転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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1話:竜と蜘蛛とスライム

(何も見えない…)

 

(何もきこえない…)

 

(少なくとも出血量は致死量だったはずだ)

 

(意識があるってことはまだ生きているのか?)

 

 彼が暗闇の中で身じろぎすると、体全体が固いものに触れているように感じた。

 

(生命維持装置のようなものに入れられているのか?)

 

 推測が正しいのだとすれば勝手に動くのは危険極まりないのだが、早くここから出ていかなければならないと本能が命じてくる。

 

 ともかく外に出るために上側を押してこじ開ける。ピキリピキリと音がして、ついに開いた。

 

 暗闇から外に出たことで目がくらんだ。視力が回復し視界に入ったのは……

 

 岩の天井と先のとがった棒状の物体……

 

 少なくとも病院ではないことは明らかだった。

 

(というか、この棒状の物体は? こじ開けるために使っていた手はどこだ?)

 

 手の場所を確認するために動かそうとすると、意志に連動して目の前の棒が動く。どうやらこの棒は自身の手のようだ。

 

(なら、今の俺の体はどうなっているんだ?)

 

 こじ開けた部分から外に出て、自分の体が収められていた物体が何なのか視界にとらえる。

 

(殻……だよな。どう見ても。これから出てきたってことか。いや、それよりも……)

 

 目の前あるのは卵の殻。白に黒っぽいまだら模様が入っている。しかし、それ以上に気になるのは殻に写る自分自身。

 

(蜘蛛じゃねぇか⁉)

 

 蜘蛛だった。それも見覚えのある姿である。

 

(蜘蛛っていうか、蜘蛛子だな。完全に)

 

 自身の姿が前世で見ていたアニメの主人公によく似ていることを知り、愕然とする。

 

(現状はどっちだ? 憑依系か? それとも蜘蛛子が存在する状態での別個体か? いや、そこを考えるのは後だ。まずは……)

 

 二次創作も読んでいたため、状況に対する思考はできていた。ゆえに行動の決定も早かった。

 

(マザーやブラザーから逃げねば、食われる)

 

 逃走である。共喰いをする―というよりも蜘蛛を食べる―勇気はないし、食われるつもりなどなおさらない。この場から去るために最適な逃走経路を探して周囲の状況を確認し、ふと気づく。周囲になにも存在しない。

 

 今近くに存在しているのは、自分の出てきた卵のから、洞窟とそこから生える光る結晶、少し離れたところに湖、もう少し先に光源。視界に映るのはそれだけで、ほかの蜘蛛型の魔物は存在しない。

 

(マザーがいない? それに湖? エルロー大迷宮に湖があった記憶はないぞ)

 

 現状が知っている「原作」とかなり離れていることが何となく理解できる。しかし、今すぐに命の危険がないことに安堵し、状況を改めて整理することにした。

 

 

 

 

 

(少なくとも今「私」がいるのはエルロー大迷宮ではなさそうかな。というか原作世界でもない可能性すらある)

 

 しばらく時間がたち、状況を整理した結果わかったことは以下の通り。

 

 1.スキルポイントは所持していない

 

  もしくはそもそも存在しない

 

 2.今いる洞窟は少なくともエルロー大迷宮ではない

 

 3.自分の体は蜘蛛子に似た姿である

 

 この三つだけである。ちなみに一人称に関しては、万が一憑依系であった場合を考えると、「D」の存在もあるためキャラになりきるほうが良いかもしれないと感じたからだ。

 

 ひとまずの方針は世界に関する情報を得ることとして、光源のほうへと移動することにした。洞窟の中で得られる情報ではろくなものがなさそうだったからだ。

 

 光源を目指していると視界の隅から流線型のフォルムの物体が横切っていった。それはそのまま湖の方へと飛び出していき、水の中へと落下した。

 

(今通り過ぎていったのってスライムか? ゲームキャラみたいに目があるわけでもないが、原始的な見た目に反して動き方が激しい気がするし、何より何か言っていた。もしかしたら、あれも転生者だったりするかもしれないし、話しかけてみるか)

 

 情報を得られるかもしれないので、スライムとコミュニケーションをとるためにも、上陸してきたタイミングで近づくために、光源を背にできる場所まで移動して湖を観察する。

 

(いきなり「転生者ですか?」って聞くのも野暮なのかなぁ)

 

 などと考えながら、待つことしばし。スライムは湖から浮上してこちらへ移動してきた。

 

(こっちには気づいてなさそうだけど、こっちに移動してきている。上陸時に話しかけるのは簡単そうだな。さて、どう話しかけるのが…………ん? なんか、早くないか、あれ)

 

 ただし、高速で。

 

(ぐへぇ)

 

 スライムがどの方向へ移動するか観察し、こちらへ向かっていることに安堵。その後は話しかけ方へと思考が変化していた彼はよけることができず、スライムの突進を受け、後ろへと吹っ飛ばされた。

 

 そのまま二人(?)そろって光源へとぶつかり、各々傷の状態を確認していく。

 

(スライムのやわらかい体で助かった。飛んできたのが岩とかだったら死んでいたかも)

 

(損傷率が5%か。痛みは感じないけど、ダメージはあるんだな。おお! 体が治っていく)

 

 状況の確認が済み、スライムへと話しかけようとしたとき、ほかの言葉に割り込まれた。

 

『おい、聞こえるか。小さき者どもよ』

 

 話しかけられ、彼は反射的に声のほうを向く。そして、硬直した。

 

(ド、ド、ド、ドラゴン!!?? 初期では宿敵だった種族じゃないですか!! まだ因縁ないけどすごくまずいのでは!!??)

 

『おい! 聞こえているだろう? 返事をしろ!』

 

 硬直している彼をよそに、スライムが言葉を発する。

 

『こっちは返事する方法もわからないんだよ! うっさいぞ、ハゲ!』

 

『我をハゲ呼ばわりだとぉ!』

 

 彼は焦った。スライムの暴言により怒ったドラゴンに殺されるのではないかと。

 

 ドラゴンからの怒声を受け、スライムは焦りながら、目が見えず、言葉を発せない状態で何かが伝わるとは考えていなかったと弁明する。

 

 それを聞いたドラゴンから魔力感知のスキル習得を提案され、しばらくの練習の後に習得。自身の体と話しかけてきていた存在がドラゴンであったことを知り、スキルの教授の条件であったおびえないという約束を忘れ、おびえていた。

 

 その間放置されていた蜘蛛はというと

 

(見えないし聞こえない状態ならコミュニケーションとれなかったな。吹っ飛ばされて一緒にドラゴンの前に来たのは運がよかった)

 

 焦りはなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからお互いに自己紹介をした。ドラゴンの名前は暴風竜ヴェルドラ。世界に四体のみ存在する竜種の一体らしい。

 

 うっかり街を灰にした結果、勇者によって封印されてしまったそうだ。それが三百年ほど前。途方もない数字である。しかも、あと百年ほどすると魔素が切れ、朽ち果ててしまうらしい。解除法もわからないようだ。

 

 そして、スライムは転生者であり、前世の名前は三上悟。ゼネコン勤務だったそうだ。死因は通り魔による刺殺。とっさに後輩をかばえるあたり優しい人なのだと感じた。

 

(末期の願いがPCのハードディスク破壊とは。私も頼めば…………いや、異性に頼むのはなんか違う気がする。あいつ勝手にPC開いてないだろうな。まぁいいや。考えてもわからないし。こういうこと考えるのはあれだけど、もう会うことはないんだし)

 

 死んだときのことを思い出し、少し悲しさを覚える。

 

『ほら。お前の番だぞ』

 

 悟に促され思考を打ち切り、自己紹介を始める。

 

『私も三上さんと同じで転生者にあたります。前世では「白織 拓磨」。後輩のストーカーに刺されてしまいまして。気が付いたらこの近くに卵単品で置かれていました』

 

『へぇ~、お前も転生者なのか』

 

『お前たちはものすごくまれな生まれ方をしたようだな』

 

 悟は自分と同じ境遇のものを見つけて嬉しそうにしていたが、続いたヴェルドラの言葉に首をかしげていた。

 

 ヴェルドラ曰く、魂だけでは世界を超える際の負荷に耐え切れないため、転生はできないらしい。だが、人間のまま世界を渡るものや、大勢の魔法使いによって召喚されたものは存在し、「異世界人」・「召喚者」と呼ばれているそうだ。

 

 彼はほかにも日本人がいるかもしれないと考え、転生からさほど時間は経ってないため、望郷の念というわけではないが、少し話してみたくなった。そして、それは悟も同じようだった。

 

『転生者がいる場所に心当たりはないか?』

 

 と悟が聞くと、ヴェルドラがさみしそうな声を出した。

 

『もう行ってしまうのか?』

 

 考えてみれば当たり前ともいえる。三百年もの間、一人で閉じ込められ、久方ぶりに言葉を交わした相手がまたいなくなるというのだから悲しくもなるだろう。

 

(原因が自身の行いのため自業自得な面が大きいことには目をつぶっておこう。しかし、そうだな。解決というわけにはいかないが、提案はしてみるか)

 

 彼がわずかに考え提案する。

 

『ヴェルドラ、悟さん、友達にならないか?』

 

『友達?』

 

『友達だと!? この暴風竜たる我とか!?』

 

 悟は突然の提案に驚いたようだが、ヴェルドラは少々憤慨しているようだった。

 

『嫌だったらいいんだ。別に強制したいわけじゃない。ただそうなれればいいなってだけだから』

 

『バ、バカ! 嫌とは誰も言ってはおらんだろうが!? …………その、なんだ。どうしてもというのなら、考えてやらんでもないが』

 

 考えを取り下げるかのような態度を見せるとヴェルドラは食って掛かった。そして、視線をさまよわせながら提案する。

 

『(満更でもなさそうだな)どうしても、だ。私と友達になってほしい!』

 

『し、仕方ないな。友達になってやろうではないか!』

 

 ヴェルドラは仕方ないといっているが、声が明らかに弾んでおり、うれしいのがまるわかりだった。悟も二人と友達になることに同意し、結界越しではあるが手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後もしばらく話をし、そろそろ出発することにした。

 

『じゃあ定期的に話をしにここに来るよ。面白い話ができると思うから期待していてくれ』

 

『そうか、行ってしまうか。だが、この三百年と比べれば楽しみがあるだけましか…………なるべく早めに頼むぞ』

 

 彼とヴェルドラが別れを惜しみ、視線を下げながら言葉を交わす。最後にヴェルドラが思いついたように視線を上げたとき。悟が言葉を発する。

 

『「無限牢獄」の解除をするために俺の胃袋に入らないか?』

 

 悟のスキル「大賢者(エイチアルモノ)」曰く、ヴェルドラから情報をもらいつつ、「捕食者(クラウモノ)」と「大賢者」で解析を行えば解除できる可能性があるようだ。「捕食者」の胃袋の中なら魔素の拡散を防げるため朽ち果てる心配もないらしい。

 

『なるほどな。ここでお前たちが戻ってくるのを待つよりも、「無限牢獄」を解除できないか試してみるほうがおもしろそうだ。ぜひやってくれ』

 

 ヴェルドラが合意し、悟が「捕食者」を起動しようとする。解除に関われない彼は疎外感を覚えたが、友達になったヴェルドラが消滅する可能性がなくなることはうれしいので表には出さなかった。

 

『ああ、少し待て。お前たちに名前を付けてやろう。そして、お前たちも我に名前を付けろ』

 

『『名前?』』

 

 ヴェルドラ曰く、悟と拓磨に魔物としての名前を与えることで自身の加護を与え、また、ヴェルドラと同格であることを魂に刻むために三人で共通するファミリーネームのようなものを考えろということらしい。

 

『そういうことなら、一人ひとつずつ考えないか? 私が共通名を考えるから、ヴェルドラが悟さんの名前を、悟さんが私の名前をっていう風に』

 

 彼は解析に関われそうになかったことを気にして、せめて、名前決めでは全員同じ数だけ考えるように提案してみる。二人も決め方に関して同意し、それぞれが考え始めた。

 

(暴風竜であるヴェルドラの加護をもらうことになるんだし、風にちなんだ単語のほうがいいよな。となると、ファン、ラファール、テュポーン、ストーム、何か違う気がする。あとは…………そうだな「テンペスト」うん、これにしよう)

 

『決まったか?』

 

 顔を上げると二人とも彼を見ていた。どうやら彼が最後だったらしい。

 

『大丈夫だ』

 

『では、発表するがいい。われらの共通名を!』

 

 ヴェルドラが声を上げ、促す。

 

『「テンペスト」だ』

 

『「テンペスト」だと⁉ フハハハハ、素晴らしい! カッコイイぞ! では、我はこれから、「暴風竜ヴェルドラ・テンペスト」だ! そして、スライムよ、お前に「リムル」の名をやろう「リムル・テンペスト」と名乗るがいい。そして、蜘蛛よ。お前にはリムルの考えた「テクト」の名をつける。お前は今日から「テクト・テンペスト」だ』

 

 名前が付いたことにより、体が輝きだす。光が収まると同時に、テクトには声が聞こえてきた。

 

≪告。能力が定着したため、スキルの反応速度が向上しました≫

 

『うわぁ⁉』

 

『どうした?』

 

 いきなり叫び声をあげたテクトに対し、リムルが声をかける。

 

『なんか、能力が定着した? とか言ってるみたい』

 

『あぁ~、ユニークスキルじゃないか? 俺も「大賢者」でびっくりしたよ』

 

『ユニークスキルか。どんな名前なんだろう?』

 

≪解。ユニークスキル「無不知(エイチエタモノ)」です。≫

 

(分かりづらい)

 

 ユニークスキルに対する最初の感想はこれである。

 

(多分、リムルの「大賢者」に似たスキルなんだろう。ルビも似ているし。だが、それ以上に読み方が意味不明だ。文字の配置から考えるに漢文のようにすればきれいに読めるはずだ。とすると「知らぬものなし」がルビなしの状態での読み方か? 呼びづらいな。これ)

 

 あまり考えていても仕方ないので、呼び方に関しては置いておいて、自身のユニークスキルに問いかける。

 

(「大賢者」に近いスキルなら、「無限牢獄」の解析を手伝ったりできないか?)

 

≪解。個体名:リムル・テンペストとの間で魂の回廊がつながっているため、情報のやり取りを行うことで、解析のサポートが可能です≫

 

『ヴェルドラ、リムル、私のユニークスキルも解析に参加できるみたいだから協力するよ』

 

 この提案は即座に受け入れられ、リムル、テクト、ヴェルドラの三人体制での「無限牢獄」解析が決定した。

 

『じゃあ、今から捕食するから、早く出てこいよ、ヴェルドラ』

 

『いろいろ面白いエピソードは用意しておくからね』

 

『任せておけ。そう長くは待たせずに会いまみえようぞ』

 

 言葉を交わし、リムルがユニークスキルを発動する。リムルの体積が十倍以上に膨れ上がり、「無限牢獄」を飲み込んでいき、すべて覆いつくすと元の大きさまで戻った。ヴェルドラの気配が完全に消失し、ユニークスキルでの解析が始まった。

 

 これが世界中を揺るがす大騒ぎに発展していくことを、二人は知る由もなかった。

 


 

次回「こいつらじゃあ【くっ殺】できそうにないな」

 




評価・感想ありがとうございます。
なるべく更新できるよう頑張ります。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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