暴風大妖渦のことを聞いて一番に反応を示したのはフューズ。
彼の説明では強さは魔王に匹敵するうえ、知恵なき魔物であるため交渉を行うこともできず、勝手気ままに暴れる存在であり、分類としては
そのうえ、本来なら一定時間で魔素によって作られた身体が崩壊するはずの空泳巨大鮫なのだが、何故か
現在戦闘中のトレイニー達の推定ではその強さはAランク相当とのことだった。数は十三体でこれだけでも相当な脅威であるといえる。
進行方向から目標が中央都市「リムル」であると推察出来る以上、迎撃するほかないとの結論に達し、それぞれが自分にできることを探して行動を始める中、フューズ達は泡を食っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! わかってるんですか⁉ 相手は魔王並みの」
「だけどフューズ君。俺たちが時間稼ぎをしたとして、ブルムンド王国からの援軍なんて期待できないだろ?」
「それはそうなんですが…………」
「まぁ、私たちも負けるつもりもありませんし。ただ、万が一の場合は、住人の受け入れについて検討してみてくれませんか?」
「いや、負けるつもりはないって、相手は樹妖精ですら足止めできない化け物ですよ⁉ そんなのんきなこと言ってる場合ではなく、国家を超えて協力し合う必要のある大問題じゃないですか!」
テクトとリムルから緊張が感じられないためかフューズは食って掛かるが彼らも内心では焦っている。配下の魔物たちは戦闘や避難の準備で忙しくしているが、それぞれが冷静に対処しているため焦燥が感じづらいだけなのだ。ミリムに至っては騒動などどこ吹く風で風呂に入りに行く始末であり、この行動によって浮足立つことがなくなっていた。テクトはミリムが離れることを嫌うため引きずられるようにして退出し、リムルとフューズ達が会議室には残った。
「なかなか面白いことになりそうだな、テクト」
「まぁ、ミリムからしたらそうかもね。というか、もうミリムだけでいいんじゃないかな」
「それもそうだな。でかいだけの魚など、このワタシに任せておけばいいのだ」
「だめですよ。テクト様、ミリム様。これは私たちの町の問題です。「
騒動が起きることに目を輝かせ、テクトに頼られたことによって気分よく笑っていたミリムをシュナが諫める。その際に心なしか「友達」の部分に力が入っていた気がするが、テクトは気にすることはなく、呻くミリムをなだめるのだった。
その後、テクトは風呂から上がったミリムを連れ、戦いの場所へとやってきた。
場所は魔国連邦とドワルゴンをつなぐ街道で現在工事完了している終点である。
暴風大妖渦を待っている間に聞いたトレイニーの説明によると、暴風大妖渦は固有スキルとして「魔力妨害」を持っているため魔法による攻撃は効果が薄く、飛行魔法も打ち消される可能性があるため、高さの優位性をとられてしまうとのことだった。天馬や龍人族は翼に重力を操る力があり、それを利用して飛んでいるため問題はないが、それ以外の魔物たちは飛行しての接近は厳しいと結論付けた。
戦力としてはベニマルを始めとした鬼人たち、
「あれ? そうなると私もあんまり役に立たないんじゃ…………」
「となると、ミリムのお守かな」
「せっかく新しい武器ができたのに…………」
テクトの「空中機動」は魔素によって足場を作り、空中に立つスキルのため「魔力妨害」の影響を受けるのである。結果、戦闘に加われない可能性が高いことがわかり、テクトはうなだれ、先ほどとは逆にミリムに慰められることとなった。
結局のところ、一度ぶつかってみてから考えることとなり、各々の準備を始めるのだった。
そうこうしているうちに暴風大妖渦と空泳巨大鮫が姿を現した。暴風大妖渦は二十メートルの空泳巨大鮫が小さく見えるほどに巨大であり、五十メートルを超えるほどだった。
「マジで鮫が空中を泳いでるな」
「そういえば、フカヒレってスーパーとかのインスタントスープぐらいしかたべたことないなぁ。そもそも鮫っておいしいんだっけ?」
「わからん。よし、そろそろ始めるぞ」
そして、戦端が開かれた。
「天翔騎士団は間に合わなかったね」
「混戦になる前にぶっ放せるからそれはそれでいいかもな。ベニマル」
「ええ、やってやりますよ。「
先制攻撃として放たれたベニマルの一撃は暴風大妖渦と空泳巨大鮫一体を巻き込んだ。しかし、倒せたのは空泳巨大鮫のみであり、暴風大妖渦には鱗を傷つけるにとどまっていた。
「全力の一撃だったんですがね…………」
「やっぱり「魔力妨害」の影響が大きいみたいだね。空泳巨大鮫を倒せはしたけど巨体がそのままだ。…………一応回収しておこうかな」
「それじゃ予定通り、分散させて各個撃破していくか」
予測していた結果ではあったものの、まるでこたえていない暴風大妖渦にうんざりしたような雰囲気のベニマルをよそにそれぞれ戦闘を始める。
「ガビルとゲルドはいい感じに協力できてるね」
「ああ、ゲルドはあの事気にしてたみたいだけど、ガビルの能天気さが役に立ってるみたいだな。しかし、ハクロウはほんとに鬼だな」
「だけど、みんないい動きしてるね。全く乱れることなく危なげない」
「ええ。さすがはハクロウ様です」
「若返って、鬼教官ぶりに磨きがかかりましたからね」
テクトとリムルが戦況を眺めつつこぼしたコメントにベニマルとシュナが同意した。
「なあなあ、私も遊びたい!」
「だめ」
動こうとしていたミリムを制しながら、戦況を眺めるうち、ソウエイがいつの間にか空泳巨大鮫の上に乗っていた。
「あれ? ソウエイは「魔力妨害」中での飛行手段持ってないじゃなかったっけ?」
「「影移動」を使っているみたいですね。空泳巨大鮫の周囲の空間に作用するわけじゃないから使えたみたいです」
疑問に思ったテクトに「
「ミリム、ちょっと待ってて。私も行ってくる」
「テクト、大丈夫か?」
「大丈夫、せっかくだからこいつの試し斬りもしたかったしね」
テクトは自身の背からから降りながら声をかけるミリムに対して、白い大鎌を取り出しながら答える。
この大鎌はテクトが以前、強制的に休暇を取らされた際にクロベエに頼んでいたものである。それが最近ようやく完成したものだ。
武具の階級としては
クロベエに作成依頼をする際に、元ネタよろしくアラクネの鎌足を引きちぎって渡したのだ。そのため失敗はできないと何度も代替となる素材で試作を繰り返し、ようやく完成となったのである。
テクトは大鎌を持つと、ソーカに念話を送り、空泳巨大鮫の背に影を落としてもらって、「影移動」で移動した。
「さて、どんな感じか試してみますか」
テクトは「技能付与」によって大鎌に「腐食攻撃」を付与し、背びれに対して切りつける。切れ味は鋭かったため切断はできたが、切断面がわずかに塵となっただけでそこから先は変化がなかった。確認すると「技能付与」が途切れており、「魔力妨害」の影響が表れていた。
背びれを切断されたことで暴れる空泳巨大鮫によってテクトは振り落とされ、空中に放り出される。鎌を試すことを一旦諦め、「魔力妨害」の範囲外から「
「大丈夫か、テクト」
どうやらテクトが空中に放り出されたことで、ミリムが動いてしまったらしい。リムルも抑えようとはしたようだが、あまり保たなかったようだ。
テクトはそのままミリムに引っ張られてもとの位置に戻され、その上にミリムが座りなおす。そうしている間にも空泳巨大鮫は減っていき、残りは六体となった。
「今回は何としても目立たねばなりません!」
「うむ、我もその意見には賛成だ」
「ああ、ここいらでしっかり活躍しないとな」
「新参であるからと何もできませんでしたでは申し訳が立ちません」
いつの間にやらシオンとランガ、スイレンとフェルがコンビとなり、空へと飛び出していく。
ランガは「風操作」により足場を作っているが、フェルはどうやって飛んでいるのかと考えていると、スイレンの息がわずかに白くなっているのが見えた。どうやら進化の際に入手した「熱操作」によって体の上の空気を冷やし、逆に下側を温めることで空気を対流させ、浮いていたようだ。そこから対流させる方向を変え、風を生み出し空中を移動していた。
ランガとフェルは「魔力妨害」の影響を受けないように空泳巨大鮫の上空へと移動し、そこから一気にとびかかる。そこまでの速度に重力加速を合わせ一気に接近するが、目的は攻撃ではなくそれぞれの背に乗ったコンビへのサポートである。
彼らが空泳巨大鮫とすれ違う瞬間にシオンがオーラを用いて大太刀の刃渡りを延長し、スイレンが腰を下ろして居合の構えをとる。
「見よ! 断頭鬼刃!」
「―居合―朧・
それぞれの最高速度によって繰り出された刃が音を置き去りにして首を落とし、さらに死んだことによって「魔力妨害」が途切れた空泳巨大鮫を雷と炎が焼き尽くした。
同様の手順でさらに一体ずつ討伐し、二組とも暴風大妖渦へと向かっていった。
そして、空泳巨大鮫も残り二体となる。狼鬼兵部隊が攻撃力不足により仕留め切れていなかった空泳巨大鮫をハクロウがみじん切りにした。その際に何か失言でもしたのかゴブタが吹き飛ばされ戦闘不能へと追い込まれたが、空中戦にはあまり役に立たないため死なない程度の最低限の治療で放置されていた。
最後の一体はソウエイによって操作され、暴風大妖渦へとかみついた。暴風大妖渦は何の痛痒も感じたようには見えないが、そのままソウエイも暴風大妖渦へと乗り移り、五人がかりでの攻撃が始まった。が、しばらく攻撃していたもののそれらが通用することはなかった。攻撃してもすぐに再生する暴風大妖渦に焦れたのかシオンがオーラを貯めて「鬼刀砲」を使ったことで怒ったのかすさまじい攻撃が始まった。
「
ミリム曰く、暴風大妖渦を暴君と言わしめるその技がガラスの擦れるような耳障りな音とともに全方位に発射された。暴風大妖渦の背にいた五人は何とか回避行動をとり、暴風大妖渦から距離をとる。しかし、それ以上逃げることはなく迎撃を選択した彼らを守るためにリムルが動き、シオン達へと向かう鱗を「
そこから十時間ほどが経過した。
リムルが攻撃を繰り返して暴風大妖渦の手の内を暴き出し、その情報をもとに遠距離攻撃を主体として攻め続ける。封印の邪眼は効果がなく、呪怨の邪眼や深淵魔法によって少しづつダメージを蓄積させていく。ミリムは結局参戦を許されず、最初は応援していたのだが、退屈だったのか眠ってしまったので「
疲労によって全員に限界が近づいてきているが、攻撃のペースが落ちれば振り出しへと戻ってしまう。この絶望的な状況覆す手段はないかと考えを巡らす中、テクト達が不意に何かの思念をつかんだ。
『グ、グガァ。お、おのれ、ミ、リム。ミリム・ナーヴァめ!』
それを聞いたテクトとリムルは「解析鑑定」を行いその正体を探る。
どうやら暴風大妖渦が復活の際に生きている魔人を依代としたらしく、同化の際に消えるはずだった自我が強烈な怒りと憎しみによって不完全ながら残り、これまでの攻撃によって思念が漏れ出る程度に同化がはがれたということだった。
(「暴風竜の申し子」とかいう話だから、てっきり俺の中のヴェルドラに反応して街を目指しているもんだと思っていたが)
(全然関係なかったね。もうミリムを起こして任せちゃおうか)
(ああ、頼む)
テクトはリムルとのやり取りを終え、ミリムのもとへと移動し起こすために声をかける。
「ミリム、起きて」
「ンぐ、ね、寝てない。寝てないぞ、私はちゃんと応援していたのだ」
「ああ、うん、ありがとう。じゃなくて、暴風大妖渦はミリムに用があるみたいなんだよ」
「む? ということは、私がやってもいいのか⁉」
即座に目を輝かせるミリムに許可を出すと、そのまま飛び出し、暴風大妖渦を「竜眼」で見通していく。
「ふむ、こいつはこの前来た……えっと、ふぉびお? とやらを素体にしておるようだな」
「なるほど。ごめんね、てっきり私たちの町が目的だと思ってたから、みんな遠慮してたけど、ミリムの邪魔してたみたいで」
「気にするな。誰にでも間違いはあるのだ」
これまで何もできなかったからか上機嫌になるミリムはやる気満々で構え始めた。
「あ、そういえば、ミリム。依代になってるフォビオを助けることってできない? 無理なら無理でいいんだけど」
「ふふん、任せるのだ。その程度造作もない。この町に来て覚えた手加減を見せてやるのだ」
(これまでは手加減を知らなかったってこと?)
テクトはミリムの言葉に衝撃を受けたが、ひとまずそれを脇に置いておき、他のみんなが巻き込まれないように退避させていく。そして退避が完了したのを見計らってミリムに合図を出した。
「よし、ミリム、準備完了。いいよ」
「うむ、任せるのだ。見せてやろう。これが手加減というものだ!
青白く幻想的な光が拡散しつつ、ミリムの両手からすべてを消し去る破壊の光が解き放たれ、暴風大妖渦を討ち滅ぼしていく。
「む?」
「どうしたの? ミリム」
消滅していく暴風大妖渦を前にいぶかしむミリムに対し聞き出そうとすると、驚愕の事実が告げられた。
「その、だな、この前名付けしただろう」
「うん」
「それで、多少なりと格が上がったようでな? それで、その」
「まさか」
「加減に失敗したのだ」
目をそらしながら告げるミリムに対し、テクトは思わず頭を抱える。かといってミリムの放った攻撃に割って入るわけにもいかず、フォビオの無事を祈ることしかできなかった。
暴風大妖渦の巨体が消滅していき、最後にはフォビオが落下してきた。リムルがすぐに回収に向かい、生存が確認された。ただし、本当にギリギリの状態であり、四肢はあらぬ方向に折れ曲がり、ズタボロになっていたようだった。
「何とか無事だったみたいだね」
「そうか、何とかなったか」
さすがに任せろといった手前、失敗したのでは面目丸つぶれと心配そうにしていたミリムもフォビオが助かったことに安堵し笑みを浮かべる。
瀕死のフォビオに「
こうして、ミリムを発端とした魔国連邦の危機は幕を下ろしたのだった。
次回「それほど遠くない未来の頭痛の種」
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ようやくルビを使うことを覚えたので各話初出の単語はルビを振っていこうと思います。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい