転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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18話:そう遠くない未来の頭痛の種

「説明していただけますでしょうか?」

 

 フォビオの処置を終え、回復薬を投与すると、手が空いたことに気づいた天翔騎士団(ペガサスナイト)団長のドルフから問いかけがあった。

 

(まぁ、そうなるよね)

 

(ずっと苦戦してた相手をあっさりと打倒する手段があったと判断しても仕方ないしな)

 

 ごまかすことができないと感じるようなドルフの厳しい目に、ミリムが魔王であることを説明するが、秘密兵器を隠すために適当な冗談を言っていると考えたのか一笑に付される。

 

 このことに食って掛かろうとするミリムをいつものようにテクトがなだめる中、リムルがガゼル王に対して正式に説明を行うことを約束すると、ドルフは以前の件でドワルゴンへの訪問ができなくなっていたことが撤回されていることを伝え、訪問の際の対応を示し合せると、あわただしく帰国の途についた。

 

 ドルフたちが帰っていったことで、人型でいる必要がなくなったと判断したリムルはスライムに戻り、ミリムもテクトの上に座りなおして、自分たちも帰途につこうかとしたとき、フォビオが目覚めた。

 

 ベニマルやシオン達が警戒をあらわにする中、リムルが近づき声をかける。

 

「目は覚めたみたいだな。自分が何をしたか、おぼえているか?」

 

 声をかけられたときには意識がもうろうとしていた様子のフォビオだったが、声をかけられたことで徐々に意識がしっかりしてきたようで、顔を青ざめさせ、リムルやテクトに向かって土下座をした。

 

「す、スマン! いや、すみませんでした! 俺はミリム様にとんでもないことを……。あなた方にも迷惑をかけてしまったようで……」

 

 謝罪の仕方から明らかに直情型であるフォビオがこれほどの騒動を起こしたことに疑問を持ったリムルが問いただそうとしたとき、トレイニーが、暴風大妖渦(カリュブディス)の封印場所をフォビオが知っていた理由を聞き始めた。

 

 勇者から託された樹妖精(ドライアド)しか知らないはずの封印の場所をどのようにしてフォビオが知ったのかが気になるそうだ。

 

 フォビオは中庸道化連と名乗る仮面をつけた二人組に協力を申し出られたらしい。その二人組に案内され、促されるままに封印を解き、今回の騒動につながったということだった。

 

「仮面、ですか。そのどちらかはこのような仮面をつけている人物ではありませんでしたか?」

 

 仮面をつけた人物に心当たりがあるのかトレイニーが地面に仮面を描く。それはフォビオに接触したもの達には当てはまらないようだったが、ガビルが会ったことのあるラプラスという魔人がかぶっていたことが明らかとなった。その魔人は中庸道化連というなんでも屋の副会長をしていると名乗ったらしい。

 

 そして、フォビオの前に現れた仮面の人物はティアとフットマンだと名乗っており、それぞれ涙目の仮面をつけた少女と怒った表情の仮面をつけた太った男だったという。

 

 ティアに関しては何の情報も上がらなかったが、ゲルドからフットマンが豚頭帝(オークロード)の軍勢の先遣隊に同行していたこと、ベニマルから大鬼族(オーガ)の集落が襲われた際に視認していたことが告げられ、ここ最近で起きた事件が線で結ばれていった。

 

 念のためミリムにも聞いてみたが、作戦の詳細については何も聞かされていなかったらしい。しかし、中庸道化連に関してはクレイマンが何か企んだ結果かもしれないとのことだった。

 

 クレイマンは魔王であり、何かしら企み事をするのを好むらしく、自身が今後優位に立つために抜け駆けしかねないとのことだった。

 

 最後にトレイニーがラプラスは自身が魔族ではないと話していたことを告げ、中庸道化連には人間にも協力者が存在する可能性を上げ、今後は中庸道化連に注意することにしてフォビオへの事情聴取を終えることにした。

 

 テクト達は情報をまとめ、中庸道化連は対象者に協力するかのように装い、自身の手を汚さぬままに目的を達成しようとする者たちのようだと判断した。

 

 フォビオは彼らに利用された形のようなので、特に処分はせずに開放することにした。

 

「お前、利用されたみたいだな。次からはもっと用心して騙されないようにしろよ?」

 

「は? いや、俺は許されないだろう? だが、今回の一件は俺の一存でしたことで、魔王カリオン様は無関係なんだ。都合のいいことを言っていると分かってはいるが、何とか俺の命一つで許してほしい」

 

 フォビオは再び土下座の姿勢に戻り、主に迷惑を駆けまいと懇願する。

 

「別にお前の命なんて要らないって。なぁ、テクト」

 

「そうだね。結果として被害はなかったわけだし、ミリムは?」

 

「私も別に何とも思っていないぞ。軽く一発くらいは殴ってやろうかとも思っていたが、私も大人になったものだな。今回は許してやるのだ」

 

((殴るつもりはあったのか))

 

「カリオンもそれでいいだろう?」

 

 ミリムの問いかけに応えるように木陰から一人の男が現れる。品のいい衣装を着崩した、野性味のある男で、短い金髪を逆立てて、その鋭い眼光をますますきつく見せていた。

 

「フン、気づいていたのか、ミリム」

 

「当然なのだ」

 

 ミリムに対し気安い態度で接する男は身長こそアラクネ状態のテクトとそう変わらないが、暴風大妖渦と同等以上の力を感じさせた。

 

(……これが魔王カリオン、か)

 

(なるほどな、暴風大妖渦は魔王級って話だが、本物の魔王は格が違うってことか)

 

「よう、俺様は魔王カリオン。そいつを殺さずにいてくれたこと、礼を言うぜ」

 

 魔王カリオンがリムルをまっすぐと見据え、はっきりという。

 

 その場に緊張が走る。圧倒的な威圧感が走り、テクトとミリム以外が体を硬直させる。ミリムはともかくテクトが平気そうにしているのは普段からミリムの強烈な威圧をなだめ続けていたからだろう。

 

「(このまま気おされている場合じゃないな)わざわざ出向いてくるとは思わなかったよ。俺の名はリムル・テンペスト。そしてミリムといるのが俺の相棒でテクト。この森の魔物たちで作った「ジュラ・テンペスト連邦国」の盟主とその補佐をやっている」

 

 リムルが代表として魔王カリオンに宣言する。「D」のことを隠すためにテクトに自己紹介させなかったことを察し、テクトは頭を下げるにとどまる。

 

 魔王カリオンはミリムの存在から報告と実状の違いに気づき、リムルがゲルミュッドをぼこぼこにした魔人であると断言する。リムルはごまかすことを諦めて人型になり、計画をつぶした復讐かと問いかけると、カリオンはリムルの言葉を否定しながら大声で笑いだした。

 

 ひとしきり笑った後、表情を引き締めると自らの非を認めた。

 

「悪かったな、俺の部下が暴走しちまったようだ。俺の監督不行き届きってことで、一つ許してやってほしい。今回の件、借り一つとしておく、何かあれば俺様を頼ってくれていい」

 

 頭こそ下げなかったもののカリオンなりの最大限の謝意を示していた。魔国連邦の面々に比べればはるかに格上の魔王であるカリオンが謝意を示すことがカリオンの底知れない懐の深さを示していた。

 

「借りというなら、俺たちとの不可侵協定を結んでくれると嬉しいんだが」

 

「そんなことでいいのか? よかろう。魔王……いや、獣王国ユーラザニア「獅子王(ビーストマスター)」カリオンの名に懸けて貴様たちに刃を向けぬと誓ってやる。ただし、あくまでそちらから攻撃してこないという前提においてだがな」

 

 カリオンはあっさりと承諾した。この場ではあわただしいので、後日使者を通して話し合いの場を設けることにして話はまとまった。

 

 が、ここまで話すことのなかったミリムがテクトから降りてカリオンの前に立ち、話しかけたことで空気はぶち壊された。

 

「ところでカリオンよ、私の名を言ってみるといい」

 

「はぁ? 「ミリム・ナーヴァ」だろ? 何を言ってんだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってミリム?」

 

 テクトはミリムを諫めようとするが魔王たちは意に介さず会話を続ける。

 

「ふっ、もはやその名は古いのだ。今の私の名は「ミリム・D・ナーヴァ」なのだ」

 

「なんだ? その「D」ってのは。名前変えるほどってことは何かあったのか」

 

「親友たる私たちのあいだでの共通名を考えないかというテクトの発案でな。テクトが新しく「D」を付けたのだ」

 

 ミリムの返答を聞き、カリオンとフォビオはテクトのことを見て絶句する。鋭かった目は丸く見開かれ、開いた口はふさがらないようだった。

 

 一方、テクトは頭を抱えていた。今回のことはミリムに口止めをしていなかったことが原因だ。ミリムも彼女との共通名に関する異常性は理解していると思い、口止めを怠ったのだ。実際には自身を慮るテクトの提案を自慢したかったミリムによる暴露につながったのだが。

 

 その後、それなりに長い時間をかけてカリオンは再起動した。カリオンは事情を詳しく聞くことはなく、一応黙っていることを約束してくれた。フォビオは復帰することなくカリオンにけじめとして殴られ瀕死の重態へと舞い戻った。ボロボロになったフォビオを担ぎ、カリオンは帰っていく。カリオンの表情は心なしか疲れているように見えた。

 

 

 

 

 

 暴風大妖渦の騒動が収まって数日後。

 

 魔国連邦の近郊では連日衝撃波とともに轟音が響いていた。

 

 テクト、リムル、ベニマル、ソウエイ、シオン、スイレンの六人がかりでミリムと戦っている結果である。実戦経験を積むために修行をつけてもらうことにしたのだ。

 

 ミリムは拳に以前リムルから約束されていた籠手をはめていた。名をドラゴンナックルといい、「減速」と「脱力」の効果を与える刻印魔法によって殴る威力を十分の一程に抑える装備である。

 

 受け取った当初は片時も離すことなく、食事の際にもつけたままであったため、ミリムの発案からテクトが甘やかして食べさせようとしたり、それをリムルたちが注意して外させたり、その結果ミリムが拗ねたりと様々あった。それはさておき、修行の甲斐あって技術面が向上し、戦闘力が上がっていった。

 

「なかなかよくなってきたぞ。今ならテクトとリムルが魔王になると言い出しても私は反対しないのだ」

 

「いや、やめとくよ。六人で戦ってろくに攻撃が当たらないのに魔王を名乗ってもろくなことにならないと思うし」

 

「そうだな、名乗るつもりはないが、名乗るにしてももっとミリムの攻撃に対応できるようになってからだな」

 

 テクトはリムル、ミリムとともに風呂場へ向かっていた。土埃で汚れているテクトに対し、リムル、ミリムは全く汚れていなかった。表面の汚れを捕食しているか、単純に汚れていないかの違いはあるが。

 

 風呂場につき、リムルは入っていくがミリムはテクトの上から動くことがなかったため疑問に思い促すととんでもないことを言い出した。

 

「テクトも汚れているのだから一緒に入ればいいではないか」

 

「いやいやいや、ダメでしょ! それは! ここ女性用だよ⁉」

 

「リムルは入っていったではないか」

 

「リムルは無性だし、最初から基本的にこっち入ってたから誰も気にしないけど、俺は普段風呂入ってないしそもそも男だ。なんのために男女別に分けていると思ってるのさ」

 

 ちなみにいうとテクトは風呂に入ってはいないが、不潔というわけではない。汚れた場合は脱皮しているし、水浴びを行うこともある。ではなぜ風呂に入らないのかというと、そもそもアラクネ以外の状態では呼吸の問題で湯につかることができず、アラクネでは蜘蛛の体だけで水面から出てきてしまうため入る意味を感じないのである。

 

 いくらか押し問答を繰り広げたが、最終的にはいつまでも入ってこないミリムを不思議に思ったリムルが戻ってきてミリムを引っ張っていった。

 

 

 

「全く、あんまりテクトを困らせんなよ」

 

「むぅ、リムルは一緒に入るのだからいいではないか」

 

「お前はよくてもほかの連中がよくないかもしれないだろうが」

 

 自分の要望が通らなかったことにほほを膨らませながら唸るミリムをなだめると、気になっていたことを聞いてみた。

 

「そういえば、ミリムはなんで魔王になったんだ?」

 

「うーん何か嫌なことがあって、むしゃくしゃしてなった?」

 

「いや、俺に聞かれてもな」

 

「それもそうだな。何分昔のことだから忘れてしまったのだ」

 

「まぁ、忘れたんなら無理に思い出さなくてもいいよ」

 

 あっけからんという風なミリムだったが、リムルは何となくテクトのセリフを思い出した。

 

(なるほど。さみしそうな感じか。あいつもこんな若干の変化にきっかけもなしによく気付いたよな)

 

 テクトから話を聞いてからミリムを観察していたリムルは自身が踏み込んだ話題で話をしてようやく確認できたことに普段のミリムの様子から感じ取ったテクトに感心しつつ話題を打ち切った。

 

 そうしてまったりしていると不意にミリムが立ち上がった。

 

「私は今から仕事に行ってくる!」

 

「また突然だな。今すぐ行くのか?」

 

「確かに急かもしれんが、これで会えなくなるわけではないのだからな。このままいくのだ」

 

 そういうと「魔法換装(ドレスチェンジ)」によってはじめて会った時の衣装へと着替える。

 

「他の魔王たちにも、この地には手を出さぬようにきちんと言い聞かせておくから安心するといいのだ」

 

「ってことは、他の魔王に会いに行くのか?」

 

「うむ、仕事だからな」

 

「そうか、騙されないようにな」

 

「騙されないでくださいね」

 

「騙されないようにしてください」

 

「騙されてはだめですよ」

 

 自慢げに胸を張るミリムに不安を覚えたのか口々に言い募る。

 

「お前たちは心配性だな。私は賢いから、騙されたりしないのだ」

 

 笑顔でそう言い切るミリムに不安そうにするリムルたちだったが、「行ってくる」と一言告げ飛ぼうとしたタイミングでリムルが声をかける。

 

「じゃぁ、テクトには後で俺から伝えとくわ。気をつけてな」

 

 それを聞いたミリムは動きを止め、衣装を普段よく来ているワンピースに戻した。

 

「出発はテクトに伝えてからにするのだ。また会おうなのだ、リムル」

 

 そう言って脱衣所のほうへと去っていくミリムを見ながら、リムルにある不安が芽生えた。

 

(あいつ、その内刺されたりしないだろうな?)

 

 

 

「というわけで、私は仕事に行ってくるのだ」

 

「仕事って、魔王の?」

 

「うむ、そんなに寂しそうな顔をするな、テクト。もう会えないというわけではないし、仕事が済んだらまた来るのだ」

 

 風呂から出てきたミリムに言葉にそんな表情をしていたのかと顔を触るテクトだったが、ひとまず注意をしておくことにした。

 

「まぁ、とりあえず、怪我しないようにね。そうだ、これ渡しておくよ」

 

「蜂蜜と……ポーションだったか? 私は強いからけがなどそうはしないが、ありがとうなのだ」

 

「本当に気を付けてね。行ってらっしゃい」

 

「うむ、行ってくるのだ」

 

 はにかみながら礼を言うミリムを送り出し、もう一度顔を触る。心なしか口角が下がっている気がした。

 

(ミリムが来てからほとんど一緒にいたしなぁ。違和感があるのも当たり前か)

 

「あ、そういえば、名前のこと口止めするの忘れてた。まぁ、魔王カリオンが驚いていたのをミリムも見ていたはずだし、そうそう話したりしないか」

 

 この考えがその後のテクトに苦難をもたらすことになることをまだ誰も知る由もなかった。

 


 

 次回「苦難への道は好意で舗装されている」

 

 




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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