬(フルポーション)」と同じものが作成ができるようになったため、それをもとにした「下級回復薬(ローポーション)」を作り、ドワルゴンとの交易を行うことが決まった。一仕事終えたリムルがミリムの様子を見に行こうとベスターの設置した転移魔方陣に移動している最中、街で爆発が起こる。

 

 急いで現場に向かったリムルの目に映ったのは、アラクネのテクトをしきりに観察し、何かの確認をとるミリムの姿だった。

 

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 

 テクト達はシュナの工房にて、ミリムの着替えを受け取りに来ていた。

 

 ミリムが来た翌日にもここには来ており、サイズ調整で着替えを用意していたのだが、創作意欲の刺激された有志のもの達によって完全新作も作られていたのである。

 

「お疲れ様です。テクト様」

 

「お疲れ、シュナ。操糸人形(ホワイトドール)だから肉体的な疲れはあまりないけど、あっちこっち回るから結構大変だね。シュナも短期間で何着も用意するのは大変だったでしょ?」

 

「いえ、問題ありません。私は最終的な調整が主でしたから」

 

「待たせたな、テクト。さぁ、次に行くのだ」

 

「ミ、ミリム、その方向に引っ張るのはまずいからやめて。じゃぁシュナ、また」

 

「はい、いってらっしゃいませ。テクト様、ミリム様」

 

 テクトがシュナと話していると服を「空間収納」にしまい終えたミリムが戻り、そのままテクトを引っ張り外に向かう。その際、ミリムとシュナの目が一瞬交錯したが、テクトは気づかなかった。

 

 

 

 シュナに見送られ、しばらく歩いていると、人だかりができていた。テクトがシラヌイに確認をとってもらうと確認していない魔力反応らしい。ミリムに確認をとり、先行して近づいていくと、話が聞こえてくる。やってきたのは獣人であり、リグルドが応対しているようだった。

 

「俺は、魔王カリオン様が配下、三銃士「黒豹牙」フォビオ。獣王戦士団最強の戦士だ。ここはいい町だな。カリオン様が支配するのにふさわしい。そうは思わないか?」

 

「ご冗談を」

 

 リグルドが返答するや否や殴り掛かるフォビオだったが、その拳がリグルドに届くことはなく、割って入ったテクトの手によって止められていた。

 

「何をしに来たのかは知らないけど、いきなり殴りかかるのが得策だとは思えないな」

 

「なんだ? てめぇは」

 

「礼儀知らずに名乗るのは癪に障るけど、しょうがないから名乗っておくよ。私はテクト・テンペスト。この町の、盟主補佐ってところかな」

 

「そうかよっ!」

 

 拳を止められたこととテクトのセリフの前半に刺激されたのか、受け止められた側と逆の拳で殴り掛かるフォビオ。テクトは拳を離し、後ろにかわそうとしたが、ここで一つ不幸がおきる。

 

 フォビオにとっての。

 

≪告。操糸人形、右膝関節部破損≫

 

「え?」

 

 身をかわそうとしたテクトにシラヌイから報告が入る。直後、体が右に傾き、フォビオの拳が右頬に突き刺さる。頭部は爆散し、その他の関節も衝撃で破壊され、文字通りの糸の切れた人形となって倒れ伏した。

 

 実のところ、操糸人形はさほど耐久性がない。以前ガゼル王に語った通り、外交用に作ったものであるためだ。

 

 最初に受け止めたのは、操作のために循環させている魔素量を意図的に増やして無理やり止めただけだった。さらに言えば、操糸人形を使った訓練はあくまで扱いに慣れるために行っていたものであり、戦闘への使用を前提とした訓練ではなかった。

 

 使用していない間はシラヌイが修繕等のメンテナンスを行っていたが、ここ数日はミリムに付き合う際は身体の大きさから、アラクネの状態では不便なことが多いため、食事やミリムの入浴中以外は操糸人形を纏っており、操糸人形を纏っている間はミリムによって引き回されていたため修繕が追い付かず、ここにきて完全な故障となったのだ。この故障によって魔素を循環させるために張り巡らせた糸も切れ、耐久力を上げることもできなってしまった。

 

 フォビオは操糸人形の頭部を破壊し、起き上がってこないことに呆然としていた。盟主補佐と名乗った相手の殺害(実際は違うが)に加え、直前に拳を受け止めた相手があっさりと吹き飛んだことで情報を処理しきれなくなっていた。

 

 フォビオとともに町に来た獣人の戦士たちは焦っていた。盟主補佐の殺害はどう考えても敵対行動である。元々の目的である豚頭帝討伐に参加していた魔人の勧誘など行えるはずもなければ、このことを宣戦布告と受け取られ、このまま開戦という可能性すらある。獣王国とジュラの森で戦争になった場合、敗北することはないが、相応の損害を出すことは確定である。この行動はもはや主への背信行為と考えてもおかしくないことでもあるため、そのこともまた彼らの心を不安定にさせた。

 

 一方、リグルド達を始めとした町の住民は落ち着いていた。操糸人形が破壊されてしまったことへの驚きや、いきなり殴りかかったフォビオへの怒りはあれど、テクトが無事であることを理解しているため、取り乱すようなことはなかった。

 

 テクトは落ち着きを取り戻しつつあった。操糸人形が壊れることは予想外であったものの、本体にけがはなく、新しく作れば解決するためさほど困ることではないためだ。しかし、すぐに冷静さは雲散霧消した。

 

「なっ、魔王ミリム⁉」

 

「テクトに何をするのだぁ!!」

 

「ミリム⁉ ストップ!! ストーップ!!」

 

 ミリムは完全に切れていた。町の住民の中で最も気にかけているテクトが殴られ、動かなくなった。実際には操糸人形を動かせないだけなのだが、「隠蔽者(カクスモノ)」によってテクトに対する感知がうまく働かず、何もしなくなったテクトはミリムから見ると死んでしまったかのように感じてしまったのだ。感情の矛先は下手人たるフォビオに向けられ、そのまま殴りつけた。

 

 フォビオがとっさにはなった豹牙爆炎掌をあっさりと上へ弾き飛ばし、ミリムの拳がフォビオへと突き刺さる。

 

 しかして、フォビオは生きていた。テクトはミリムが切れていることを察知した直後、操糸人形から脱出、アラクネへと変態し、ミリムに声をかけると同時に拘束を実行した。人の上半身の二つの目と蜘蛛の下半身の八つの目、合計十の目による「静止の邪眼」。魔力付与と気力付与を用いて強度を上げた糸による拘束。多重結界の行使。これらを殴るために引いた拳の動き出しの直前に決めることで威力の低減を試みた。

 

 結果から言って拘束は大した意味を持たず、あっさりと突破されたが、声をかけたことと、慌てた際にスキルの制御が崩れ、隠蔽が解けたために感知が働き、ミリムの拳から力が抜けたのである。

 

 その状態でさえフォビオを吹き飛ばし、瀕死に追い込むのだから、ミリムの規格外ぶりがわかるというものだ。

 

「テクト!! 無事なのだな⁉ けがはないな⁉」

 

「大丈夫。実際に体にダメージがあったわけじゃないから」

 

 ミリムはテクトの回答に安堵を見せるも、心配なのかテクトの周囲を回りながら観察する。そうこうしているとリムルがやってきた。

 

「なにがあったんだ?」

 

「えぇ~と、リグルドをかばって私が殴られてミリムが殴り返した…かな?」

 

「全くわからん」

 

 テクトは気を取り直して説明をしていく。説明が終わると瞑目し、しばらく考えた後、ミリムへと向き直った。

 

「俺かテクトの許可なく暴れない約束じゃなかったか?」

 

「それは、その、あいつがテクトを殴ったからだ! つまり、仕置きのようなものだ! セーフなのだ!」

 

「アウトだよ! まあしかし、状況もわからなくもないし、今回は不問にしといてやるか。いいかミリム。今後勝手に暴れたら、飯抜きだからな」

 

「わ、わかったのだ」

 

 ミリムがひるみながら首肯する。ひとまずフォビオの治療をし、場所を移して話を聞くことにした。

 

 

 

 会議室は異様な圧迫感に包まれていた。

 

 上座にはリムルが座り、ベニマル、シオン、リグルドが控えている。少し離れたところにミリムが座っており、新しい操糸人形を用意する時間がなかったテクトがその横でミリムをなだめていた。

 

 下座にフォビオのみが座り、残りの三人は立っている。ミリムから漏れ出る怒気で彼らはわずかに震えていた。

 

「で、この町に来た目的はなんだ?」

 

「下等な魔人ごときに答えなければならない理由がないな」

 

 フォビオは明らかにテクト達を見下していた。最初に代表として対応したリグルドがフォビオの攻撃に全く反応できなかったことや、盟主であるリムルがスライムであることに加え、先ほど盟主補佐のテクトをあっさりと吹き飛ばしたことで気を大きくしたらしい。

 

「下等というが、俺とテクトはお前よりも強いぞ。念のために言っておくが、俺たちは魔王カリオンについて何も知らない。お前の態度次第ではこのジュラの森との全面戦争の可能性だってあるんだぞ」

 

「スライムごときが偉そうにしやがる。それにそっちの魔人にもなりきれない半端ものが俺よりも強いだと? ろくな魔素量も持っていないことはわかってるんだ。はったりもいい加減にしろ。雑魚ばかりで群れると程度が低くて行けねぇな。ミリム様に気に入られているからと調子に乗るなよ?」

 

 リムルが忠告するが、弱肉強食を信条とする魔人であるフォビオは傲慢な態度を崩さない。

 

 ここにいるものの中で勝てるのは、テクトとリムル、そしてミリムぐらいのものであるが、テクトとリムルは強さも誇示するタイプでないため、基本的に魔素を隠している。そのうえ、テクトの隠蔽はミリムを欺くほどなので、フォビオからすればテクトは気味の悪さを感じる魔人の出来損ない程度にしか映らないのだ。

 

「はぁ。さっきリムルが似たようなことを言った気がするけど、君の態度次第でこちらの対応はいかようにも変化する。少しは、わきまえるべきじゃないのかな?」

 

 テクトが隠蔽を解き、魔素と「畏怖」を全開にしてフォビオに問う。フォビオどころか信頼によって効果が薄まっているはずのベニマル達でさえ思わず息を詰まらせるほどの恐怖がもたらされ、フォビオが呻く。平気な顔をしているのはミリムくらいのもので、リムルさえもわずかにほほを引きつらせていた。

 

 テクトが魔素や「畏怖」をひっこめた後、さらにミリムに凄まれ、最終的にはフォビオは不機嫌を隠さぬままに目的を語った。

 

 話をまとめると、フォビオが魔王カリオンから受けた命令は、豚頭帝討伐に参加していた魔人たちの勧誘だった。

 

 テクトはあきれていた。勧誘をするというのなら、少なくとも交渉前から自身に対する悪感情を植え付けるような行動が正しい訳がない。今回はミリムがいたため誰が接触しようと無駄だったかもしれないが、仮にミリムがいない場合でもフォビオでは失敗していたであろうことが容易に考えついた。

 

 フォビオには日時を改めて連絡するよう魔王カリオンへと伝言し、返すこととした。会議室を出る直前に「後悔させてやる」と捨て台詞を残し去っていったため、魔王カリオンとの関係は悪いほうに進むことを予感させた。

 

「さて、ミリム。詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

「それはだめなのだ。お互いに邪魔をしないという約束だから、誰にも教えないぞ」

 

(もうそれは「何か秘密があります」って自白しているようなものなんだよなぁ)

 

 魔王カリオンの情報を集めるために、ミリムへと魔王カリオンのことを話すように交渉していく。リムルは「親友」という言葉を強調しながら、「うっかり邪魔しないために」ともっともらしい建前で聞き出そうとし、最終的に武器を作り与えることを持ち出すとミリムはかなり揺れていた。

 

「親友……武器……ぐぬぬ」

 

『おい、テクト。もうちょいで行けそうだし、お前も何か言ってくれ』

 

「(えぇ……)あ~その~ミリム? 私たちもミリムが不興を買うことは避けたいしさ、聞いておきたいんだよ。そうだ、こんな服があるんだけど、よかったら着てみない? 多分似合うと思うんだけど」

 

「うむ、そうか! わかった、教えてやるのだ」

 

 テクトが取り出したのはいわゆるゴスロリだった。シュナによって縫製の知識がしっかりした際に作ったものだが、街を歩くものは和服のようなものか毛皮を利用したものが大半なので、周囲から浮いてしまうことを懸念して死蔵していたものだった。

 

 さっそく服を受け取り、着替えたミリムにテクトはせっかくだからと髪形を変えることを提案する。それを聞いたミリムはおとなしく髪をいじられながら、魔王誕生計画とそれにかかわっていたミリム以外の魔王、クレイマン、フレイ、カリオンのことを話していった。

 

「なかなか面倒なことになりそうだな」

 

「ええ、トレイニー様とも相談するべきですな」

 

「リムル様とテクト様でしたら他の魔王など畏れるに足りません!」

 

「どうだ? 似合うか?」

 

「うん、よく似合ってるよ」

 

(シュナは大変だな)

 

 神妙にするリムルたちのそばでミリムははしゃいでいた。

 

 

 

 ミリムの巻き起こす旋風は様々な方向からテンペストを巻き込んでいくのだった。

 

 


 

 次回「これじゃ、もはや言い方が詐欺師のそれなんだけど」

 

 

 

 ミリムの服装はdアニメストアの着せ替えテーマをイメージしていただければと思います。

 

 

 

 




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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