リムルがドワルゴンから帰国して数週間が過ぎた。
その間にユーラザニアへの使節団の派遣やヨウム一行の来訪などがありつつ、テクトとリムルが口を挟まずとも円滑に業務が行えることが確認できていた。
それを受けてリムルは会議にて考えを話し出した。
「そろそろ人間の国に行ってみようと思うんだ」
「人間の国ですか? 何かあったんですか?」
「ああ、シズさんの心残りを晴らしたくてな。最終的な目的地はイングラシア王国だ」
リムルは目的を詳しく話した。要するに、このところ見ていた夢からシズが子供たちを救いたいと考えていたことがわかり、シズの姿を受けついだ自分ができることがあればと考えたとのことだった。
リムルが一人で人間の国に行くことを不安視するリグルド達だったが、口を開く直前にいつの間にか出入口に移動していたテクトが口を開いた。
「やはり、イングラシアか。いつ出発する? 私も同行する」
「テクト院」
「YEAAAH」ピシガシグッグッ
わざわざ人形の顔の彫を深くしてネタに走るテクトにリムルが同じように顔の彫を深くしつつ即応する。テクトはこれまで細々としたネタがあまり通じていなかったが、有名だったこともあり今回は完全に通じたのがうれしかったのか、ハイタッチをしてじゃれる二人にわずかな間あっけにとられたリグルドたちだったが、立て直してテクトに確認をとった。
「テクト様、今のは一体?」
「何でもない。気にしないで」
テクトは気持ちが落ち着いたためか顔を戻しながら少々気恥ずかしそうに返答した。テクトが再び着席すると同時にハクロウが口を開く。
「テクト様が同行されるとなると、余計に不安になってしまうものですが。お二人のどちらかでも何かあれば、せっかくまとまりを見せているジュラの森大同盟も、どうなるかわかりませんぞ」
「とはいえ、今回は人間と偽装していく予定だから、魔物の形跡を色濃く残しているものを連れていくわけにはいかない。魔素に反応する結界がある以上、護衛につけるものも限られる。そこで、今回はフェルとランガに影に入ってもらうことにする。影の中なら魔素が漏れることもないし、護衛には十分だろう」
リムルの語る内容から反対意見を出すことができなくなったため、反対意見はなくなった。
「案内役をカバル達に頼もうと思うから、次に町に来た時に声をかけておいてくれ」
「承知しました」
そうしてテクトとリムルが街を出る準備が整えられていった。カバル達がやってきたのは準備が整った翌日だった。
カバル達が到着した翌日。
事情を説明し、要請を快く引き受けたカバル達を案内として、テクトとリムルはブルムンド王国へと出発することとなった。
道中では敷設中の街道と車によって普段とは比べ物にならない程に快適な道程にカバル達が文句を言ったり、車から降りた直後に案内のはずのカバル達が幻覚作用のある植物の影響で迷う羽目になり一日を無駄に消費したりと平和に進み、一週間ほどで森の外へと進んでいったのだった。
ブルムンド王国は人口百万人足らずの国であり、大都市と呼べるものは王都だけらしい。
最初にブルムンド王国に来た理由はフューズに会うためだった。イングラシア王国にいるシズの弟子のひとりである
神楽坂優樹は
最初に訪れた村でカバル達が持ち帰っていた魔国連邦で使われない魔物の一部が討伐を証明するものであり、これによって有名になっていることを知り、テクトが締めたりとちょっとしたトラブルもあったが、無事王都にたどり着いた。
王都にたどり着いたテクト達は屋台を冷かしつつ自由組合ブルムンド支部に到着した。
テクトとリムルは冒険者資格を得ることにした。冒険者として認定を受ければ国から国へ移動する際の身分証明が楽になるためであるため、この先イングラシア王国へ向かうにあたり、身分証として有力だからだ。
それをカバル達に告げると登録が可能な受付に案内され、列に並ぶ。順番が来て冒険者としての登録を頼むとテクトはともかくリムルに関してはやんわりとだが断りが入った。
曰く、リムルでは幼すぎるのではないかとのことだった。リムルの背はさほど高いとは言えず、テクトと違い妖気を完全に隠せないリムルはブルムンド王国の入る際に結界による探知の対策として抗魔の仮面をつけているため、顔もわからない。どこかの子供が危険を理解しないまま冒険者になろうとしているように見えるらしかった。
だが、実力を認められているカバル達が太鼓判を押し、試験に伴う危険についてもリムルが意に介さなかったため、しぶしぶとではあるが手続きが行われた。
試験はテクト、リムルの順で行われた。試験で危険な目に合うテクトを見せることでリムルの試験参加を踏みとどまらせる意図があったのだろう。テクトがE~Cまでのランクの試験をあっさりと突破し、それが面白くなかったのか試験官が
通常は一人で対抗しえない相手をいとも簡単に屠ったテクトに注目が集まり、勧誘などで騒ぎつつ、「ではテクトとともに来たリムルも」と期待が高まる中、フューズが登場したことによってその場は収まり、その際のフューズの発言から実力の保証がされたのであった。
それから三日後、ブルムンド王国との相互安全保障と魔国連邦内の通行許可の条約を結び、イングラシア王国へと出発した。その際、安全保障については辛酸をなめさせられたような気持になったり、完全回復薬の異常性でひと悶着あったりしたが、最終的にはいい形で交渉を終えることができたのだった。
ブルムンド王国を出発して三日。
目的地であるイングラシア王国へ到着した。入国審査に関しては本当にあっさりと終了した。冒険者として登録しておいたおかげである。登録証の提示前にリムルがひと悶着起こすこととなったが、それ以外には特に問題は起きなかった。
「っくふ、まさか冗談扱いされるとは思わなかったね。「背伸びしたいお年頃」って」
「うるせぇな。しょうがねぇだろ。普段は誰も何も言わなかったし、気づけってのが無茶なんだよ」
そう、リムルの外見が問題だったのだ。現在のリムルの身長は百三十センチ程度であり、声も変声前のような状態のため声音から子供のように見られるのも仕方がない状態である。魔国連邦では見た目に関係なく主として扱われるため、リムルの外見が外部からどう受け止められるかは無頓着になっていたのだった。
「しかし、すごいとこだね。ここは」
「ああ、区画整理もばっちりされてるし、そのおかげで迷うことはないだろう。中央に向かうほど処理能力が高度になるってのもわかりやすくていいな」
「ユーラザニアの王宮のほうが規模は大きかったけど、やっぱり発展具合が全然違うね。あっちは中央集権の結果だったからかな」
都市についての感想を言い合いながらカバルの案内に従って観光区へと向かい宿屋を探す。飲み屋を見つけたことでリムルが吸い寄せられるように移動していくのを首根っこをつかんで阻止しつつ、翌日の予定のために体を休めるのだった。
そして翌日。
テクト達は自由組合本部へとやってきた。正面がガラス張りであることに加え、入り口が自動ドアのように開閉するのを見て感動を覚えるテクトとリムルだったが、カバル達に促され中へと入っていった。
受付へとフューズからの紹介状を渡し、取り次がれるのを待っている間、リムルの外見が理由で再び絡まれたが、カバルが対応しリムルが行動を起こすことはなかった。
そうこうしているうちに紹介状を受け取った受付の者が戻り、テクトとリムルが案内されていく。それをみて騒然となる冒険者たちを横目についていくと、応接間らしき場所へと通された。
「自由組合総帥ってどんな奴だろうな」
「冒険者を取りまとめる立場だし、少なくとも腕っぷしは十分だと思うけど、どれぐらいVITにステータスを振ってるんだろうね」
「さすがに脳筋ってことはないだろ。自由組合を十年ちょっとで発展させて総帥してる奴だし」
そんな風に雑談をしているとドアがノックされ、一人の少年が入ってきた。
「お待たせしました。僕が自由組合総帥のユウキ・カグr……」
笑顔で入室してきた少年は名乗りが尻すぼみになりつつ、表情が歪んでいった。
「その仮面は……」
「俺の正体は知ってるだろ。俺はスライムで喰った相手の姿に擬態できるんだ」
「喰った……相手の……」
リムルが抗魔の仮面を外すとともにユウキが急接近し、蹴りを放つ。リムルがそれを受け止め、衝撃破が巻き起こり、机や調度品が吹き飛んでいった。
「落ち着け、小僧。……『僕は悪いスライムじゃないよ』」
「っ!」
「あのゲームは俺もクリアしたぜ。お前がシズさんに教えたんだろ?」
「詳しい話を聞かせていただけますね」
「そのために来たんだ」
リムルの発したセリフに反応したユウキは剣呑な空気をおさめ、会話をする態勢に入る。そして数十分後。
「なるほど。最終回はそんな展開なんですね!」
アニメの話で意気投合していた。世界を渡ったのが高校生ほどの年であったこともあり、アニメやゲームに対しての関心が深かったユウキは紳士の嗜みとして抑えるべきは抑えていたリムルの話に感動し、いつの間にやら師匠と呼んでいた。
「ゲームはどうなりました? FFは? いくつまで出てるんですか?」
「XIVだ」
「そんなに⁉ ……ほかには?」
「サグラダファミリアの完成が近い」
「おお、ついに!」
「「いいとも!」は終わった……」
「マジですかー!! じゃぁ、お昼休みは何をウキウキウォッチングしろと!!」
「ボンボンはもうない」
「そんな⁉ 子供のころから毎月楽しみにしてたのに!! あ、あれは完結しましたか⁉ 「ガラスの「それはまだだ」
「まだ⁉ じゃぁ、「ファイブ「それは一冊ごとの区切りがいいから」
「終わってないんですね……」
「どう終わるのか、俺も知りたいくらいだ。そうだ、歴代の総理大臣だが」
「あ、それはどうでもいいです」
怒涛の応酬に区切りがついたころ、一人片づけをしていたテクトが口を開く。
「あ、「こち亀」も終わったよ」
「「ハァ⁉」」
「年号も変わった」
「「なんだ(です)と⁉」」
「「千と千尋の神隠し」を超える興行収入を叩き出した映画が現れた」
「「そんなことが⁉」」
「っていうか師匠まで驚くんですか? お二人とも転生者なんですよね?」
「そうなんだけどね。どうも時期がずれてるみたいで」
「そういうこともあるんですねぇ」
それから軽い身の上話をした。ユウキが年齢の割に若いように見えるのは呪いの類だという。この世界に来た際にユニークスキルや特殊能力を獲得できなかったのだが、代わりに身体能力が異常に発達していたという。
その後、自分の読んでいた以降の漫画等の話を聞けたのはいいが、やっぱり自分で読みたかったというユウキのためにリムルが「大賢者」の能力を駆使して漫画を再現し、それに便乗してテクトもリムルへと情報を贈り、リムルも読んでいない漫画本が作成された。「大賢者」には能力の無駄遣いと苦言を呈されたが、二人揃ってこれこそ有意義な能力の使い方だと開き直った。
「ありがとうございます、師匠! テクトさん!」
「ああ、そうだ。これもあげるよ」
ユウキが土下座せんばかりに感謝するなか、テクトはさらに一つの瓶を取り出した。
「こ、これは! まさか⁉」
「コーラだよ」
テクトが渡したのはコーラである。この世界にいつできたのか。
それはリムルがドワルゴンへ出向いていた間である。某漫画の知識をもとにユーラザニアから受け取ったライムっぽい果物とトレイニーの協力のもとで手に入れたパクチーのような植物を使用して作成していたのである。そうして作られたコーラのうち1ダースを「
「本当にありがとうございます。テクトさん!」
結局ユウキは土下座した。深く感謝を述べるユウキだったが、ふと思い出したようにテクト達に向き直った。
「そういえば、僕に会いに来ることだけが目的ってわけではないんですよね? シズ先生から僕のことを聞いていたからといって、わざわざ危険を冒して会いに来る必要はないように思いますし。もしかして帰還の方法を探してきたとかですか?」
「いや、俺たちはもう死んでるから火葬されてるだろうし、帰還を考えてるわけじゃないが……できそうなのか?」
リムルはユウキが出した答えに否と答えつつその可否を問うた。結論から言えば不可能らしい。どうにも一方通行らしく、帰還方法の確立は達成できそうにないとのことだった。
ただ、あちら側にも異形の存在の伝承があることから何かしらの条件を達成することによって行き来が可能になるのではとのことだ。現在は魔法の研究により、魔法が世界の法則に干渉する力であることが分かったため、法則化して世界を渡れる法則を見つける方向で帰還への糸口を探しているらしい。
「しかし、帰還が目的でないとするとお二人は何をしに?」
リムルがこの国に来た目的を話すと、ユウキは子供を託すことを約束し、子供たちの説明をしてくれたのだった。
次回「信頼関係は大事」
感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。
やりたいことは決まっていますがなかなか納得がいく形にならずに書いては消してを繰り返しています。
楽しみにしてくださっている方には申し訳なく思いますが、お待ちいただけたら幸いです。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい