10円セールなんて来るのが悪いんや……(責任転嫁)
ユーラザニアへ向かっていた使節団が帰国した。
主の一人であるテクトが無事に帰国したことで住人は大騒ぎとなり、まるで宴のような騒がしさを見せていた。
長時間の移動による疲労を考慮して帰国の翌日。昼時を回ったころに会議室にてユーラザニアでの顛末が語られていた。
「騎士団に関してはさすがの一言です。武闘派であるという前評判を裏切らない練度でした。魔王カリオンにテクト様、リムル様を勘定に入れずに考えると勝つことは難しいでしょうね」
「なるほどな。自信家なお前がそういうってことはほんとに厳しいんだろ。戦争回避は正解だったらしいな」
「ただ、戦闘訓練を見ての所見だけど、追いつくことは不可能ではないと思う。
「どういうことだ? ……っておい、まさか」
「ベニマルも歯が立たなかったし、私も最初の奇襲が一回成功したきりで、そのあとはボッコボッコにされたしね。今戦争したら、速攻で私とリムルがやられて崩壊するだろうね」
「ベニマルが喧嘩売りそうになったら止めるって話はどうなったんだよ」
「魔王カリオンも気を悪くした様子がなかったからね。ミリムみたいな規格外相手だと、いまいち成長の実感が得られないだろうから、もう少しわかりやすい指標を得られればと思って。まぁ、結局指標にはならなかったんだけど」
「相まみえてよくわかりましたが、魔王カリオンは信用してもいいでしょう。かの御仁は闇討ちなどを行うような方ではないかと。それに、魔王というだけあってその実力はすさまじいものでした。魔王カリオンには一度も勝てませんでしたが、フォビオ殿には勝ちましたよ」
「フォビオに勝ったのはすげぇけど、喧嘩売んなっていったじゃねぇか」
リムルがあきれたようにため息を一つつき、その他のことについての報告を促すと、苦笑いを浮かべていたリグルが建築物と農業の規模について報告する。この件に関してはユーラザニア側の使節の残留組への技術協力を密に、次回以降の魔国連邦の使節は農業従事者からの選出を視野に入れることでまとまった。
「そういえば酒の取引に関してはこっちでするだろうからってカリオンが言ってたから、特に交渉せずに帰ってきたけどどうなったの?」
「ああ、それならコビーに一任しておいた。本人も乗り気になってたしいい結果になるだろ」
「(コビー……急に大役が降ってきて大変だったろうに)ああ……そうなんだ。そうだ、次の使節団の団長はリグルがいいと思うんだよ」
テクトはいきなり大役を押し付けられたコボルトの商人に同情しつつ次回以降の使節団の団長をリグルへと指名した。
「リグルを? ベニマルじゃないのか」
「ベニマルは国防に務めてもらおうと思ってね。さっきベニマルも言ったけど魔王カリオンは信用できそうだから、ユーラザニアで使節団が武力による問題解決が必要な場面は来ないだろうし。もちろん、道中安全ってわけじゃないからその間の護衛は必須だけど、それはベニマルじゃなくても問題ないしね」
「わかった。なら、今後は使節団の団長はリグルに任せる。よろしく頼むぞ」
「はい、お任せください」
「これでこっちの話は終わりだね。次は魔国連邦で起きたことを聞かせてよ」
リグルの返答でユーラザニアでの出来事の報告とそれに付随した話は終了し、今度は魔国連邦で起きたことの報告が始まった。
「そっちも喧嘩してるじゃないか」
「買っただけだ。そっちみたいに喧嘩を売ってはないぞ」
ユーラザニアの使節団の話が一通り終わるとテクトが食って掛かった。もちろん事の子細は把握しての発言なので本気で言っているわけではないが、穏便に行くという発言をあっという間にひっくり返したことには一言言ってやりたかったらしい。
とはいえ、そこ以外にはあまり突っ込むことはなかったのか、他には口を出すことはなかった。
その後は談笑に移行し、テクトの帰国を祝うための宴が始まるとのことで適当なところでお開きとなり報告は終了した。
「そういえば、テクトはどうだった? 楽しんでたか?」
「ええ、人形ゆえ表情は読みづらかったですが、気分転換にはなったかと」
「あいつ、妖気とかを隠すのは得意なくせに感情隠すのは下手だからな。ミリムがいなくなって寂しいのバレバレだっての。その代わりみたいに仕事の量増やすし」
「まぁいいじゃないですか。感情が全くでない鉄仮面よりはよっぽどいいですよ」
「それで、何か面白いことはあったか?」
「そういえば、歓待の宴の際に視線が定まらなかったような気がしますね。なんというか、思わず行ってしまった視線を逸らすような感じで」
「ほう? で、どんな娘が好みそうだった?」
「それが、どうも絞り切れなくて。たいていは視線をさまよわせていたように思えましたね」
「……それはどういう……いや、行ったのはユーラザニア、「獣人の国」か。なるほどな」
それから数日。
今度はリムルがドワルゴンへと外遊のために向かう日がやってきた。同行するメンバーはゴブタやゴブゾウを始めとした
本来、シオンは留守番の予定だったが、リムルが出かけると聞くなり泣き叫んで暴れてしまったため、結局連れていくことになった。
「そうだ、お前も何か話せよ」
「急にどうしたの?」
「いや、ほら、お前らがユーラザニアに行く前に最初の激励だけだと短いからってそれなりに話しただろ。だからお前にも、と」
「えぇ」
うろたえるテクトに対し、リムルは決定事項として着替えが終わるのを待っていたゴブリナに伝言を任せ、テクトの激励が決定した。
そうしてテクトが壇上に上がり、激励の言葉を紡ぎ始める。
「え~と。今回ドワルゴンに向かうのは同盟の正式な締結をするためだ。ガゼル王の人となりはカイジンやベスターから聞いているし、
そう言って話を締めたテクトに対し、盛り上がるものと苦笑いを浮かべるものに分かれた。前者は外遊に直接かかわりのないものがほとんどである。後者はカイジンやドワーフ三兄弟といったドワルゴンに関わりのあるものだった。
テクトはその表情を見てしまったという顔をして謝り始める。
「ごめん。配慮が足りなかった。故郷のことあんまり悪く言われるのは嫌だったよね」
「まぁ、あんまり気分がいいもんじゃねぇが、代表としてユーラザニアの見定めをしてきた後だしそういう考えになることもおかしくねぇだろ」
謝るテクトにあっさりと返してカイジンは顔を緩める。それを受けてテクトはもう一度謝り話を締めた。
テクトは、リムルに呼ばれその場を離れるカイジンを見送り、シュナ達に話かけた。
「三人も気を付けて。リムルと狼鬼兵部隊もいるし、道の整備もできてるけど危険が絶対にないってわけじゃないんだから」
「ええ、お任せください。私は護衛兼秘書ですからね。何が起きても鎧袖一触です」
「シオンはともかく十分気を付けていきます。先ほどのお話も参考にさせていただきます」
「テクト様もお気をつけて。お土産は楽しみにしていてくださいね」
シオン、コウカ、シュナの順で返事をした。シオンの返答にやや不安が残ったが、いまさらなので放っておくことにした。そして、コウカの言葉で多少安心を取り戻した。
「えぇっと、そうだね。お土産、楽しみにしてるよ」
シュナにはやや歯切れの悪い言葉となったが、その後リムルたちも合流し、ドワルゴンに向けて出発した。
リムルがドワルゴンへ出発した翌日。
その日の執務を片付けたテクトはベスターのもとを訪れていた。
「そういえば、ベスターはリムルたちに同行しなくてよかったの? 入国の許可は下りてるんでしょ?」
「ええ、ですが、まだまだ魔国連邦に来てから納得いけるほどの成果を上げていませんから。これではガゼル王に合わせる顔がありません」
(ドワーフの技術ではできなかった
きっぱりと言い切るベスターにテクトは納得いかないような感覚に襲われたが本人の意志が固いようなのでドワルゴンの話を打ち切り、本題を切り出すことにした。
「それで、協力してもらいたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
テクトがしてほしいことを伝えるとベスターは首をひねりながら了承した。
「しかし、それはかまいませんが、これを一体どうするのです?」
「ふふ、きっとリムルが喜ぶことだよ」
テクトは笑いながら言葉を返した。
リムルが帰国した。
シオンが晴れやかな顔をしているのに対し、リムルの表情は沈んでいた。
「リムルは何かあったの? なんだか沈んだ表情をしているけど」
テクトがシュナに事情を聴くと、リムルは「夜の蝶」という店に出かけていたらしい。
女性とお酒を飲む店ということでシュナ達には伝えずに出かけたようだが、同行していた狼鬼兵部隊の一人であるゴブゾウによって暴露され、それを聞いたシオンが激怒。暴れかねないシオンを抑えるためにシュナによって、以前禁止されていたリムルへの食事の提供を一週間限定とはいえ許可されたようだ。
(まぁ、こればっかりはリムルが悪いかな。女性と一緒に出掛けてるのにそういう店に行くのはなぁ。というか、ドワルゴンにはそんな店もあったのか。俺もいければ)
「テクト様?」
「え、あ、いや、なんでもないです」
「そうです! テクト様もいかがですか?」
テクトの思考を読み取ったのかシュナが話しかけ、テクトがひとまずごまかしているとシオンが唐突に提案をした。シュナは笑顔だったうえ、テクトのほうが力も立場も上だが、まったく勝てる気がしなかった。
シオンの提案を受け、リムルは「道連れができた」と少し表情が明るくなった。自分が食べる前に相方が倒れれば、それを理由にシオンの料理を口にせずに中止を言い渡すこともできるからだ。そしてテクトは即座に頭を回しシオンの提案を断るための言葉を考え始めた。
テクトは「状態異常無効」を持っているため毒物は問題ないのだが、ベニマルが何度もシオンの料理の味見で倒れていることを知っているため、できる限り食べたくはなかった。
「え~と、その、ほら、今回は正式に食事の提供の許可を得られるかもしれないめったにないチャンスなんだしさ、リムルのための調理に集中するべきだと思うんだよ。だから今回は残念だけど遠慮しておくよ。次回に、何か機会があればその時はご相伴に預かろうかな? ほかの人が食べたいって言っても断ったほうがいいと思う。もう一度言うけどめったにないチャンスなんだからね」
「そうですね、そうします。これを機に正式な許可を得られるようにしなければなりませんね」
テクトの少々早口な言葉を聞き、気合を入れるシオンに対してリムルの表情は再び沈んだ。テクトの言葉から、これから先に道連れが現れることがなくなったため、相方が倒れたからと中止させる計画がご破算となったためだ。とはいえ、テクトを道連れにしてもテクトは毒が効かないため計画は意味がなかったのだが。
(がんばれリムル……それを突破した後は君がきっと喜んでくれるものを用意してあるから)
テクトはがっくりと肩を落としたリムルを見送り、リムルの帰国に沸き宴の準備を始める者たちの指揮をとりに入った。せめて明日以降の
その後、宴にておいしく食事を終え、翌日以降のことを考えため息をつくリムルを見て、テクトは逆効果となってしまったと気付いた。
(これはこれで落差がきついのかな? ……せめて、あれはキンキンに冷やしておこう)
そして翌日。
朝食の後で調子の悪そうなリムルからドワルゴンでの外遊の内容が語られた。
ドワルゴンでの交渉はおおむねうまくいったらしい。
ただ、演説の内容に関していえば酷評されたようだ。評価の内容は要するに「短すぎる・へりくだりすぎる・情に訴えかけすぎる」とのことだった。これに関しては相談した相手が統治者としての経験のないものばかりだったためだろうという結論となった。
このことに関しては今後の課題ということで、ガゼル王の忠告を共有して修正していくこととした。
演説の件以外は予測していたことだったので、今後憔悴していくことになるであろうリムルを気遣い、報告はあっさりとしたもので終わらせ解散した。
それから一週間、リムルは日ごとに弱っていったのだった。
次回「ネタがネタとしてちゃんと伝わるのは嬉しい」
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サブタイトルにもルビが振れるらしいので試してみました。ルビを振る際の記号を手動入力すればいいみたいです。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい