今回は途中でセリフまみれになります。読みづらいかと思いますがお付き合いいただければ幸いです。
テクトが酒を飲みながら何かを思いついた翌日。
リムルはフューズのもとへと向かっていた。
(最近はミリムも元気になったし、それでいて暴れたりしないし、めっきり平和になったもんだよなぁ)
そう、最近のミリムはおとなしかった。
フォビオ来襲の際にテクトが吹き飛ばされたことで、一時期快活さが鳴りを潜めていたため、フューズ達が来る少し前までは割とおとなしかった。そして、活発になり始めたころに客が現れ、テクトの「町にいる先輩として」という甘言にのせられ暴走せずにいたのだ。
そんなことを考えつつフューズのもとにたどり着いたリムルは、ブルムンド王国への街道整備とそれに対する代価として、町の宣伝や商人との渡りをつけることを約束し、気分よく執務室へと戻ろうとしていたところで、とんでもない量の魔素の放出を感じ取った。
「な、なんだぁ⁉」
その魔素の奔流はすぐに収まったものの、リムルを警戒させるには十分であり、住人達も何事かと身を固くする。急いでその地点に向かうと、何やらぐったりとしたテクトがエレン達に叱られており、ミリムはテクトの様子をしきりにうかがっていた。
(なんか前にもこんなことがあったよなぁ)
時間を少し巻き戻す。
テクトはミリム、カバル達三人組とともに狩りに出ていた。狩りをしている理由が世話してもらってるのに何もしないのは落ち着かないというカバル達の主張によることなので、戦っているの彼らだけであり、テクトとミリムは手を出していない。
とはいえ、テクトは絶対に不干渉というわけでもなく、討伐した魔物の収納を行ったり、カバル達が怪我をすれば治療をしたり、手に負えないような魔物が出れば対応したりと何かしらつもりではある。エレンが魔法で作った沼にカバルとギドが魔物を誘導していくのを眺めながら、テクトはミリムに話しかける。
「名前を考えない?」
「名前だと?」
テクトの言葉にミリムはいぶかしむ。二人ともすでに名持ちであるため新しく名前を付ける理由がない。テクトの配下に名無しの魔物は存在しないため、ミリムには名前を考える対象が思い浮かばなかった。
「そう、私たちとミリムの間での共通名を考えるんだよ」
「共通名だと?」
「ほら、私とリムルは「テンペスト」って部分が一緒でしょ。この部分は名前を得たときに親友であることを示すために考えたものなんだよ。だから、親友であるミリムとも考えるのもいいんじゃないかと思って」
本来ならヴェルドラも「テンペスト」の名を持っているのだが、対外的には消滅したとされている以上、リムルの中で健在であることをほのめかすことを避け、あくまでリムルとの二者間での出来事であるとするテクト。ミリムは隠し事に気づかず、テクトの言葉を受けてうなっていた。
魔物にとって名付けは危険なことであることは常識であるため、もちろんミリムも理解している。そもそも、万単位の配下全員に名付けをしていくテクトとリムルがおかしいのである。
ガビルの前例から名持ちの魔物への名前の上書きも可能ではあると考えられるものの、強力な力を持つ存在への名付けは名無しの魔物への名付けよりも更に危険であるため、最強の魔王とも言われるミリムや
「そもそも名付けをするとはどういうことだ? ワタシには「ミリム・ナーヴァ」という名前があるし、ここから変えるつもりはないぞ。上書きも困難、いや、不可能と言ってもよいだろう」
「多分、何とかなると思うんだよね。それに「変える」んじゃなくて「付け加える」んだよ」
「付け加える?」
「私の知っている風習にミドルネームっていうのがあってね。例えばリムルだったら「リムル・
適当に例を挙げながら説明するテクトに対し、名前に関しては納得したミリムだったが、一番気にしていることを聞くことにした。
「なら、魔素はどうするのだ?」
「それなら大丈夫。実のところ自分でも時間をかけないと把握できないくらいため込んでるから」
実は、ジュラの森大同盟が発足し、豚頭族への名付けを行ったときに「巣」へと魔素を格納できることに気づいたテクトは「
「むぅ、しかしだな……」
「えっと、嫌、だったかな」
「ぐ……嫌というわけではない。だが、もう一度確認して問題ないと確信を得られた場合だけだ。それだけは守ってもらうぞ」
テクトのことを心配し、言いよどむミリムを前にテクトが悲しそうな顔をしたためにミリムも折れ、リスクがない場合ならと妥協案を出した。テクトは普段から行動を共にしていたため魔素に関しては抜かりなく測定してあった。そのため、現在の貯蔵量であれば、
「(本当は問題ないんだけど、即答したら怒るだろうし)じゃぁ、確認してるうちに考えておこう。どんなのにする?」
「それはテクトに任せるぞ。私はあまり名付けをしていないからな」
テクトが約束を破ると考えていないため、ミリムは名前に関しては不干渉にすることにしたようだった。
(ヴェルドラの時も「暴風竜」から考えたし、今回もミリムに関係しているものがいいかな。「
「決まったか?」
テクトの雰囲気が変わったのを感じ、ミリムが尋ねる。テクトは一つうなずき告げる。
「「D」だ。「破壊の暴君」も「竜魔人」も「D」から始まる。ミリムを象徴する名としてはいいと思う。だから、ミリムなら「ミリム・D・ナーヴァ」になるかな」
「「D」か……面白いな。よし、それにしよう」
「なら、これからは「ミリム・D・ナーヴァ」で、私が「テクト・D・テンペスト」だね」
ミリムが受け入れたことで改めて名前を口にすると隠蔽しきれないほどに魔素が大量にあふれ、しかしそのほとんどが拡散することなく滞留し、二人の間で新たな絆として結びついていく。
こうして、この場にて聞くものが聞けば必ずドン引きするような所業である「真の魔王への名付け」が完遂された。このことが原因となり、テクトはのちに頭を抱えることとなるのは先の話である。
進化を促すような名付けではなかったため、ため込んでいた魔素で消費は収まり、テクトの意識にも問題はなく、能力の低下も起きなかったが、それでも大量の魔素が体を駆け巡ったことで疲弊し、ややぐったりとしていた。ミリムは一瞬離した視線を戻し、テクトを心配する。
「テクト、本当に大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけ。体調的にも能力的にも問題ないよ。少し休めば回復するから」
そうして会話を続けるテクトとミリムの前にエレン達がやってきた。
「あ、エレン。狩りは終わった? お疲れ様」
汚れた様子のカバルとギドを見て、ねぎらおうとしたテクトだったが、返答によって硬直した。
「お疲れ様、じゃねぇよ、テクトさん!」
「そうでやすよ! せっかくあっしらが苦労して罠までおびき寄せてたっていうのに!」
「二人の所為で逃げちゃったじゃないですかぁ!」
ねぎらいに帰ってきたのは怒りだった。先ほどの名付けの際の魔素の奔流が周囲の魔物に恐怖を植え付け、彼らの狩ろうとしていた魔物が逃亡してしまったのである。
必死に謝るテクトだったが自らの努力を成就直前に不意にされた彼らの怒りは収まらず、うなだれているところにリムルがやってきた。結果的にリムルのとりなしによってその場は収まったものの、その後しばらくはエレン達に頭の上がらなくなったテクトであった。
「…………っていうか⁉ おま、ミリムに名前って何考えてんだ⁉」
「えっと、ちゃんとリスクヘッジはしたし、現状倦怠感もないから大丈夫だと思うけど」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「ああ、そういえば今は魔素が足りないからリムルの「D」はまた今度ってことで」
「どうでもいいわ!」
テクトはリムルに怒られていた。最初に聞いたタイミングではその所業にドン引きし、呆然自失となったが、すぐに復帰し、相棒の無謀さ加減を烈火のごとく怒る。ひとしきり文句を言ったのち、息を整え、一つ質問をした。
「はぁ…………で、なんであんなことをしたんだ?」
偽証は許さぬとばかりに真剣な表情で問うリムルに対し、テクトも表情を真剣なものへと変え語りだす。
「ミリムが寂しそうに見えたんだ」
「寂しそう?」
「私の勘違いかもしれないけどね。ミリムはたった一人の「竜魔人」で、他者から恐れられる魔王の一人で、配下を持ってなくて。きっと、ミリムを敬う人もいると思う。ほかの魔王も仲間ではあるはずだ。けど、ミリムと気軽に話すことができる人って、ほとんどいないんじゃないかと思うんだ。対等に話せる魔王もいると思うけど、ミリムは別格って話だから、ほかの魔王だと気後れするだろうし。だからか、ミリムはこの町に来てからとても楽しそうにしていた。いろんなところを見て回って、いろんな人と話して、常に何かしながら笑ってた。でも、時々その表情が曇っているように感じた。そして、その姿がどことなく、ヴェルドラとかぶったんだ」
「ヴェルドラと?」
「リムルが「
「諦めたって?」
「あの時、ヴェルドラを解放する方法を考えなかった。この世界について色々と教えてくれた恩人が、この世界での最初の友人が、消滅してしまうことを認めてしまった。自分にできることなど何もないのだと考えてしまった。せめてなるべく寂しくないようにヴェルドラのもとに通おうなどと嘯いて、自分にできる最大限をこなしている気になろうとした。自分にできることを限定してしまった」
「だが…………」
「今ヴェルドラが助かる道が開けているのは関係ない。悔いているのは当時の自分の考え方だ。だから、ミリムを見ていて何かしてあげたいと、そう、思ったんだ」
テクトは語り終わり、小さく息を吐く。リムルも何も言わず、話を咀嚼する。しばらく無言が続いた後、リムルが口を開く。
「まぁ、話は分かった。これ以上は何も言わん」
「ごめん。心配かけて」
「そうだな。たっぷり気にしろ。今後心配させないためにもな」
「はは、了解」
「そういえば、なんで「D」なんだ?」
「ミリムに関する名前として知られているのが「D」で始まるからっていうのは本人にも話したけど、もう一つだけ伝えてないことがある。「Distraction」。「気晴らし」って意味になる英単語だ。少しでも俺の感じた寂しい気持ちが晴れるように」
それを最後に会話は終わり、しばらくしてミリムが突入してくるまで静かな時が流れた。
そして数日後。
「わーっはっはっは! 今回も大量だったな!」
「テクトさんがいてくれると、帰り道が楽で助かりやすねぇ」
「まぁ、町の食糧事情に貢献してもらってるしこれくらいはね」
この日の狩りを終えたテクト達が街に戻り、その場に居合わせたリムルに成果報告をしていると、不意に現れた殺気だった気配に、町の主戦力たる鬼人たちやランガ、フェルがそろい、その内リムル、テクト、ミリム、カバル達三人組以外が身を固くし、構える。そんな状況の中現れたのは樹妖精のトライアだった。その体は半透明となっており何かよからぬことが起きているのが明らかだった。
何が起きたのか問うとトライアは話始める。
「緊急事態でございます。
詳しい話を聞くと暴風大妖渦は魔王に匹敵する存在であり。樹妖精では歯が立たない相手らしい。目的地はこの町らしく、防衛のための飛行戦力の確保を進言するために現れたとのことだった。
これを聞き、ひとまず対策を練るために会議室へと集まることにした。
脅威がすぐそこまで迫っていた。
次回「勝てばよかろうなのだ」
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例に使ったスリィはスライムをデンマーク語にした時の発音からとっています。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい