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フォビオが不穏な気配を感じさせる捨て台詞を残し、魔国連邦を立ち去って数日後。
中央都市「リムル」に新たな客が二組やってきた。彼らは
二組ともメンバーは人間のみであり、片方には見知った顔がいる。話を聞くために会議室へと案内するが、全員を収容できるわけではなかったので人数の多かった者たちからは代表者として二人出席していた。
一組目はブルムンド王国から来た冒険者四名。以前シズとともにリムルたちのもとを訪れたことのあるカバル、エレン、ギドの三人組に加え、ブルムンド王国の自由組合ギルドマスターのフューズと名乗る男。以前カバル達へ
二組目はファルムス王国の伯爵領から派遣されてきたという辺境調査団三十名。団長はヨウムという色黒の美形であり、その体はよく鍛え荒れていることがうかがえる。隣には魔法使いのロンメル。やや神経質そうな見た目だが、エレン曰く腕はいいらしい。
魔国連邦側はスライム状態のリムルが中央。その横にアラクネ状態のテクトとその上にミリム。後方にはソウエイとシュナ、シオン、コウカが控え、リグルド、ベニマルが席についていた。
「俺はジュラ・テンペスト連邦国の代表をしているリムル・テンペストだ。見ての通りスライムだけどな」
「私は代表補佐を務めております。テクト・テンペストです。蜘蛛の魔物の派生形だとでも思っておいてください」
テクトとリムルが自己紹介をすると、フューズはスライムが代表であることに愕然とする。事前に知っていたことではあるが、やはり実際に見聞きしたことによる衝撃があったのだろう。
「ところで、以前には見かけなかった方がおられるようですが」
カバル達が来ていたのはまだ鬼人たちと出会う前だったので、ベニマル達を紹介していく。ミリムが名乗った時にフューズがわずかに反応を示していたが、言及することはなかった。
フューズがこの地に来た目的は、豚頭帝の件で国の上層部が大混乱となったため、自分の目で現状を確認するためにカバル達を案内人にやってきていたらしい。
ヨウムたちの事情も似たような感じであり、豚頭帝の軍勢についての調査が目的だった。フューズと違い豚頭帝の討伐完了を認識していないのは縁がなかったゆえだろう。
「そんなことはどうでもいいんだよ! 俺はなんでスライムがそんなに偉そうにしてるのか、そっちの方が不思議だぜ。そもそも、なんでスライムがしゃべってるんだ? なんでお前らはこの状況に納得してるんだ? あと、そっちのミリムとかいうガキをのせているてめぇは何なんだ? お前みたいなやつ聞いたことないぞ」
これまで黙っていたヨウムが席を切ったように騒ぎ始めた。これまでの彼の常識を覆していく状況に耐えかねたのだろう。
「リムル様とテクト様に無礼ですよ!」
「うるせぇ! 黙ってろ、女!」
「ちょっとシオン⁉」
「あ、つい……」
騒ぐ中でリムルとテクトを軽んじるような発言をしたヨウムにシオンが憤慨し、それに反発したヨウムはシオンによって打ち据えられた。そこにさらなる追撃を与えようとミリムが動いた。
「そこをどけ、シオン。私にもぶちのめさせるのだ」
「待って⁉ ミリム、落ち着いて⁉」
ひとまずテクトがなだめすかし、自分も制裁をとヨウムに向けた手をおろすミリム。気絶したヨウムを介抱し、場が落ち着いたあたりで話をまとめることにした。
「まず、フューズさんの目的は我々の存在、および、安全性の確認。つまりは、この町が人間と関りを持つのか、魔物たちが人類に害をなす魔物であるか否か、これらの見極めが現在の方針ということでよろしいですか」
「ええ、そうですな。この町に滞在し、私の目で、耳で判断させていただければと」
「承知いたしました。この町での滞在を認めましょう。我々が人類に害意を持つ存在でないと知っていただければ幸いです」
「信じられないかもしれないが、俺たちは人間とも仲良くしたいと考えている。今すぐにとは言わないが、そのうち貿易とかして交流できればいいじゃないかなと。今のところ国交を開いているのはドワルゴンだけだけど、この地を経由すれば商人たちの利便性も向上すると思うんだ」
「ドワルゴン⁉ 確かにあそこは中立国で亜人との交流もあるようですが、ドワーフ王が魔物の国を承認したというのですか? それはいくら何でも……」
フューズはリムルの言葉を信じることができないようだった。そこでドワルゴンの元大臣であるベスターを呼び、ドワルゴンと魔国連邦の関係が事実であることを説明してもらったことで、ようやく納得してもらえたのであった。
ヨウムのほうは少し事情が複雑になっていた。
元々自由の身になるために調査の過程で自分たちが死んだことにして安全な国で自由組合に加入し、新たな身分を得て生活をする予定だったらしい。その際に、調査隊の訃報と合わせて、自分たちを遣わせた伯爵にも、領民のことを考えて、情報を流すことを考えていたりと、ヨウムが男気のある人物であることがうかがえた。
リムルは少し考えた後、フューズに質問する。
「フューズさん。豚頭帝討伐の件って一般の人も知っているのかな?」
「いえ、この件を知っているのは国王と数人程度ですよ。こんな情報公開してしまっては世情が混乱するどころではない」
「なるほどね」
にやりと笑うリムルがヨウムに向き直り、提案を口にする。
「ヨウム君。俺と契約しない?」
「はぁ? 一体何を言っt……何をおっしゃっているんでしょうか?」
ヨウムの口調が気に入らなかったのか、シオンに睨まれ、慌てて言葉遣いを丁寧にして言い直すヨウム。突っ込むとシオンが追撃に走りそうだったので、気づいていないふりをし、リムルは話を続ける。
ヨウムに提案した内容と理由はこういったことだった。
内容はヨウムたち辺境調査団およそ三十名に豚頭帝討伐の英雄となってもらうこと。
豚頭帝が討伐されたにもかかわらずフューズが不安視したのは、討伐したのがリムルを中心とした魔物の集団だったからだ。なので、ヨウムを豚頭帝討伐の立役者に仕立て上げ、自分たちをその協力者とすることで、この町の魔物は英雄を助けるために動くことのできる魔物であり、人間にとって危険な存在ではないということをアピールするという策であるということだった。
「というわけなんだが、どうだ?」
(話は分かったけど、最初の言い方だと詐欺師みたいに聞こえるんだけど)
「何を言い出すんですか! 「どうだ?」じゃないでしょう!」
「ちょっと待て! 俺が英雄だと⁉ 勇者の真似事でもしろってのか?」
黙って話を聞いていたフューズとヨウムが騒ぎ出す。彼らの進退を考えれば簡単にうなずけることではないことを考えるとおかしな行動とは言えないだろう。
「勇者はだめだぞ? あれは特別な存在で、勝手に名乗っていいものではないのだ。勇者を名乗るものには因果がめぐる。なので、精々英雄を名乗るがいい」
「そういう話じゃねぇんだよ、ガキ!」
気が高ぶっていたためかミリムに言い返し、ヨウムは我慢の限界が来たミリムによる魔力の一撃をもって壁にめり込んだ。限界ギリギリまで加減したのか、魔力そのものは極々小さいものだったが、それでもヨウムが吹き飛ぶあたりさすがは魔王である。
「ミリム?」
「はっ、こ、これは、その、違うぞ⁉」
振り返ったテクトに対し、必死に言い繕おうとするミリムに警告する。
「次こんなことがあったら」
「あったら?」
「当分の間「ミリム様」って呼んで、一歩引いたところから対応するからね」
「悪かった! 私が悪かったからやめるのだテクト!」
現状ミリムにとってテクトの存在は自身の心象の一角を占める重要な要素である。それを自身からはく奪するようなテクトによる仕置きを想像したのか、やや青ざめながら謝るミリムをなだめながら、テクトはうまくいったことに安堵した。ミリムを完全に手玉に取るような状態のテクトに配下の魔物は感心していたが、リムルやフューズは泣き所を容赦なく殴りつけるようなテクトの所業にドン引きしていた。
「しかし、ミリムという名前……どこかで聞いたような気がするんですが」
「それよりもヨウムさんは無事?」
ミリムが魔王であること気づいているのかいないのか、名前について言及し始めるフューズをごまかすためにヨウムのほうを気に掛けるように誘導するテクト。ヨウムは回復薬を投与されたおかげか無事復活した。
「いったい、なにが」
「申し訳ありません、ヨウムさん。彼女たちにはしっかり言い聞かせておきますので、ご容赦いただければ幸いです」
「はぁ、まぁいいや。それよりも英雄になれ、だったな。悪いが少し考えさせてもらってもいいか?」
ヨウムは自身が冷静ではなかったこともわかっているのかそれ以上ミリムのことを話題にすることはなく、話を本筋に戻す。
テクトはヨウムの言葉を受け、調査団にも滞在許可を出した。ヨウムが退室した後、フューズはヨウムがリムルの計画を受け入れた際には協力することを約束し、彼は街を見るために会議室を後にした。
テクトは自分たちが去ってからどのように街が変わったのか見てみたいというカバル達を案内すべくともに回っていた。相変わらずミリムはテクトに乗っており、エレンと仲良さげに話している。
「そういえば、テクトさん。今日は初対面の人が……ムグッ」
『
テクトがとっさにカバルの口を糸でふさぎ、話せないようにしてミリムに悟られないように隠しつつ、念話を使って簡潔に説明する。
今回の場合は初対面のフューズやヨウムがいるため操糸人形を使うのが通常通りではある。先日フォビオによって頭部を吹き飛ばされた操糸人形は破棄し、新しく作っているため使用はできる。
だが、テクトが現在操糸人形を使っていない理由はミリムにあった。ミリムはテクトが吹き飛ばされ動かなくなったところを見ていた。動かなくなったのは操糸人形だけなのでテクト本人には何の傷もなかったが、失ってしまったかもしれないというトラウマが刺激されるため、テクトとともにいる際に操糸人形の使用を嫌がった。そのため、今回は操糸人形を使わなかったのだ。
「どうかしたのか、テクト?」
「ううん、なんでもない」
カバルの口を縛っているテクトを怪しむミリムを適当にごまかし、街の案内をしていくテクト。ミリムがはしゃぎながら説明していくのをテクトが補足していく形で案内していった。案内は夕飯の時間まで続いていった。
「結構遅くなったんだな。もう日が暮れちまったぞ」
「ごめんごめん。ミリムがはしゃいじゃってさ」
「ヨウムの件だが受けてくれることになったぞ。町を見て回って信頼に足る判断してくれたらしい」
「そっか、これまでに作り上げてきたものが信頼の理由になったっていうのはうれしいことだね」
ヨウムが英雄となることを引き受けたことで、その翌日からハクロウによる訓練が始まった。
ヨウムはランクA-の槍脚鎧蜘蛛と戦えるだけの実力はあるものの豚頭帝討伐の英雄というには足りないため、確かな技術を身に着けることで誰からも信じてもらえるようにするためということだった。
数週間にわたって特訓し、十分な実力を身に着けたと判断されたヨウムたちは、クロベエ達の作成した特質級装備を携えて旅立った。
フューズもブルムンド王国での工作をすでに終えており、もはや観光地に羽を伸ばしに来た重役のようになっている。
「フューズさんって案外仕事できる人なんだね」
「ずっと街でくつろいでいるだけだと思ってたけどな」
テクトとリムルはリムルの庵で新しく作った酒の試作品を口にしていた。すでにミリムも寝ているため周囲は静かなものだった。テクトに関しては「状態異常無効」を獲得しているので本来なら酔うことはないのだが、シラヌイによって弱体化を行って、わざと酔えるようにしていた。
「やっぱり熟成させた方がいいのかな? 少し飲みづらい気がする」
「作り始めてからまだ時間が経ってないからな。知識はテクトが持ってたけど気候の問題もあるし、こればっかりはトライ&エラーしかないだろ」
試行錯誤の方法をああでもないこうでもないと話すうちに、スキルによって醸造する方法に行きついていく。
「時間加速が可能なスキルとかがあればもっと効率よく進むのかな。そういえば超音波で熟成が進むって話もあったような……だとすると」
「スキルか……進化の時に関心が強ければユニークスキルを獲得したりするって話だっけ? なら、醸造の知識と関心を高めた奴に名付けをしたら「
テクトはリムルのこぼした言葉にふと反応し、いい考えがあったと表情が明るくなる。
「ん? そっか、名前か。それいいかも」
「何がだ?」
「今のところは秘密ってことで。まぁすぐにわかるよ」
この時のやや酔いのまわったテクトの考えが世界に大きな波紋を呼ぶことになるのだが、それを知るものはいなかった。
次回「聞くものが聞けば必ずドン引きするレベルの所業」
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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい