今回はオリ主は出ません。
「ミリム・ナーヴァ」にとって「テクト・テンペスト」は面白いことをする
ミリムの解析能力を上回る偽装を施していたことに加え、自身を逃亡せしめんとする配下を黙くらかし、あまつさえミリムを守るような行動をとった。
最強最古の魔王と呼ばれるようになり、心配などされることのなかったミリムにとってこの経験は衝撃的なものだった。
ミリムはこの
ミリムはシュナに嫉妬した。普段自分と接する際には感じないような気づかいがテクトとシュナの会話の中に含まれていたからだ。用が済んだからといって無理に引き離したが少々気分はささくれ立った。
ミリムはフォビオがテクトを攻撃した際にとてつもない憤りを感じた。自身が気に入ったものをまた失う恐怖が、原因となったフォビオに怒りを向けさせ、その少し前にささくれ立った心とともに、ミリムを攻撃へと駆り立てた。
ミリムはテクトの無事に安堵した。フォビオの攻撃を受け、身動き一つしなくなったものの、結果として無傷であった。その後の確認でも異常は見られず大事ないことがわかると、大事なものを失わずに済んだことを喜んだ。
ミリムは贈り物に歓喜した。大事な存在であるテクトから服を贈られ、髪を梳かされた。その姿を改めてテクトに披露し、ほめられたことでその服はミリムの一のお気に入りとなった。とはいえ、汚すのが怖くてあまり着ることはなかったが。
ミリムはテクトの言葉に恐怖した。心を許しているテクトにまるで自身をテクトの中から排除したかのような態度をとられかねないことはミリムの行動を抑止させるには十分すぎた。
ミリムはテクトの提案に喜悦に沸いた。聞いた当初はテクトに危険がないか不安に駆られたが、問題ないと断言し、実行に移った。テクトとの新しい絆が紡がれることにこれまでにない感覚に襲われた。このことを境にミリムの中でテクトに対する感情が大きく切り替わったことは確実である。
現在の状態を冒頭の形であらわすならこうなるだろう。
「ミリム・D・ナーヴァ」にとって「テクト・D・テンペスト」は深愛ある相手である
と。本人の自覚があるかどうかは別としてだが。
ミリムは魔国連邦から飛び立った後、精霊の住処へとやってきていた。
旧知の仲である魔王の一人、ラミリスに合うためである。ミリムはラミリスの作成していた迷宮を力ずくで突破し、ラミリスと接触していた。ラミリスは金髪に掌に収まるほどの体躯であり、とても強者には見えないがミリムに並ぶれっきとした古参の魔王である。
「ふーん。あんたに名前をねぇ」
「うむ、テクトはすごいぞ! ほかにもだな……」
再会した当初は迷宮を破壊しながら進んできたミリムに怒りをあらわにしていたラミリスだったが、ミリムが蜂蜜を分けたことで機嫌を直し、談笑していた。ミリムから語られる内容はテクトとテクト以外の
そして、この話を聞いていたラミリスは無自覚に導火線へと火をつけた。
「あんたに好きな奴ができるとはねぇ。どう転ぶかわかんないものね」
「好き?」
「んえ? (あれ? もしかして自分で気づいてなかった? ってことはあたしってとんでもないことやらかしちゃったんじゃ? ……ま、いっか。なるようになるわよね)」
ラミリスの言葉を反芻し押し黙るミリムにラミリスは自分のやらかしを悟るが放置を決め込むことにし、言葉には出さなかった。
その後、顔を赤くしたミリムが落ち着くまで蜂蜜をなめ続けるラミリスだった。
「まぁ、その、なんだ。そういえば、ラミリスは最近何かあったのか?」
「そうそう、最近ようやく
顔が紅潮したままのミリムがあからさまに話題を逸らしにかかったことに触れることなくラミリスは近況を話していく。
話がひと段落したところでミリムは立ち上がり辞意を示した。
「それで、次はどこにいくのさ」
「そうだな……ギィのところにするか。何かするとすれば、あいつとクレイマンだからな」
「妙なことにならないように気をつけなさいよ」
「お前も心配性だな。私は賢いから問題ないのだ」
魔国連邦でもしたようなやり取りをしてミリムは去っていった。
「あ、名前に関しては黙ってた方がいいって言い忘れたわね」
テクトが苦難から逃れる最後の機会が消滅した。
ところ変わって、北の大陸。
ミリムは魔王ギィ・クリムゾンの居城である白氷宮を訪れていた。ギィは長身痩躯、赤い髪と真紅の瞳の妖艶な美貌を持つ男だ。
「なるほど、少し前にジュラの森の方向で感じた妙な魔素の動きはその結果ってことか」
「ギィは気づいていたのか」
「あんだけ派手に動いてれば、気づくやつも出てくるだろうよ。しかし、無謀なことを考える奴もいたもんだな。なかなか面白そうなやつじゃないか」
「ギィよ。お前がテクトに手を出そうというのなら、私はお前と敵対することになりかねんぞ」
「それはまた随分とそいつのことを気に入ったようだな」
ミリムの身に起きた変化とその原因となったテクトのことを聞き、好奇心を漲らせるギィに対するミリムの言葉にニヤリと笑うギィであったが、続くミリムのセリフには絶句した。
「なにせ私はテクトのことを好いているようだからな」
「は?」
ギィはミリムのセリフの内容を精査し、理解するまでに少々時間を要したが内容を飲み込むと途端に面白そうな表情へと変わる。それと同時に部屋に入ってくるものがいた。
「なんだかおもしろい話をしているわね」
入ってきたのは白氷竜ヴェルザード。真っ白な肌に美しい白髪、深海色の瞳の少女。白氷宮にて暮らしている竜種の一体である。
「ヴェルザードではないか。今回は周期が短いのではないか?」
「確かにそうだけど、なんだか目が覚めちゃったの」
ヴェルザードは普段統治に関わることはなく、一定の周期で休眠を繰り返していた。起こすこともできるため有事の際には頼ることもできるようにはしていた。今回は何もなかった際の休眠期間よりも短かったようだ。
ミリムはヴェルザードにもテクトの話を聞かせると、ヴェルザードもまた興味深そうに笑った。
「へぇ~、ミリムがねぇ」
「その顔をやめろ、ヴェルザード。ギィもだぞ。全く、人が真面目に話しているというのに不作法なものだ」
うんざりという風につぶやくミリムをしばらくそのまま眺めていたヴェルザードだったが、ふと思い出したように問いかけた。
「そういえば、ミリム。ジュラの森にはヴェルドラちゃんの影響で不可侵協定を張ってなかったかしら」
ヴェルザードの質問に対し、ミリムとギィは表情を固くする。ヴェルザードがヴェルドラを気にかけていることは知っていたミリムはヴェルドラの消滅を伝えるか少し考えた後、口を開く。
「ヴェルザード。不可侵協定は撤廃された」
「あら、そんなことになっていたのね」
「ヴェルドラに関しては消滅したというのが魔王間での見解だ」
「…………どういうこと」
やや剣呑な雰囲気になりつつあるヴェルザードに臆することなくミリムは言葉を紡ぐ。
「ヴェルドラが封印されていた洞窟にはすでに痕跡はなかった。封印の最中に漏れ出た魔素が洞窟内に充満してはいたが、現存する痕跡はどこにもなかった」
「そんな…………ありえないわ。魔素の状況から考えてもあと百年くらいは持つはずだったのに」
愕然とした表情でうつむくヴェルザードに対し、気づかわし気に視線を向けるミリムだったが結果は変わらない。しばらくそのまま沈黙が保たれていたが、ヴェルザードがふらりと立ち上がった。
「ヴェルザード、大丈夫か?」
「…………しばらく一人にして」
ミリムは自身の言葉に消沈した様子で部屋を出ていくヴェルザードにそれ以上声をかけることができずそのまま見送ることしかできなかった。
「いうべきではなかったか……」
「いや、今日お前が来ていなければ俺が伝えていたことだ。気にすることではないだろう」
少々後悔しているかのような声音のミリムをギィが諭すように告げる。
その後は沈黙が場を支配し、しばらく経った頃にミリムが立ち上がり辞意を告げ去ろうとする。
「ああ、ミリム。少し待て」
「なんだ? ギィ」
「お前が忠告を受ける前に飛び出したのか、受けたうえで話しているのか、わからねぇから一応言っておいてやる。「D」に関しては口外しない方がいい」
「どういう意味だ?」
「特殊な形とはいえお前に名付けをして存在を保つような奴のことを話せば間違いなく目をつける奴が出てくる。それこそ悪いほうからな。お前が彼の地にとどまっていたころならまだしも、こうして離れた以上何が起こるかわからん。そいつらがまだまだ力が足りないんなら、わざわざ騒動の種を蒔いて危険にあわせるべきではないだろうよ。せっかく手に入れたものを自慢したくなるのもわからなくはないがな」
「むぅ、確かにそうだな。テクトの安全を考えれば黙っているべきか。ラミリスとギィに話したからそれで満足しておくのだ。ではな、ギィ。魔国連邦に手を出すでないぞ」
「わかったっての。俺からは手を出さんよ」
ギィの言葉に納得したようにうなずくミリムを送り出し、白氷宮に静寂が戻る。
「ああ、「俺から」は「魔国連邦」に手を出さんさ。だが、ヴェルドラの消滅と同時期に現れた
赤い悪魔が一人で静かに笑っていた。
そして場所が変わり、天翼国アンブロシア。
ミリムはこの地を治める魔王フレイに魔国連邦でのことを語って聞かせていた。ギィの忠告に従い「D」については話さなかったが、相も変わらずテクトについての話に比重が傾いていた。
「というわけでな、テクトとリムルがプレゼントしてくれたのだ」
「そう、それはよかったわね。そういえば、こんなものを用意していたのだけれど」
魔国連邦でもらったものを見せびらかし自慢するミリムに、フレイは一つの箱を持ってきた。中に入っていたのは一つの宝珠をあしらったペンダントだった。
「ミリムにプレゼントを贈りたいと思ってね。受け取ってもらえるかしら」
「もらってもいいのか? だが、このドラゴンナックルはやれぬからな。この服などもってのほかだ」
そういいながら着ていたゴスロリ服をいつもの服に着替え、両手につけたドラゴンナックルを自らの体で隠すミリムにフレイは苦笑する。
「大丈夫よ、ミリム。気持ちばかりのプレゼントだから、気軽につけてみてくれると嬉しいわ」
「そういうことなら受け取るのだ」
「つけてあげるわ。そっちを向いていて」
「うむ」
ミリムはフレイに背を向け、そこにペンダントを持ったフレイが近づいていく。ミリムの首の後ろでひもを結び終わるとともに宝珠が輝き、ミリムが棒立ちとなる。目から光が失われ、手につけていたドラゴンナックルが滑り落ちた。
「これでよかったのかしら? クレイマン」
「ご苦労様です。無事に禁呪法「
フレイの声に反応して物陰から一人の魔人が現れる。魔王クレイマン。白いスーツを身に着け髪の大部分を後ろになでつけている。
「ギャハハハハ! 新参の魔王だとこの私をなめていたのがこの様だ! 情けないですねぇ、ミリムゥ! アハハハハ」
クレイマンがミリムを殴り始めたのを見て、フレイが忠告する。
「やめておいた方がいいわよ」
「多少のダメージで解除されるほど甘い呪法ではない。散々偉そうにされて、君も鬱憤が溜まっているだろう? だからこそ私の計画乗った。違いますか?」
「違うわね。私はただ、
「何を白々しいことを。こいつはもはやただの人形。遠慮することはない!」
クレイマンが高笑いしながらミリムなぶり続けるのをフレイが覚めた目で見ていたが、気にはならないようだった。
「ねぇ、クレイマン。あなたは知らないようだけどミリムには自己防衛回路があるのよ」
フレイの言葉を聞き、クレイマンが動きを止める。
「
「⋯…チッ、とことんふざけた魔王ですね。まぁいい、こいつを使えば私の発言力も増すでしょう。君も共犯です。精々私のために働いてもらいましょうか」
「あら、私たちは対等な関係だったはずよ?」
ミリムの自己防衛回路の話を聞き舌打ちとともに暴行をやめ、フレイを下に見る発言をするクレイマンにフレイは互いの立場について確認をとる。
「ばかめ! この計画を立てたのは私だ。君はすでに私の手駒だよ。それとも、ミリムと戦ってみますか?」
「それは脅しているのかしら」
「どう受け取ってもらってもかまわないさ。死にたくなかったら私を怒らせないことだ」
「ハァ、わかったわよ」
「それでいい。精々私を裏切るようなことはしないことです。なに、少しお願いを聞いてくれれば天空の覇者の地位は保証してあげますよ。
ため息とともに協力を了承したフレイに満足げな笑みを浮かべたクレイマンはミリムの世話をフレイに任せて去っていった。
「まったく、忙しくなりそうだわ」
その場には憂鬱そうな有翼の女王と身じろぎ一つしない人形だけが残された。
次回「使節団派遣」
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ヴェルザードの反応に疑問を抱く方もいるかもしれませんが、弟が消滅したと言われれば意気消沈ぐらいすると思うのです。
たとえ自分が消滅させたことがあったり、復活するという事情があるにしてもです。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい