転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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前回投稿後お気に入りが150件を突破しました。ありがとうございます。

投稿遅くなり申し訳ありません。

途中まで書いた段階でいったん消して書き直したので遅くなってしまいました。


20話:使節団派遣

 ミリムが魔国連邦(テンペスト)を去って数ヶ月が経った。

 

「うわぁ!」

 

「ほっほっほ。だいぶ動きがよくなってきましたな」

 

 この日、テクトはハクロウとともに訓練をしていた。現在は互いに無手であり、体術に重点を置いたものとなっている。今はちょうどアラクネ状態のテクトが投げ飛ばされたところである。

 

「半人半蜘蛛で投げにくいはずなのに、こうも簡単に投げられるところを見ると、案外姿形って関係ないんだね」

 

「テクト様の動きが人型を基盤とした動きですからな。あとは重心の位置さえわかれば投げることはたやすいですじゃ。ほかにも──」

 

 ぼやくテクトは動き方の問題点を指摘していくハクロウの言葉にうなずきつつ起き上がると体を縮め、人形を身にまとう。

 

操糸兵隊人形(ホワイトアーミードール)」。テクトが新たに作っていた操糸人形の後継にあたり、操糸人形とは違って戦闘も意識したものになっている。

 

 操糸人形(ホワイトドール)はほぼすべてを糸で作成していたのに対し、操糸兵隊人形はカイジンたち協力のもと骨格部分を金属によって形成し、そこから筋繊維や皮膚等を糸によって再現している。骨格には魔鋼も使用しているため、フォビオの豹牙爆炎掌を受けても骨格が折れることなく、千切れた糸を張りなおすだけで問題なく稼働させられるだろう。

 

「よし、続きといこうか」

 

「では、まいりますぞ」

 

 やはり達人であるハクロウとはいえアラクネは投げづらかったらしく、操糸兵隊人形での訓練再開後は装着前よりも速いペースで投げられることになった。

 

 

 

 この日は獣王国への使節団が出発する日である。

 

 魔王カリオンから国交を結ぶのに有益であるのかを互いに見極めるべきだとして使節団の派遣を求めてきたのだ。これに反対する理由はなく、話を持ってきた使者に二つ返事で同意を告げ、使節団の編成をしていたのだった。

 

 使節団の団長はテクト。その補佐として今後の国家運営のため見聞を広げてもらうためリグルを任命していた。そして護衛としてベニマルが同伴することになり、ほかにも幹部候補の人鬼族(ホブゴブリン)がリグルと同様の理由で使節団に入っていた。

 

「そういえば、久しぶりに夢を見たんだよ」

 

「あれ? スライムって睡眠できないんじゃなかったっけ?」

 

「まぁな。だが、俺にも惰眠をむさぼりたくなる時もある。頑張って眠れるようになったんだ」

 

「なんというか、何かを盛大に間違ってない?」

 

 使節団の出発前の式典のため、礼服に着替えながら会話をしていると、着替えが終わったのを見計らってゴブリナから声がかかる。式典の用意が整ったらしい。

 

 広場に集まった皆の前で登壇したリムルが皆の前ではあまりとらない人型をとっていたことで魔物たちがざわついたのをシオンが一喝して沈め、リムルの挨拶が始まった。

 

「諸君、ぜひとも頑張ってくれたまえ!」

 

 一言の激励で終わった。

 

『リムル、もう少し話した方がいいって。みんなリムルからの言葉を楽しみにしてるんだから』

 

『え? そうか? 校長の話と同じであんまり長々と話すのは嫌がるかと思ったんだが』

 

『それだけみんなから慕われているってことだよ』

 

 思念での会話で続きを促すとリムルは挨拶を簡潔にしすぎてしまったことを詫び、再び話始めた。

 

「相手は魔王の一角、それもバリバリの武闘派の魔王カリオンだ。そんなカリオンが治める国が、そもそも法治国家かどうかもわからない。いいか、相手は力こそすべてとか思っている魔人たちの国だ。決して舐められるな。引いた時点で、全て相手の言いなりになってしまいかねない。正面から戦ったら勝つことはできないだろうが、心では負けないように頑張ってくれ! 今回はテクトも一緒に行くし、後ろには俺や仲間たちがいる。それを忘れずに自分たちの意志をしっかりと伝えろ。もし戦いになりそうだったらすぐに帰ってこい。今回は今後も付き合っていけるかを見極めるための使節交換だ。我慢しながらじゃないと付き合えそうにない相手なら友誼を結ぶ必要もない。気持ちいい関係を結べるかどうか君たちの眼でしっかり確かめてほしい。頼んだぞ!」

 

 リムルが話を締めるとともに割れんばかりの大歓声が広場を満たす。リムルはふと気づいたように使節団の面々に特にベニマルに対して釘をさすように話し始める。

 

「テクトも一緒だから問題ないとは思うが、決してこちらから喧嘩を売るなよ? 特にベニマル、ほんとに頼むぞ?」

 

「お任せください。俺だって、いろいろと学習しましたからね。ミリム様を見ていれば、短慮な行いはまずいと誰にでも理解できるというものですよ」

 

「まぁ、本当にまずそうだったら私が止めるから」

 

 自信満々に応じるベニマルに若干の不安を感じるもののストッパーとなる存在がいるためひとまず信頼することにしたようだ。

 

「本来ならテクト様には安全が確認できるまでは、他の魔王の領土へ立ち入るのは、控えていただきたいところなんですがね」

 

「せっかく代表者としてふるまえるものが二人いるんだから、どちらかは出向いたほうがいいでしょ。カリオンも私に聞きたいこともあるだろうし」

 

 ベニマルは自身の眼でカリオンが信用に足る人物か見極めることができるまでは、テクトがユーラザニアに出向いてしまうのをよく思っていないようだったが、テクトの言葉にも一理あるうえ、カリオンが気にしていることがあるのも確かなので、最終的には納得していた。

 

「よし、では頼んだぞ!」

 

「任せてよ。しっかりやってくるから」

 

「ええ、お任せください」

 

「リグルたちも頑張ってくれ。いい点はどんどん取り入れたいからな」

 

「心得ました。見聞を広めて参ります」

 

 目を輝かせながらやる気に満ちた声音で返事をするリグルに少し安心した様子になるリムルが合図を送ると、音楽隊が演奏を始める。演奏と街の住人達に送り出され、嵐牙狼族(テンペストウルフ)が引く車に乗って出発した。

 

 

 

 テクト達が出発して野営を行っている最中のこと。

 

「今からでも戻りませんか? やはりテクト様がユーラザニアまで出向くのは時期尚早だと思うのですが」

 

「何回か話したでしょ。リムルがいればユーラザニアからの使節団の対応はできるし、ミリムの件もあって直接話しておいた方がいいこともあるんだから、今の魔国連邦の状況から考えれば最善だよ」

 

「それはそうなんですがね」

 

 話しながら器を渡し、いまだに説得しようとするベニマルを制して、ほかの面々にも器を配っていくテクト。

 

「どうかな? 前にゴブタに食べさせたときには評価が高かったから自信はあるんだけど」

 

 テクトが器を配っていたのはテクトが野営の食事を作ったからである。作ったのはゴブタの際に出した汁物だった。

 

「おいしいです! テクト様にお作り頂くのは申し訳なさもありましたが、心が温まります」

 

「うまいですね。しかし、この食材は食べた覚えがないんですが何を使ってるんです?」

 

「少なくともリムルに食べさせてからかな。驚かせてみたいし」

 

「危険なものは使ってないんですよね?」

 

 念を押すように確認をとるベニマルに安心するように返し、食事は進んでいった。

 

 

 

 獣王国ユーラザニア。

 

 魔王カリオンが実力至上主義をもって治める獣人中心の国家である。魔国連邦から南方にあり、温暖な気候である。

 

「ここまでいくつか村を通過して思ったけど、建築物に関しては魔国連邦に分がありそうだね」

 

「そうですね。やはり、カイジン殿たちによる技術供与の影響が大きいかと。ただ」

 

「うん、農業に関しては圧倒的に負けてるね。今回の件がうまくいったら農業従事者の派遣を考えるべきだね」

 

 道中で確認できた情報から次回以降の使節団派遣について話しながら進み、首都であるラウラが視界に入った時、テクト達は絶句した。

 

「王宮でかいな……それだけ統率力が高いっていう証明になるだろうしけど、住人から不満出ないのかな」

 

「確かにでかいですね。ですが、テクト様達だって、ここまでとは言わなくとももっと大きな屋敷をご用意してもよかったんですよ? きっと誰も文句は言わないでしょうし」

 

「あれより広かったら落ち着かないって。何ならベニマル用につくってもらおうか? 魔国連邦の最高幹部といってもいいぐらいだし、誰かが文句言うようなら黙らせてもいいし」

 

「勘弁してください」

 

 そんなことを話していると王宮が近づいてきた。正門までたどり着くと衛兵が門を開き内部には整然と並んだ獣王戦士団が待っていた。門をくぐったあたりで車を降り、戦士たちで作られた花道を進んでいく。戦士たちの値踏みするような視線にリグルたちホブゴブリンは緊張した面持ちだったが、テクトとベニマルは緊張をおくびにも見せぬままカリオンの前へと進み出た。

 

「よぉ、久しぶりだな。まさか国主補佐のお前が出張ってくるとは思わなかったぜ」

 

「お久しぶりです。魔王カリオン様。反対は受けましたが、私本人が説明した方がよさそうな事柄もありますゆえ」

 

「まぁ、歓迎するぜ、テクト」

 

 テクトの言葉に納得したようにするカリオンを前の前にベニマルが進み出る。

 

「いきなりのことで不躾ではあると理解はしていますが、魔王カリオン様、俺と戦ってはいけないでしょうか」

 

 騒然とする周囲の中落ち着いているのはニヤリと笑うカリオンと額に手を当てるテクトだけであった。

 

「ほう、この俺様に戦いを挑むか。こちらからは敵対しないという言葉だけでは不満だったか?」

 

「いえ、カリオン様が魔国連邦に対して害意をもっていないことは理解しています。ですので、これは俺の個人的な感傷に過ぎません。武をもって国を統べる者の本心を見るのであれば、武をもって知るのが一番かと」

 

 ベニマルはいろいろといっているが本人の考えを要約するとこうである。

 

「せっかくの機会だから戦ってみたい」

 

 これを何となく読み取ったテクトは頭を抱えつつも、ベニマルの言葉にカリオンが不快に感じていないように見えるため、一応援護することにした。

 

「カリオン様。ベニマルからの申し出、受けてやっては頂けないでしょうか」

 

 テクトが援護することが予想外だったのかわずかに目を見開くカリオンだったが、少し考えた後笑い始めた。ひとしきり笑っている間に回答を出したようで

 

「いいだろう、ベニマルといったか。お前と戦ってやろう」

 

「ありがとうございます」

 

「場所を変えるぞ、ついてこい」

 

 カリオンは歩き始める。ついていくと訓練場へとたどり着いた。カリオンはその中心部に立ち、ベニマルに声をかける。

 

「ここなら多少暴れたところで被害は出ん。先手はくれてやる。どこからでもかかってくるがいい」

 

「行きます!」

 

 カリオンの言葉を受け、ベニマルが刀を構え接近する。カリオンはベニマルの攻撃をほとんど動かずによけ、腹部に掌底を叩き込む。ベニマルは吹き飛んだものの、何とか受け身をとりつつ体勢を立て直した。

 

「どうした? これだけか?」

 

「まだまだ!」

 

 ベニマルは再びカリオンに近づき、先ほどよりも細かく剣撃を繰り返す。あてることよりもかわしにくい攻撃を行い、カリオンが反撃をする隙を減らそうという考え方のようだった。しかし、これも長くは続かず、数度の攻撃の後、反撃を受け吹き飛ばされる。今度は受け身をとることができず、そのまま立ち上がることができなくなった。

 

「この俺様を、ほんの少しとは言え守勢に回させたことはほめておいてやるぜ、ベニマル」

 

 カリオンは倒れ伏したベニマルに称賛の言葉を贈りつつ、テクトへと視線を移す。

 

「さて、テクト。俺様と戦ってもらおうか」

 

「は? え、なんで?」

 

 予想だにしなかった言葉を聞き、思わず素の反応返すテクトにニヤリと笑いつつ言葉を続ける。

 

「さっきお前の配下が言ったことじゃねぇか。戦ってみるのが一番だって」

 

「その切り抜き方は悪意があるような」

 

「それにお前の頼みがあったから戦ってやったんだ。なら俺様からの頼みも聴くべきだよなぁ」

 

「…………ハァ、わかりましたよ。やればいいんでしょう」

 

 カリオンの言葉から模擬戦を断ったために何か変な要求をされても困ると判断したテクトは諦めたような顔をして承諾した。

 

「よし、先ほどと同じく先手は譲ってやる。かかってこい」

 

 アラクネへと変わり、白い鎌を取り出したテクトはカリオンの言葉とともに突撃した。

 

 ベニマルのものより早いことに加え、空泳巨大鮫(メガロドン)の切り裂かれた背びれが塵となっていったことを記憶していたカリオンはやや大きくよけ、鎌を振り切って隙をさらすテクトを蹴り飛ばした。

 

 テクトは蜘蛛の下半身の分重心が下であったためか大きく体勢を崩すことなく着地し、再び突貫する。

 

 数度同じように吹き飛びやはり突貫する。これまでと同様に迎撃しようと構えるカリオンだったが、目の前から鎌を残してテクトが消えたことで動揺をあらわにした。テクトの消えた先を思案するカリオンの首が後ろから押された。

 

「これで私の勝ち、でいいですかね?」

 

「クハハハハハ、これは一本取られたぜ。ああ、俺の負けだ」

 

 カリオンの首には手が添えられており、それに気づいたカリオンが敗北を宣言した。テクトが行ったことはだまし討ちに近い。「技能付与」で鎌に「畏怖」を付与して注目をあつめることで自身から意識を逸らし、「隠蔽者(カクスモノ)」で自身を隠す。その際に「身体変成」で体を小さくしてより感知されにくくしたうえ、「捕獲者(トラエルモノ)」の糸と「空間機動」の足場で空中を素早く移動し、背後に回ったのである。

 

「なかなかやるじゃねぇか。あいつが認めるだけのことはあるようだな」

 

「偶然ですよ。普通にやったらやられていたのはこちらのほうです。カリオン様が迎撃のみに絞って戦っていたからこそですよ」

 

 テクトの勝利はカリオンが能動的に動かなかったことによる部分が大きかった。カリオンは自分からテクトに近づくことはしなかったうえ、スキルをほとんど使っていない。対してテクトは最後の攻防に関してだけとはいえ、「技能付与」、「畏怖」、「隠蔽者」、「身体変成」、「捕獲者」、「空間機動」を使ったうえでの勝利であり、まだ余力はあるとは言え、試合に勝ったが勝負に負けた感が強かった。

 

「謙虚なもんだな。まあいい、証人がいる中でお前たちの力は示したんだ。これで関係を結ぶのに反対する奴もそのうちいなくなるだろう」

 

(あ、そういう意図もあったんだ。戦いたいってだけなのかと)

 

「今何か考えなかったか?」

 

「気のせいでは?」

 

 テクトはカリオンが魔国連邦との友誼に関して、より円滑に進む方法を考えていたことを意外に思っていることに気づいたのか怪訝そうな顔をするカリオンをごまかしつつ、回復薬をかけることでようやく起き上がれたベニマルをねぎらった。

 

「さてと、そろそろ会談といこうか。使節団はどこに向かわせる?」

 

「農場のほうの視察をさせていただければありがたいです」

 

 カリオンが指示を出し、リグルたちが農場へと案内されていく。テクトもカリオンに促され、応接間のような場所へと案内された。扉の前に戦士を残し、カリオンはフォビオとともに部屋に入る。

 

「ここならほかの連中には聞こえん。話を聞こうか」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。まぁ、さほど長い話にはならないんですけどね」

 

 事情に関しておぼろげながら知っているフォビオのみを護衛としたカリオンに感謝しつつ、テクトはミリムとのことを話し始めた。

 

「よくもまあ、自分のことを賭けられるものだな」

 

「あの時は考えが短絡的過ぎたとは思います」

 

 テクトは呆れたようにつぶやくカリオンに自省も込めた返答をすると、話題を今後の交流へと切り替えた。

 

 しばらくの間話が続き、今後の魔国連邦からの使節団の内容の予定がある程度決められた。酒と果実の取引も話題に挙がったが、現在魔国連邦へ出向いているユーラザニアの使節団が交渉するに任せることになり詳しい取り決めは行われなかった。

 

 

 

 その後、数日の滞在と視察の後、魔国連邦の使節団は帰国することとなった。

 

 来た時と同様に戦士でよって作られた花道を通り車へ乗り込んでいく。今回は過度な緊張をしているものはおらず、この数日の間におおむね打ち解けたように感じられた。

 

「今回はお世話になりました」

 

「気にするな。次の使節団の受入準備は整えておこう。存分に我が国の技術を学ばせればいい」

 

 テクトの礼にカリオンは鷹揚に返し、今後の使節団のことを話す。その際に「簡単にやれるものならやってみろ」という副音声が聞こえた気がしてテクトは苦笑いを浮かべた。会話が途切れたことでフォビオが進み出てきた。

 

「テクト様。魔国連邦の技術を学ぶために残留したもののほかにもグルーシスというものがおります。皆様のお役に立つように命じておりますのでご自由にお使いください」

 

「わかった。無理のない範囲でこき使うよ」

 

 あっけからんというテクトに今度はフォビオが苦笑いを浮かべることになった。

 

 会話が終わると車に乗り、出発した。

 

 ユーラザニアでの使節交流は成功したのだった。

 


 

 次回「帰還報告」

 

 




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